MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

老人ホームで (2) 笑顔は表現

2008-12-20 00:05:44 | その他の音楽記事

12/20      老人ホームで (2) 笑顔は表現




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 『アヴェ・マリア』。

 バッハの "平均律" の有名な曲の上に、グノーが歌詞と
メロディーをあとから付けたものです。


 ピアノはSさん。 ここまでずっと、出番を待っておられた
のですが、役割を完璧に果たしてくれました。




 Violin の方は、技術的には "簡単な曲" と言えなくもない
のですが、歌詞とともに語りかける気持ちを、忘れないように
心がけました。

 一度目は低い音域で、二回目は高く。




 歌ならば、出だしは、

 "A - - - / ve - - Ma / ri - - - / a - - " …という歌詞です。


 後半には、何度も

 "Ma / ri - a - , Ma / ri - a - , /

  San - ta - , Ma / ri - a- , Ma / ri - a - ,"

…という呼びかけが出てきます。




 何と言っても、バッハの手になる原曲のピアノ・パートが
素晴らしく、曲は静かに終わりました。





 そして次は、『故郷 (ふるさと)です。


 定番になっていて、機会あるごとに歌う、皆さん
お気に入りの曲なのだそうです。



 「うさぎ追いし かの山、小鮒釣りし かの川…」





 いよいよ最後の曲になりました。 『星に願いを』です。


 この曲では、ちょっと変わった試みがあります。
"トーン・チャイム" という楽器を使うのです。




 これと似た楽器にハンド・ベルがあります。 一人ひとりが
小さな鐘を手にして、振って鳴らします。 

 音程は、Do なら Do、Fa# なら Fa#…のように、一つ
ひとつが固定されています。 したがって、通常は何人かが
両手に持って並び、全体で一つの音階を作ります。

 曲のメロディーの中で、自分の音が出てくると、
そこだけ鳴らすのです。




 さて、トーン・チャイムは、楽器の形がちょっと違います。

 ちょうど、カスタネットのうち、"振って音を出す" タイプと
よく似ています。

 金属パイプが叩かれて鳴る様子は、昔よく見られた
"鳴子" の原理そっくりです。





 さて、この曲では、これまで待機していた、別の職員さん
たちが加わります。 それぞれ、両手に銀色のトーン・
チャイムを持ち、横一列に並びます。 各自の目の前には
机があり、上には楽譜が。




 いよいよ短い前奏が始まりました。
ここは、Violin とピアノだけ。


 そして、お待たせしました、あの夢一杯のメロディーが!


 ("When    you  wish   up - on    a   star …")

   Do(高い) DoSi♭LaFa#Sol、 Re…、…。


 チャイムの美しい音色が、響きます、ひとつずつ。




 前の音程の響きがまだ残っているうちに、綺麗な音が
次々に重なっていきます。

 あまりにも音が澄んで美しいので、同じ旋律をなぞる私の
Violin がうるさいほどです。 思いっきり弓を軽くして、
指板側の方で (身体から遠く離して) 弾きます。




 この企画は素晴らしい! まさに曲にピッタリです。

 演奏する方々の表情も、にこやかで素敵です。
 弾きながら、魅入ってしまうほどに。

 聴衆の利用者さんたちも、きっと同じでしょう。




 今度は長い間奏に入り、私が勝手に弾く部分になりました。 
皆さんの手は休んでいますが、まだ先に出番があります。

 曲の一番最後の音符を、全員で一斉に鳴らすのです。
全曲の、まさに "決め" の音です。




 今、トーン・チャイムを手にして、目は楽譜を正確に追って
いるようです。 さあ、いよいよ最後の音が近づいてきました。
 
 難しいのは、直前でピアノの音が止まり、音が一瞬
空白になることです。


 手元の楽譜だけ見ながら音を出そうとするのでは、
全員の呼吸が合わず、微妙にずれてしまいます。
指揮者がそこにいるわけでもありません。




 指揮者と言えば、曲の冒頭の話ですが、三人で一緒に音を
出す箇所がありました。 ピアノ、Violin、チャイム一名です。

 そのときは、チャイムで最初の Do の音を鳴らすSさん
いう方に、指揮者の役割を兼ねてもらいました。


 そしてこの、全曲の一番最後の音ですが、今度は
Sさんを指揮者代りにしても、チャイムたちは横一線に
並んでいるので、Sさんをよく見ることが出来ません。





 どうやら、この箇所で一番ヒマそうなのは私のようです。


 何とかしなくては…。 ただ、自分も一緒に弾いて
いるので、両手は塞がっています。


 空いているのは、口と脚ですが、"口を出す" のも
"足を出す" のもまずいようです。

 「どうしようかな…?」


 そこで膝の曲げ伸ばしを使ったら、うまく合いました。




 拍手が沸き起こります! 「ブラヴォ!」の声すらも。

 聴く側も、演奏する側も、みんな笑顔。

 やれやれ…。





 翌日のことです。

 企画、司会、ピアノと、大変な役割をすべてこなした、
Wさんからメッセージを頂きました。




 利用者の皆さんの笑顔を引き出していただけて、感謝
しています。 (利用者さんに) 音♪を充分に感じ楽しんで
いただけたように思います。 毎日の業務の中ではなかなか
見られない表情も、幾つか見ることができました。

               (中略)

 自身が誰よりも楽しませてもらった気がします。

               (中略)

 音楽を通して職員の気持ちが一つになった経験は、
今後の介護にもつながると思います。

 (現場に残ってくれた職員も協力してくれました。)





 「音楽は人と人とを結びつけるべきものだ」、

そんなふうに書いたことがあります。


 少なくとも逆のことにならず、お役に立てたのかも。

…そう感じるとき、音楽を手放さないで、本当によかったと
思うのです。




 (この項終わり)



 この施設は、東京都杉並区の上井草園といいます。


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