僕が今こうして筆を取っているのは他でもありません、貴女に伝えたいことがあるからです。
本来、このようなことは直接、面と向かってお話しすべきなのでしょうけれど、僕にはそうする勇気が湧かないのです。
口で言えばほんの一言で済む用事を、手紙といういささか面倒な形にしてしまうご無礼、どうかお許し下さい。
前置きが長くなりましたね、すみません。
僕はもう随分と前から、貴女のことを強く想っていました。強く、強く。
貴女はいつも、その屈託のない素直な心で僕に接してくれましたね。
貴女の心に接するうち、いつしか僕も、普段決して見せることのない素直な心を貴女に見せるようになっていきました。それはさながら、貴女のけがれなき心に僕の汚れきった醜い心が浄化されていくようでした。
覚えていますか。
貴女が頻繁に話しかけてくるようになった頃、僕はこう言いましたよね。
僕に関わるのはやめておいたほうがいい、人生を壊すことになる、逃げろ──と。
そう何度も脅しました。
けれど貴女は一度だって引き下がることなく、頑なにこう言ってくれましたね。
そんなことやってみなくちゃわからないじゃない! 私は、あなたと仲良くなりたいの──と。
貴女は気づいていなかったでしょうけれど、そう言われるたびに、僕は泣きそうになりました。
それまでの僕は、誰とも親しく付き合えない、淋しい人間でした。
幼いころから他人との相違を自分の中に強く感じていました。僕は他人と気軽に付き合えるような、普通の人間ではないのです。それがわかっていた僕は、いつしか他人との接触を避けるような、孤独の生活をするようになっていました。
また、他人から見ても僕は異様な存在だったようです。あるいは僕の体からは他人の嫌がる臭いが、絶えず発散されているのかもしれません。
僕に話しかけてくるような人間は、学校の先生以外にはほとんどありませんでした。
学校の先生にしても、キミは暗すぎるからもっとクラスの雰囲気に合わせて明るく振る舞いなさいとか、掃除当番を一人で全部やるのはやめて他のクラスメイトと協力しなさいとか、そういう注意をしてくれるだけでした。僕はそのたびに心の中で謝罪し、自分の暗い性格を悪だと罵り戒めました。
先生たちが僕のためにそういう注意をしてくれているのは分かっていました。しかし心の歪んだ悪い僕は、先生をうるさい存在だとしか思っていませんでした。
……いいえ、こんなことは書かなくても、貴女はじゅうぶんに僕を理解していますよね。無駄話でした。話を戻します。
そのように、僕は孤独というか排他的な人間でした。誰も愛さない代わりに、誰にも愛されない人間だったのです。
そう、誰も僕のことなど愛してはくれませんでした。家族は早くに亡くなっていましたから、本当に誰にも愛されずに僕は育ったのです。
ずっと、人間とはただ動いているだけの人形なのだ、と思っていました。みんな楽しそうに笑っているけれど、本当は心などないのだと考えていました。みんな本当は自分と同じように冷たい心を持っているだけなのだと思っていました。
しかしそうではないということを僕に教えてくれる人が現れました。
貴女です。
誰も、僕には近寄りさえしなかったのに、貴女は何のためらいもなく、僕の前に唐突に姿を現わしました。
不思議でした。
何の臆面もなく、ごくごく自然なふうに、貴女は現れたのです。
それまでそんな経験は皆無でした。先生たちでさえ、僕に近づくときはぎこちない態度だったのです。
正直に言ってしまうと、貴女のこと、最初は人間じゃないんだと感じていました。
その理由は僕自身にもよく分からないのだけれど、なぜかしらそう感じてしまったのです。
その感覚がただの気のせいだと思うほど、貴女は実に人間らしい人間でした。いいえ。人間のことをよく知らない僕がそんなことを言うのは変ですよね。言い換えましょう。
貴女は実にいろいろなことを考えて生きていました。空気のこと、空のこと、風のこと、木や緑のこと、そして人間のこと。
僕はただ自分のことしか考えずにただ生きていたのです。だから自分以外のことを楽しそうに笑って話す貴女に、僕は驚きました。
でも一番驚いたのは、やはりあの時でしょう。
貴女は言いました。
私、あなたの考えてること、なんとなくわかるの。だってツインズだもん──。
