月の海

月から地球を見て
      真相にせまる

イン・ザ・ファインダー 16

2020年04月30日 22時47分12秒 | イン・ザ・ファインダー
 この店はテーブルのお客さんはアルバイトの女の子が担当していて
カウンターのお客はマスターが担当しているらしい。
マスターが私と由紀ちゃんを見て相沢に言った。
 「女性を二人も連れて、再婚相手が決まったのか。」
 私と由紀ちゃんは怪訝な顔をしてお互いに向き合った。
すると相沢が困った顔をして言った。
 「どちらも違うよマスター。俺はまだ再婚しないよ。」
 「何だそうか。」
 「あのぅ。相沢君は結婚したって聞いたけど。」
 私が攻める様に言うと相沢は遠くを見る様にして言った。
 「女房とは別れたんだ。」
 「そうだったの。ごめんなさい。」
 そう私が言ったけど相沢は黙ったままだった。私もそれ以上は何も言えなかった。
少し雰囲気が沈みがちになった時にマスターが由紀ちゃんを見て。
 「本屋のアルバイトはどうだ。」
 と言うと由紀ちゃんは。
 「明日香さんと一緒なので結構楽しい。」
 「そうか。」
 マスターがそう言ったので私は由紀ちゃんに聞いた。
 「由紀ちゃんはこの店知ってたの。」
 「えぇ本屋さんでアルバイトをする前は、ここで夜だけアルバイトをしてたの。」
 「そうだったの。」
 「ただ大学の関係で毎日じゃなかったから相沢さんや今日香さんには
会った事はなかったの。」
 「だって相沢君はお盆とお正月くらいしか来ないから会えるわけないよ。」
 私がそう言うとマスターが言った。
 「今日香ちゃんも仕事が忙しかったようで月に一回位しかこなかった。
ところで二人ともまだ独身。」
 と聞いたので私達は黙ってうなずいた。それを見てマスターが言った。
 「大翔はバツイチだけど結構いい男だし子供もいない。二人はどうですか。」
 「また、その話かよ。」
 相沢はそう言ったが、相沢だったら気心も知れてるし確かに悪くない。
私はそう思ったけど由紀ちゃんは。
 「私はまだ学生ですし、これから就職もしないと。」
 と辞退した。じゃあ私しかいないと思ったけど相沢が言った。
 「マスター俺はまだそんな事考えていないよ。話を変えようよ。」
 「そうか残念だな。」
 マスターがそう言うと由紀ちゃんが言った。
 「マスターは写真を撮るのが趣味なの。
そんな関係で私は今でもこの店にたまに来ているの。」
 「そうなんだ。」
 そう言われて店内を見回すと確かに所々に風景写真が飾ってあった。
多分それはマスターが撮ったものだろう。
 「おじさんも良く来るのよ。」
 「へぇ。あのエロじじいが。」
 私がそう言うと由紀ちゃんは笑って。
 「私があの本屋さんでアルバイトをするようになったのは、
ここでおじさんと会ったからなの。」
 「なんだそうなの。みんな写真つながりでここに飲みに来てるのね。」
 私がそう言うと相沢が言い出した。
 「俺は写真なんかやんないよ。
ここへ来る理由はこの商店街には飲み屋をやっているのが
ここと焼鳥屋しか無いからだよ。水島はいいけど由紀ちゃんを
焼鳥屋には連れて行けないだろ。」
 「何よそれ。私と由紀ちゃんのどこが違うのよ。」
 「由紀ちゃんは学生だし焼鳥屋は似合わないよ。」
 「私は焼き鳥が似合うの。」
 私がそう言うと由紀ちゃんが言った。
 「そんな事ないわよ。このあいだ男友達とあそこの焼鳥屋で飲んだもの。」
 「そうかぁ、確かにあそこの焼き鳥はうまいよ。」
 相沢がそう言うとマスターが言った。
 「できればみんなうちに来てくれよ。」
 「そうだな。それにしても偶然というか不思議な縁だよな、
みんな何だかんだで、つながっているんだから。」
 「と言うよりこの街がせまいだけだよ。これでも東京なんだがな。」
 マスターがそう答えると相沢が言った。
 「そうだな。それがこの街のいいところかも知れない。」
 この店に来ると私は本当に今日香の事は何にも知らなかったんだと思った。
今日香が生きているうちにもっと知っていれば良かった。
 その後くだらない話をしていたら相沢が私と由紀ちゃんに聞いた。 
 「お盆休みはあるのか。」
 「おじさんがお盆は帰省する人が多いから、
お客さんが減るので休むって言ってた。」
 そう私が答えると。
 「もし予定が入ってなかったら家の別荘へ来ないか。」
 「私、大学の友達と旅行に行く事になってるの。」
 由紀ちゃんが直ぐに言った。私が黙っていると相沢が。
 「水島はどうなんだ。」
 「特に予定はないけど・・・。」
 「じゃあ行こうよ。」
 「でも私一人じゃ・・・。」
 「違うよ両親と妹夫婦も一緒だよ。」
 「あぁ、それなら・・・。」
 などと言っているうちに、お盆休みは相沢家の別荘へ行く事になってしまった。

