MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

論理を伴う感覚

2011-08-24 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

08/24 私の音楽仲間 (301) ~ 私の室内楽仲間たち (274)



              論理を伴う感覚



         これまでの 『私の室内楽仲間たち』



                     関連記事


                 Mozart の Presto
                  論理を伴う感覚
                    自家中毒
                   毒には毒を
                   目玉はドコサ
                ク―ちゃんと食べたい


 このミラノ四重奏曲のト長調 K156(134b) は、その第Ⅰ楽章
が "Presto" です。 拍子は 3/8。

 曲は、次のように始まります。







 この "Presto" を、どういうテンポにするか? それが今回の
私の課題でした。



 話は変わりますが、やはり三拍子の音楽にワルツがあります。

 普通は 3/4拍子のワルツですが、そのテンポは様々。 ここ
ではショパンの例を見てみましょう。




 元々は "踊り" としてスタートしたワルツですが、ショパン
の手にかかると、もはや詩情豊かな芸術作品。 もちろん
"聴覚的要素" が重視されます。

 中には、"Lento" (イ短調 Op.34-2、変イ長調 Op.69-1) や、
"Moderato" (変イ長調 Op.64-3、ロ短調 Op.69-2、変ニ長調
Op.70-3)
のように、ゆっくりな曲もあります。



 しかし、変ニ長調 (Op.64-1)変ト長調 (Op.70-1)
のように "Molto vivace" となると、これに振付をしても、
もう "4分音符単位で踊る" のは無理です。

 前者の "変ニ長調" は、あの "小犬のワルツ" です。
しかもこの曲、3/4拍子と 2/4拍子が、冒頭から複雑に
絡み合っています。

 また、変イ長調 Op.42 のように、左手の 3/4拍子と、
右手の 6/8拍子が同時進行しているような曲もあります。



 これでは、単純に「4分音符が一拍でしょ?」…などと
安心しているわけには、とても行きません。




 「もっとテンポを落としてくださいよ! そんな速いテンポ
じゃ、踊りが間に合わないじゃないですか!?」

 これはショパンの話ではありません。 バレエ公演の
舞台練習で、指揮者に対してしばしば投げかけられる
苦情です。 私もオーケストラ時代に、何度となく目撃
した光景です。



 特に指揮者は、自分で踊る必要も無ければ、細かい
音符を正確に演奏する必要もありません。 1小節に
1回だけ、適当に棒を振りおろしていればいいのです
から、ある意味では気楽な稼業です。 「踊り手の全身
運動が如何に大変か…」を熟知していないと、テンポは
どうしても先走りしがちです。

 と言っても、これは凡庸な指揮者の話。 "巨匠" と
なると、話はまったく別です。




 ワルツのテンポが速くなるほど、"基本のビートとして"
"1小節に3回" を 感じるのは無理。 "1回だけ" になる
のは止むを得ません。 ただし4分音符のリズム感は、
それでも正確でなければなりませんが。

 これはワルツの 3/4拍子に限らず、3/8拍子でも同じ
ことが言えるでしょう。




 話は最初に戻り、K156 の第Ⅰ楽章の "Presto"。 これは
どういうテンポで演奏したら良いのでしょうか?

 拍子は 3/8 ですが、重要なのは8分音符一拍か?

 あるいはどちらかと言えば、1小節が大きな一つの単位?



 この曲に限ってみれば、「1小節を一つの単位として
ゆったりめに感じ、8分音符一つを Presto で演奏する」
感覚が自然ではないか、…そう考えられます。




 「そんな表現では中途半端だ」…とお叱りを受けるかも
しれませんね。 なるほど、理論的には、以下のように
単純な主張も可能です。

 「指定は "Presto" なんだから、とにかく速く!」

 「いや、ソナタ形式なんだから、感覚に流されるだけで
はいけない。 複数のテーマや、楽章の構成が感じられ
るような、かなり余裕のあるテンポで!」



 もちろん、これらは頭の片隅に入っていなければならない事柄
です。 しかしそれだけでは、単なる "知識だけの議論" に終始
してしまいます。

 問題は、"聴いていて自然な音楽" かどうかです。




 また、この第Ⅰ楽章は 3/8拍子の音楽ですが、もし 6/8拍子で
書かれていたら、何か違いはあるでしょうか?



 6/8拍子で書かれている方が、「3/8拍子に比べると、テンポ
速い方がいい」…と私自身は感じますが、いかがでしょうか。
(8分音符一つの速さです。)

 音符3個ごとに "大きなステップ" があるよりは、6個ごとの
方が、流れは軽くなります。

 8分音符が、1小節に3個だけなのと、6個もあるのとでは、
やはり「音の長さの価値には差が出て来る」でしょう。



              ↓      ↓  ↓




 言い方を変えれば、たとえ "音符は3個" だけでも、3/8拍子
の "1小節の持つ重み" は、やはり同じように重要です。

 全体の中で一つの音符を見たときに、"音符の密度" をどう
感じるか?…次第で、最終的にテンポは決まります。 それ
には個人差も当然あるでしょう。

 こうなると、やはり音楽は "理屈よりも感覚" ですね。



 ちなみに上記の譜例の "↓" の箇所には、「スラー記号を
書き入れ、二つの音符を結ぶ」…方が自然かもしれません。

 3/8拍子なら、それぞれの箇所にリズムが二つあっても
いいのですが、6/8拍子になると、「リズムが二つもあると
"ゴツゴツしてしまう"」からです。



 同じことは、もしかすると内声 (ViolinⅡ、Viola) にも、
ところどころ当てはまるかもしれません。

 貴方なら、どこにスラー、あるいはタイを書き込みますか?




              音源ページ

音源をお聴きの際は、他の外部リンクをクリックすると中断してしまいます。



       再現部にさしかかった部分の演奏例]

 演奏しているのは、Violin が私、H.さん、Viola N.さん
チェロが O.さんです。

 N.さんはチェロ奏者ですが、Viola をチェロ式に立てて
持ち、器用に演奏されました。

 H.さん、O.さんは、この日 N.さんのお宅で初めてお会い
しました。

         関連記事 ワン ポイント レッスン