MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

老人ホームで (1) 和気あいあい

2008-12-19 05:49:37 | その他の音楽記事

12/19     老人ホームで (1) 和気あいあい




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 私事で恐縮ですが、母親が老人ホームに入居し、お世話に
なり始めてから半年になります。


 先日そこで "忘年会" がありました。 いや、"年忘れ音楽会"
と言った方が、むしろ正確でしょう。

 演奏者としてお声がかかり、聴いていただくことが出来ました。
楽器は Violin と Viola です。


 実は、これは "忘年会のウグイス" のところで触れた、
あの忘年会です。 ウグイスさんには、またの機会に登場
してもらいましょう。



 





 曲目は以下のとおりです。

              ↑
   (ここでの青文字のリンクは、内部の関連記事のためのものです。)
         ↓


 ピアポント    『(*)ジングル・ベル

 バッハ       『主よ、人の望みよ、喜びよ』 (maru 編)

 シューマン    『トロイメライ

 弘田龍太郎   『叱られて』 清水かつら作詞

 グルーバー   『(*)きよし この夜』 

 弘田龍太郎   『(*)浜千鳥』 鹿島鳴秋作詞

 ブラームス編  『ハンガリア舞曲第5番

 モノ        『(*)愛の讃歌』 エディト・ピアフ作詞
                        岩谷時子 訳詞

 バッハ=グノー  『アヴェ・マリア

 岡野貞一    『(*)故郷 (ふるさと)』 高野辰之作詞

 ハーライン   『星に願いを You-she Matsuyama 編曲




 (*) の印は、お世話になっている利用者さんたちも
一緒に歌った曲です。

 歌詞は、模造紙二枚分に大きく書かれたものを使い、
「歌詞カード」と呼ばれます。 二つのホワイト・ボード
一杯に広げて貼られ、それを読みながらの熱唱です。




           [お断り]


 上記のリンクは "関連記事" に飛びます。

 音源へは、これ以降のリンクがすべて使えます。






 会は、職員のWさんの司会で始まりました。

 Wさんは、ほとんどの曲でピアノを弾くだけでなく、
会の全体の構成、選曲、トーク、目玉となる企画など、
すべてを担当しました。 私は安心して指示に従って
いればいいのです。




 さっそく『ジングル・ベル』が始まりました。 いよいよ
音楽会が始まる、そんな浮き浮きした気分を誘うのに
持ってこいの曲です。

 まだ皆さん、歌い声も小さいし、硬さが取れていないので、
出来るだけ楽しげに、弾んで聞こえるように、私も Violin を
鳴らしたいと思いました。




 次は Viola に持ち替えて、有名なバッハの調べです。

 聴いておられる方の年代を考えると、必ずしもポピュラーな
曲とは言えません。 でも落ち着きのある、美しい調べに
安らいでいただけるといいな、そう思って弾きました。

 あとから知ったのですが、聴衆の利用者さんのお一人が
大好きな曲でした。 音楽一家にお育ちになり、ご自身も
かつて専門教育を受けられたそうです。

 この曲が選ばれたのは、ひょっとして、そのような配慮が
あってのことかもしれません。 その女性の方は、最前列で
笑みを浮かべて聴いておられました。




 今度は『トロイメライ』。 あまりにも有名なピアノ曲を、
Violin 用に編曲したものです。 ピアノと違って、音は
好きなだけ延ばせる楽器ですから、夢がいつまでも
醒めないように、ゆったりと弾かなければなりません。

 単調になりやすい曲ですが、よく見るとちゃんと、
"p、mf" などのように、各部分が色分けされている
ので、出来る限りそれに沿って弾いてみました。

 最後は、消え入るように、pp で終わります。





 さて、ここまではWさんのピアノと一緒に演奏して
きたわけですが、

 「ここで "二つの楽器" を比べてもらいましょう」

ということになりました。




 まずサイズの比較です。


 「どちらが Violin でしょう? 大きい方? 小さい方?」

 もう一方の楽器 (Viola) の名を、Wさんは言わずに、
こう訊きました。


 正答率はほぼ 90%。 ただし、ご存じの方でも、楽器を
至近距離から目撃する機会は、これまであまり無かった
かもしれません。




 「それでは、もう一つの楽器は、何という名前でしょう?」


 "これは難しいかもしれないな…。"

 私がそう思った瞬間、何と、「ヴィオラ!」という声が!!
 
 大正解です。


 「素晴らしい!」と、思わず口にしながら、私がそちらの方を
見ると、何と、自分の母親なのです…。




 Wさんは、さっそく

 「息子さんのことですから、もちろんご存知ですよね…」

…と、その場を収拾してくれました。 幸か不幸か、
会場の雰囲気が、何となくほぐれたようです。


 「やれやれ、"チェロ" なんて言い出さなくて、よかったよ…。」




 「それでは、どんな音がするんでしょうね。 何か、
弾いていただきましょう。」


 ここで、咄嗟に浮かんだのが、『叱られて』でした。





 変イ長調の曲なので、歌う場合の最低音の "Do" が、
ちょうど Viola の一番低い音に当たります。 暗い音色を
聴いてもらうのに、打ってつけの曲なのです。

 真ん中の部分を高い音域で弾いた後は、また低く終わります。

 「コン…と、キツネが、啼きゃせぬか…。」





 そして、どなたもご存じの『きよし この夜』の後は、
浜千鳥』です。

 ともに Viola で、音域を変えながら弾きました。


 「親を探して、鳴く鳥が…」





 次は Violin で 『ハンガリア舞曲』。

 ピアノは、この曲を集中的に練習してきた、Iさんです。





 曲が始まると、これも皆さんよくご存じ! すぐに手拍子が
始まりました。 大いに結構なことです。


 でも困ったことに、しばらく行くと、曲が突然止まる箇所が
あるんですよね…。 そして始まるのが、あのメランコリックな
一節です。 ゆったりとした、ひとくさりの、あの場所です。


 曲は、打ち合わせどおりに、ハタと止まりました。

 でも、手拍子はまだ続いたまま!

 私はもちろん弾かずに、不動の姿勢で、"どうしたの?"
とばかりに、口をポカンと開け、わざと怪訝な表情をします。


 やっと気付いて、手拍子が止まりました。

 と同時に、爆笑が! (私の顔がニヤけていたせいかもしれませんが。)


 でも、お蔭で、雰囲気はいっそうほぐれたようです。

 "笑い" って、なんて大事なんでしょう。





 今度は、『愛の讃歌』です。

 実は、ここでは、ちょっとした演出が。


 中間部の "語り調" のところを、

 「ある利用者さんに歌わせてしまおう」

 というのです!




 係がマイクを持って、"犠牲者さん" のもとに直行します。

 その方、曲が始まる前は、

 「いやだ、いやだ」

と言っておられたのですが、果たしてどうなることでしょう。



 いよいよ、その中間部。 全員歌うのを止め、耳を澄ませます。

 「頬と頬寄せて、燃える口づけを交わす喜び…、」


 聞こえます、ちゃんと!


 「あなたと二人で、暮らせるものなら、何にもいらない!」




 やりました! 大喝采のうちに、曲は終わります。


 ちなみに、歌ったのは男の利用者さんでした。



 (続く)



 この施設は、東京都杉並区の上井草園といいます。


     参考記事   [子供特派員 NEWS

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