MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

カワホネを尋ねて (4) 水の作ったすり鉢

2008-12-15 00:00:28 | その他の音楽記事

12/15    カワホネを尋ねて  (4) 水の作ったすり鉢




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       (4) 水の作ったすり鉢
       (5) 最後の古地図
       (6) 名曲の源泉
       (7) 清流の復活





 カワホネ、じゃなくて、コウホネか。

 じゃあ、そのコウホネは、もう無いの?




 「今じゃもうどこにも無いよ、渋谷には。

 コウホネに関係あるものだったら、どこかに残ってる
はずだがね。 黒くて四角いものだ。」




 関係あるもの? じゃ、コウホネはどこにあったの?



 「もっと、ずっと上流の方だよ。」




 「この辺もね、大正の終わりまでは水車があったんだ。

 宇田川にはメダカが一杯いてね、子どもたちがいつも
遊んでたよ。 そのころの渋谷なんて、田舎の駅さ。」




 (へえ、誰から聞いたんだろうな、そんな昔の話…。

      町の古老でも居るのかな、近くに。)





 じゃあ、ここらへんは川だったの?




 「川というよりは谷だよ。 この辺は、急な坂道だらけだろう?
すり鉢状に窪んでいる、一番底の部分なのさ。

 西は道玄坂、東は宮益坂。 その間の、一番深い谷を、
山手線が走り始めたのさ。 今は高架だけどね。」




 へぇー…。



 「南の方には桜丘 (さくらがおか) があって、やはり急坂だ。」



 そうなの…。




 「今から案内する、北側の井の頭通りの方にも、流れがあった。

 それに、そこの、すぐ目の前には、川から分かれた用水が
張り巡らされ、子どもたちが川遊びをしていたな。

 コウホネがあったのは、もっとずっと上流の方だよ。」




 え? じゃ、コウホネ、見たこと、あるの?





 「それより、行きたい場所の住所は分かるのかい?」




 ちょっと待ってね。 飼い主がメモを書いてたな…。

 あった! "東京府豊多摩郡代々幡村代々木、字…" だって。




 「…やはりあの辺か。 遠出の散歩で遊びに行った、
高野さんちの、少し手前だな。」



 ボク、ひとりじゃ自信、無いよ。 一緒に来てくれない? 




 「いや、それは無理だ。

 それより、自分の、その携帯に打ち込んでごらんよ、
住所を。 GPS機能は付いてるんだろ?」




 でも、この住居表示、古いから、打ち込んでも駄目だよ。




 「いいから、今から教えるとおりに入力しなさい。

 いいかい、言うよ、

 "東京都渋谷区代々木5丁目65番" だ。」




 …、…、…、…!! なに、その機械!?




 「新旧住所変換器だよ。

 ドラえもんがこの前遊びに来て、プレゼントしてくれたのさ。」





 「この交差点を渡って、北の方へ行くと、井の頭通りがある。
それをずっと北西の方角へ進みなさい。 途中から枝分かれ
するけど、あとは携帯を見ながら行けばいい。

 目的地に着くと、"ピンポーン" と鳴るはずだ。」




 どうもありがとう! こんなに親切にしてくれて…。

 あのう、この甘栗、少し要らない? たくさんあるの。




 「せっかくだが、私は食べない。 全部自分で持っていって
食べなさい。 先は長いし、坂道だらけで疲れるよ。」




 はい。 わかりました。

 でも、あなたは誰なの? ずいぶん茶色いワン君だけど。




 「名乗るほどの者じゃないが、昔はまっ白だったんだよ。
向いている方角も、以前は北だったのに、今じゃ東さ。」



 お名前を教えてください。 ボク、まる。



 「そうか、まるクンか。 よろしくな。 ゆっくり話したい
ところだが、きみは忙しそうだ。 名刺を渡しておくから、
帰ってからゆっくり見ておくれ。」



 ありがとう。 またいつか来るから、お話、聞かせてね?



 「じゃあまたな。 幸運を祈るよ。」



 ありがとう。 さようなら。




              [謎の犬の名刺





               (maruの説明)


 カワホネ (コウホネ) は食べ物ではないと判りました。

 可哀相なまるチャン…。


 でも、教えられたとおりの方向へ、また歩き始めましたよ。

 休憩も取らず。 甘栗も食べずに。




 忠犬まるチャン、がんばれ。


 (続く)




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       (7) 清流の復活





  [謎の犬の独白]
       ↓


 銅像になってから、私もすっかり有名になったものだ。

 今じゃ、待ち合わせ場所の筆頭らしいな。 みんな触って
撫でてってくれるもの。




 だが当時は、ずいぶんひどいことを言われたよ。

 "あんなに汚いんじゃ、野良犬以下だ" とかね。


 死んだのは稲荷橋のそばだが、ちょうど酒屋の前の路地
だった。

 飲みすぎではないぞ。 最近の研究では癌だ。





 昔はこの辺で子供たちが川遊びをしていたものだが、
今は同じ場所で、若者たちが賑やかにやっている。

 渋谷も変わったものだ。




 自分が主人の上野と住んでいたのは、ちょうど
道玄坂のあたりだが、ここも、今と昔じゃ大違いだ。





 "渋谷" の地名は、平安末期にこの地を治めた、
渋谷氏の名からきているそうだ。


 ただ、もう一つ説がある。

 "渋谷川を流れる水の色が渋色だった" というものだ。
関東ローム層で、鉄分が多く、赤茶けた色をしていたとか。

 だが水質は綺麗だから、渋谷川で採取した蛍は、
徳川将軍に献上されたという話だ。




 渋谷川一帯には、清流復活の取り組みもあると聞いている。

 この "JRハチ公口" では無理としても、蛍の飛び交う光を、
ぜひまた見たいものだ。

        
               2008/12/20