イン・ザ・ファインダー 15

2020年04月29日 20時02分30秒 | イン・ザ・ファインダー

     八月

 私の本屋さんでのアルバイトは夏になっても続いていた。
こんな事なら前の会社で仕事を続けていた方が収入の面では全然よかったのに。
なぜ辞めてしまったのだと思うこともある。
新しい出会いを期待していたのに本屋にいるのはエロじじい、いえおじさんだけ。
こんな事をしながら年をとっていくのは嫌だけど、そんな事は絶対にない。
きっといつか王子様が現れて私をここから救ってくれる、
とでも思っていないと死にたくなる。
 そんなある日の午前中に一人でレジに立っていると男が
レジャー雑誌を持って会計をしに来た。
するとその男は私をじろじろ見て。
 「水島か。」
 「えっ。」
 「俺だよ。相沢、相沢大翔(ひろと)だよ覚えてないか。」
 そう言われても直ぐには思い出せなかった。
顔を見ただけでは誰だか判らないので子供の頃の幼馴染みを思い返した。
そう言えば中学の時の同級生に相沢という子がいた様な気もする。
その子の顔を思い出すうちに今目の前にいる男の顔と中学生の時の
相沢の顔がわずかに一致した。
 「中学の時の相沢君。」 
 「そうだよ思い出したか。」
 中学の時に比べると、だいぶ男らしくなって若干いい男になっている。
 「関西に引っ越したって聞いたけど。」
 「あぁ東京で採用されたけど大阪にある本社でずっと勤務なんだ。
今はお盆休みで実家に帰って来ているんだ。」
 「そぉ確か同窓会で会ったきりよね。」
 「もう十年以上前だな。」
 「よく私だって判ったわね。」
 「あぁ中学の時一緒だった高山が、水島が本屋さんで
アルバイトをしているって言ってたんだ。」
 「なんだそうなの。高山君は何度かここに来たわ。子供連れで。」
 「水島はどうなんだ。」
 「何が。」
 「姓が同じと言う事はまだ結婚してないのか。」
 「大きなお世話よ。」
 「ところで今日香ちゃん亡くなったんだって。」
 「そぉ乗っていたヘリの事故で。」
 そう言って私は少し目を伏せた。それを見た相沢は。
 「そうか。」
 と寂しそうに言った。
 「それにしても水島、随分きれいになったな。」
 「昔からよ。」
 「そうかそういう性格は変わらないな。」
 他にお客さんもいなかったので二人でしばらく話していた。
 「店は何時までだ。」
 「五時。」
 「久しぶりだから終わったらどこか飲みに行くか。」
 「そぉね。」
 そう言う話になって夕方また来ると言って相沢は帰っていった。
私の王子様って言う程ではないけど結構いい男になっている。
そこへおじさんがやってきた。
 「あいつ相沢君だろ。」
 「えぇ。」
 「何年か前に結婚したとか言ってたが。」
 「あっそうなの。」
 なんだ話した感じが独身の様な感じだったから、やっと王子様が来たと思ったのに。
 私が会社に勤めていた頃は会社と家を行き来するだけ。
昼間は社内の事務ばかりだったので会社以外の人と出遭うことも少なかった。
あの頃はこうして幼馴染みとも会う事もなかった。
会社を辞めて収入は減ったけど本屋さんのアルバイトでおじさんや由紀ちゃんに
会えたのも新しい出会いだった。
これから王子様との出会いも少しは希望がもてるかも知れない。

