11月後半借りた本は 『恋歌』 朝井まかてさん 『リボン』 小川糸さん。
どちらも気持ちよく読んで満足して。
『すべて真夜中が恋人たち』 川上未映子さん。
好きな作家なのに身の回り半径1メートルの世界に終始しているように思えて、真ん中あたりで挫折。
そして書名から表紙絵からどこか敬遠していた西加奈子さんの『ふくわらい』を最後に読んで。
いやいやいやいやもうなんと表現してよいのか。
何とも奇妙でずーっっと後を引いて、ふくわらいの世界が頭の中を渦巻いている。
ムンクの叫びの背景のぐにゃりと曲がった何本の線、そんなものが浮かんでくる。
私も誰かの顔を見て、勝手に眉や目や鼻や口を上下横と動かして顔を作り替えてみようかしら、なんて。
西さん、どこをどう叩けばこのへんてこな物語を紡ぎだすことができるのですか?
と聞きたくなる。
そんなおよそ常識とかけ離れたような物語が生み出す混乱はあるけれど、
西さんの力強い文章がぐいぐい引っ張ってくれて、あっという間に読了してしまう。
西さん「サラバ!」で直木賞を受賞しているけれど、「ふくわらい」の方がふさわしいのではないかと思う。
ずっといい。いやもしかしてこの小説は芥川賞の方がふさわしいのではないかしら。
ちなみにこの年の直木賞は「何者」と等伯」が受賞しているのね。
マルキ・ド・サドをもじって名づけられた、 書籍編集者の鳴木戸定。
彼女は幼い頃、紀行作家の父に連れられていった旅先で、 誰もが目を覆うような特異な体験をした。
その時から彼女は、 世間と自分を隔てる壁を強く意識するようになる。
日常を機械的に送る定だったが、ある日、心の奥底にしまいこんでいた、自分でも忘れていたはずの思いに気づいてしまう。
その瞬間、彼女の心の壁は崩れ去り、熱い思いが止めどなく溢れ出すのだった――。
愛情も友情も知らず不器用に生きる彼女は、愛を語ってくる盲目の男性や、
必死に自分を表現するロートル・レスラーとの触れ合いの中で、自分を包み込む愛すべき世界に気づいていく。
第1回河合隼雄物語賞受賞作。「キノベス! 2013」1位。
主人公の行動に時に気持ちが悪くなり嘔吐したくなるような表現や場面もある。
実際、最後にこの主人公が嘔吐する場面がある、今までの自分と決別するかのように嘔吐する場面がある。
そして鳴木戸定の幸福な終末、それがまたしてもなんとも奇妙な行動をとることになるのよ。
プロレスラー守口廃尊、同じ編集者の小暮しずく、盲目の武智次郎、乳母の悦子さん。
これら登場人物の個性が際立っていて、彼らが物語をより深く鮮やかに浮かび上がらせてくれて。
なかでもやはりプロレスラー守口廃尊とのやり取りは、プロレスのように激しくて迫力に満ちていて、
それでいながら静かで優しさがひたひたとふたりの間に流れていて。
だからこそ守口廃尊の部屋でこそ、
定は身体の中身が全部噴出するように嘔吐することができたのではないかしら。
この二人の交流は凄いのよ。
作者の西さんがプロレスラーを書きたいなと思った、と言っているのがよく分かる。
いずれにしても、あまりに強烈過ぎて後引いて、
西さんの『さくら』を借りようと手に取るもやはり書棚に戻してしまった。