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小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『イナイXイナイ』森博嗣

2016年09月04日 | ミステリ感想
~あらすじ~
美術品鑑定士のかたわら探偵も務める椙田泰男にもたらされた奇妙な依頼。
それは封建的な亡父に支配されていた家の地下に住む、亡くなったはずの兄を探して欲しいというものだった。
不在の椙田に代わり助手の小川令子と留守番の真鍋瞬市が、美術品鑑定がてら調査に赴いた矢先に事件が起こる。


~感想~
Gシリーズがまだ続いているところに唐突に始まった新シリーズ。
Xシリーズと銘打たれた本作、時系列的にはGシリーズの「η(イータ)なのに夢のよう」のすぐ後にあたり、またある登場人物について「η」で重大なネタバレがされているため、シリーズをまたいで出版順に読んでいくのが吉と思われる。
名家で起こる密室殺人、地下牢に閉じ込められた死んだはずの兄、謎めいた美人の双子、障害のある下男、そして秘められた禁断の愛と、およそ森博嗣らしからぬ、これでもかというほど古き良きミステリのプロットてんこもりで、ものすごく真っ当な本格ミステリらしいトリックまで仕掛けられる。
だが筆致はきわめて軽快で、社交性が高くだいぶ俗物になった海月及介みたいな真鍋くんと、アラサーで恋愛脳の西之園萌絵みたいな小川さんの掛け合いが非常に面白く、二階堂黎人なら千枚の長編に仕上げそうなプロットもあっさり語られ、ドロドロした部分にはほとんど触れられずと、あっという間に読み終えられる。

「Τ(タウ)になるまで待って」や「η」のようなミステリ史に残りかねないほど絶望的なトリックも平然と出す一方で、「θ(シータ)は遊んでくれたよ」や本作のようなミステリミステリしたトリックも仕掛けてくる近年の森博嗣はやる気があるのか無いのか悩むところだが、いずれにしろ新シリーズの開幕作としては及第点の作品である。


16.8.30
評価:★★★ 6
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