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■【熊本総合運輸事件】最高裁第二小法廷判決の要旨(2023年3月10日)

2024年01月24日 08時00分00秒 | 会社にケンカ!の判決

1.

▼ 使用者が労働者に対して労働基準法37条の割増賃金を支払ったものといえるためには、通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の割増賃金に当たる部分とを判別できることが必要である。

▼ 雇用契約において、ある手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否かは、雇用契約に係る契約書等の記載内容のほか、具体的事案に応じ、使用者の労働者に対する当該手当等に関する説明の内容、労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの諸般の事情を考慮して判断すべきである。

▼ その判断に際しては、労働基準法37条が時間外労働等を抑制するとともに労働者への補償を実現しようとする趣旨による規定であることを踏まえた上で、当該手当の名称や算定方法だけでなく、当該雇用契約の定める賃金体系全体における当該手当の位置づけ等にも留意して検討しなければならないというべきである。

2.

(1)

▼ 新給与体系の下においては、本件割増賃金の総額のうち、基本給等を通常の労働時間の賃金として労働基準法37条等に定められた方法により算定された額が本件時間外手当の額となり、その余の額が調整手当の額となるから、本件時間外手当と調整手当とは、前者の額が定まれば当然に後者の額が定まるという関係にある。

▼ そうすると、本件時間外手当の支払により労働基準法37条の割増賃金が支払われたものといえるか否かを検討するに当たっては、本件時間外手当と調整手当から成る本件割増賃金が、全体として時間外労働等に対する対価として支払われているか否かを問題とすべきである。

(2)

▼ 新給与体系は、その実質において、時間外労働等の有無やその多寡と直接関係なく決定される賃金総額を超えて労働基準法37条の割増賃金が生じないようにすべく、旧給与体系の下においては通常の労働時間の賃金に当たる基本歩合給として支払われていた賃金の一部につき、名目のみを本件割増賃金に置き換えて支払うことを内容とする賃金体系であるというべきである。

▼ そうすると、本件割増賃金は、その全体において、その一部に時間外労働等に対する対価として支払われているものを含むとしても、通常の労働時間の賃金として支払われるべき部分をも相当程度含んでいるものと解さざるを得ない。

(3)

▼ すなわち、本件割増賃金のうちどの部分が時間外労働等に対する対価に当たるかが明確になっておらず、本件割増賃金につき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と労働基準法37条の割増賃金に当たる部分とを判別することはできないのであり、K社のXに対する本件割増賃金の支払により、同条の割増賃金が支払われたものということはできない。

(4)

▼ したがって、K社のXに対する本件時間外手当の支払により労働基準法37条の割増賃金が支払われたものとした原審の判断には、割増賃金に関する法令の解釈運用を誤った違法がある。

1)原判決中、1070万1572円および遅延損害金の支払請求に係る部分を破棄する。

2)前項の部分につき、本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

 

※参考

■【熊本総合運輸事件】福岡高裁判決(2022年1月21日)

1)K社の控訴に基づき、原判決中同社の敗訴部分を取り消す。

2)前項に係るXの請求をいずれも棄却する。

3)Xの本件控訴を棄却する。

4)訴訟費用は、第1、2審を通じてこれを10分し、その9をXの負担とし、その余をK社の負担とする。

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No.605 今週の事件【熊本総合運輸事件】の概要(2024年1月24日号)

2024年01月24日 07時55分00秒 | 会社にケンカを売った社員たち

今回の事件は、K社に雇用されていたXがその就労期間中に時間外割増賃金の不払があった旨主張して、同社に対し、雇用契約に基づき、(1)時間外割増賃金813万1174円および遅延損害金62万8519円の合計875万9693円および内金813万1174円に対する遅延損害金の支払を求めるとともに、(2)付加金473万3030円(上記時間外割増賃金813万1174円のうち除斥期間対象分339万8144円を控除した額)およびこれに対する遅延損害金の支払を求めたもの。[熊本地裁(2021年7月13日)判決]

※ この判例の本文は、『会社にケンカを売った社員たち』公式note に掲載しています。

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No.604 今週の事件【兼松アドバンスド・マテリアルズ事件】の概要(2024年1月10日号)

2024年01月10日 07時55分00秒 | 会社にケンカを売った社員たち

今回の事件は、K社から採用内定を得て、その後、同社から内定を取り消された(本件内定取消)XがK社に対し、次の各請求を求めたもの。[東京地裁(2022年9月21日)判決]

(1)主位的請求

本件内定取消は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上の相当性を満たさない無効なものである旨主張して、K社に対してする次の各請求

 労働契約上の権利を有する地位にあることの確認

 労働契約に基づく次の各金員の支払請求

(ア)2018年10月分以降の未払賃金として、同月から本判決確定の日まで、毎月20日かぎり17万8800円(賃金月額29万8000円の6割に相当する金額)およびこれらに対する遅延損害金

(イ)2018年12月以降の賞与として、同月から本判決確定の日まで、毎年12月20日および6月20日かぎり35万7600円およびこれらに対する遅延損害金

(2)予備的請求

本件内定取消は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上の相当性を満たさない違法なものであり、これによって採用に係るXの期待権が侵害されたと主張して、K社に対してする、不法行為に基づく損害賠償314万6880円(Xの年収の6割相当額286万0800円および弁護士費用28万6080円)およびこれに対する遅延損害金の支払請求

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