goo blog サービス終了のお知らせ 

まい、ガーデン

しなしなと日々の暮らしを楽しんで・・・

映像が浮かぶ『俺たちの箱根駅伝』上下 池井戸潤著

2025-04-27 08:23:10 | 

お久しぶりです、池井戸潤さん。
何年ぶりかしら、全く手に取ることはなかったのよ。
東野圭吾さんと並んでもういいかな、なんてえらそうなこと思ったりして。
書架に上下巻並んで私を待っていたから即お持ち帰り。

いやあ、ごめんなさい。すごく面白かったです。
それこそ、何もかも忘れて没頭できるくらいに。理屈抜きの小説の面白さ。

箱根駅伝そのものも、テレビ中継をちらちらとしか観なくなって。
長いから付き合いきれなくなったのよ。
前はその長いのも忘れるくらいテレビに張り付いていたのに、ね。
そのころのことを思い出させてくれたわ。

俺たちの箱根駅伝『上・下』
物語の視点は、選手たち、中継テレビ局、監督その他運営に携わっている人たちと
多方面から描かれている。それぞれの人間模様が過不足なく映し出されている。

 

 「上」巻は本戦に向けての予選会の模様
 明誠学院大学10秒差で敗退
 突然の監督辞任、そして新監督選出
 ひとり関東学生連合チームに選ばれた
 青葉隼人

 中継テレビ局の内部事情
 学生連合チーム結成
 チーム事情問題噴出

 それらの課題を乗り越えて連合チームは
 どのように本戦に臨むのか

 

 

関東学生連合監督に就任した甲斐真人。箱根を4度走ったとはいえ監督経験ゼロ。
しかも大手一流企業を1年間休業しての監督就任。
そんな彼が掲げたチームの目標が「三位以上をめざす」だ。
問題がないわけがない、軋轢がかかる、つぶしにかかろうとする人も。
そんな監督のもと、はたして学生連合の選手たちは箱根路をどのように走るのか。

 
 思わず選手たちの数を数えたくなる挿画
 スタート前の緊張感さえ伝わる

 下巻は箱根路を走る選手たちを追いかける
 ひたすら追いかける
 連合チームの選手をメインに 心理状況や
 背負っている背景を
 メインアナウンサーが冷静に正確に

 そしてそれぞれコースの難所をこれまた的確に
 描写されていて
 池井戸さんどれだけリサーチされたんだろうと
 読んでいる私まで一緒になって応援する

 

順位がつかない、正式な記録に残らないオープン参加の関東学生連合が
それでも箱根駅伝に「3位以上」を目指して走る。
そしてゴールに飛び込んだ順位は、目標を達成できたのか。

どきどきわくわくの小説を楽しみました。さわやかな読後感満足感がいっぱいです。
ページがどんどん進みます、上下を三日で読めます。
読んでいる間は何もかも忘れます、はい。そんな小説です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 順位を目指す

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

死んだようなそうでないような『死んだ山田と教室』金子 玲介著

2025-04-07 08:54:19 | 

あらあ、2025年本屋大賞発表の日が近い。焦るわ。
って「死んだ山田と教室」もノミネート作品の1冊。私が読んだ唯一の作品。
TV「あの本読みました?」で作者が出演していて、死んだ者が声だけになって、なんて
それを見ても私には無理と拒否していたのに。
コミュニティハウスの書棚に立てかけられていて「読んでください」とばかりにあったから、
はいはいってお持ち帰り。

「死んだ山田と教室」タイトルからして衝撃的。
内容も男子高校生の高校日常生活が展開されている。いやあやっぱり無理でしょと
思ったけど、ほぼ会話で構成されている話が飛んでいて実に面白い。
登場人物たちが会話で生き生きと表現されていて、地の文は風景や行動がほとんど。
ユニークな文体がリズムがあってけっこうすっと読めてしまう。。

もちろん初めての作家さん。若い。今までは純文学作品に応募していたけれど
ことごとくふられて、エンタメ系に方向転換したそうな。
エクセルを使って登場人物や諸々を細かく表して数値化しておく、いうから今どき
だなと妙なところで感じ入ってしまった。

話は前半部分と後半ではガラッと変わってしまう。
前半のいかにもな男子高校生エピソードの楽しさ切なさが続くと思いきや、
後半死んだ山田の思いがけない告白にそうきたか、そうだったのかと。
うーん、作者はこっちにもっていきたかったのかと。

夏休みが終わる直前、⼭⽥が死んだ。飲酒運転の⾞に轢かれたらしい。
⼭⽥は勉強が出来て、⾯⽩くて、誰にでも優しい、2年E組の⼈気者だった。
2学期初⽇の教室は、悲しみに沈んでいた。担任の花浦が元気づけようとするが、
⼭⽥を喪った⼼の痛みは、そう簡単には癒えない。席替えを提案したタイミングで、
スピーカーから⼭⽥の声が聞こえてきた。騒然となる教室。死んだ⼭⽥の魂は、
どうやらスピーカーに憑依してしまったらしい。今の⼭⽥に出来ることは、
話すことと聞くことのみ。〈俺、2年E組が⼤好きなんで〉。
声だけになった⼭⽥と、2年E組の仲間たちの不思議な⽇々がはじまったーー。

本文最初の1行

山田は二年E組の中心でした、と通夜に参列した生徒は口々に語った。

山田、まじおもしろくて、山田がいるだけで、クラス全体がすげぇ明るくなって、
山田いなくなってまじ信じらんないっつーか、明日から二学期はじまるんすけど、
どうやって過ごせばいいかわかんねぇっーかめちゃめちゃ不安っつーか。