 いつもの様に午後からは由紀ちゃんが来て二人で交替でレジに入った。
 「由紀ちゃん今日は仕事が終わってから幼なじみと飲みに行くんだけど
一緒に行かない。」
 「私はいいけど幼馴染みなら、つもる話があるんじゃないの。」
 「結婚している男だから二人で行くと世間体もあるし。」
 「そぉ。私はいいけど。」
 相沢が独身だったらもちろん二人で行っていたけど結婚していると判っていれば
きっと断っていた。
そして五時になりアルバイトが終わる頃、相沢が迎えに来た。
 「一緒にアルバイトしている由紀ちゃんも一緒に行っていい。」
 私がそう言うと相沢は快く、あぁいいよと返事をした。
 「まだ学生。」
 そう相沢が歩きながら聞くと由紀ちゃんは。
 「えぇ大学四年です。」
 「本屋のアルバイトしてて単位は大丈夫なの。」
 「もうほとんど取っているので。」
 「そうかじゃあ今が一番良い時だよな。俺も大学の時の方が楽しかったなぁ。」
 などと由紀ちゃんと話しながら商店街を少しだけ歩いた。
すると直ぐに昼間は喫茶店をやっていて夜は居酒屋になる店があった。
相沢がそこで立ち止まると由紀ちゃんが。
 「ここですか。」
 この店を知っていた様な言い方をした。
ドアを開けて中に入るとマスターと思われる中年の男の人が。
 「よお大翔。久しぶりだなぁ。」
 そう言うと相沢は笑顔で手を挙げて応えた。
その後に続いた由紀ちゃんもマスターを見て。
 「久しぶりです。」
 と言った。マスターも由紀ちゃんを知っているようで笑顔で応えた。
私は良く分からないのでつくり笑顔でマスターに頭を下げたけど、
マスターは私を見て少し驚いている様子だった。
店は狭くテーブルは埋まっていたので私達三人は店に入った順番で
由紀ちゃんを真ん中にしてカウンターの席に座った。
 「今年も里帰りか。」
 マスターがおしぼりを置きながら相沢に言った。
 「あぁ。」
 「今日は何にする。」
 マスターが注文を聞いたので相沢がメニューを見ながら適当に注文した。
私は初めてで何がいいのか良く判らなかったので相沢にまかせた。
注文をするとマスターは直ぐにビールとグラスを先に持ってきた。
マスターは最初に相沢のグラスにビールを注ぎ、それからカウンターの席の順に
由紀ちゃんと私のグラスにビールを注いだ。それから私を見て言った。
 「水島明日香さんですね。」
 「えぇ、そうですけど。」
 私が不思議そうな顔をしてそう言うとマスターが言った。
 「お姉さんにそっくりなんで直ぐに判りましたよ。
今日香さんは時々この店に来てたんですよ。」
 「そうだったんですか。」
 そこで相沢が言った。
 「久しぶりに会ったんだから、まずは乾杯をしようぜ。」
 私達は乾杯をして飲み始めた。

