小金沢ライブラリー

ミステリ感想以外はサイトへ移行しました

ミステリ感想-『殺人犯 対 殺人鬼』早坂吝

2019年10月09日 | ミステリ感想
~あらすじ~
孤島に建つ孤児院で、いじめに遭っていた友人が崖から身を投げた。
復讐のため殺人犯は3人のいじめっ子を殺すことを決意。
だが第一の標的は既に殺され、眼窩に金柑を嵌め込まれていた。
絶海の孤島となったここには、殺人犯だけではなく、殺人鬼もいる。


~感想~
早坂吝作品で毎回言ってる気もするが、脂の乗った作者がその勢いのままに書いた秀作。
冒頭、殺人犯が別の殺人犯に先を越されるという状況や設定からして面白く、語り手はめげずに次の標的を狙い、変形の倒叙形式ミステリとしても楽しめる。
なんせ二人も犯人がいるものだから、じゃかすか凶行が行われ物語の展開は早い。登場人物はそれぞれわかりやすい特徴を持ち、しかも特徴にちなんだ覚えやすい名前を持つ(つい最近どこかの新人作家で見たような…。もしやパロディ?)親切設計で、あっという間に読み終えられる。
大仕掛けがさりげなく、しかし周到に張り巡らされているが、それでいて窮屈さは一切感じられず、作者の「このくらいの仕掛けは片手間に張れますけど?」と言わんばかりの余裕すらうかがわせる、洗練ぶりには舌を巻いた。本当にノリにノッているな!
その大仕掛けを除くと論理も推理も小粒感は否めないが、異様さの際立つそれ一つで全てを補って余りある。
またとある趣向の一つには早々に気づいたものの、まさかそれが趣向の一つどころか、真相そのものに直結していたのには驚かされたし、もうちょっとで全て見破れたかも知れないという口惜しさも感じた。
著作のほぼ全てが驚くべきハイアベレージを誇る作者が、また一冊を積み上げたと言って良いだろう。


19.10.2
評価:★★★☆ 7

コメント    この記事についてブログを書く
« オカルト三国志  見知らぬ子供 | トップ | SCP-1971~1980 »

コメントを投稿