松下 良「加賀野菜 それぞれの物語」を読みました。
北陸の仕事をさせていただく中で、加賀野菜に興味を持ちました。金沢出張の際に何度か加賀野菜を使っていることを銘打った食事を頂き、先日も加賀野菜のひとつ「五郎島芋」を使用したアキバ系ドラ焼きをいただきましたが(こちら)、確かに美味しいです。「加賀野菜」は、「京野菜」と並ぶ日本を代表する地域ブランド野菜で、たぶん藩政期の頃から加賀で作られている伝統野菜、という程度の認識だったのですが、本書を読んでその認識がかなり異なること、そして野菜そのものの歴史が意外に浅いということを知りました。
「加賀野菜」は地場産品のブランド化の成功例、という文脈で語られる例を多く見かけます。しかし、「加賀野菜」はブランド化が目的ではなく、伝統を守ろうという生産者たちの一種の文化運動の結果であることが本書を読むと理解することができます。
また伝統野菜についても少々私は誤解をしていました。確かに藩政期から金沢で作られていた「加賀野菜」もあるのですが、明治維新後に福島県など遠方からの品種が持ち込まれ地元に根付いたものも少なくありません。なお本書によると、そもそも野菜というものが商品として市場で扱われるようになるのは江戸期に入ってからなのだそうです。日本庭園を作る職人集団である植木屋の歴史は1000年に及ぶのに対し、野菜の生産に不可欠な「種」を商売にする「種屋」の歴史はわずか300年でしかなく、しかも明治初期には「種屋」は全国でも20軒程度で、京都、大阪、江戸の3都市以外には金沢に1軒、福岡に1軒しかなかった、というのは意外です。
本書は「加賀野菜」のみならず、加賀百万石の文化、そして我が国の野菜づくりの歴史について考える上でも参考になります。