同級生、秀才で医学部目指している高見沢の告白。

山田君に救われたんだよ
山田君のおかげで、学校が楽しいって思えるようになったんだ。
山田君、あんなに人気者なのに、あんなに誰とでも楽しそうにしゃべるのに、
たまにひとりでいるでしょ?
それを見て、あ、ひとりでいいんだ、って。ひとりでいても、誰かといても、
別にいいんだって。だから、山田君と同じクラスになってから、ひとりでいても、
会話に参加できなくても、ひとりぼっちじゃないんだって思えるようになって。
学校にいるのが、すごく楽になって。

山田と唯一、中学校からの同級生和久津の告白。

和久津が、水泳授業に水着を忘れてしまったことを女性教師にキーキー怒られて。
なんでこんなに怒られなきゃいけねぇんだよ、ふざけんなよって、惨めな気持ちになって
下向いて泣きそうになってたら、後ろからぼそっと声が聞こえてきて
「マリー・アントワネットじゃんって」
俺、噴き出しちゃって。思わず振り返ったら、山田と目が合ったんだ。
マリー・アントワネット聞いてからは惨めな気持ちが吹き飛んで、
マリー・アントワネットがなんか言ってんなぁ。
マリー・アントワネットに反省文書かされてんなぁ。
って状況がおかしくて、ぜんぜんつらくなくなって。
あいつと友だちになりたいな、ってずっと思てて。

「山田」和久津の声が、はっきりと届く。「俺は、お前の味方だから」

そんな人気者の山田だったが、時は流れ同級生たちも確実に変化していく。
あ、変化していない者は・・・

山田と和久津の最後の会話、叫び。
山田君、君の真実はそこにあったのか。
うーん、タイトルと同じくラストは衝撃的。食わず嫌いしなくてよかった1冊。

はたして『死んだ山田と教室』は本屋大賞をとれるか。私が書店員だったら推すか。
他の9冊を読んでいないのだから評しようもないが、それでも気になる。
うーんそうだな、大賞まではいかなくても5位、ひょっとすると3位くらいに
なるかしらなんて。結果が楽しみだ。9日の発表が待ち遠しい。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『いちのすけのまくら』『とどのつまり人は食う』

2025-03-29 08:59:12 | 

 

 

 

 

 

 

 

 ひっくり返ってにやにやしながら読んだ1冊
『いちのすけのまくら』

 

第三章  日常 の まくら「相撲」

一之輔さんが街を歩いていたら偶然お相撲さんにあったそうな。
電車の中でだったかしら。びんつけ油のいい匂いがして。
じろじろ見てはいけないと思いつつ、ついつい見たんですって。
大きなお相撲さんの眼鏡のつるが顔に食い込んでいるなあって。
お相撲さん好きだって。そして締めに書いている。

お相撲さんは土俵を下りても魅力的だ。
髷、巨体、着物、その異形感、退屈な日常を「優しく」壊してくれる。
あらゆる場面にお相撲さんが一人いるだけで、誰もが体温が上がるに違いない。
想像してほしい。車内に、職場に、教室に、我が家に、浜辺に、国会に・・・
目の前にお相撲さん。いいなあ、お相撲さん。力士で世界を変えられる、
私は、ホントにそう思う。

私、読んでいて、お相撲さんを赤ちゃんに変えた。
生まれて1,2ヶ月の赤ちゃんじゃなくて、そうね10ヶ月くらいがいいかしら。

俣野別邸庭園に行った帰りの地下鉄にママとベビーカーの赤ちゃんが乗ってきた。
ホロで顔ぜんぶを覆い、お腹から下も袋状のカバーで覆い完全武装。
赤ちゃんが泣きだしたから、ママはベビーカーから赤ちゃんを座席に。お座りができて。
とたん、私のお隣の席のご婦人が赤ちゃんと顔を合わせてニコニコ顔、いろいろと
百面相。一生懸命赤ちゃんとコミュニケーションを。
私も横入りしたかったけど、ご婦人の満足げな様子にぐっとがまん。
次の駅で夫婦連れが向かいの席に。入ってくるなり窓を少し開けた神経質そうな
ご主人。が、赤ちゃんを見るなり、いないいないばあの手で遊ぶ。ハット被った紳士よ。
ニコニコ顔で遊ぶ。とっくに赤ちゃんは泣き止んでいるの。
車内の我らの周りだけほのぼの空気で満たされて。赤ちゃん効果。
どう?一之輔さん。
力士と赤ちゃんで世の中変革。

ちなみにあとがきは一之輔さんの高校生の長男。
書いてくれる、と聞いたら、あっさり「いいよ」って返事したんですって。
うーん、ちょっとどうよの親子関係。

 

 

 

 

 

 

 

 重いからひっくり返りはしないけど、
 ベッドにもたれかかって読んだ
『とどのつまり人は食う』  
 佐野洋子 エッセイコレクション

 

佐野さんお久しぶりです、ってくらいの間があったわ。
歯に衣着せぬ歯切れのいい文章、本音丸出し問答無用な洋子さんなのに、
その底に何とも言えない悲しみが流れているようで切なくなってくることしばしば。


「何も知らなかった」
の孔ちゃんはお父さんの友人の子どもで北京時代からの幼馴染。
その孔ちゃんの死を知らされて。

孔ちゃんの死が私にショックを与えたのは、今までまったく感じたことのない
淋しさだった。父が死んだ時とも、兄が死んだ時ともちがう。私達が老いて、
誰にも死が近づいている。これから生き続けるということは、自分の周りの人達が
こんな風にはがれ続けることなのだ。老いとはそういうさびしさなのだ。

