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ミステリ感想-『許されようとは思いません』芦沢央

2018年05月24日 | ミステリ感想
~収録作品とあらすじ~
村八分にされた挙げ句、夫を殺した祖母の納骨のため久々に故郷を訪れた孫は、恋人から祖母の意外な思惑を聞かされる…許されようとは思いません
誤発注をごまかすため営業マンは配達員に変装するが、そのさなかに交通事故を目撃。証言できず悶々としていると事故はおかしな方向へ進み…目撃者はいなかった
子役の孫娘のため全身全霊で尽くしてきた祖母は、寒空の下その孫娘に閉め出されてしまい…ありがとう、ばあば
姉が逮捕されて以来、色眼鏡で見られるように感じる妹は、育児ストレスからつい娘に手を上げてしまい…姉のように
凄惨な人生を歩んできた女画家が遺した地獄絵図のような幻の作品。その贋作と思われるものが持ち込まれ…絵の中の男

2016年このミス5位、文春7位、日本推理作家協会賞(短編)候補(※表題作)


~感想~
大傑作。5編収録のノンシリーズ短編集だが全部が全部、短編集中のベスト作品級の逸品揃い。
どれもブラックな味付けなので好みは分かれそうだが、連城三紀彦か米澤穂信好きにはぜひお勧めしたい。

冒頭の表題作からがっちりハートをつかまれ引き込まれた。終結した過去の出来事として語られ、全ての罪を認め「許されようとは思いません」と告げた祖母の犯行。だが語り手の恋人の気付きから事象は反転し、明かされる祖母の真意には唖然とした。そこからさらに捻りも加わりと、表題作にも冒頭の一編にも相応しい傑作である。

続く「目撃者はいなかった」はスラップスティックのような展開ながら、たった一つの過ちからのっぴきならない事態に追い込まれ、地獄の底へと叩き込まれるリーマンの悲哀に黒い笑いが込み上げる。

そして超笑ったのが「ありがとう、ばあば」で、クソババアが見え見えのフラグを着々と立てて行く、伏線も真相も着地も全部見え見えだからこそのカタルシス。ラストシーンは思わずガッツポーズが出た。個人的には本作中のベスト。

「姉のように」は前の一編が簡単に見抜けたからと油断していたわけではないが、真相が明かされるや目が点になった。「目撃者はいなかった」のようにじわじわと真綿で絞められるように追い込まれ…というか自分で自分を追い込んで行き、しかしまさかこういう結末を迎えるとは思わなかった。これをベストに挙げる向きも多いだろう。

そして「絵の中の男」は作風もさることながら一人称で昭和30年頃が舞台ということもあり、まさに連城三紀彦の風格。導入から結末まで短編とは思えないほどに濃密な物語が描かれタイトルへと収斂して行く、その着想といい雰囲気といい連城ばりに実はここまでは嘘(嘘とは言ってない)と書かれていないのが不思議なほど。

総じて2014年にこのミス・文春W1位に輝くなど激賞された米澤穂信「満願」にも比肩し得る、しかも米澤作品とはまた異なる黒さと毒を併せ持った素晴らしい短編集である。


18.5.22
評価:★★★★☆ 9

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