goo blog サービス終了のお知らせ 

MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

病に沈む者の感謝の歌

2012-02-18 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

02/18 私の音楽仲間 (362) ~ 私の室内楽仲間たち (335)



           病に沈む者の感謝の歌




         これまでの 『私の室内楽仲間たち』



                関連記事

                  窮屈な序奏部
                理想は時空を越えて
               病に沈む者の感謝の歌
                 例稚多手入負落
                 トゲのあるセリフ
               破綻を好むダークマター
                  自虐的な遊び
                   奇襲攻撃
                  省資源の先例



 ご一緒に第Ⅱ楽章まで辿り着いた、Beethoven の弦楽
四重奏曲 イ短調 Op.132



 
 次の第Ⅲ楽章は、

(4/4拍子、Molto adagio)、"癒された者が神に捧げる感謝の歌"、

(3/8拍子、Andante)、"新たな力を感じて"

…と記されており、両者が代わる代わる現われます。



 全体は "A B A B A" の、5つの部分で出来ています。




 "A" は、教会旋法の "リディア調" を用いていることでも有名
ですね。 これについては、上記の解説サイトをご覧ください。



   



 一見すると "ヘ長調" に似ています。 しかし、「4番目
の Si に♭がついていない」…というのが、"長調/短調"
に親しんだ、私たちの感覚です。

 しかし "長調" も "短調" も、元々は、この教会旋法の
一つでした。



 この "リディア調"。 広い意味では "ヘ長調" に限らず、
4つ目の音が半音高い」…のであれば、Do、Re、Mi…の
どの音からスタートしてもいいわけです。

 今回の "BEETHOVEN" は、"調号の無い ヘ長調" で
書かれています。




 この "旋法" による音階の幾つか…。 かのドビュッシー
始め、主として、近代フランスの作曲家たちが用いました。

 それまでの機能和声法的な音楽。 そして、それを崩壊
させた、後期ロマン派を始めとする、半音階的な音楽。

 これらに対して、古い様式を用いて、音楽に新たな生命
を吹き込もうとした手段が、"旋法への回帰" でした。



 教会旋法ですから、お馴染みの "5度進行の終止形" が
ありません。 4つの声部が形作る "和声" も、ほとんどの
場合、音階的 (modal) に進行します。 機能和声に慣れた
耳には、"異様" に聞えるかもしれません。

 この Beethoven の曲でも同じ。 まるで天の神との対話を、
異次元で交わしているようでもあります。




 しかし、突如 "5度進行" のカデンツ (終止形) が聞えたか
と思うと、音楽は "新たな力" に満たされます。

 そう、"B" の音楽が、くっきりとした "ニ長調" で始まる
のです。



 そこには二度とも、"p から f への cresc." が書かれて
います。 深奥の対話から、現実へと覚醒する…。 それ
が、何と見事に表現されていることでしょうか!




 しかしそれは、私に言わせれば "見事過ぎる" のです!

 "病から癒えた感謝の躍動" は、回を追うごとに激しくなり
ます。 …恍惚の興奮。 それは私にとって、"演奏不可能"
なほどなのです。

 覚醒したのはいいが、今度は "眼が点になる"…。 何とも
大変な音楽を作ってくれたものです。




 その "仕返し" に、今回も大幅なカットをしました。 何度も。



 演奏例の音源]は、二度目の "B" から始まります。

 軽快な伴奏音形と格闘する私を、どうかお楽しみください。



 聞けば聞くほど、心の病に沈み行く私です…。





 [音源ページ (弦楽四重奏曲 第15番)]  [音源ページ