最近気になることのひとつに、頭のフケがある。
少し前に長かった髪をばっさり短髪にしたのだが、授業中ふとかゆみを感じて頭をかくと、ぱらぱらと白いかさぶたのような粉が落ちてきた。
少し驚いたものの、僕は板書する手を休めるあいだに、左手で神経質にフケを落とし、消しゴムのかすのように集めて机から落とした。
しかしいくら落としてもキリがなく、そのうち怖くなってフケ落としをやめた。
そしてなぜフケがこんなに出るのかと考える。
一日風呂に入らなかったのなら仕方のないことかもしれないが、しかし昨夜はきちんと髪を洗っていたのだった。
僕は、シャンプーがまだ頭に残っていて、しかも冬で空気が乾燥しているせいだと結論づけた。
ちゃんと洗ったのだから、汚いことはないだろう。今度からはきちんとシャンプーを洗い流そうと思った。
学校が終わり、恥ずかしかったが彼女にそのことを話してみた。
「シャンプーが髪質に合っていなくて、頭皮にダメージを与えているのかもしれないわね」
彼女は的確な意見をくれた。やはりこういうことは女の子に聞くべきだなと思った。
「あんまりひどいとハゲてしまうかもしれないわ。今から新しいシャンプーを買いに行きましょう」
彼女の手に引かれて近くのドラッグストアにむかった。
僕はまったくそういうことには詳しくないので、彼女がうーんとうなりながらシャンプーの棚を眺めているあいだ、彼女の髪の毛を眺めているだけだった。さらさらして艶があり、いい匂いがした。
「はい、これ」
彼女が、選んだシャンプーを渡してくれる。リンスもあった。僕はそれをすぐにレジに持っていった。
「明日、楽しみにしてるわ」
彼女は別れ際にそう言った。明日は週末デートの日だった。
その夜、僕は買ったばかりのシャンプーを使い入念に頭を洗った。
布団に入りふかふかの枕に頭をしずめると、ほのかにシャンプーのいい匂いがして気持ち良かった。彼女の髪の毛と同じ匂いだと気づいて嬉しくなり、満ち足りた気分ですんなり眠りに落ち着いた。
翌日、少し早めに起きて、髪型に気をつかったり歯磨きにいつもの2倍の時間をかけたりした。髪の毛はこころなしか艶があり、ふんわりとやわらかかった。
身なりを整えて、彼女の家に行く。空は青く晴れており、絶好のデート日和だった。
歩いて数分のところにその家はある。とっくに見慣れているが、相変わらずきれいに掃除されていてまるで新築のようだ。
インターホンを押すと、応答もなく彼女が玄関から現れた。いつもと同じく時間ぴったりだから、応答して確認する必要はないのだった。
「どこに行こうか」
僕たちのデートは計画性がなく行き当たりばったりだった。その日の気分次第なのだ。
「そうね……今日はあったかいから、久しぶりに海に行きましょう」
よく晴れた空の太陽にも負けない笑顔で、彼女は言った。最近はくもりの日が多かったので、気分屋な彼女の満面の笑みを見たのは久々だった。
彼女の家は海岸沿いにある。だから海はすぐそこだ。彼女は僕の手を引いて砂浜を目指した。
「きれーぃ!」
海面が太陽の光を反射し、きらきらと輝いていた。
「海の匂いがするね」
彼女が一転、うっとりとした感じで言った。
そうだね、と答える僕。
「シャンプーの匂いもする。ちゃんと使ってくれたのね」
うん、と僕は答えた。
少し恥ずかしくなって、ボクは波にむかって走った。顔を見られたくなかったのだ。
彼女が僕の顔を見ようと、海に少しつかりながら正面に来た。それを阻止すべく、そっぽを向く。
断っておくけど、この地域は気候が温暖で、冬でもそんなに海水が冷たくないのだ。
僕がしばらくそっぽを向いていると、
「こっち向いてよっ」
少し怒ったような口調で彼女が言った。
おずおずと、彼女のほうを振り向く。そのとき。
バシャアッ。
僕はとっさに目を閉じ、顔が水に濡れるのを感じた。
怒った彼女が水しぶきを浴びせてきたのだとわかった。
呆然として彼女の顔を見る。
彼女もなにか呆けたようにこっちを見ていた。
そのまましばらく、無言。
ど、どうしたの、と僕。
「…………ハゲ」
彼女はそう言って、砂浜に戻っていった。そのまま家のほうへ歩いていく。
僕は、なにがなんだかわからず、とにかく砂浜に腰をおろして太陽の光を浴びて濡れた髪をかわかした。
と、メールの着信音が鳴る。
彼女からだった。
『濡れたあなたの頭、ぺったんこで、モト冬樹みたいだわ。
もう会いたくない』
……僕は思わず、自分の頭をさわった。
べちゃんこで寂しかった。心も。
