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ミステリ感想-『扉は閉ざされたまま』石持浅海

2006年04月07日 | ミステリ感想
~あらすじ~
洋館を改築したペンションでひさびさに開かれた同窓会。
そこで男は密室殺人を計画する。旧友を殺し、閉ざされた扉をめぐり犯人と探偵の、静かな戦いが幕を上げる。


~感想~
あらすじだけ見れば珍しくもないが、このミステリの異色なところは、終始、閉ざされた扉を前に議論が交わされるだけで物語が進んでいく点にある。
倒叙形式(刑事コロンボや古畑任三郎のように、冒頭で犯行の手段が描かれ、読者には犯人が誰なのか明白ななか、主に犯人の視点で物語が進み、犯した小さなミスから犯行が露見していく形式)ながら、読者に推理の材料を与えるわけではなく、議論を自然に誤りへと導く犯人と、謎を解こうとする探偵との静かな戦いを味わわせてくれる。
思い起こさせるのは『毒入りチョコレート事件』よりも『麦酒の家の冒険』だが、今作では探偵役はあくまでも一人であり、脇役たちも推理を述べるがそれはあくまでも狂言回しであり、焦点は常に犯人と探偵だけに絞られている。
期待どおりに探偵は安楽椅子探偵さながらに、推理だけで全ての真相に達してくれるが――それだけで終わらないラストや、純粋論理だけで構成されたプロットは、実はあまり僕の好みではない。
野球に例えるならヒットを積み重ねたような今作よりも、派手なトリック一発で逆転ホームランに心ひかれてしまい、今作が年間ベスト級の傑作という評判を聞くと、どうにも首をかしげてしまう。ラストもなんだかなぁ。
いろいろ言ってみたが、これは整いすぎるほどに整った論理の結晶体。僕のたわごとなど気にせず、ぜひお試しあれ。


06.4.6
評価:★★★ 6
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