一か月前床をたたいて泣いたのに、今、私はテレビの馬鹿番組を見て大声で
笑っている。生きているってことは残酷だなあ、と思いながら笑い続けている。

そうよそうよ、佐野さん、よくぞ書いてくれた、言葉にして表してくれた。
そういう感情だったんだ私もここ数年。
佐野さんは60代の時に書いているけど、凡人の私は70代にしてそういうことなんだと
気づかされた。
「周りの人たちがはがれ続けること」いやあ恐ろしい、さびしい。

佐野さんすごいわと思いつつ、一方で忘れられないエピソードもあって。
冷蔵庫にコーヒーカップが2客鎮座していたこと、すり鉢とすりこ木を入れていたこと。
笑っちゃうのよ、私の認知症疑いの基準になるの。入れていない、まだ大丈夫だって。
でも佐野さん、それよりショックなことがあったんですって。
友人がプレゼントするから何がいいかと聞いてくれてミカン絞り器(?)と注文。
届いて開けてみればどこかで見たことがあると。
なんと、すでに自分で買い台所の棚において2ヶ月も毎日見ていたんですって。
まったく気づかずだなんて。なんと恐ろしいこと。自分基準がもうひとつ増えた。
買ったものを忘れてもう一つ同じものを買うこと。
ナンタルチアサンタルチア。

ときどき佐野さんの本読み返そう。

 

コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2月に借りた本 3冊のエッセイ 稲垣えみ子・上野千鶴子・川上弘美

2025-03-21 08:54:27 | 

小説ばかりを読んでいる期間が長くなって、なんだか飽きてきたなあと。
エッセイ本が読みたくなって中央図書館へ。すぐに読みたい本が見つかるとうれしくなる。

 

 

 

 トレードマークはアフロヘア、
 朝日新聞コラム執筆や報道ステーション出演などで話題を
 呼んだ 稲垣記者。
 震災や節電、朝日新聞の報道姿勢など、
 大反響を呼んだ退職するまでの記事に加え、
 辞めた今だからこそ書けたことをまとめた一冊。

 

 

稲垣さんのことはNHKのテレビ番組で初めて知った。「ヒューマンサイエンス 整理整頓」
ものの見事に余分なものがない、カーテンもないその部屋での暮らし。
この時から注目していたわけでして。

 

申しわけないけれど本業の新聞記者時代のことは何も知らない。
興味は彼女の生活スタイルとその信念。
原発事故以来、電気に頼らない生活とは何かが知りたくて冷暖房を使わない暮らしをしている。
その生活が続いて、冷蔵庫を手放し、洗濯機を手放し、最終的に電気製品と呼べるものは、
電灯、ラジオ、パソコンと携帯電話の4つだけ。もちろんひとり暮らしだからできると
いうことはあるだろうけれど。
本当の自由とは必需品を減らしていくこと。
あれがなくてもこれがなくてもやっていける自分を作ることという稲垣さん。
当時51歳が東京の片隅で生きている。ちょうど10年前か。
今もこの生活を続けているんだろうな。

 


 四季の景色や草花を楽しむこと、移住者のコミュニティに
 参加すること、地産の食べ物を存分に味わうこと、
 虫との闘いや
 浄化槽故障など想定外のトラブルに
 翻弄されること、オンラインで
 仕事をこなすこと、
「終の住処」として医療・介護資源を考えること……。

 山暮らしを勧める雑誌にはけっして出ていないことまでも語られる、
 うえのちづこ版「森の生活」24の物語。

 

 

 

上野千鶴子さんのこと「平成31年度東京大学学部入学式 祝辞」をネットで読んだだけ。
とても力強いメッセージで感動したことを覚えている。
(一部抜粋)
あなたたちのがんばりを、どうぞ自分が勝ち抜くためだけに使わないでください。
恵まれた環境と恵まれた能力とを、恵まれないひとびとを貶めるためにではなく、
そういうひとびとを助けるために使ってください。そして強がらず、自分の弱さを認め、
支え合って生きてください。

大学で学ぶ価値とは、すでにある知を身につけることではなく、これまで誰も見たことの
ない知を生み出すための知を身に付けることだと、わたしは確信しています。

そんな強いメッセージからのイメージをもっていたので、山の家と東京のマンションとの
二拠点生活を選んで生活し徐々に山の家の方に軸足が移っていくとは、興味深かった。
山登りが好き、スキー大好き、車大好きとはね。そうだったんだ。
ま、大学時代ワンダーフォーゲル部に所属していた経歴を知れば、さもありなんか。
プライベートな暮らしについては書いてこなかったという上野さん、このエッセイ本を
長い間憧れだった山と渓谷社から、出すことになってうれしいとあとがきに書いてあるから
意外に可愛い面があるのね、なんて。

わたしのいまのテーマは「大好きな北杜で最期まで」。
それにもちろん「おひとりさまでも」が加わる。
―――本文より

 

 

 

 たんたんと、時にシュールに、そして深くリアルに。
 あなたの日常でも不思議なこと、実は起きていませんか?
 奇しくもコロナ禍の3年間にあたった、
 2020年から2022年の日記。

 

 

 

 

東京日記も7ですか。
コロナ禍を挟んでいることが関係あるのかどうか分からないけど、今までと
どこか何かが、なんとなくそこはかとなく違う気がするのよ。
6までは「それってほんとか??ほんとにほんとのことか、川上さんの創作じゃないの」
なんて疑いの眼で読んでにやにやしていたけれど、7は妙にリアル。日常そのもの。