イン・ザ・ファインダー 14

2020年04月28日 19時49分20秒 | イン・ザ・ファインダー
 それから数日経ったけど犯人は見付かっていなかった。
その日の朝のニュースでは男の子が殺されたのは私達が発見する二日前の夕方に、
首をヒモの様なもので絞められて殺されたらしいと言っていた。
そして亡くなった男の子の葬儀の様子が放送されていた。
カメラは葬儀場を出て来た両親の姿を捉えていた。
元気だった時の男の子の遺影を胸に抱えた母親の姿に私も涙を抑えられなかった。
 この日、本屋さんでのアルバイトはお客さんがほとんど来なく
暇だったので午前中はレジの後ろにある椅子に座っていた。
本の整理もおじさん一人で十分な量しかなく、
あまりに暇だったのでレジの下に入れておいた写真を出して眺めていた。
男の子が殺されたのが発見される二日前の夕方というと、
私が河原で今日香に教えられながらこの写真を撮っていた頃になる。
などと思いながらぼんやりと数枚の写真を眺めていると
私の目は一枚の写真に釘付けになった。
 「これは・・・。」
 私はうっかり声を出すほどだった。あかね色の空をバックに土手の
上をジョギングする一人の女性。
この写真は今日香が必死になつて私に撮れと指示した写真だった。
女性の姿は薄暗い中に夕焼けでシルエットになっているので、
はっきりとは見えない。
けれど望遠で撮ったもう一枚では女性側に露出が合っているので
何とか女性の顔を見分ける事ができた。
このジョギングしている女性は朝のニュースで多分、見たような気がする。
間違いない殺された男の子の葬儀に出ていた母親に似ている。
もしこれが母親だとすると男の子が死んだ時に母親は直ぐ近くにいた事になる。
そしてもしそうならこの写真の女性はジョギングをしているのではなく
逃げている様にも見える。
それに、この暗くなりかけた中で街灯のない薄暗い土手を
ジョギングするのはおかしい。
 昼休み由紀ちゃんはまだ来ていなかったけど、
お客さんがいなかったのでレジはおじさんに任せて私は警察署へ向かった。
警察署のドアを開けると受付にいた人に。
 「男の子が殺された事件で見てもらいたい物があるのですけど。」
 そう言って私は写真を差し出した。
 「男の子が殺された日に私が撮った写真です。」
 それを見た警察官は特に表情を変えずにその写真を受け取ると席を外して奥に消えた。
再び現れた時にはもう一人の男と一緒だった。多分、担当の刑事らしい。
 「この写真を撮ったときのメモリーカードは有りますか。」
 「有りますけど写真のデーターはパソコンに移しました。」
 「そうですか。ではパソコンを証拠として提出してもらえますか。」
 「困ります。毎日使用しているので。」
 刑事らしい男は少し考えて。
 「それではパソコンのデーターをメモリーカードに戻して提出できますか。」
 「えぇ、それなら提出できると思います。」
 デジタル写真のデーターは画像のデーターだけでなくカメラの機種、
絞りやシャッター速度などの露出データーそして撮影した日時などが記録されている。
それが証拠となる可能性もある。
 「パソコンはご自宅にあるのですか。」
 「はい。」
 「では今から一緒に伺います。」
 「えっ、今からですか。」
 私は本屋さんに電話してするとおじさんがでた。
おじさんに警察に来ているので昼休みは帰るのが少し遅くなるとおじさんに伝えた。
そして、その刑事と一緒にまたもやパトカーに乗せられた。
パトカーの中で刑事は私にいくつかの質問をして調書を取った。
 「もしかしたら証人として出廷してもらう事があるかも知れません。」
 「はぁ、そうですか。それであの子の母親が犯人なんですか。」
 私は最初に刑事と話した時から何となく刑事が母親を犯人とみている様な
雰囲気を感じていたので聞いた。
 「いえ、まだ分かりませんがその可能性もあります。」
 そのうちに家に着いた。私は玄関のドアを開け中に入った。刑事達は外で待っていた。
 「明日香どうしたの。」
  母は私がこんな時間に帰ってきたので、びっくりしたのだろう。
 「警察が来てるの。」
 私がそう言うと母は玄関のドアを少し開け外を見た。そこでパトカーが停まっているのを見て。
 「あなた何かやったの。」
 「何もしてないわよ。」
 「だってパトカーが停まっているじゃない。」
 「私が犯人の証拠を掴んだの。」
 「本当に。」
 母は私を疑う様に言った。
 「本当よ。」
 私は二階に上がると直ぐにパソコンを立ち上げた。
予備のメモリーカードにあの日に撮った全ての写真のファイルをコピーした。
それをパソコンから抜いて外で待っていた刑事に渡すと刑事は礼を言って帰って行った。
それを見た母は安心した様子だった。

 それから数日して男の子の母親が逮捕された。

 私は今日香の残した一眼レフのファインダーを覗いて、
中にいる今日香を見ながら思い返した。
あの廃屋を撮れと教えたのもジョギングをしている女性を撮れと指示したの
もファインダーの中の今日香だった。
今日香はあの時点で子供が殺されたことも犯人が誰かかも判っていたらしい。
今日香はいつの間にそんな霊感を身につけていたのだろう。
多分そういうことではない。
このファインダーの中にいるのは今日香ではなく霊そのものだから判ったこと。
ファインダーを覗いている私の目には涙が滲んでいた。

