goo blog サービス終了のお知らせ 

小金沢ライブラリー

ミステリ感想以外はサイトへ移行しました

ミステリ感想-『午前零時のサンドリヨン』相沢沙呼

2009年12月15日 | ミステリ感想
~あらすじ~
僕が一目惚れしたクラスメイト。不思議な雰囲気を持つ酉乃初は、実は凄腕のマジシャンだった。
放課後にレストラン・バー『サンドリヨン』でマジックを披露する彼女は、僕らが学校で巻き込まれた不思議な事件を、抜群のマジックテクニックを駆使して鮮やかに解決する。
第十九回鮎川哲也賞受賞作。


~感想~
26歳の新人によるデビュー作で、高校生の甘酸っぱい恋愛模様にマジックをからめた、ハートウォーミングな日常の謎ミステリ……などという悪い意味で鳥肌の立ちそうな外見にそぐわない、実に「達者な」筆致で、計算ずくの展開や伏線の的確さ、連作短編集として一本芯の通った物語と、初々しさよりも老練さを感じさせる、珍しい作家である。
なんでも授賞式では泡坂御大ばりにマジックを披露した(それも作中で実際に使われたマジックを作中とは違うオチでやって見せた)というエピソードも頼もしく、この作者はこの程度の作品ならばこれからいくらでも作り出せるだろうと早くも思わせてくれる。
だが、選考委員の一人・笠井潔が「作者は登場人物それぞれや、さらに主人公にもあれこれと「悩ませる」のだが、作者自身は妙に余裕ありげで、さほど悩んでいるようには感じられない。この程度に設定しておけば、悩んでいることになるだろう、悩んでいる人物として読者に通用するはずだという判断の常識性が気になる」と指摘するように、あまりに老獪すぎて、題材にとったマジックのフラリッシュ(技術を見せる曲芸的な手品)さながらに、技術や巧みさばかりが目に付き、たとえば同じ日常の謎系で前年の受賞作となった『七つの海を照らす星』と比べると、仕掛けられたトリックが小粒であったり、チャレンジ精神のようなものが見受けられないのもたしかで、新人賞の受賞作としては十全であっても、本格ミステリの新人賞である鮎川賞として、または単に面白いミステリとしては物足りない面があるのもたしかではある。
が、そんなことは瑣末事であり、(笠井の言をとるならば最近の森博嗣とか「この程度に設定」しすぎてるだろ)達者で確かな力を持った新人が現れたことを素直に喜ぶべきだろう。


~選評について~
↑でも触れた選評が実に奇妙なことになっていて、満場一致で「うまい」と認めているものの、もはや言いがかりとしか思えない文句をつけているものがちらほらあるので紹介したい。
たとえば北村薫は「あまりにもまとまり過ぎてい」て他の作品に比べて化ける可能性が低い、と言い、山田正紀は「この作品はあまりに達者すぎるし、完成されすぎていて、ここに探偵小説の未来を託すのは難しいかもしれない」などとひょっとして山田先生どうかしちゃったのかしらと思いたくなるいちゃもんを付けていて(相沢よりはるかにデビュー当時から「達者すぎる」実力を見せていた京極夏彦や宮部みゆきは大成しないと想像した人がいるだろうか)、笠井潔にいたってはあれが足りないこれが足りないと自分勝手に盛り上がり、挙句の果てに「この時代を生きることへの作者の態度に疑問がある」から棄権という「知っているがお前の態度が気に入らない」のAAを思いださせるていたらくである。

あのーなんなんですかこれ? 相沢沙呼がたとえば人生経験豊富な50代の教職経験者だったりしたら、たぶんもろ手を挙げてみんな賞賛してたと思うんですよね。
ここにははっきり言って才能と若さに対する嫉妬のようなものがかいま見えてしかたありません。
その点、選考委員の最後の一人・島田荘司御大は、さすが新本格派を勃興させ、いまもなお同人やマンガとコラボし、海外にも精力的に出向いて新人発掘に余念がない、先駆者たる貫禄を示す、実に冷静な、そして温かい選評を書いている。(無論それは受賞を逃した他の作品に対してもだ。まあなんとかして良いとこ見つけすぎのヨドチョースタイルな感もあいかわらずあるんだけども)
新人賞は有望な新人を発掘し、ミステリ界をより発展させるためにあるのだ。わけのわからないいちゃもんで新人つぶしをする場ではない、(城平京という前例を忘れてはならない)ということを御三方はわかっているのだろうかと疑問に思えてならない。


09.12.10
評価:★★★ 6
コメント