川上さん、あとがきで
もしかして『東京日記』も雰囲気が変わってしまうのかな・・・と思いながら、
ネット連載を行った記憶がありますが、読み返してみると、今までの東京日記と
あまり違わないトーンが相変わらず続いていますね。

いやあ、やっぱり違うんじゃないかな、なんてえらそうに思うわけ。
でもでもやっぱり東京日記は面白くて好き。どうか今後も出版してほしいわ。

あっ、川上作品、エッセイは読むのに小説になるとからきしいけない。
20ページくらい読むと挫折して、「三度目の恋」なんて2回もほおり投げた。
いやはや。

 

 

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

なりたやヨシ子さん『ゆうゆう ヨシ子さん』ローボ百歳の日々 嵐山光三郎著

2025-03-17 08:32:45 | 

ヨシ子さんは嵐山さんのお母様。

 

 

 

 

 

 

 老母とのゆるやかな同居のなかで起きるささやかな
 できごとを、
 母の俳句を交えて綴るエッセイ集

 

 

嵐山さんのエッセイは初めて。
淡々とした平易な文章で読みやすく、穏やかでほのぼのとした日常が伺い知れて、
私もとても満たされてくる。こんな息子がいたら幸せだろうなって、対極にいる
豚児の顔を思い浮かべたりして。

ヨシ子さんが俳句を詠み始めたのは62歳の時。
第一句集『山茶花』を出したのは、84歳の時。
冒頭のページの二句、ヨシ子さん62歳の時の句だ。

母の日の星瞬きて闇に消ゆ
山茶花を活けて終日(ひねもす)門を出ず

この句を読んで嵐山さん「そろそろ両親と一緒に暮らさなければいけない」
と腹を決めたそうな。そうね、薄情な私でもそう思うかもしれない。
ヨシ子さん、62歳でもうそういう心境とは。ひと回り以上も年上の私が寂しく
なっても無理ないわね。と。

ヨシ子さんはご主人のノブちゃんと二人暮らしで、ともに家にひきこもりがちだった。
73歳のノブちゃんは庭の梅の木を見ていて、小枝で目を突いたというし、
長男の嵐山さんはこちらも「ほうっておけない」と思って、ご両親と同じ敷地に
家を建てて引っ越した。そういうわけで、同じ敷地内別家で、嵐山さん夫婦と
ノブちゃんとヨシ子さん夫婦の
日々が始まったわけ。

やれやれ、これからこうやって少しずつ衰えていくローフ・ローボとつきあって
いかなければならないのか、と先が思いやられるのでしたと嵐山さんは嘆くけれど。
読んでいると絶妙な距離感と両親への気遣いが素敵なのよ。ほんと嵐山さん、紳士。

ノブちゃんは享年87歳で亡くなった。
嵐山さん、八十代九十代そして百歳代のヨシ子さんと共に暮らすことになる。
老人と暮らすコツは、つかず離れず妥協せず、見て見ぬふりして協調する、
であるが、やってみるとこれが難しいと。
私は夫を思い浮かべ、夫婦だっておんなじだとつぶやく。

ふだんは耳が遠くなり、足腰は弱くなり、ふんわりふわふわと漂うように生きている
ヨシ子さんに生気がよみがえるのは、なんといっても俳句を詠んでいるとき。

最初の句集発刊『山茶花』様々な感想が届き、しょんぼりしていたヨシ子さんに
あと10年は長生きするエネルギーが与えられた。

藁布団つくりし頃やもの悲し

の句がBSテレビ全国百選のベスト40句に入選した。「おめでとうございます」と大騒ぎ。
俳句に自信を持って、俳句を読もうとする念力が、生きる力を呼び起こしたというわけだ。
ヨシ子さんは日々、念仏のように俳句を詠んでいる。と嵐山さんは揶揄するが、私は
それってすごいなと思うわけ。

そして、平成21年 ヨシ子さん九十二歳になり 第二句集『九十二』刊行される。
ヨシ子さんのあとがき(略)
日々思いつくままに句を詠んでいくと、何かしら新しい発見があり、それが生きる力となります。

「カリヨン」に参加していたから生きる力をいただいたのです。

しっかりしているのは句だけであって、耳は遠いし、足腰はフラフラで、日常生活は
要介護となる。俳句を詠むときにだけピカッと稲光のように天から句が降りてくる、そうだ。

ヨシ子さんが元気になるのは俳句の他にお友達との集い。

ヨシ子さんのクラス会。88歳のとき。
浜松での嵐山さんの講演ついでにヨシ子さんを誘う。「行けないわ」と言うものの
「クラス会をしたらいいじゃないの」と言うとヨシ子さんの目が輝く。
「冥途の土産に行こうかしら」ってな具合。そうなるとヨシ子さん、人が変わったように
活発になる、
庭の水撒き、弁当をよく食べ体力回復につとめる。

連日高校の同級生からの電話連絡。浜松で高校同級会。
和食店じゃなく中華料理店に計6人のバー様が。合計五百二十八歳。

いやあすごいエネルギー。88歳なんて私は生きていないと思うわ。

次が97歳のクラス会、といっても二人の集まり。そりゃあそうかもね。
なんといっても97歳なんだから。
お友達とヨシ子さん、ふたりはピーチくぱーちくよくしゃべりとどまることをしらない。
はしゃいでいる姿を久しぶりに見る。すかさず褒めてメモを取る。日に一度行っていた
「ふたり句会」の俳句を詠む。
ほんと何度も書くけど、嵐山さんえらいわ、情が濃い。

