月の海

月から地球を見て
      真相にせまる

イン・ザ・ファインダー 18

2020年05月04日 00時54分51秒 | イン・ザ・ファインダー
 ベランダから部屋に戻りバッグから着替えの服を出してクローゼットに掛けた。
そしてベッドに寝ころんだ。低反発性のマットレスで寝心地は最高。
天井の照明もシンプルに見えるけど安物ではない。
 大翔の父親はどんな仕事をしているのだろう。
さっき会った父親は庶民的で社長のような風格は感じなかった。
中学の時の大翔も、こんな別荘を持っている家の子供とは思えなかった。
私は横になったまま想像を巡らした。
大翔の両親や妹の美香さんもいい人の様だし、
うまくいけば私が大翔の妻となってこの家の家族の一員になれかも知れない。
そう考えると大翔との既成事実を造るしかない。
 私は着替えずにバッグとカメラをクローゼットの中に入れて部屋を出た。
下に降りて広間に向かうと広間のテーブルの上には二人分の
フルーツと飲み物が置いてあった。
大翔の両親は部屋に戻ったようで美香さん夫婦と大翔だけだった。
美香さんとご主人はソファに座ってテレビを見ていた。
私が行くと美香さんが気付いて立ち上がりフルーツが置いてある
テーブルの前の椅子を手で指して言った。
 「どうぞ。」
 私は美香さんに軽くお辞儀をしてそこに腰を下ろすと隣で
さっきから食べていた大翔が言った。
 「このメロン貰い物らしいけど美味いよ。」
 大翔の前にあるメロンは半分位になっていた。
 「いただきます。」
 美香さんは再びソファに座ってテレビを見ていたので
大翔に向かってそう言った。すると大翔が言った。
 「食べ終わったら海岸でも歩いてみるか。」
 「えぇ。」
 私は直ぐにそう答えてメロンを一口食べた。美味しい。
これは庶民の食べ物ではない。
私は今までこんなに美味しいメロンは食べた事がなかった。
ただ、その気持ちを顔に出さない様におもむろに食べた。
それから大翔が食べ終った頃、美香さんが言った。
 「食器はそままでいいですから。」
 そう言われても、もしかして私も家族の一員になるかも知れないので
私が食べ終わるとフルーツの皿とグラスを大翔の分の食器も
キッチンへ持って行って洗った。そうしたら大翔が言った。
 「お客さんがやらなくてもいいのに。」
 と言ったので私は言った。
 「いいの、お客扱いしないで。」
 そうしたら大翔は不思議な顔をして言った。
 「そう言うものかなぁ。」

 大翔と私は広間から大きなガラス戸を開けてバルコニーにあったサンダルを履いた。
私はバルコニーで大翔の横に立った。
バルコニーから見える小さな海岸には、あまり海水浴客がいなかった。
 「夏休みなのに人が少ないのね。」
 私がつぶやくと大翔は言った。
 「この砂浜は小さいので海水浴場にはなっていないんだ。
それで駐車場や海の家もない。だから他からの海水浴客はあまり来ないんだ。
でも遊泳禁止ではないから付近の人だけのプライベートビーチになっている。」
 「そぉ。」
 と私は言ったけど、これって最高。
最近は海に来ていないけど今まで行った海は砂浜はどこを見ても人ばかりだった。
女同士で男を探すならそれでいいかも知れないけど私はこちらの方が好き。
でも大翔は気になったのか。
 「寂しい?」
 「そんな事ないわ素敵よ。」
 私は笑顔で大翔を見て言った。
別荘は砂浜より少し高い位置にあるのでバルコニーからは階段を降りて砂浜に出た。
サンダルを履いてても砂浜の砂が熱いので大翔は私の手を引いて波打ち際まで連れてきた。
波打ち際の砂は打ち寄せる波で熱くはなかった。
大翔と私はサンダルを脱いで手に持つと裸足で波打ち際を歩いた。
大翔は再び私の手を取った。私はかなり短いショートパンツだったので、
波が膝くらい来るところまで海に入って大翔の手を引っ張った。
 「おい、ズボンが濡れるだろう。」
 大翔は長いズボンを履いていたのでズボンの裾を膝くらいまでまくって海に入ってきた。
そのとたん急に大きな波が来たので大翔は私の手を引いて砂浜に逃げようとした。
しかし波の方が速く二人はシャツの下の方まで波で濡れてしまった。
 「水島のせいで濡れちゃったじゃないか。」
 私は大翔の手を引いて再び波が膝より上になる辺りまで連れて行った。
そして私は手で海の水を大翔にかけた。
大翔も私に海の水を掛けたので二人はビショビショになった。
そして私の着ていたノースリーブのブラウスは濡れてブラが透けて見えた。
それを見た大翔は。
 「少し乾かそう。」
 そう言って再び私の手を引いて砂浜に戻った。
二人はサンダルを履いて波の来ないところで腰を下ろした。
 「私、三十過ぎてからこんな事したことなかった。」
 「あぁ俺もだ。」
 「こんな年齢で青春はないわね。」
 「そんなことないよ。」
 「でも人が大勢いたら恥ずかしかった。」
 「そうだな。」
 砂浜には何組かの海水浴客がいたけど私達の近くにはあまりいなかった。
大翔は再び立ち上がり私の手を取り歩き始めた。
砂浜を少し歩くと岩場があってそこを登り始めた。私も大翔に手を引かれ登った。
岩に打ち寄せる波のしぶきが時々私達にかかった。
岩場の先の方では釣りをしている人が小さく見えるだけで、
それ以外の人はいなかった。陽は西に傾き始め海の波は赤みを帯びて光った。
夕陽に照らされた大翔が私を見たので私も大翔を見た。
大翔の顔が私の顔に近付いてきたので私は目を閉じた。
すると私の両肩に大翔の手を感じた。それから私の唇が大翔の唇を感じた。
しばらくの間その感覚が続いてから少しずつ大翔の唇が離れて言った。
そして大翔が言った。
 「まだ明日がある。今日はこれで帰ろう。」
 私は目を開けると大翔の笑顔が見えた。
 「そうね。」
 服もある程度乾いてきたので再び砂浜を歩いて別荘まで戻った。