02/24 半世紀後の時限爆弾
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(しかし、出血の原因は何だろう?)
私はベッドの上で天井を見つめながら、考えました。
救急車で運ばれ、緊急処置。 そして、そのまま
入院。 両腕は点滴中です。
吐血…ということは、胃、もしくは十二指腸の潰瘍
でしょう。 病名は、まだ聞かされてないけど。
潰瘍と言えば、かつて胃を検診した際、こんなふう
に言われたことがあります。
「胃潰瘍の痕跡がありますが、もう治癒しています。
心配ありません。」
このときはバリウム検査で、自覚症状は皆無でした。
そんなこともあったな…。 30年近く昔のことですが。
以後、胃の検査などは定期的に受診していますが、
後にも先にも “異常” は、この一回だけです。
(刺激物を、特に好んで食べるわけでもないしな…。
「お酒のせいですよ。 今後は駄目です!」 …なんて
言われるのかな?)
私の “お酒” なんて、可愛いもんですけど。
そんな呑気なことを考えながら、一日目の眠りに就きました。
「もう一度、胃カメラがあります。」
二日目の朝、看護師さんに言われました。
(あれー。 またか…。)
これは、血が完全に止まっているかどうか、他に異常な
部分が無いかどうか、それらを診るためでした。
昨夕は、胃にまだ血が残っていたので、全体を完全に
は確認できなかったそうです。 午後に食べた “焼そば”
も、かなり邪魔だったとか。
また、昨日の胃カメラは、「単なる検査のためでは
なかった」ことも解りました。
それはそうですね。 あれだけの出血が、自然に
止まるわけはありませんから。
後で目にした入院治療計画書には、“緊急 内視鏡的
止血術” とあります。
また、“内視鏡的 焼灼止血” ともあります。 おそらく
電気ゴテで患部を焼き、出血部を塞いだのでしょう。
そう言えば、同時に輸血をしながらでした。
緊急輸血…?
外で待っていた家族は、「集中治療室へ移される
可能性もある」…と予め聞かされ、涙ぐんでしまった
そうです。
麻酔のお蔭で、何も感じなかった私。 それを、単なる
“検査” のための胃カメラだ…と思っていた、愚かな私。
これは手術にも相当する作業ですね。 でも専門的に
は、“処置” の部類に入るのだそうです。
主治医の Y先生は、写真をたくさん見せてくれました。
今日の検査の後の写真。 昨日の処置の際の写真。
見比べると、今日の写真はどれも “綺麗”。 昨日のは、
胃の下部がよく見えません。 出血の直後なので、当然
でしょう。
(…ということは、胃潰瘍だな。 十二指腸じゃなくて。)
私の目を捉えたのは、そのうちの一枚。
昨日の写真で、血が噴出している様子が鮮明に写って
いるのです。 左下から右上へ向かって。 まるで、太陽
表面のプロミネンスのように!
(これじゃ、ひとたまりも無いな…。)
[wikipedia、プロミネンス] より
先生は私に尋ねました。
「ストレスは多い生活ですか?」
胃潰瘍の原因として、よく話題になる
のが、精神面からの影響ですね。
いいえ、特に多いとは思えません。
(楽器は楽しく弾いているし、性格的にも、胃をチクチク
虐めるような習慣はない。 色々問題を抱えていることは
事実ですが。)
「だとすると、考えられるのはピロリ菌です。」
(これは聞いたことがある。 むしろ、胃がんの原因として
だけど、ボクの場合は潰瘍を引き起こしたのかな…?)
私は車椅子に乗せられたまま、命を救ってくれたことに感謝し、
Y先生や周囲の医師たちに礼を言いました。
照れる若い先生たち。 わざと無表情を装うかのような Y先生。
昼過ぎに、家族が面会に来ました。 仕事を早退して。
勤務先の上司が、心配してくれての取り計らいです。
そこで初めて聞かされたのが、“出血性胃潰瘍” という
病名です。
私は、「医者なら病名を直接告げるのが普通だろう」…と、
それまでは考えていました。 でも Y先生は違う。 ただ
昨日の処置について語り、状況を私に説明するだけです。
確かに患者としては、硬い専門語で病名を聞かされても、
ちっとも嬉しくない。 そこに思い遣りを感じ、また、この先生
の指示どおりに従えば間違いないな…と確信しました。
ピロリ菌。 検査の結果、やはり私の胃にも住み着いているのが
判りました。
後から検索してみると、「50歳以上の約80%が保菌している」…
などと書かれています。
また私が生まれたのは、戦後の混乱期です。 衛生思想は未熟、
法的規制も不足しており、何が口から入っていたか、解りません。
でも、この二日目は、まだベッドの上。 ピロリ菌の知識も無く、
ただ一生懸命に考えるだけです。
(そんなもの、いつ、口に入ったんだろう? 半年前かな?)
(…ということは、今回の潰瘍が治っても、また出血を起こす
かもしれないな。 …どうやって根治するんだろう? ピロリ菌
が居なくなるまで、退院できないのかな…?)
幸いにも、今はこうして退院しているわけです。 でも
このときは、真剣に悩みました。
(まあ、考えすぎるとストレスが溜まるから、止めよう。)
この日はヴァレンタイン デ―。 愛を注いでくれた
人たちに感謝しなければ。
救命士、救急隊員、主治医を始めとする先生方、
看護師さんたち。
そして、救急車を呼んでくれた家族。 私が倒れたのは
水曜日で、ちょうど出勤しなくていい日だったのです。
もし私が一人だったら…。 床に寝ころんで回復を待つ
うちに、吐血を繰り返し、助からなかったかもしれません。
それにしても、このピロリ菌。
一体ボクの胃に、何年間 “いそうろう” していたの?