少し前に長かった髪をばっさり短髪にしたのだが、授業中ふとかゆみを感じて頭をかくと、ぱらぱらと白いかさぶたのような粉が落ちてきた。
少し驚いたものの、僕は板書する手を休めるあいだに、左手で神経質にフケを落とし、消しゴムのかすのように集めて机から落とした。
しかしいくら落としてもキリがなく、そのうち怖くなってフケ落としをやめた。
そしてなぜフケがこんなに出るのかと考える。
一日風呂に入らなかったのなら仕方のないことかもしれないが、しかし昨夜はきちんと髪を洗っていたのだった。
僕は、シャンプーがまだ頭に残っていて、しかも冬で空気が乾燥しているせいだと結論づけた。
ちゃんと洗ったのだから、汚いことはないだろう。今度からはきちんとシャンプーを洗い流そうと思った。
学校が終わり、恥ずかしかったが彼女にそのことを話してみた。
「シャンプーが髪質に合っていなくて、頭皮にダメージを与えているのかもしれないわね」
彼女は的確な意見をくれた。やはりこういうことは女の子に聞くべきだなと思った。
「あんまりひどいとハゲてしまうかもしれないわ。今から新しいシャンプーを買いに行きましょう」
彼女の手に引かれて近くのドラッグストアにむかった。
僕はまったくそういうことには詳しくないので、彼女がうーんとうなりながらシャンプーの棚を眺めているあいだ、彼女の髪の毛を眺めているだけだった。さらさらして艶があり、いい匂いがした。
「はい、これ」
彼女が、選んだシャンプーを渡してくれる。リンスもあった。僕はそれをすぐにレジに持っていった。
「明日、楽しみにしてるわ」
彼女は別れ際にそう言った。明日は週末デートの日だった。
その夜、僕は買ったばかりのシャンプーを使い入念に頭を洗った。
布団に入りふかふかの枕に頭をしずめると、ほのかにシャンプーのいい匂いがして気持ち良かった。彼女の髪の毛と同じ匂いだと気づいて嬉しくなり、満ち足りた気分ですんなり眠りに落ち着いた。
翌日、少し早めに起きて、髪型に気をつかったり歯磨きにいつもの2倍の時間をかけたりした。髪の毛はこころなしか艶があり、ふんわりとやわらかかった。
身なりを整えて、彼女の家に行く。空は青く晴れており、絶好のデート日和だった。
歩いて数分のところにその家はある。とっくに見慣れているが、相変わらずきれいに掃除されていてまるで新築のようだ。
インターホンを押すと、応答もなく彼女が玄関から現れた。いつもと同じく時間ぴったりだから、応答して確認する必要はないのだった。
「どこに行こうか」
僕たちのデートは計画性がなく行き当たりばったりだった。その日の気分次第なのだ。
「そうね……今日はあったかいから、久しぶりに海に行きましょう」
よく晴れた空の太陽にも負けない笑顔で、彼女は言った。最近はくもりの日が多かったので、気分屋な彼女の満面の笑みを見たのは久々だった。
彼女の家は海岸沿いにある。だから海はすぐそこだ。彼女は僕の手を引いて砂浜を目指した。
「きれーぃ!」
海面が太陽の光を反射し、きらきらと輝いていた。
「海の匂いがするね」
彼女が一転、うっとりとした感じで言った。
そうだね、と答える僕。
「シャンプーの匂いもする。ちゃんと使ってくれたのね」
うん、と僕は答えた。
少し恥ずかしくなって、ボクは波にむかって走った。顔を見られたくなかったのだ。
彼女が僕の顔を見ようと、海に少しつかりながら正面に来た。それを阻止すべく、そっぽを向く。
断っておくけど、この地域は気候が温暖で、冬でもそんなに海水が冷たくないのだ。
僕がしばらくそっぽを向いていると、
「こっち向いてよっ」
少し怒ったような口調で彼女が言った。
おずおずと、彼女のほうを振り向く。そのとき。
バシャアッ。
僕はとっさに目を閉じ、顔が水に濡れるのを感じた。
怒った彼女が水しぶきを浴びせてきたのだとわかった。
呆然として彼女の顔を見る。
彼女もなにか呆けたようにこっちを見ていた。
そのまましばらく、無言。
ど、どうしたの、と僕。
「…………ハゲ」
彼女はそう言って、砂浜に戻っていった。そのまま家のほうへ歩いていく。
僕は、なにがなんだかわからず、とにかく砂浜に腰をおろして太陽の光を浴びて濡れた髪をかわかした。
と、メールの着信音が鳴る。
彼女からだった。
『濡れたあなたの頭、ぺったんこで、モト冬樹みたいだわ。
もう会いたくない』
……僕は思わず、自分の頭をさわった。
べちゃんこで寂しかった。心も。
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