内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

色彩豊かで典雅な音の絵巻物 ―アレクサンドル・タローによるラモーとクープラン

2023-02-22 10:36:33 | 私の好きな曲

 いくら好きな曲でも、その曲の好きではない演奏(あるいは解釈)はある。その曲が好きであればあるほど、お気に入りの演奏への愛着も深く、それに反した演奏には拒絶反応を示してしまう。そこまで行かずとも、気に入らない演奏をわざわざ聴いてみようとは思わない。そんなCDはお蔵入りするか、売り飛ばすことになる。
 これは上手い下手とは違う問題だ。技術的に完璧でもつまらない演奏もある。逆に、技術的には難があっても、心に響く演奏もある。遠い昔のことだが、教会でいつも奏楽を担当している現役音大生がバリバリ弾いていたショパンのワルツが不愉快になるほどつまらなく、その後に牧師さんの十歳になる娘さんが弾いたたどたどしいモーツアルトのピアノ・ソナタがとても心に染みた。それは弾けるのが楽しくて仕方がないという愉悦感が自ずと表現されていたからだ。
 相手の趣味がよくわっていないと、CDを贈り物にするのはむずかしい。いくら自分が気に入っていても、相手が同じように気に入ってくれるとはかぎらない。もらった方も困る。CDを誕生日プレゼントにもらって困惑したことがある。曲そのものは名曲中の名曲、私も大好きな曲だ。相手もそれを知っている。しかし、演奏がまったく気に入らない。始末が悪いことに、「きっとあなたの気に入るはずだから」と添え書きまで付いている。礼状は書くが、CDは棚で「永眠」することになる。
 曲は好きではないのだが、その曲の演奏は好きだということはあまりないだろう。多くの場合、好きな演奏とは好きな曲の演奏ということだろう。もっとも、曲は特に好きではないが、演奏には聴かせるものがあると認める場合はあるだろう。そのような場合を除けば、私の好きな曲を語るとは、私の好きな演奏を語ることでもある。だからこのブログでは「私の好きな曲」というカテゴリーの中に「私の好きな演奏」も自ずと含まれることになる。
 それまではあまり関心もなく、「聴かず嫌い」とまでは言わないにしても、わざわざ聴こうという気にならなかった作曲家のCDを贈られて、気に入ってしまったという場合はある。昨年そういうことがあった。アレクサンドル・タロー演奏『ラモー : 新クラヴサン曲集』(2001年録音)である。
 ラモーの名前は知っていても、それとして意識して聴いたことはかつてなかった。アレクサンドル・タローのCDは、バッハ、スカルラッティ、ベートーヴェン、ショパンなど、数枚持っているが、作曲者や作品によって、私の好き嫌いがはっきりわかれるピアニストだ。このラモーの演奏はとても魅力的だ。おかげでラモーを「発見する」喜びを得られた。
 ネットでタローの他のCDの情報を見てみると、クープラン作品集 Tic toc choc(2006年録音)はさらに世評が高い。さっそく聴いてみた。素晴らしいを超えている。凄い。「大発見」である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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