イン・ザ・ファインダー 13

2020年04月27日 23時21分49秒 | イン・ザ・ファインダー
 由紀ちゃんと私はこれ以上、廃屋の中に居続ける事ができなかったので外に出た。
廃屋の外に立ち私は震える手で携帯電話を出して警察へ電話をした。
状況を説明してから、ここの住所がよく判らない言うと警察は携帯の
GPSから位置を割り出した。そして周囲に特徴のある建物がないか聞かれた。
私が周囲の倉庫にある看板の会社名をいくつか読み上げると警察は了解した。
 ほんの数分で自転車に乗ったお巡りさんが来た。由紀ちゃんと私は、
お巡りさんを廃屋の中の死体らしい子供の所へ案内した。
それからお巡りさんが無線で連絡しているうちにパトカーが何台か来た。
さらに捜査車両が何台かと救急車も来た。そして廃屋の回りには規制線が張られた。
 私と由紀ちゃんは警察官からその場で色々話を聞かれた。
だけど第一発見者として詳しい話を聞きたいから署まで来てくれと言われた。
私達はこの事を家に電話し少し遅くなると伝えた。
警察の話し方は私達を疑っている様な感じだった。
そして由紀ちゃんと私は犯人の様にパトカーに乗せられた。
 警察署に着いた私達は第一発見者として調書を取られる事になった。
由紀ちゃんと私が机の前に並んで座っていると私達の前には一人の警察官が座った。
他にもメモを取っている様な人がいた。
そして目の前に座った警察官から色々と質問されたけど、ある事でひっかかった。
 「なぜ、あそこへ行ったのですか。」
 そう警察官に聞かれた。確かに普通の人はあの辺りには行かない。
だけどファインダーの中の今日香に教えられてと言ったら余計疑われる。
 「写真を撮っていて偶然に。」
 私はそう言った。
 「そうですか、では写真の仕事をされているのですか。」
 「いえ違います。」
 「じゃあ趣味ですか。」
 「えぇ、まぁ。」
 「なぜ廃屋の中に入ったのですか。」
 「あの廃屋の写真に男の子が写っていたからです。」
 「その写真はありますか。」
 「はい。」
 そう言って私は警察官にあの心霊写真を渡した。
警察官はそれを手に取りじっくりと眺めていたけど。
 「子供は写っていない様ですが。」
 「少し判りにくいのですが右下の方の木漏れ日の中に。」
 「写っていませんよ。」
 そう言って警察官は写真を私達の方に向けて机の上に置いた。
私は子供が写っている所を指でさして。
 「ここに写って・・・。」
 と言おうとしたけど写っていなかった。
由紀ちゃんが写真を手前に引き寄せ二人でじっくり見たけど写っているのは
廃屋だけだった。
 「写ってない。」
 由紀ちゃんが言った。私と由紀ちゃんはお互いに顔を見合わせ。
 「うそぉ。」
 と思わず声をそろえて言ってしまった。
 「以前は確かにここに男の子が写っていたのですけど。」
 私がそう言ったけど警察官は疑わしそうな目つきでこちらを見るだけだった。
どうなっているのか分からなかった。私達の単なる錯覚とか勘違いだったのだろうか。
 その後も取り調べというか事情聴取は続いた。
男の子の死因は判っていないみたいで警察官は詳しい話はしなかったけど
男の子には首を絞められた痕があったらしい。
やがて事情聴取も終わって由紀ちゃんと私は調書にサインをした。すると警察官は。
 「ご協力ありがとうございました。これで、お引き取りになって結構です。」
 「あのう。送ってくれないのですか。」
 家まではたいした距離ではないけど私は聞いた。すると警察官は。
 「時間が遅いので職員が帰宅しているのと、
この事件で職員が出はらっているので。」
 外はとっくに暗くなっていた。
 「もしかしたら私達は犯人を見ているかも知れないし。
