goo

「辛酸入佳境」は強いるものではない @ 『辛酸』城山三郎

 


 田中正造は誰しも知っていますが、たいていは足尾銅山の今でいう「公害」を、帝国議会で舌鋒鋭く追及し、果ては代議士を辞して天皇に直訴したというようなストーリーでしょう。

 もちろんそれも田中正造の、ある意味では“華やかな一面”ですが、この小説『辛酸』は、谷中村の闘争はもう決着がついて、ほとんどの住民は別の土地に移転し、ほんのひと握りの「残留民」が、家屋を強制破壊された後も、雨に打たれた穴倉生活をしながら、「勝算」のない戦いをしている話です。

 田中正造も残留民も、もう野垂れ死に寸前です。その田中自身、小説の前半で死んでしまいます。後半は、田中亡き後の 見込みのない闘争を描いています。

 この小説のタイトル『辛酸』は、田中が好んで揮毫したという『辛酸入佳境』からきていますが、まあこれは、人に強いるものではないよね。そのために多くの犠牲を払っていることも、一方の事実です。100年後のために「今」を犠牲にできない人もいるんです。

 城山三郎自身、そういう「大儀」のために、個人が犠牲になることを 本当は拒絶してたんじゃないかな。

 

 

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 酸味の効いた... 昼の中休みな... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。