たんたんと、しかし、確実に月日は過ぎていくのです
と嵐山さんはさらっと書いているから恐ろしい。

年をとったら努力をするな。ダラダラと過ごす。暑いときは庭に水をまいてりゃあ
いいんです。衰えた自分に驚いていればいいと講釈したら庭を見ていたヨシ子さんの
目玉がピカッと光った、そうな。
うん、いいいい。そんなこと言われたら私の細目もピカッと光る。

百歳のヨシ子さん 敬老の日に国と国立市からお祝いをもらった。お正月に歩けなくなったのが
うそのように立ち直った。リハビリテーションの意志の強さ。台所から郵便受けまでの2メートルが
ヨシ子さんの外出先。半年ぶりに俳句を詠む。

空っぽの郵便受や木の葉舞ふ

百一歳のヨシ子さん「老いてますます唯我独尊(わがまま)」の日々を過ごしている。
2019年、百二歳になったヨシ子さんは家の外へ出なくなったが、
マイペースで悠々と百二歳生活を楽しんでいる。ー2019年1月のあとがきー

ああ、嵐山さん兄弟にかしずかれているヨシ子さんになりたや。
私に俳句脳があれば近づけるのかしら、いやそんな問題じゃないな、やっぱり息子がえらいや。

虫の音に囲まれし家古(ふ)りにけり

2019年が102歳とすると2025年の今年、ヨシ子さんはいかがしているかしら。

 

 

 

 
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

1月 借りた本

2025-02-26 08:58:54 | 

毎日が暇、それってほぼほぼろくなことはないけれど、たまにはいいこともある。
あれも飽きたこれも飽きたわって、そうだ、と、どうでもいい懸案事項の一つを考える。
私のブログ、なんたって文章が長い。だらだら長い。要点をつかんで書くことができない。
一から十まで書きたい。小学生の時、遠足の作文なんか書かされると「朝起きました」
から「疲れて寝ました」まで順を追ってちんたら書くタイプね、きっと。

その癖は続いているから、読書感想内容紹介の文章をコピペするくらい、写真の横に
持ってこれないかしらと、そうすれば少しは短くなるかもと姑息なことを考えた。
思い出したのよ、以前gooに質問して教えてもらったことを。
そうだわ、って頭から記憶を絞り出して挑戦、写真横に文を書く。いやあできました。
これを使って1月に借りた本の備忘録を、ね。内容も感想もおぼろげ。
だから、せめて内容紹介だけでもコピペしてはっ付けておこうという魂胆。
4冊ともそれぞれに読みごたえがあったから、ほっとくのはもったいない。

 

  真面目でしっかり者の沙也加は、丁寧な暮らしで生活を彩り、
  健康的な手料理で夫を支えていたある日、突然夫から離婚を
  切り出される。

  理由を隠す夫の浮気を疑い、頻繁に夫が立ち寄る定食屋「雑」
  を偵察することに。

  大雑把で濃い味付けの料理を出すその店には、愛想のない接客
  で一人店を 切り盛りする老女〝ぞうさん〟がいた。

  沙也加はひょんなことから、この定食屋「雑」でアルバイトを
  することになり——。

  個性も年齢も立場も違う女たちが、それぞれの明日を切り開く
  勇気に胸を打たれる。

  ベストセラー作家が贈る心温まる定食屋物語。

 

店主の”ぞうさん”ことみさえさん、色々抱えてきたことを呑み込んで「雑」を営んでいる。
もう少しみさえさんの人となり来し方に踏み込んでいただけたらもっとよかったのにな。
惜しいな、なんて。

 

 会社員の實成は、父を亡くした後、得体のしれない不安
 (「モヤヤン」と呼んでいる)にとり憑かれるようになった。
 特に夜に来るそいつを遠ざけるため、とにかくなにも考えずに、
 ひたすら夜道を歩く。
 そんなある日、会社の同僚・塩田さんが女性を連れて歩いて
 いるのに出くわした。

 中学生くらいみえるその連れの女性は、塩田さんの娘ではない
 という……。

 やがて、何故か増えてくる「深夜の散歩」メンバー。
 元カノ・伊吹さん、伊吹さんの住むマンションの管理人・松江さん。
 皆、それぞれ日常に問題を抱えながら、譲れないもののため、
 歩き続ける。 いつも月夜、ではないけれど。

 


挿画に惹かれて読み始めた1冊。寺地さんの作品は好きなのです。

上2冊、少し物足りなさを感じるけれど、読後が温かくてほっとできていい小説だったなと。

 

 暗愚と疎まれた将軍の、比類なき深謀遠慮に迫る。
 口が回らず誰にも言葉が届かない、歩いた後には尿を引きずった
 跡が残り、その姿から「まいまいつぶろ(カタツムリ)と呼ばれ馬鹿
 にされた君主。

 第九代将軍・徳川家重。しかし、幕府の財政状況改善のため
 宝暦治水 工事を命じ、田沼意次を抜擢した男は、本当に暗愚だった
 のか――?

