MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

Viva バイリンガル

2009-07-15 00:01:35 | 私の室内楽仲間たち

07/15 私の音楽仲間 (78) ~ Allegro vivace ③

                    Viva バイリンガル




          私の室内楽仲間たち (58)




         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




           関連記事 『Allegro vivace

              ① ニ短調の "Allegro"
              ② Vivace に込めて
              ③ Viva バイリンガル
              ④ Vivace を越えて
              ⑤ 『Vivace は速いのか』





 いよいよ Beethoven の登場です。

 ここからは "vivace" に限らず、速度標語をまったく記して
いない場合も広く見てみます。



  ピアノソナタ第2番 イ長調 Op.2-2
   第Ⅳ楽章 Rondo : Grazioso (優雅に、粋に、品よく)

  ピアノソナタ第25番 ト長調 『かっこう』 Op.79
   第Ⅲ楽章 Vivace



  ピアノソナタ第26番 変ホ長調 『告別』 Op.81a
   第Ⅰ楽章 "Das Lebewohl" Adagio - Allegro
           (『さようなら』)
   第Ⅱ楽章 "Die Abwesenheit" Andante espressivo
           (『居ない』)
   第Ⅲ楽章 "Das Wiedersehen" Vivacissimamente
           (『再会』 この上なく生き生きと)



 各楽章とも、前半がドイツ語で書かれています。 標題や
内容が文学的である上に、相手のルードルフ大公とは親しく
ドイツ語を話す仲だったので、これはうなずけることでしょう。



 しかし次の曲になると、事情は多少異なるようです。 本来
イタリア語で記される内容を、敢えてドイツ語で書いたのは、
当時の政治状況、そして作曲者の政治的信念の変化から
来るものと考えられています。

 ちなみに彼は民主主義を信奉し、この理想はその作曲の
筆致にも表われています。



 脱線ついでにもう一つ。 大陸続きのヨーロッパは、侵略・
被侵略の歴史の連続であったと言ってもいいでしょう。 

 したがって、個々の国の方々にしてみると、受け入れやすい
言語とそうでないものとがあることを、島国に住む私たちはよく
理解していないといけないように思われます。 相手の感情を
害した失敗の経験が自分にもあるからです。



  ピアノソナタ第27番 ホ短調 Op.90 第Ⅰ楽章
   "Mit Lebhaftigkeit und durchaus
              mit Empfindung und Ausdruck
"
    (生き生きと、そして終始感情と表情を込めて)

  ピアノソナタ第27番 ホ短調 Op.90 第Ⅱ楽章
   "Nicht zu geschwind und sehr singbar vorgetragen"
    (速く追い立てず、充分に歌う)




  交響曲第7番 イ長調 Op.92 第Ⅰ楽章
    Poco sostenuto - Vivace
    (若干伸びのある音で - 生き生きと)



 作曲者は "Allegro" とも "Presto" とも書いていませんが、
この "Vivace" は「速く」でしょうか。 それとも「生き生きと
なのでしょうか。 これは解釈上、極めて重要です。

 また冒頭の "Poco sostenuto" 4/4拍子の部分は、どのよう
なテンポがふさわしいのでしょうか。



 6/8拍子の主部ですが、指揮者がいい加減だと、一小節に
ただ "二つ振る" だけで済みますが、演奏者は厳密な6拍子
を感じながら弾かねばなりません。 八分音符より細かい
16分音符で動いたり、「ターッタタァ、ターッタタァ、…」という、
例の極めて難しいリズムが正確に演奏できるよう、神経を
すり減らし、技術の極致を総動員せねばなりません。

 しかし、もし指揮者のテンポが速すぎたり、"二拍子" が少し
でもいい加減に揺れると、その影響をもろに被ってしまうのが
演奏者なのです。 ただでさえ演奏が難しいというのに…。

 したがってその場合は、全体の "6拍子" が不正確で滅茶
苦茶になりやすく、リズム本来が秘めた活力は、作曲者の
望むとおりには生かされなくなります。 結果として、スピード
感と音量の迫力にのみ頼った演奏が横行しがちです。




  ピアノソナタ第28番 イ長調 Op.101 第Ⅱ楽章
   "Lebhaft. Marschmäßig (Vivace alla Marcia)"
    (生き生きと、行進曲風に)

