帰り道。太陽は沈みかけ、夕日が街を朱に染めている。少し遅めの帰路についている2人も、同じく朱に染まっている。
「今日はホントにありがとう」
いきなり礼を言う将太に、タイチは、
「礼ならさっき聞いたぞ。それよりお前、聞きたい事があるんじゃないか?」
彼の心中を察しつつも、相変わらず抑揚のない声で言う。
「う、うん……。あのさあ……。
ほんとに、《ブラッドライカー》とは、何もなかったの?」
「あぁ」
「うそだ……。だって、タイチがトイレを出てから、僕が先生を呼んで屋上に駆けつけるまで、5分はあったよ?」
「ふん。また余計な心配しやがって。そういうのをネガティブって言うんだよ」
将太は思わず、足元に視線を落とした。
「……まぁ、フツウに考えりゃあ、その5分間、《ブラッドライカー》と接触してたと思うわなぁ」
瞬間、将太はパッと顔を上げて、
「え? 違うの?!」
その顔には、!マークと?マークが踊っている。
その、あまりに分かりやすいリアクションに、
(コイツ、将来役者になれるんじゃ……?)
なんて思いながら、タイチは続ける。
「確かに、お前と先生が屋上に来る約5分前にトイレを出たが、そのまま屋上に直行したなんて誰も言ってないだろ?」
「え? ど、どういうこと?」
将太には、何がなんだか分からない。
再び、!マークと?マークのダンスパーティーを始める彼の顔は無視して、
「実はあの後、屋上へ続く階段まで行って、そこでしばらく作戦を考えてたんだ。で、さっき先生にも話したように、オレはターゲットじゃないし、あの紙切れも拾った事にすれば大丈夫かな、と思って飛び出したんだ。そこでお前と先生が来て、一件落着ってワケ」
タイチは得意げに言った。
しばらくの沈黙のあと、ようやく、理解したという顔で将太が、
「……やっぱ、頭いいんだね、タイチは。
前から、勇気あるし、冷静だとは思ってたけど、頭までいいなんて羨ましすぎるよぉ!」
ホメ殺しだ。
しかしタイチは、
「いんや。オレは、先生を呼ぶっていう安全策があったのに、思いつきで1人で行ったんだから、冷静じゃないし、勇気があるというよりは、むしろ無謀だ。
頭のいいヤツは無茶なんかしないさ」
冷たく否定する。
(せっかく、褒めちぎってやったのに白(しら)けさせるさせるなよ~!)
と、将太は心の中でツッコんでから、
「……タイチはやっぱり、空気読めないよねぇ」
しみじみと肩を落としたのだった。
将太は知らない。……いや、タイチ以外に知る者は居ない。
彼――長谷川タイチが嘘をついている事を。
<第1話「嘘の少年」 完>
「今日はホントにありがとう」
いきなり礼を言う将太に、タイチは、
「礼ならさっき聞いたぞ。それよりお前、聞きたい事があるんじゃないか?」
彼の心中を察しつつも、相変わらず抑揚のない声で言う。
「う、うん……。あのさあ……。
ほんとに、《ブラッドライカー》とは、何もなかったの?」
「あぁ」
「うそだ……。だって、タイチがトイレを出てから、僕が先生を呼んで屋上に駆けつけるまで、5分はあったよ?」
「ふん。また余計な心配しやがって。そういうのをネガティブって言うんだよ」
将太は思わず、足元に視線を落とした。
「……まぁ、フツウに考えりゃあ、その5分間、《ブラッドライカー》と接触してたと思うわなぁ」
瞬間、将太はパッと顔を上げて、
「え? 違うの?!」
その顔には、!マークと?マークが踊っている。
その、あまりに分かりやすいリアクションに、
(コイツ、将来役者になれるんじゃ……?)
なんて思いながら、タイチは続ける。
「確かに、お前と先生が屋上に来る約5分前にトイレを出たが、そのまま屋上に直行したなんて誰も言ってないだろ?」
「え? ど、どういうこと?」
将太には、何がなんだか分からない。
再び、!マークと?マークのダンスパーティーを始める彼の顔は無視して、
「実はあの後、屋上へ続く階段まで行って、そこでしばらく作戦を考えてたんだ。で、さっき先生にも話したように、オレはターゲットじゃないし、あの紙切れも拾った事にすれば大丈夫かな、と思って飛び出したんだ。そこでお前と先生が来て、一件落着ってワケ」
タイチは得意げに言った。
しばらくの沈黙のあと、ようやく、理解したという顔で将太が、
「……やっぱ、頭いいんだね、タイチは。
前から、勇気あるし、冷静だとは思ってたけど、頭までいいなんて羨ましすぎるよぉ!」
ホメ殺しだ。
しかしタイチは、
「いんや。オレは、先生を呼ぶっていう安全策があったのに、思いつきで1人で行ったんだから、冷静じゃないし、勇気があるというよりは、むしろ無謀だ。
頭のいいヤツは無茶なんかしないさ」
冷たく否定する。
(せっかく、褒めちぎってやったのに白(しら)けさせるさせるなよ~!)
と、将太は心の中でツッコんでから、
「……タイチはやっぱり、空気読めないよねぇ」
しみじみと肩を落としたのだった。
将太は知らない。……いや、タイチ以外に知る者は居ない。
彼――長谷川タイチが嘘をついている事を。
<第1話「嘘の少年」 完>
ボクの織り成す
なんだか“サンタがやってきた”感じの駄文小説
「アルバイトがやってきた」
の記念すべき(しなくて結構)第1話「嘘の少年」
が、ようやく完結致しました。
別に、文章が長いわけではなく内容が濃いわけでもなく……
ただ単に、作者のタイピング速度と頭の回転が遅かっただけ……
作品自体はもう何ヵ月も前にほぼ完成していたにもかかわらず、掲載が遅れに遅れたことを、お詫び申し上げます。
また、
第1話完結に伴い、1話まるごとまとめて投稿……したかったのですが、
一度の投稿では1万字が限度、ということで、やむなく、「前編」と「後編」に別けさせて頂きました。
ご了承下さい。
それでは、主人公タイチのちょっと不思議な冒険をお楽しみ下さいm(__)m