 廃嫡を噂される若君と後ろ盾のない小姓、二人の孤独な戦いが始まった。

 

 

 

 

こちらも大好きな挿画 ふたりの関係が大いに想像できる

実は私、確か直木賞候補作品だったと検索し、先に選評を読み始めたのよ。
いやあこれがいけなかった、辛口評価にすっかりじゃまされてしまったわ。
そんな読み方、反則ね。そこまで言うほどかと思ったので、選考委員のおひとり優しい
宮部さんに代弁していただく(えらそう)。

宮部みゆきさん
「ページを繰りながら何度か泣かされてしまい、「やられたぁ」と心地よく本を閉じました。
惜しまれるのは、家重が将軍になるまでの前半はぐいぐい読ませるのに、将軍になってからの
後半は急に失速し・・・

 

 大学を中退し、夜の街で客引きのバイトをしている優斗。
 ある日、バイト中にはなしかけてきた大阪弁の女は、中学時代に死んだ
 はずの同級生の名を名乗った。過去の記憶と目の前の女の話に戸惑う
 優斗はーー「違う羽の鳥」 
 調理師の職を失った恭一は家に籠もりがちで、働く妻の態度も心なしか冷たい。
 ある日、小一の息子・隼が遊びから帰ってくると、聖徳太子の描かれた
 旧一万円札を持っていた。近隣の一軒家に住む老人からもらったという。
 隼からそれを奪い、たばこを買うのに使ってしまった恭一は、
 翌日得意の澄まし汁を作って老人宅を訪れるがーー「特別縁故者」 
 先の見えない禍にのまれた人生は、思いもよらない場所に辿り着く。
 稀代のストーリーテラーによる心揺さぶる全6話。

 

 

「違う羽の鳥「ロマンス☆」「憐光(りんこう)」の前半3話を読みながら、後味の悪さに
この手の話はやっぱりだめだと思いつつ、それでも引き込まれて後半の3話を。

「特別縁故者」「祝福の歌」「さざなみドライブ」を読んで、希望が見える終わり方に
ようやく気持ちが収まる。
なかでも「特別縁故者」がいちばん印象的だったかな。

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

断筆します『九十八歳。戦いやまず日は暮れず』佐藤愛子著

2025-02-10 08:22:32 | 

佐藤愛子さんの本、自身の最後となる本エッセイ集のタイトルに
『九十八歳。戦いやまず日は暮れず』と付けたのは、借金は返済したけれど、
人生の戦いはやまず、今も日も暮れていない――。
愛子センセイが97年を生きて来た人生の実感です。愛子センセイがヘトヘトになりながら綴った、
抱腹絶倒のエッセイ全21編をぜひご堪能ください、ですって。
ん、確かに抱腹絶倒、いやそこまではいかなかったけれど、にやにや笑ったことは確か。

『九十歳。何がめでたい』がベストセラーになって。
以来いろいろなメディアからのインタビューにのこのこ出かけて行って、
三十代四十代の元気横溢していた頃と同じような毎日になったそうで。
そんなこんなで2017年は暮れ。
大晦日が近づいて来た頃には、「本が売れて何がめでたい」と呟くようになっていた。
というから、にやにやしてしまう。



とにもかくにも静かに暮らしたいー。思うことはただそれだけだった。
明けて2018年の正月をどんなふうに過ごしたか記憶は曖昧である。
日記には「アホのように1日を過ごす」とか「ただボーっとして冬枯れの庭を眺めていた」だけ
そのうち「終日ヘトヘト」という半行だけの日が。
そうかあ、そういうものか、愛子さんにしてそうか、並の私のこのぼんやりはありうるのね、
なんて、おそれ多くも愛子さんの姿を想像してわが身に照らし合わせて、安心したりして。

愛子さんのヘトヘトはレッキとした病気だった「発作性心房細動」」
そんなことの後、今度は昏倒して打撲、それだけで済んで、毎日紫色に腫れ上がった自分の顔を
見るのが無聊の日々の唯一の楽しみになった、とあるからなんともかんとも。
「それにしてもなかなか死なない人だねえ」という娘と孫の会話。ホント、私もつくづくそう思う。
ですって。なんの、愛子さん、2025年の只今101歳、元気です。

老いてからの長い歳月を前向きに過ごすにはどうすればいいか。
そのコツをというコメントを求められて、老人がべつに前向きに生きなければならない
ってことはないんじゃないの。
「もう前向きもヘッタクレもあるかいな」というセリフ。
いいわあ、好きだわあ、そういうところが愛子さん好きなのよ。
私、愛子さんのように啖呵切って威勢のいいことが言えないから、代わりに言ってくれると
すっとしたりして。上から目線で偉そうなこと言いませんものね、好きだわ。

愛子さんの理想とする老後のありようは、小春日和の縁側で猫のノミを取りながら居眠りし・・
というような日を送りつつ、死ぬ時が来るのを待つともなしに待っている、その境地。だそう。
うーん、いいねいいね。私は猫がいないからどうしようかしら。ほったらかしの庭なんぞ
眺めてうつらうつらかね。

 

そろそろ私のもの書き人生も終わりに近いな、とこの頃、しきりに思うようになった。
視力、聴力、脚力、腕力、とみに衰えて、元気なのはよくしゃべる口だけだ。
一番ひどいのは脳ミソで、グダグダに伸びてたるんで色褪せた脳細胞が目に見えるようだ。

丸めた反古原稿が部屋中に散乱している。足の踏み場もない。
書斎の惨状を見て孫がさすがに神妙に言った「おばあちゃん、もう書くのをやめれば・・・・?」
娘さんが信頼するタロット占いの名手は
「書くのをやめたらこの人は死にます」と占ったそうな。

買い物に行く娘さんについて外に出た。新しい医院に導かれるようにして入って。
身体の衰弱を話したついでに、この頃、物書き家業がつらくなってきたので毎日やめようかどうしようと
思いあぐねている、とつけ加えた。するとその医師は元気のいい声で、打てば響くように言われた。
「ダメです!書くのをやめたら死にます!」その後、縷々励ましのお言葉。