  ピアノソナタ第30番 ホ長調 Op.109 第Ⅰ楽章
   Vivace, ma non troppo
    (生き生きと、でもやり過ぎずに)

  交響曲第9番 ニ短調 作品125 『合唱付き』 第Ⅱ楽章
   Molto vivace - (その後) Presto

  弦楽四重奏曲第15番 イ短調 作品132 第Ⅰ楽章
   Assai sostenuto
    (音の伸びを充分に)

  弦楽四重奏曲第15番 イ短調 作品132 第Ⅳ楽章
   Alla Marcia - Assai vivace
    (行進曲風に、この上なく生き生きと)



 音楽は、もはや速度標語だけでは表わせないものになった
のでしょうか。




チェルニー

 第30番練習曲 ~ 第17番 ト長調
  Vivace, giocoso (生き生きと、楽しげに)




シューベルト

 交響曲第3番 ニ長調 D.200 第Ⅲ楽章
  Menuetto (Vivace - Trio)




メンデルスゾーン

 交響曲第3番 イ短調 Op.56 『スコットランド』 第Ⅱ楽章
  Vivace ma non troppo (生き生きと、でもやり過ぎずに)




シューマン



 交響曲第1番 変ロ長調 Op.38 『春』 (1841年) 第Ⅲ楽章
  Scherzo : Molto vivace
  Trio I : Molto piu vivace
  Tempo I (: Molto vivace)
  Trio II : Molto vivace



 交響曲第3番 変ホ長調 Op.97 『ライン』 (1850年) 第Ⅰ楽章
  Lebhaft (生き生きと)

 "lebhaft" は、"vivace" に相当するドイツ語です。

 交響曲第3番 変ホ長調 Op.97 『ライン』 第Ⅴ楽章
  Lebhaft - Schneller (生き生きと、のちにさらに速く)



 交響曲第4番 ニ短調 Op.120 (1841年、改定1851年) 第Ⅰ楽章
  Ziemlich langsam - Lebhaft
  (かなり遅く、のち、生き生きと)

 交響曲第4番 ニ短調 Op.120 第Ⅲ楽章
  Scherzo & Trio : Lebhaft

 交響曲第4番 ニ短調 Op.120 第Ⅳ楽章
  Langsam - Lebhaft - Schneller - Presto
  (遅く - 生き生きと - より速く - 急速に)



 シューマンの交響曲では、作曲順番号は、正確には一致していません。

 ドイツ語とイタリア語の使い分けを、合理的に推測するのは
無理なようです。 作曲者の "狂気" が、ここにも表われている
のでしょうか。 それとも、主たる目的を前にして、そんな仕分け
は彼にとって無意味だったのでしょうか。




ブラームス

 ハイドンの主題による変奏曲 Op.56a
  Chorale St. Antoni : Andante
  Variation Ⅰ : Poco piu animato (若干活気を増して)
  Variation Ⅱ : Più vivace (さらに生き生きと)
  Variation Ⅲ : Con moto (停滞せず)
  Variation Ⅳ : Andante con moto
  Variation Ⅴ : Vivace
  Variation Ⅵ : Vivace
  Variation Ⅶ : Grazioso (優美に)
  Variation Ⅷ : Presto non troppo
  Finale : Andante

 弦楽四重奏曲第3番 変ロ長調 Op.67 第Ⅰ楽章
  Vivace

 交響曲第1番 ハ短調 Op.68 第Ⅰ楽章
  Un poco sostenuto - Allegro
  (音の伸びを充分に - のちに快活に)

 ヴァイオリン ソナタ第1番 ト長調 Op.78 『雨の歌』 第Ⅰ楽章
  Vivace ma non troppo (生き生きと、でもやり過ぎずに)



 いかにもこの作曲家らしい緻密さと、過度を慎む姿勢とが
窺えます。




 なお、Beethoven の第7交響曲には "Poco sostenuto"、
     Brahms の第1交響曲には "Un poco sostenuto"
が見られます。



 "poco" と "un poco" の間には差があり、ちょうど英語
の "little" と "a little" の関係に当るそうです。

 日本語にすると、「あまり無い」、「多少ある」といった
ところでしょうか。




  (続く)



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