内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

コロナウイルス・パンデミックは人類の危機管理能力の試練の時

2020-03-13 14:34:04 | 雑感

 昨晩、マクロン大統領はテレビ放送で来週月曜日からのフランスの全学校機関の閉鎖を宣言した。期間は「次の命令まで」、つまりいつまで続くのか今はわからない。ここまで極端な措置が前触れなしに決定されたことで教育現場は混乱している。今この記事を書いている間にも次から次へと大学当局からコロナウイルス関連のメールが送られてくる。
 いつまで閉鎖が続くかわからない状況下で閉鎖解除後に補講するという選択肢は非現実的である。各教員はにわかに代替教育手段を考案・準備しなくてはならなくなった。確かに、スライド、ヴィデオ、チャット、インターネット授業など、IT技術のおかげでさまざまな手段が可能ではある。だが普段それらを使い慣れていない教員たちにとっては急にそれらを使えと言われても戸惑わざるをえないだろう。それに、実験や実演など実験室やそれなりの設備が備わった教室でなければできないタイプの授業もある。
 私自身の授業に関しては、さしあたり来週は以下のような措置を取るつもりだ。月曜日の日本語のみの授業「日本文明・文化」では、学生たちが教室で私の話を聴くことが重要な部分をなしてはいるが、ヴィデオや映画等をオーディオ・ヴィジュアル教材としても使っているので、そちらにさらに重点を置き、それらの教材を学生各自に自宅で見させ、課題を提出させ、それを添削して返す。火曜日の「近代日本の歴史と社会」では、日本語のテキストを送信し、その翻訳・要約・分析を課題とし、すでに学期末まで準備ができているスライドの来週分のテーマについての仏語小レポートを提出させ、添削とコメントを返す。水曜日の修士一年の演習「近現代思想史」は隔週で組んであるのでまだ四月以降に時間的余裕がある。来週はだから休講にする。木曜日の「近現代文学」は中間試験が予定されていたが、これは延期する。オンライン試験も技術的には不可能ではないが、来週木曜日にはとても準備が間に合わない。ただ、オンライン模擬試験として、来週のために用意した試験問題とは別の課題を出し、制限時間内に答案を送信させるという「実験」を行ってみようかと思っている。
 一日も早い閉鎖解除と平常授業再開を願うことでは人後に落ちないつもりだし、感染拡大の遅速化、有効な治療法の早期発見と確立、そしてもちろんパンデミックのあまり遠からぬ終息を願わずにはいられない。コロナウイルスで亡くなられた方々には心からの哀悼の意を表します。
 と同時に、こうも思っている。個人の力ではどうしようもなく、家族-友人・知人間-街-地域-地方自治体-国家-国家間関係-世界というそれぞれに異なったレベルでの冷静かつ適切な対応と行動が要求される現在の状況は、人類の危機管理能力が試されている試練の時ではないか、と。その試練の中で、私たちが今まで自明の前提としてきたことどもの再検討が不可避となり、壊れたものの再構築だけでは済まされず、既存システムの強化・改善・改良・改革等が喫緊の課題であることが自覚されはじめている。と同時に、この試練は、これまで「普通」だった働き方や生活の仕方の見直しを私たちに強いずにはおかない。それだけではない。この試練は、流通経済のあり方、科学と政治との関係、自然への人類の態度、そして世界の見方そのものを根本から問い直すことを私たちに迫っている。