正直な話、何を言ってるんだこのコは……、と思いました。しかし心のどこか奥のほうが、じんわりと温かくなるのを感じました。
僕にとって、貴女はいつも不思議な存在でした。
なぜ貴女は僕の前に現れたのでしょう。
なぜ僕は貴女を受け入れたのでしょう。
なぜ貴女は僕を理解しているのでしょう。
なぜ僕は貴女を理解しているのでしょう。
僕は貴女の言ったツインズという言葉が忘れられません。
ツインズ……双子。魂を同じくする者。
現実主義者の僕が、なぜそのような夢のようなものの存在を、心から認めてしまったのでしょうか。
不思議です。本当に。
僕はずっと一人でした。誰にも頼らずに生きていたといえば嘘になるでしょうけれど、誰かと心を通わせることは一度たりともなかったと記憶しています。
僕は誰とも会っていないようなものなのです。出会ったと言えるほど親しい人間はいなかったのですから。
だから、きっと貴女は、僕の出会った初めての人間なのです。僕はいまになってようやく、この広いだけの世界で人間に会うことができたのです。
貴女は言いました。
ずっとずっと、私は独りで淋しかった。やっとあなたに巡り逢えた──。
僕も同じ気持ちでした。
もしも神様がいて僕と貴女を巡り逢わせてくださったのだとしたら、僕は一生感謝しつづけることになるでしょう。
えぇ、本当に。
さて。前フリが長くなってしまいました。僕の悪いくせです。
伝えたいことというのは、何も初めて言うことではありません。何度も何度も、言いました。
でも全然言い足りないのです。
いいえ、すでに口癖のようになって重みをなくしてしまっているのです。
口で言う勇気が湧かないなんて嘘です。
ただ、この言葉が元の新鮮さを取り戻せるように、こうして紙に書こうというだけのことなのです。
貴女は言いました。
お願い、私を嫌いにならないで──。
大丈夫。
僕はきみを嫌いになんかならない。
なぜなら僕は、きみを愛してしまったのだから……。
愛しています。
いつまでも。
生まれてよかった。
生きていてよかった。
きみと出会えてほんとによかった。
ありがとう……。
END
本来、このようなことは直接、面と向かってお話しすべきなのでしょうけれど、僕にはそうする勇気が湧かないのです。
口で言えばほんの一言で済む用事を、手紙といういささか面倒な形にしてしまうご無礼、どうかお許し下さい。
前置きが長くなりましたね、すみません。
僕はもう随分と前から、貴女のことを強く想っていました。強く、強く。
貴女はいつも、その屈託のない素直な心で僕に接してくれましたね。
貴女の心に接するうち、いつしか僕も、普段決して見せることのない素直な心を貴女に見せるようになっていきました。それはさながら、貴女のけがれなき心に僕の汚れきった醜い心が浄化されていくようでした。
覚えていますか。
貴女が頻繁に話しかけてくるようになった頃、僕はこう言いましたよね。
僕に関わるのはやめておいたほうがいい、人生を壊すことになる、逃げろ──と。
そう何度も脅しました。
けれど貴女は一度だって引き下がることなく、頑なにこう言ってくれましたね。
そんなことやってみなくちゃわからないじゃない! 私は、あなたと仲良くなりたいの──と。
貴女は気づいていなかったでしょうけれど、そう言われるたびに、僕は泣きそうになりました。
それまでの僕は、誰とも親しく付き合えない、淋しい人間でした。
幼いころから他人との相違を自分の中に強く感じていました。僕は他人と気軽に付き合えるような、普通の人間ではないのです。それがわかっていた僕は、いつしか他人との接触を避けるような、孤独の生活をするようになっていました。
また、他人から見ても僕は異様な存在だったようです。あるいは僕の体からは他人の嫌がる臭いが、絶えず発散されているのかもしれません。
僕に話しかけてくるような人間は、学校の先生以外にはほとんどありませんでした。
学校の先生にしても、キミは暗すぎるからもっとクラスの雰囲気に合わせて明るく振る舞いなさいとか、掃除当番を一人で全部やるのはやめて他のクラスメイトと協力しなさいとか、そういう注意をしてくれるだけでした。僕はそのたびに心の中で謝罪し、自分の暗い性格を悪だと罵り戒めました。
