1審判決を受け、XおよびR社双方が控訴した。控訴審判決が、最高裁判決で示された判断枠組みを提示した上で、新旧の賃金体系の適用期間に応じて、A期間およびB期間という2つの期間に分けて、各賃金項目が算定基礎になるか(いわゆる定額残業代として有効か)の判断をしている。
[1.A期間について]
1) 基準外手当Ⅰ・ Ⅱ
▼ (1) 時間外労働等の時間数とは無関係に月間の総運送収入額を基に、定められた割合を乗ずるなどして算定されること、(2) 実際に法定計算による割増賃金額を算定した上で「基準外手当I」「基準外手当II」の合計額との比較が行われることはなく、単に各手当等の計算をして給与明細書の記載がされ給与が支給されていたこと、(3) 求人情報において月給が固定給に歩合給を加えたものであるように示され、当該歩合給が時間外労働等の対価である旨は示されていないこと、(4) 乗務員が、法定の労働時間内にどれだけ多額の運送収入を上げても最低賃金額程度の給与しか得られないものと理解するとは考え難いことから、基準外手当ⅠおよびⅡは割増賃金の性質を含む部分があるとしても、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することはできない。
▼ したがって、基準外手当Ⅰ・Ⅱは、割増賃金の基礎となる賃金に当たる。
2)祝日手当
▼ Xは、支給対象日の時間外労働時間との対応関係はなく、月20日出勤した際に支給される一種の皆勤手当と主張するが、通常の労働日ではない「祝日」に勤務して初めて支給されるものであるから、時間外労働等の対価の性質を有する。
▼ したがって、祝日手当は、割増賃金の基礎となる賃金に当たらない。
3)時間外調整給
▼ 月間の総運送収入に一定割合を乗ずるなどして算定されるものであり、時間外労働等の対価であることをうかがわせる定めも見当たらない。
▼ また、時間外調整給に割増賃金の性質を含む部分があるとしても、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することはできない。
▼ したがって、時間外調整給は、割増賃金の基礎となる賃金に当たる。
4)公休出勤手当
▼ Xは歩合給にすぎないと主張するが、公休日に出勤して初めて支給されるものであって、その算定方法も、出勤した公休日の運送収入額のみを基礎として算定するものであることから、公休出勤手当を全て時間外労働等の対価と見るのが相当である。
▼ したがって、公休出勤手当は、割増賃金の基礎となる賃金に当たらない。
5)業績給、乗務手当
▼ 労基則21条5号の「1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」に当たるから、割増賃金の基礎となる賃金に当たらない。
[2.B期間について]
1)基準外手当1・2
▼ 基準外手当1・2はA期間における基準外手当Ⅰ・Ⅱとその性質は異ならないから、割増賃金の基礎となる賃金に当たる。
2)調整給
▼ A期間における時間外調整給と同内容であるから、割増賃金の基礎となる賃金に当たる。
3)祝日手当
▼ A期間における祝日手当と同内容であるから、割増賃金の基礎となる賃金に当たらない。
4)休日出勤手当
▼ A期間における公休出勤手当と同趣旨のものであるから、割増賃金の基礎となる賃金に当たらない。
▼ なお、Xは、所定休日に労働してもその月に労働した日が最低20日以上なければ休日出勤手当は支給されず、所定労働日の労働が積み重なることが大前提となっているから、全額が割増賃金の基礎とされるべきであると主張するが、採用できない。
【主文】
1.Xの控訴および当審における請求の拡張に基づき、原判決を次のとおり変更する。
(1)R社はXに対し、293万9348円および 遅延損害金を支払え。
(2)R社はXに対し、188万7132円および遅延損害金を支払え。
(3)Xのその余の請求を棄却する。
2.R社の控訴を棄却する。
3.訴訟費用は、第1・2審を通じてこれを5分し、その1をXの負担とし、その余をR社の負担とする。