それで犯人が帰り道に私達を襲ってくるかも知れないでしょう。」
 私が怖かったのは犯人ではなかった。暗い夜道に男の子の幽霊が
出てきそうな気がして歩いては帰れなかった。私はさらに続けた。
 「逆に私達は容疑者かも知れないんですよ。
帰り道に容疑者に何かあったら警察の失態ですよ。」
 こんなことを言う犯人はいないだろうと思いながらも横を見ると
由紀ちゃんは笑っていた。
私が色々ごねていたら、たまたま戻ってきた別の警察官が送ってくれると言った。
 由紀ちゃんと私は再びパトカーに乗せられて送ってもらった。
由紀ちゃんの所へ先に行って由紀ちゃんを先に降ろしてた。
 「じゃあ、また。」
 そう言って由紀ちゃんと別れてから私は一人でパトカーの後部座席に座っていた。
何も言わず運転している警察官が振り向くと幽霊だったとか。
私の隣に子供の幽霊が現れはしないかと怖かった。
しかし心配とはうらはらに幽霊は現れずに家に着いた。
 「ありがとうございました。」
 私は送ってくれた警察官にお礼を言って家の玄関の前で降りた。
玄関を開け家に入り。
 「ただいまぁ。」
 と私が言うと奥で。
 「大丈夫だった。」
 と母の声が聞こえたので少し安心して涙が滲んでしまった。
 翌日、朝のニュースで事件になっていた。
テレビでは廃屋の前からレポーターが中継していた。
ヒモの様なもので首を絞められて殺された可能性が高いという。
そして男の子の身元も判明していて廃屋から少し離れたところに
住んでいて行方不明になった子供だった。事件の二日前に捜索願が出ていたという。
部屋のテレビを消して服を着替えて下に降りた。
 食堂には母が食事の用意をしてくれていた。
本屋さんのアルバイトが始まるのが十時からなので私が起きてくるのは
いつも九時過ぎだった。父はとっくに出勤していた。
 「昨日言っていた事件、テレビでやってたわよ。」
 母はご飯とみそ汁を私の前のテーブルに置きながら言った。
 「うん。」
 私は昨日帰ってから事件の話は簡単にしただけで写真の話はしなかった。
言っても信じてもらえる訳がなかった。
 「こんな静かな街で殺人事件が起きるなんて思ってもいなかったわ。」
 母が言った。
 「でも最近は静かなところの方が事件が増えているって警察官が言ってた。」
 「そう、やぁねぇ。でもこの辺は変な人が歩いているなんて聞かないし。」
 「警察官もこの辺には不審人物は少ないって言ってた。」
 私には不審人物より写真に男の子が写っていた事の方が怖かった。
自分に男の子の霊が取り憑いているのではないだろうかと思いながら
朝ご飯を食べてこの日もいつもの様に本屋さんへアルバイトに行った。
 私は怖くて自分の部屋に写真を置いておくことができなかった。
かといって燃やしたりしたら、たたりがあるかも知れない。
私は廃屋や一緒に印刷した何枚かの写真を本屋さんまで持ってきていた。
そして昼から来た由紀ちゃんに廃屋の写真を手にして聞いた。
 「ねえ昨日はこの写真に間違いなく子供が写ってたよね。」
 「私も間違いなく見た。昨日この写真には確かに殺された子供が写っていた。
大学では心霊写真は存在しないと教えられたけど、
あれは本当に子供の霊だつたのかも知れない。
世の中には存在していても普段は気付かない物もある。
霊とかそう言う物が存在していても単に普段は気付かないだけかも知れない。」
 「ねぇ、この写真に子供の霊が憑依してたりしてたらどうしよう。」
 「大丈夫よ。私達は子供の遺体を見付けてあげたのだから
恨まれる様な事はしてないわ。子供が恨んでいるのは殺人犯よ。」
 私は怖くて写真を家に持ち帰りたくなかった。
それで廃屋の写真や一緒に印刷した写真を本屋さんのレジの下に置いて家に帰った。

