曇り、21度、82%
年末ともなると雑巾を絞る回数が増えます。雑巾を絞りながらいろんなことを思い出します。どんな寒い冬でも学校の掃除を真面目にする級友は、雑巾が真っ白になるまで洗って干しました。他の誰も真似ができません。雑巾がけはサボりたいことの筆頭です。その級友の雑巾を洗うときの横顔が、曖昧な掃除しかしなかった当時の自分を恥ずかしく思いながら忘れられません。
父は自分の車を自分で洗いました。車が好きな父でした。ガソリンスタンの洗車機ができる前の話です。今のような車用の洗剤もワックスすら使わずに洗います。バケツ1杯の水とお雑巾数枚。拭き上げ用の大きなヤギの革。それだけが掃除道具です。
まだ昭和の30年代は舗装道路が完備されていませんでした。雨の日は泥水を跳ね上げます。幾度もお雑巾を絞りながら車を拭き上げていく父を見ていました。決して手伝いなさいとは言いませんが、「車を洗うからついておいで。」と声をかけてくれました。じっと見てるより、手伝った方が体が温かくなったでしょうのにじっと立ったまま見ていました。「真奈さん、初めはね、水は冷たいけどそのうち手の中から暖かくなるんだよ。」と父は言います。でも、バケツに手をつけた途端の冷たさでもう嫌気がさしてしまします。
父のこの「手の中から暖かくなる」という言葉を実感したのは、結婚して止むを得ず自分が掃除をしなくてはならなくなってからでした。ジンジンと指先から暖かくなります。お雑巾を使い終わってしっかりと手の水気を取っていると、その暖かさはしばらく続きます。まるで、寒いのによく掃除しましたねとご褒美をもらったようです。
最近では本当によく汚れを取る化学ふきんが出ています。昔と今では汚れの質が違います。昔の台所は今に比べて油汚れが少なかったはずです。携帯の手垢が化学ふきんでスッキリと落ちると胸も清々します。でも拭き掃除はやっぱりお雑巾です。水で縛ったお雑巾でこまめな掃除をしていれば、化学洗剤なんてほとんど必要ありません。水の力ってすごいなあと感心します。
絞ったお雑巾を見ると義母の言葉が耳に聞こえます。結婚してまもなくのことでした。義母が私の絞ったお雑巾を見て一言、「これくらい硬くお雑巾を絞る人は、性格が強いのよ。」この義母の言葉も40年近くなった今、本当にそうだわと頷きます。
お雑巾がけが好きです。旧友のこと、父のこと、義母のこと、年末お雑巾を使いながら思います。この3人を思いながら、励まされるように掃除をします。