先生たちが僕のためにそういう注意をしてくれているのは分かっていました。しかし心の歪んだ悪い僕は、先生をうるさい存在だとしか思っていませんでした。
……いいえ、こんなことは書かなくても、貴女はじゅうぶんに僕を理解していますよね。無駄話でした。話を戻します。
そのように、僕は孤独というか排他的な人間でした。誰も愛さない代わりに、誰にも愛されない人間だったのです。
そう、誰も僕のことなど愛してはくれませんでした。家族は早くに亡くなっていましたから、本当に誰にも愛されずに僕は育ったのです。
ずっと、人間とはただ動いているだけの人形なのだ、と思っていました。みんな楽しそうに笑っているけれど、本当は心などないのだと考えていました。みんな本当は自分と同じように冷たい心を持っているだけなのだと思っていました。
しかしそうではないということを僕に教えてくれる人が現れました。
貴女です。
誰も、僕には近寄りさえしなかったのに、貴女は何のためらいもなく、僕の前に唐突に姿を現わしました。
不思議でした。
何の臆面もなく、ごくごく自然なふうに、貴女は現れたのです。
それまでそんな経験は皆無でした。先生たちでさえ、僕に近づくときはぎこちない態度だったのです。
正直に言ってしまうと、貴女のこと、最初は人間じゃないんだと感じていました。
その理由は僕自身にもよく分からないのだけれど、なぜかしらそう感じてしまったのです。
その感覚がただの気のせいだと思うほど、貴女は実に人間らしい人間でした。いいえ。人間のことをよく知らない僕がそんなことを言うのは変ですよね。言い換えましょう。
貴女は実にいろいろなことを考えて生きていました。空気のこと、空のこと、風のこと、木や緑のこと、そして人間のこと。
僕はただ自分のことしか考えずにただ生きていたのです。だから自分以外のことを楽しそうに笑って話す貴女に、僕は驚きました。
でも一番驚いたのは、やはりあの時でしょう。
貴女は言いました。
私、あなたの考えてること、なんとなくわかるの。だってツインズだもん──。
正直な話、何を言ってるんだこのコは……、と思いました。しかし心のどこか奥のほうが、じんわりと温かくなるのを感じました。
僕にとって、貴女はいつも不思議な存在でした。
なぜ貴女は僕の前に現れたのでしょう。
なぜ僕は貴女を受け入れたのでしょう。
なぜ貴女は僕を理解しているのでしょう。
なぜ僕は貴女を理解しているのでしょう。
僕は貴女の言ったツインズという言葉が忘れられません。
ツインズ……双子。魂を同じくする者。
現実主義者の僕が、なぜそのような夢のようなものの存在を、心から認めてしまったのでしょうか。
不思議です。本当に。
僕はずっと一人でした。誰にも頼らずに生きていたといえば嘘になるでしょうけれど、誰かと心を通わせることは一度たりともなかったと記憶しています。
僕は誰とも会っていないようなものなのです。出会ったと言えるほど親しい人間はいなかったのですから。
だから、きっと貴女は、僕の出会った初めての人間なのです。僕はいまになってようやく、この広いだけの世界で人間に会うことができたのです。
貴女は言いました。
ずっとずっと、私は独りで淋しかった。やっとあなたに巡り逢えた──。
僕も同じ気持ちでした。
もしも神様がいて僕と貴女を巡り逢わせてくださったのだとしたら、僕は一生感謝しつづけることになるでしょう。
えぇ、本当に。
さて。前フリが長くなってしまいました。僕の悪いくせです。
伝えたいことというのは、何も初めて言うことではありません。何度も何度も、言いました。
でも全然言い足りないのです。
いいえ、すでに口癖のようになって重みをなくしてしまっているのです。
口で言う勇気が湧かないなんて嘘です。
ただ、この言葉が元の新鮮さを取り戻せるように、こうして紙に書こうというだけのことなのです。
貴女は言いました。
お願い、私を嫌いにならないで──。
大丈夫。
僕はきみを嫌いになんかならない。
なぜなら僕は、きみを愛してしまったのだから……。
愛しています。
いつまでも。
生まれてよかった。
生きていてよかった。
きみと出会えてほんとによかった。
ありがとう……。
END
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