森の空想ブログ

熊の森、峠の藤の花 [花酒と旅の空<27>] 



宮崎県諸塚村は「百彩の森」と形容されるほど多様な林相を持つ山岳の村だ。江戸後期の本草学者・賀来飛霞(かくひか)は、延岡藩に招聘された薬草調査の旅でこの村に入り、植物と村の民俗を記録し、「高千穂採薬記」を著した。この書には、熊の捕獲例、貴重な薬草の分布、古風だけれど誠実で礼儀正しい村人の民俗なども記録されている。その時代に、この山岳地帯に棲息していたのは月の輪熊だが、熊は、「熊の肝」など種々の薬効があり、神獣と畏敬される動物であった。
諸塚の山から山、峰から峠へと越えて、北方は高千穂へ、西方は椎葉へと続く山道は、古い時代には熊も通った道であろう。山の道は、修験者や平家の落人、南朝の密偵などが通った道であった。峠を越えて来た人々はまたた次の村へと向かい、あるものは定着した。山人は、獣の皮や薬草、木の器や籠などを持って里へ下った。
車を止めて、さらに細い山道を歩き、遠い山脈を眺めながら耳を澄ますと、風の音に混じって笛のような、あるいはかすかな神楽歌のような響きが聞こえることがある。それが太古の森に潜む精霊の声である。九州の月の輪熊は絶滅したといわれているが、私は、この山脈のどこかに熊たちの生きる森があると思っている。



峠道の脇に咲く山藤の花を摘む。
山藤の花は天ぷらに揚げると美味しく、一般に市販されている焼酎に漬け込むと、その夜には飲むことができる。芳醇な香りが、焼酎の味と混合して、旨いのである。
「花酒」として貯蔵するには、やはり35度の蒸留酒に浸け込んだほうが良い。一週間ほどは花の色が滲んだ薄紫の酒を愉しむことができ、時が経つにつれて、蜜の甘味と香りとがなじんだまろやかな酒となる。オンザロックが良いが、炭酸で割っても美味しい。


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