イン・ザ・ファインダー 12

2020年04月27日 00時15分51秒 | Nouvelle vague Tokio
 本屋さんのアルバイトが終わってから私と由紀ちゃんは川に向かって歩き出した。
その途中、私は歩きながら由紀ちゃんに聞いた。
 「心霊写真は存在しないの。」
 「講義ではそう教えられたの。」
 「でもテレビや雑誌では心霊写真をよく取り上げているでしょう。」
 「心霊写真と言われる写真のほとんどがフィルムや印画紙の
現像時や引き延ばしの時にわずかな光が入ったりとかすると、
できた写真に霊や人魂が写っている様に見えたりするの。
または現像液の温度や混ざり具合が均一でなくて現像ムラによるシミが
人の形に見えたりした写真を心霊現象ではないかと思ってしまったのよ。」
 「うそぉ。」
 「だってカメラのフィルムも人間の網膜も同じ光に反応しているの。
写真に写るのであれば人間にも見えるはずよ。」
 「それはそうだけど。」
 「その証拠にデジタルカメラが普及してからは
心霊写真の話を聞かなくなったでしょう。」
 「確かにそうね。でもこの写真はどうして。
この写真は今日香のデジタル一眼レフで撮ったのよ。」
 「そうよ、それが不思議なの。」
 二人はいつしか早足になっていた。やがて橋を渡り廃屋の前に着いた。
 「こんな所に廃屋があるなんて知らなかった。」
 そう由紀ちゃんがぽつんと言った。
 「周りに街路樹があるから分かりづらいのかも知れない。」
 「明日香さんはなぜここを見つけたの。」
 まさかカメラの中の今日香に教えられたとは言えない。
 「写真を撮っているうちに偶然。」
 「そぉ。じゃあ、もう一度同じ位置で撮ってみましょう。」
 私は由紀ちゃんに写真を渡しカメラを構えた。
由紀ちゃんは写真を見ながら。
 「もう少し右。」
 とか言って私が立つ位置を指示した。
 「その辺よ明日香さん。」
 由紀ちゃんがそう言うと私はその位置で何回かシャッターを押した。
また少し体をずらしたりして、さらにシャッターを押した。
そしてカメラのディスプレイを再生モードにして今撮った写真を
由紀ちゃんと二人で見た。
全ての写真を確認したけれど日差しが明るいのとカメラの
ディスプレイが小さいので画像がよく見えなかった。
 「はっきり見えないから分からないけど子供は写ってないみたい。」
 私がそう言うと由紀ちゃんは。
 「中に入ってみない。」
 「えっ、入るの。」
 私は少し怖かったけど由紀ちゃんが一緒ならいいやと思って
由紀ちゃんの後に着いた。
私達は廃屋の入り口らしい方へ向かった。
入り口の引き戸は木製だけど、はめてあるガラスが汚れていて中は見えない。
引き戸には南京錠が付いていたけど南京錠を取り付けている金具は
木が腐って外れていた。
由紀ちゃんが引き戸をひくと簡単に開いた。
由紀ちゃんが中に入っていったので私も続いて廃屋の中に入った。
廃屋の中は汚れた窓からはいる光でそれほど暗くなかった。
いくつかの作業台や棚があったけど、その上には何も置いてなかった。
それらには埃もあまり積もっていないし蜘蛛の巣もなかった。
 「建物は古いけど数年前まで使われていたみたい。」
 廃屋内を見ながら由紀ちゃんが言ったので私も周りを見ながら言った。
 「きっと不況でつぶれたのよ。でも霊がいるようには見えないね。」
 「そうね。」
 廃屋の中は思ったより怖い場所ではなかったので私は安心して。
 「出ようか。」
 と言って入って来た方へ私が向かうと由紀ちゃんも
私に続いて出ようと振り返った時に言った。
 「明日香さんちょっと待って。」
 「どぉしたの。」
 「作業台の下に何か見えた。」
 そう言って由紀ちゃんは作業台の一つの裏に回り込んだ。
次の瞬間由紀ちゃんの悲鳴が聞こえた。私は由紀ちゃんの横に駆け寄った。
作業台の裏には子供が倒れていた。
 「息をしていない。」
 由紀ちゃんが言った。仰向けに倒れている子供の皮膚の色は
活気のある赤みがなく生きている人間の色ではなかった。
「あの子だ。」
 私はそうつぶやいた。間違いなくあの写真に写っていた男の子だった。