月の海

月から地球を見て
      真相にせまる

イン・ザ・ファインダー 28

2020年05月17日 23時32分28秒 | イン・ザ・ファインダー
 私達は地下の駐車場へ向かった。カメラマンも一緒に来た。
 「もしかしたら記事にするかも知れません。」
 須藤がそう言ったので私は。
 「私は構わないけど中川さんは。」
 「私も構いません。」
 私達は駐車場に着くと出版社の取材用の車に乗った。
須藤が運転してその横にカメラマンが座り私と中川さんは後ろの座席に座った。
車が走り出すと私は中川さんに聞いた。
 「警察には話をしたのですか。」
 「梓がいなくなって直ぐに捜索願を出したんですけど警察からは
何の連絡もありません。」
 「そうですか。」
 私が力なく言うと運転しながら須藤が言った。
 「あそこに心霊スポットの噂が出始めたのも梓さんが
いなくなった頃と一致するんです。」
 私はそれ以降、話す言葉を見付けられなかった。
出版社からお台場まではそう遠くはなかった。
直ぐにレインボーブリッジを渡り第三台場に一番近い駐車場に車を止めた。
須藤は車を降りるとハッチバックを開けて折りたたみのシャベルを出した。
私達は第三台場へ向けて連絡通路を歩き出したけど足どりは重かった。
 ここは土手があったりして階段の上り下りが多い。ヒールでは歩きにくい。
エロじじいはいないけどミニスカートじゃなくパンツを履いて来れば良かった。
それを察してか階段を上るときは須藤とカメラマンが先に上がってくれた。
やがて土手を降り第三台場の窪地に着くと私が先になって歩いた。
ここには私達以外の人はいなかった。
そういえば先月来た時もここには人がほとんどいなかった。
そういう意味では心霊スポットに適している。私はある所まで来ると立ち止まり。
 「確かこの辺りだと思います。」
 私がそう言うと須藤が写真を撮りだし風景と写真を見比べた。
まさか現地に来るとは思っていなかったので、カメラを持って来なかった。
今日香のカメラがあればもう少し詳しい位置を今日香が
教えてくれたかもしれない。
 「だとすると霊はこの辺に写っていた事になる。」
 須藤はそう言って地面を指した。カメラマンはその写真を撮っている。
私は須藤から写真を受け取り少し離れて私が写真を撮った位置で写真と見比べた。
 「霊はその位置に写っているわ。」
 私がそう言ったけど須藤は。
 「でも草が生い茂ってて何か有った形跡は判らないな。
取り敢えず掘ってみるか。」
 そう言って掘り出した。カメラマンはしきりにシャッターを押している。
私と中川さんはじっとその光景を見ていた。
しばらくして穴の深さが五十センチ位になった時、
須藤は疲れた様に首を横に振って言った。
 「何も出ないな。」
 すると中川さんが。
 「もうそれで結構です。あれは梓の霊ではないんです。」
 そう言って私の横で泣き崩れてしまった。
私はしゃがんで中川さんの肩に手を置いて言った。
 「梓さんはきっと生きてますよ。」
 私と中川さんから少し離れて須藤とカメラマンは話し合っていた。
 「もう一カ所くらい掘ってみるか。今度は俺が掘るよ。」
 そうカメラマンが言うと。
 「むやみに掘っても何も出ないよ。それに忘れていたがここは史跡だからな。
やたら掘るのはまずいよ。」
 「それもそうだな。」
 それから須藤は穴を埋め直した。私達は第三台場を後にすることにした。
帰りに第三台場を上に登る時も須藤とカメラマンは私を気にしてか先に登ってくれた。
それから駐車場まで歩きながら私は聞いた。
 「警察に頼んで掘ってもらう事はできないんですか。」
 「この心霊写真一枚では無理だろうな。」
 須藤が言った。
 「そおねぇ。」
 そう言って私はため息をついた。