帰る道みち考えた。いかにも愛子さんらしいのよ(特に知らないけれど)
死なないために無理やり書くというのも情けない話だ。佐藤愛子は書くのをやめたら死ぬといわれて
怖気づき、白髪頭ふり立てて無理やり書いている。あいつでもやっぱり死ぬのが怖いのだ、
ということになっては雑文家佐藤愛子のホコリが許さぬ。先祖に対して申しわけが立たぬ。
と考えたそうだ。ふふふ、おかしい、つい笑ってしまう。

 (挿絵は全てネット拝借)

断筆することを宣言。

かくして私はここに筆を措きます。見渡せば部屋は床一面の反古の山。これからかき集めて、
メモ用紙を作ります。それで終わりです。

みなさん、さようなら。ご機嫌よう。ご挨拶して罷り去ります。

2021年 庭の桜散り敷く日

私、佐藤愛子さんの小説は1冊も読んでなくて、なんだか申しわけない。

 

コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「第1回 あの本、読みました?大賞」決定

2025-01-17 09:01:03 | 

この番組を観るようになってから、すっかり鈴木保奈美さんのファンになって。
気取らないさばさばした人柄、超自然体でいながら感想述べる表現力は豊かで伝わってくる。
編集者や作家さん、保奈美さんファン増えただろうな。

そこで「第1回 あの本、読みました?大賞」

2024年4月4日から11月7日の全27回の放送で深く取り上げた本、およそ70冊の中から、
番組スタッフがノミネート10作品を選定。
審査員をお願いするノミネート作出版社の編集者の方と番組にご出演頂いた書店員さん達、
そして視聴者の皆さまに投票を募り、
”明日読みたくなった本“No.1 =「あの本、読みました?大賞」を決定。
投票基準はひとつ、「番組を見て、明日読みたくなった本」だそうで。

番組スタッフが選んだノミネート10作品がこちら。

私、全部の回を観ている。この10冊の中から「明日読みたなった本」の投票するんだ。
「板上に咲く」と「スピノザの診察室」は既読だからパス。
「地図と拳」は分厚く今一つ興味が持てない
「近畿地方のある場所について」ホラーは端からパス。「百年の孤独」カタカナはパス。
「宙わたる教室」TVドラマを観てたからなあ、うーん残念。

残った4冊「カフネ」「spring」「スモールワールズ」「小鳥とリムジン」の中から、
読みたくなった本は「バレエは文字では伝えられない」と関係者に言われたという
そして構想10年の恩田陸さんの「spring」に投票しよう。(って実際にはしてないけど)

選考委員12名はお勧めしたい本3冊を投票。そうよね、当然番組観なくてもすでに
読了済みだろうから。で、結果。

 

大賞   「カフネ」阿部暁子(講談社)

第2位 「スモールワールズ」一穂ミチ(講談社)


第3位  「百年の孤独」ガブリエル・ガルシア=マルケス(新潮社)


第4位 「宙わたる教室」伊与原新(文藝春秋)


第5位 「spring」恩田陸(筑摩書房)

「spring」が5位と発表されたらTUTAYA書店員の間宮さんがひゃあーと叫んで。
「こんなもんじゃない」と軽く抗議するからおかしくて。推しだったのね。

結果観て、そうかあと。
「カフネ」リモートで作者の阿部暁子さんがインタビューに答えていたけど。
内容は覚えていないわ。
「百年の孤独」除いて選ばれた4冊、図書館にあったら借りて来よう。

 

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『黄色い家』川上未映子著 『八月の御所グラウンド』⁠万城目学著 『存在のすべてを』塩田武士著

2025-01-08 08:54:21 | 

手に取ったときから、本の分厚さと川上さんの長編、これはきっと重たい小説だろうなと
想像でき、いつもなら4冊借りるところをこれだけにした。
いやあ、なかなか読み進められない、でも途中放棄もできない。面白い内容か惹きつけられるのか
と聞かれてもそんなことはないとしか。今の社会を映し出すような内容であまりの暗さになぜか
どきどきする、
次の展開が待たれる。
なんとも不思議な感覚で2週間かかってようやく読了した。
この小説が新聞小説とは、よくぞ続いたものだなんてこと言ったら失礼だわね。
翻訳のオファーがたくさん来ているそうだ。

 

『黄色い家』川上未映子

 十七歳の夏、親もとを出て「黄色い家」に集った少女たちは、
 生きていくためにカード犯罪の
出し子というシノギに手を染める。

 危ういバランスで成り立っていた共同生活は、ある女性の
 死をきっかけに瓦解し……。人はなぜ罪を犯すのか。

 

 

 

 

 

重たい内容の本はしばらくやめだな、と思って借りに行ったら本棚で「どうぞこちらを」と。
『プリンセストヨトミ』が初読みで万城目さんの名字を「まんじょうめ」と読んだりして。
恥ずかしや。今なら正確に「まきめ」と読めますけど。
私、ファンタジーっぽいというかワープするような小説は好きじゃなくて、恐る恐る手に取った
けど、これが面白かった。で、躊躇なく、

 

 

八月の御所グラウンド』⁠万城目学
表題作と「十二月の都大路上下ル」の二篇。

女子全国高校駅伝――都大路にピンチランナーとして挑む、
絶望的に方向音痴な女子高校生。
謎の草野球大会――借金のカタに、早朝の御所G(グラウンド)で
たまひで杯に参加する羽目になった大学生。
京都で起きる、幻のような出会いが生んだドラマとは--
死んだはずの名投手とのプレーボール
戦争に断ち切られた青春
京都が生んだ、やさしい奇跡

 

