【1.Xが従前の職務を行える健康状態に治癒していたか否か】
▼ Xの当時の状況等からすれば、Xは2018年4月12日の再出勤審査会の時点(または遅くとも在籍容赦期間満了日である同年5月23日の時点)で従前の職務である工務主任と同等の職務を通常の程度に行える健康状態に回復していたとも、または、リハビリ勤務など軽易作業に就かせればほどなく従前の職務と同等の職務を通常の程度に行える健康状態になっていたとも認められない。
【2.配置の現実的可能性がある業務による労務提供の可能性とXがそれを申し出たか否か】
▼ 本件の事実関係によれば、Xの職務および業務内容は限定されていないが、Xの能力、経験、地位、M社の規模、業種、同社における労働者の配置・異動の実情および難易度等に照らしてXが配置される現実的可能性があると認められる他の業務とは統括基幹職または主任が担当すべき業務であるというべきである。
▼ 2018年1月の再出勤の申し出の時点で、Xが統括基幹職または主任が担当すべき他の業務について労務の提供をすることができたとは認められず、Xがかかる業務についてその提供を申し出たことも認められない。
【3.本件解雇が解雇権濫用か否か】
▼ Xは、M社がXをリハビリ勤務にすら従事させなかったことや同社が主治医(A医師)の判断や職場復帰支援の手引きを無視したこと等を指摘して、本件解雇が社会的相当性を欠き無効であると主張する。
▼ しかし、再出勤審査会の実施要領では、同審査会は「再出勤またはリハビリ勤務の可否」を審査し、リハビリ勤務を不可とすることも規定されているため、M社がリハビリ勤務をさせずに再出勤を不可としたことが不相当であるとのXの主張には理由がない。
▼ 実質的にみても、Xの当時の状態や態度を考慮すれば、M社がリハビリ勤務をさせなかったことが不当であるとはいえない。
▼ 職場復帰支援の手引きは、厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」であり、M社に対し、その内容どおりに対応するべき法的義務を課すものではないし、同社がXの再出勤を不可とし、リハビリ勤務をさせなかったことは不当ではない。
【4.結論】
▼ よって、「手引き」に示された基準にしたがって判断しなかったからといって、社会的相当性を欠くとは認められず、原判決は正当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却する。
1)本件控訴を棄却する。
2)控訴費用はXの負担とする。