NHK 『母と息子 3000日の介護』 相田洋(ゆたか)
相田さんは元NHKのディレクターだった。退職後、思いもかけず認知症の症状が進んだ母上と同居する羽目になり介護生活へと。相田さんは、撮影することでひとつはうっぷんばらし、結構ストレス解消になると。そして、報道に携わったものとして同時代を記録しておこうと思って撮影をしたとおっしゃる。
それ故か、観ていて極力感傷を排して客観的な目で記録していることをずいぶんとそここで感じた。
(以下、私の心に残ったお二人の会話。何回かリピートしながら記録したけれど私の能力は限界。
だいたいこんなな感じです、で、許してくださいませ。このVTRを専門家の方たちも一緒に観ていて、
そちらの方たちのアドバイスもすごく参考になったけれど、今回はパスします)

介護生活のいつの時期かは分からないが、母上と相田さんご夫妻。テレビを観ながら食事をしている。
食卓の上にはワインとたくさんの料理のお皿。賑やかな食卓。
テレビは音楽からクローズアップ現代と分かる。
お母さんの大便騒動で日々奮闘する相田さん。
いくら「愛する母でもいい加減にしてほしい」と。
そこで認知症のお母さんとワインでいい加減酔っぱらっている息子相田さんの会話。
「いまごろ海賊が出てるんだね」
海賊が、お前連れてっちゃうよ。(母上、手でノーノー、腕でばってん)
俺もう海賊に連れてって欲しいわ。
誰もご飯食べさせてくれないんだから。誰もお尻の世話なんかしてくれないぜ。
痛いとこのこぎりで切っちゃうんだぜ。腰が痛いのあっちが痛いの言ったら海賊に連れて行ってもらうわ。
俺さ、これから海賊に電話するわ。海賊に連れに来てもらうわ。(奥様 )ソマリアからね。
相田さんに海賊が連れに来たら、相田さんソマリヤにご出発。ばんざい!ばんざい!
俺はうんちの世話をしなくて済む。
「ほんと?」腕でばってんをかく。
「そんなのあんただけだ、誰も喜ばない」
俺は喜ぶんだ!
ワインですっかり出来上がっている相田さん、陽気に大声で言いたい放題でご機嫌だ。
対する母上の表情も実に豊かで、嫌そうな顔をしたりにこっとしたり。手の動きもお気持ちそのままを表している。
『ワインを飲んでこれだけ好きなことを言って陽気な介護ですよ』
VTRのこの場面を観ていた在宅介護医師の言葉。
認知症関係高齢者介護関係のテレビを観ると、何とも切なく憂鬱になってきて布団にもぐってもなかなか眠れない番組が多い中、数週間前に観たこの番組は、むしろほのぼのと温かい気持ちにさせてくれて何度も見返している。

先の場面よりもっと前。母上、大便のおもらしをする。その時の言葉。
「うそ、ほんと、私がしたの?」「だけどなんにも覚えてないよ」
「もう人間廃業と同じだわ」「仕方ないもんね、いいも悪いもどうにもならないから どうもありがと」
「頭ん中がどうなってるのかね、ほんとね、情けないよ」
「涙も出ないわ。前はちょっと悲しいとすぐ涙が出たけど、この頃はもう涙も出なくなったよ。」
今日は楽しそうにしてたよ、と洋さん。
「あ、そう、事実きっと楽しかったんでしょ」
「仕方ないね、人は悲しいより楽しいほうがいいから。もうそれはしょうがないわ」
2005年同居生活を始める。と、母上は軽口を言うようになったそうで。
そんなに食べないんじゃお迎えに来るよ。
「もうそこまで来ているよ。にこにこ笑いながら。」
「行かないよ」
(あの世だよ。おじいちゃんが迎えに来るよ、が朝の儀式になっている。おばあちゃんが活性化するそう。)
母上は相田さんに対する気持ちや感謝の言葉を何度も素直に口に出しいている。
「あんたなんかに申し訳ないと思ってさ。心配かけたり、世話かけたり」
「ゆたかさんのそばがいい」 俺は迷惑だ。
夕べははおじいちゃんのところへ行かなかったの?
「もう少し子供が大きくなるまで」 大きくなるまでって、おれ74だよ。おじいちゃんが待ちかねているよ。
「うそだよ、おじいちゃんは口うるさいから、ゆっくり来いって」
2008年 大便のおもらし
紙パンツに手を突っ込んで自分の便を手づかみ。ゆたかさん半狂乱、怒りまくる。
「いつしたんだろう、ごめんね」
後始末をしているうちに訪問入浴。お風呂の中で♪アリランを歌っている母上。
相田さん、月1回なら我慢できるけど、毎週じゃ俺もう限界だわ、と言いつつ、お疲れ様でした、と母上に。
「そちらこそご苦労様でした」。
2010年食べられなくなる、緊急入院。
結局病院のベッドに縮こまって寝ている母。おふくろにとっては自分の城でここで息を引き取りたい、それに応えてあげたいと同居を始めたのに。
「俺は最後の最後に親不孝しちゃったよ」は重い言葉だ。
そして、
「母が、人間はこうやって死んでいくんだということを全部見せてくれた。衰えて、記憶も定かでない、立てない。食べられなくなりそうやってこの世を去っていく」ことが母の最大のプレゼントだと。
私も両親の老いていく様を見ているからよく分かる、ような気がする。
そしてたくさん撮った中から忘れられないカットとして、
このところ毎日寝てばかりだね。
「そうかね」
いくつになった?
「もう年だから、80?90?」
96
「あ、そう。それじゃあもう寝るよね。96、もう100だね、へえ~おかげさんで長生きしたね」
『陽気な介護』なんてないと思うけれど、陽気な場面や陽気な介護の時期はあると思う。
長くなったけれど、私的記録。