私は深沢七郎さんと同郷なんです。
「笛吹川」の流れる石和町の、すぐ近くで育ちました。
現在、笛吹川周辺の町村が統合されて、名前も「山梨県笛吹市」になっています。
昨日、『深沢七郎論』の注文があって、ふと深沢七郎の本を読みたくなって、大好きな『東京のプリンスたち』を読みかえしてしまった。
この本は、久里洋二の装幀がすばらしい、昭和34年発行の本です。
この小説は、まだ自宅でレコードをかける装置を持てず、喫茶店でプレスリーのレコードをかけてもらっていた時代の高校生たちの話。
以下、本文から抜粋。
表に愚連隊らしい奴が二人立っていて、こっちを睨んでいた。常雄はそっと女のヒトの蔭に隠れるように歩いた。田中も常雄の横に、避けるように歩いた。(この女のヒト、しっかりしてくれればいい)と思いながら常雄はそっと歩いた。(あんな奴等は、ロックンロールの唄を聞かない下等動物だ)と思った。俺達のように、ロックをききながら全身をリズミカルにゆすれば、あんな怖っかない眼つきや、暴力など何処かへ消えてしまうのにと思った。
その日のデイトは映画へ入ってしまった。映画などテンポがのろくて嫌いだが、テンコが「見たい」と言うので入ったのだった。洋館で、中年男と若い女の情事のツマラナイ映画だった。女を恋するとか、男を恋するとか、面倒臭いことは嫌だった。30分も見ているとアクビが出てきた。自分のことではないので興味がなかった。それに、(愛するなんて、あんな神経衰弱の様な、熱病の様なことは)と思った。重い、深刻なことは気分が悪くなるので嫌だった。音楽がいいというけどムード・ミュージックで、ナマヌルイ風呂に入ってる様な嫌なミュージックだった。
「つまんねえなァ、出ようか?」
と言うと、テンコも退屈していたらしい、すぐに立ち上がった。
「笛吹川」の流れる石和町の、すぐ近くで育ちました。
現在、笛吹川周辺の町村が統合されて、名前も「山梨県笛吹市」になっています。
昨日、『深沢七郎論』の注文があって、ふと深沢七郎の本を読みたくなって、大好きな『東京のプリンスたち』を読みかえしてしまった。
この本は、久里洋二の装幀がすばらしい、昭和34年発行の本です。
この小説は、まだ自宅でレコードをかける装置を持てず、喫茶店でプレスリーのレコードをかけてもらっていた時代の高校生たちの話。
以下、本文から抜粋。
表に愚連隊らしい奴が二人立っていて、こっちを睨んでいた。常雄はそっと女のヒトの蔭に隠れるように歩いた。田中も常雄の横に、避けるように歩いた。(この女のヒト、しっかりしてくれればいい)と思いながら常雄はそっと歩いた。(あんな奴等は、ロックンロールの唄を聞かない下等動物だ)と思った。俺達のように、ロックをききながら全身をリズミカルにゆすれば、あんな怖っかない眼つきや、暴力など何処かへ消えてしまうのにと思った。
その日のデイトは映画へ入ってしまった。映画などテンポがのろくて嫌いだが、テンコが「見たい」と言うので入ったのだった。洋館で、中年男と若い女の情事のツマラナイ映画だった。女を恋するとか、男を恋するとか、面倒臭いことは嫌だった。30分も見ているとアクビが出てきた。自分のことではないので興味がなかった。それに、(愛するなんて、あんな神経衰弱の様な、熱病の様なことは)と思った。重い、深刻なことは気分が悪くなるので嫌だった。音楽がいいというけどムード・ミュージックで、ナマヌルイ風呂に入ってる様な嫌なミュージックだった。
「つまんねえなァ、出ようか?」
と言うと、テンコも退屈していたらしい、すぐに立ち上がった。