月の海

月から地球を見て
      真相にせまる

イン・ザ・ファインダー 19

2020年05月05日 00時14分39秒 | イン・ザ・ファインダー
 海から戻り、別荘の横のシャワーで足を洗って、
二人はバルコニーから広間へ入った。
奥の部屋にいた美香さんが言った。
 「お帰りなさい。」
 「ただいま。」
 私はそう返事をしてから大翔の顔を見た。大翔も私を見て言った。
 「先にシャワーを浴びたら。」
 そして私を浴室に案内してくれた。
私は一度部屋に戻ってから着替えを持って再び浴室に行った。
浴室はユニットバスではなかった。
かなり広くバスタブは陶器でできていて脚が付いていた。
私はシャワーを浴びて浴室を出ると大翔に声を掛け部屋に戻った。
ベランダの向こうには夕陽が沈むところだった。
今まで私は自分の人生がつまらないと思っていた。
でもこれからは、それが変わるかも知れないと感じていた。
 部屋から出て広間へ行くと食事の用意ができていた。
近くのレストランから取り寄せたものだという。
テーブルの上には私が普段食べられない様な豪華な料理や
高級そうなワインが並んでいた。
大翔の両親と妹の美香さん夫妻そして大翔と私の六人で夕食が始まった。
この一家団らんに私は自然に溶け込んでいた。
私はこれからはいつもこんな時間がやってきて欲しいと思っていた。
そんな時、美香さんがぽつんと言った。
 「こうやっているとリサさんのことを思い出すわ。」
 「そうねぇ、あの人も明日香さんの様に明るい人だったわ。」
 大翔のお母さんが言った。
リサさんというのは大翔が別れたと言っていた奥さんだろうか。
 「もういいよその事は。」
 大翔が言った。
 「リサさん?」
 私はぽつんと聞いてしまった。すると美香さんが言った。
 「兄の亡くなった奥さんなの。」
 亡くなった。別れたと言ってたけど死に別れだったの。
 「癌でねぇ。」
 大翔のお母さんが残念そうに言った。
 「癌で亡くなられたのですか。」
 私が言うとお母さんは。
 「子宮癌なの。子供ができた様なのでお医者さんに言ったら癌が発見されて。」
 そう言ってお母さんは下を向いてしまった。続けて美香さんが私に言った。
 「結局。リサさんも、お腹の赤ちゃんもだめだったの。」
 「そぉだったんですか。」
 私がそう言うと大翔が。
 「もうやめようよ、その話は。」
 するとお父さんが。
 「でも、こうやって明日香さんがいると明るくなるよ。」
 「そぉねぇ。」
 そうお母さんが言ったので私は少し恥ずかしくて下を向いてしまった。
 その一家団らんもいつしか終わり夢のような一日が終わった。
そして私は部屋に戻って眠りについた。夢なら覚めないで欲しい。

 この夜、私が見た夢が何かは覚えていないけど何かにうなされていた様な気がする。
朝起きて外を見ると今日も良く晴れて気持ちのいい青空。
今日はどんな一日になるのだろう。
今日も相沢家の一員として恥ずかしくない自分でいないと。
 そう思いながら部屋にある鏡を見ると少し日焼けした私の顔があった。
あぁ、この歳で日焼けしたら大変な事になる。
今日は日焼け止めクリームでしっかりガードしないと。
そんな事を思いながら鏡をよく見ると首にうっすらと赤い跡がついていた。
日焼けの跡ではない。良くは判らないけど手で首を絞められた様な痕が残っている。
どういう事。自分で絞めてしまったのだろうか。
それとも考えられないけど誰かが入ってきて私の首を絞めたとか。
そう思って部屋のドアを見るとロックは内側からかかっていた。
誰かが入って来ることはできない。
 再びベランダの先にある青い空と青い海を見た。
そして波の音を聞こうとベランダ側のガラス戸を開けようとした。
その時、有る事に気付いた。
ガラス戸のクレセントのレバーが上がっている。
確か昨日は締めて寝たはず。それなのになぜ。
でもガラスは割れていないし部屋のドアも内側からロックされたままで、
誰もガラス戸のクレセントを外すことはできない。
もしかしたら昨日はかなりお酒を飲んだので記憶違いかも知れない。
そう思い私はベランダに出て朝の空気を吸った。
聞こえる波の音と朝の海の風が心地よく、そんな事はすぐに忘れてしまった。
 部屋に入り、あまり厚くならない様にメイクをして部屋着に着替えてから
下に降りた。
広間の隣のキッチンではお母さんが朝食の支度をしていたので。
 「おはようございます。私も手伝います。」
 と言ったけどお母さんは。
 「おはようございます。明日香さん大丈夫よ朝食は簡単なものだけですから。」
 「そんな事言わずにやらせてください。」
 「そお、じゃあ、そこのハムを切ってもらえますか。」
 「はい。」
 私はそう言ってキッチンにある小さなテーブルの上のハムを包丁で切り始めた。
 「あっ、こっちの方が切れるわ。」
 そう言ってお母さんはシンクの下から別の包丁を出した。
 「あっ本当こっちの方が良く切れる。」
 良かった。
最初ハムがギザギザに切れたのは私が普段あまり料理をしていないから
だと思っていた。
だけどこっちの包丁なら綺麗に切れて良かった。
そのうちに大翔も起きてきて私に言った。
 「水島も料理をするんだな。」
 そう言うと大翔のお母さんが言った。
 「大翔、失礼でしょう。」
 私は少し恥ずかしかった。大翔が言っている方が近い。
私はいつも私の母に食事の支度をしてもらっていて、そんなに料理をした事はない。
それがバレない様にと思いながら私はハムを切っていた。
それでもなんとか私の料理の経験のなさが出ないうちに朝食の支度ができた。
 朝ご飯には美香さん夫妻は別に食べるみたいで大翔の両親と私達の四人で食べた。
私が最初ギザギザに切ったハムは自分で食べた。
そして朝食が終わると私も後片付けを手伝った。
もう相沢家の一員になった様な気がしていた。