02/18 私の音楽仲間 (362) ~ 私の室内楽仲間たち (335)
病に沈む者の感謝の歌
これまでの 『私の室内楽仲間たち』
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ご一緒に第Ⅱ楽章まで辿り着いた、Beethoven の弦楽
四重奏曲 イ短調 Op.132。
次の第Ⅲ楽章は、
A (4/4拍子、Molto adagio)、"癒された者が神に捧げる感謝の歌"、
B (3/8拍子、Andante)、"新たな力を感じて"
…と記されており、両者が代わる代わる現われます。
全体は "A B A B A" の、5つの部分で出来ています。
"A" は、教会旋法の "リディア調" を用いていることでも有名
ですね。 これについては、上記の解説サイトをご覧ください。
一見すると "ヘ長調" に似ています。 しかし、「4番目
の Si に♭がついていない」…というのが、"長調/短調"
に親しんだ、私たちの感覚です。
しかし "長調" も "短調" も、元々は、この教会旋法の
一つでした。
この "リディア調"。 広い意味では "ヘ長調" に限らず、
「4つ目の音が半音高い」…のであれば、Do、Re、Mi…の
どの音からスタートしてもいいわけです。
今回の "BEETHOVEN" は、"調号の無い ヘ長調" で
書かれています。
この "旋法" による音階の幾つか…。 かのドビュッシー
始め、主として、近代フランスの作曲家たちが用いました。
それまでの機能和声法的な音楽。 そして、それを崩壊
させた、後期ロマン派を始めとする、半音階的な音楽。
これらに対して、古い様式を用いて、音楽に新たな生命
を吹き込もうとした手段が、"旋法への回帰" でした。
教会旋法ですから、お馴染みの "5度進行の終止形" が
ありません。 4つの声部が形作る "和声" も、ほとんどの
場合、音階的 (modal) に進行します。 機能和声に慣れた
耳には、"異様" に聞えるかもしれません。
この Beethoven の曲でも同じ。 まるで天の神との対話を、
異次元で交わしているようでもあります。
しかし、突如 "5度進行" のカデンツ (終止形) が聞えたか
と思うと、音楽は "新たな力" に満たされます。
そう、"B" の音楽が、くっきりとした "ニ長調" で始まる
のです。
そこには二度とも、"p から f への cresc." が書かれて
います。 深奥の対話から、現実へと覚醒する…。 それ
が、何と見事に表現されていることでしょうか!
しかしそれは、私に言わせれば "見事過ぎる" のです!
"病から癒えた感謝の躍動" は、回を追うごとに激しくなり
ます。 …恍惚の興奮。 それは私にとって、"演奏不可能"
なほどなのです。
覚醒したのはいいが、今度は "眼が点になる"…。 何とも
大変な音楽を作ってくれたものです。
その "仕返し" に、今回も大幅なカットをしました。 何度も。
[演奏例の音源]は、二度目の "B" から始まります。
軽快な伴奏音形と格闘する私を、どうかお楽しみください。
聞けば聞くほど、心の病に沈み行く私です…。
[音源ページ ① (弦楽四重奏曲 第15番)] [音源ページ ②]