『公平・無料・国営を貫く英国の医療改革』(竹内和久・竹之下泰志、集英社新書)を読む。イギリスの公的医療制度NHS(National Health Service)について、ブレア労働党政権の改革をきわめて好意的にとりあげた本です。しかしこの本では、ちょっと気になる欠落があります。なぜNHSが早急な改革を必要とされるようになったのかという原因が、いわゆる国営事業の非効率のようなものに求められているように曖昧な形でぼんやりと読めるのです。しかし事実は、サッチャー政権下での民営化攻撃がNHSの現場にも波及し、予算削減によるサービス低下や事業を民営化して細分化したことによる効率の悪さなどが蔓延したことにあります。ここのところを押えておかないと、ブレア政権による“改革”の成果が、あたかも地域分権と外部評価のみによって達成されたかのように理解されてしまうのです。他人から仕入れる知識は、よくよく注意して摂取することが必要ですね。