直木賞の選考委員からは、
「日常の中に非日常がふわっと入り込んでくる絶妙さとバランスのよさがすばらしい」
と高く評価されたそうな。

読み終われば、じわじわと温かい気持ちで満たされ、うーんと唸りたくなる。
これがファンが言うところの「万城目ワールド」ってやつか、なんて。私も引き込まれそうだ。
万城目さんご自身は「リアルが9で空想1」で書いてるとおっしゃっているけどね。

「なあ、朽木。俺たち、ちゃんと生きてるか?」

京都五山の送り火を眺めながら、静かに問いかけた多聞のこの言葉、こんなこと聞かれたら
なんて返事すればいいんだ。目を白黒させるだけだ。


次に、本屋大賞3位のこちらが手招きしていたから

 

 平成3年に神奈川県下で発生した「二児同時誘拐事件」から30年。
 当時警察担当だった大日新聞記者の門田は、令和3年の旧知の刑事の死を
 きっかけに、
誘拐事件の被害男児の「今」を知る。
 彼は気鋭の画家・如月脩として脚光を浴びていたが、
本事件最大の謎である
「空白の三年」については固く口を閉ざしていた。

 異様な展開を辿った事件の真実を求め、地を這うような取材を重ねた結果、
 ある写実画家の存在に行き当たるが――。
 「週刊朝日」最後の連載にして、『罪の声』に並び立つ新たなる代表作。

 

単純にミステリーとして読んでいっても展開が予想もつかずページをめくる手が早くなるが、
家族、芸術、それらが一体となって複雑に絡み合うこの小説も味わい深くとても面白かった。
結末に一筋の明るさが見えるところがまた読後の心地よさに浸ることができて、
そう初お目見えの作家さんだけど、他の本も読んでみたくなったわ。
それにしても、挿画の何とも素敵なこと、いいわあ惹かれる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

食いしん坊エッセイ傑作選『メロンと寸劇』向田邦子著

2024-11-21 08:58:41 | 

あれっ?向田さん、こんな本書いていたっけ?と。
食エッセイだったのね。食いしん坊エッセイ傑作選とある。
食べものと、それにまつわる人間を見事に描いた珠玉作品を厳選収録か。

向田さんのエッセイにたびたび出てくるお父さんのエピソード。
お父さんは、家庭的に恵まれず、高等小学校卒の学歴で、苦労しながら保険会社の
給仕に入り、年若くして支店長になった方。
それだけに家族の中で特別扱いされないと機嫌が悪くなる。

「昔カレー」の中でもその性格はいかんなく発揮されている。

お父さんには別ごしらえの辛いカレー、コップの水、金線の入っている大ぶりの
西洋皿。
今から考えると、よく毎晩文句のタネがつづいたものだと感心してしまうのだが、
夕食は女房子供への訓戒の場であった。

そんな夕食だから昔ながらのうどん粉とカレー粉で作ったカレーは、
お母さんが給仕の世話をしていると、お母さんの前のカレーが冷えて皮膜を
かぶりしわが寄る。向田さんはそれが悲しかった。

父が怒りだすと、匙が皿に当たって音をたてないように注意しいしい食べていた。
という光景が目の前にありありと浮かんでくる。

カレーをご馳走だと思い込んでいた。
しかも、私の場合カレーの匂いには必ず、父の怒声と、おびえながら食べたうす暗い
茶の間の記憶がダブって、一家だんらんの楽しさなど、かけらも思い出さないのに。

思い出というものはなかなかに厄介なものだ。

「父の詫び状」
今までも何回も読んでいる、そして何度読んでもやはり心の機微に胸を打たれる。

お父さんは仕事柄代理店や外交員の人たちをもてなす。家に連れてきてもてなす。
ある朝、お母さんが玄関のガラス戸を開け放して、敷居に湯をかけている。
酔いつぶれて明け方帰って行った客が粗相した吐瀉物が、敷居のところにいっぱい凍り
ついているその始末をしていた。見かねた向田さんが、
「あたしがするから」と敷居の細かいところにいっぱいつまったものを
爪楊枝で掘り出し始めた。家族はこんなことまでしなくてはいけないのかと思いながらね。

気がついたら、すぐうしろの上がりかまちのところに父が立っていた。
寝巻に新聞を持ち、素足で立って私が手を動かすのを見ている。「悪いな」「すまないね」
労いの言葉なし。黙って、素足のまま、私が終わるまで吹きさらしの玄関に立っていた。

三四日して東京へ帰る日、小遣いの額はそのまま。
仙台駅まで送ってきたお父さんにねぎらいの言葉はなかった。

東京に帰ったら、父の手紙が来ていると祖母が言う。
巻紙に筆で、いつもより改まった文面で、しっかり勉強するように書いてあった。
終わりの方に、「此の度は格別の御働き」という一行があり、そこだけ朱筆で
傍線が引かれてあった。
それが父の詫び状であった。

なんというかほんとうにしみじみするわけよ。
向田父娘の表に出さない感情のやり取りが伝わってきて切なくなる。
自分のように、短絡的にしか相手の気持ちを読み取れないものにはとてもできない。
なんて比べるのもおこがましいわね。

他にも、そんなこんなのいろいろなエピソードがあって、昭和の情景が鮮やかに
浮かんでくる。本当に久しぶりに読んだ向田作品、一気に向田さんの世界に
連れて行ってもらった気がする。

舌の記憶(昔カレー、昆布石鹸 ほか)
食べる人(拾う人、いちじく ほか)
鮮やかなシーン(父の詫び状、ごはん ほか)
到来物・土地の味(メロン、寸劇 ほか)
シナリオ 寺内貫太郎一家2より 第三回

 

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする