内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

ジャニコーの「哲学的遺言」― 若者の精神、驚きの感覚、方法論的精確さ、観察における厳密さ

2023-01-25 23:59:59 | 哲学

 ドミニック・ジャニコーが亡くなったのは、2002年8月18日、エズ(Èze)という地中海を望む小さな山頂の村でのことだった。この村はニースとモナコの中間あたりに位置し、コート・ダジュールの海岸から村までは「ニーチェの道」(Chemin de Nietzche)と呼ばれる山道を登っていく(この道の名の由来は、ニーチェが『ツァラトゥストラ』第三部をこの村で構想したことにある)。ジャニコーの死は、この山道を登った後、突然訪れた。64歳だった。9月1日付で四十年近く教鞭を取っていたニース大学を定年退官する直前のことだった。
 ジャニコーの絶筆となったのは、彼が監修した『ノエシス』(Noesis)第6号 Les idéaux de la philosophie の前書き(Avant-propos)の書き出し十行ほどである。しかし、そこにはジャニコーの哲学者としての根本的な姿勢が簡潔かつ感動的な仕方で示されている。全文引用する。

Pourquoi se tourner vers les idéaux de la philosophie ? Qu’on me pardonne de donner d’abord une raison personnelle. À la veille de quitter l’activité professionnelle dans un Département où j’ai exercé pendant près de quatre décennies, j’ai à cœur de laisser à mes successeurs et aux jeunes générations ce modeste testament philosophique : la philosophie n’est pas une discipline ordinaire ; point de philosophie digne de ce nom sans enthousiasme pour ses idéaux et ses inspirations fondamentales : esprit de jeunesse, sens de l’étonnement, précision méthodologique, rigueur dans l’observation.

Un Testament philosophique, textes choisis et présentés par Anne-Marie Arlaud-Lamborelle et Marc Herceg, Nice, LESEDITIONSOVADIA, collection « Chemins de pensée », 2018, p. 218.

なぜ哲学の理想へと向かうのか。まず個人的な理由を述べることを許されたい。四十年近く勤めたこの学科での職業活動を終えるにあたり、私の後任者たちや若い世代に、このささやかな哲学的遺言を残したいと思います。哲学は普通の学問ではありません。哲学の理想やその根本的な閃きに対する情熱、すなわち若者の精神、驚きの感覚、方法論的精確さ、観察における厳密さがなければ、その名にふさわしい哲学は存在しないのです。

 私にとってこの「遺言」がことのほか感動的なのは、ジャニコーはまさにこのような哲学を生涯実践し続けたからである。突然の死に襲われることがなければ、ジャニコーはまだまだ大きな仕事を遺したはずである。それはほんとうに惜しまれる。しかし、彼が遺してくれた諸著作とこの「遺言」は哲学の理想へと向かうように後進を鼓舞しつづけることだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


最新の画像もっと見る

コメントを投稿