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ミステリ感想-『昆虫探偵』鳥飼否宇

2006年04月25日 | ミステリ感想
~収録作品~
蝶々殺蛾事件
哲学虫の密室
昼のセミ
吸血の池
生けるアカハネの死
ジョロウグモの拘
ハチの悲劇


~感想~
昆虫の世界の昆虫の事件を昆虫の論理で昆虫が解く昆虫づくしの異色ミステリ。
各編は有名ミステリのパロディという側面も持ち、ことに『吸血の池』は原作を知っていると、真相になおさらニヤリとさせられる。
登場人物(虫)は数も種類も膨大で、名前も非常に覚えにくいが、それぞれの特徴を的確に捉えており、把握は難しくない。正統派ミステリの仕掛けを昆虫の生態にからめて描かれるため、トリックは単純ながら、一般層にはなじみの薄い、昆虫の生態を知ることもでき、一粒で二度おいしい小品である。
普通のミステリとくらべてなにより際だっているのが、その動機の特異さ。なにせ昆虫の世界。怨恨やら金銭やら恋愛のもつれなどというものはない。生きるか死ぬか、食うか食われるか、子孫を残せるか滅びるか、まさに弱肉強食の世界。昆虫ならではの動機は殺伐としてもおかしくないが、描写はあくまでも軽快。ダジャレめいた名前や、前頭部(あたま)、前脚(て)などの当て字が物語をやわらかくしてくれる。
文庫版には昆虫ならではの論理が冴える「ジョロウグモの拘」を書き下ろし。昆虫マニアは必読?


06.4.25
評価:★★☆ 5
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