月の海

月から地球を見て
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イン・ザ・ファインダー 25

2020年05月13日 03時58分08秒 | イン・ザ・ファインダー
須藤達が帰り、三人で飲んでいた。
 「もう一杯飲むか。」
 おじさんが言った。私はジョッキを空けてしまったので、そのジョッキを持って言った。
 「じゃあ私が買ってくる。」
 私は空いたジョッキを手にしてテラスハウスの売店に行って。
 「生ビール三つください。」
 と言った。すると売店の女の人が驚いたように。
 「水島さん。」
 と言った。私がぽかんとしていると。
 「水島さんでしょう。」
 「えぇ。」
 「しばらく来なかったじゃない。鍵を預かったままよ。」
 「あのうそれは多分、姉の今日香だと思います。私は妹の明日香です。」
 「あら良く似てるから判らなかった。」
 「あぁ双子なんです。」
 「そうだったの。ところで今日香さんはどうしてるの。」
 「去年、亡くなりました。」
 「えぇっ、そうだったの。まだ若いのに。それでずっと見かけなかったのね。
以前は休みの日は時々ここに来て写真を撮ってたのよ。」
 「そうだったんですか。」
 また今日香の知らなかった事が出てきた。
さっき須藤が言った様に私達がここに来たのは今日香のせいかも知れない。
 「お台場へ着た時は、いつもここに寄って生ビールを飲んでたのよ。」
 「へぇ知らなかった。」
 「あっ、そうだ。」
 そう言ってその女の人は一度、店の奥に引っ込んだ。再び出てくると。
 「これ鍵、鍵を預かってたの。」
 そう言って私に小さなキーホルダーが付いた鍵を手渡した。
 「これなんの鍵ですか。」
 「サーファーなんかが使うロッカーの鍵じゃない。」
 私はその鍵と生ビール三つを持っておじさん達のテーブルに戻った。
 「やっと来たか。」
 おじさんがそう言って三人分のビール代を私にくれた。
 「ごちそうさまです。」
 私と由紀ちゃんはおじさんにお礼を言った。
私はビールを一口飲むと売店のあるテラスハウスに入ってコインロッカーの前に行った。
違う。コインロッカーの鍵の形は全く違っていた。
それにコインロッカーの鍵にはキーホルダーではなくて番号札が付いている。
また、個人用の専用ロッカーも見たけど、コインロッカー同様こういう古い鍵ではなく
もっと最近の鍵だった。
私は再びテラスのおじさん達のテーブルに戻った。
 その後、私達はテラスを離れて砂浜の先へ歩き出した。
砂浜は途中で無くなり岩場になっていた。岩場では釣りをしている人が何人かいた。
陽は西に傾き始めていてレインボーブリッジがピンク色になっていた。
おじさんと由紀ちゃんは盛んにシャッターを押していた。
私も何枚か撮って今日香の様子を見るとファインダーの下を指差していた。
そこには露出補正の目盛りがあった。今日香はマイナス側を指している。
良くは分からないけど今日香の指示通り露出を少し暗めにしてシャッターを押した。
そして空も少し薄暗くなってきて、おじさんが言った。
 「じゃあ、そろそろ帰るか。」
 私達は再びゆりかもめに乗って家路についた。
私は家に帰って着替えると今日借りた服を返しに今日香の部屋に入った。
それからお台場のテラスで売店の女の人から受け取った鍵が何の鍵か確認しようとした。
机やジュラルミンのケースなど鍵のかかりそうな物を見たけど合う鍵はなかった。