航空需要はコロナ前の半分以下
航空業界は依然として厳しい環境にある。国際航空運送協会(IATA)が4月に発表した2021年の世界の航空需要予測は、新型コロナウイル
ボーイングの21年1~3月期決算は、最終(当期)利益が5億6100万ドル(約611億5000万円)の赤字で、6四半期連続の最終赤字だった。ANAホールディングスの21年3月期は4046億円の最終赤字。日本航空も同2866億円の最終赤字と、航空機メーカー、航空会社ともに苦しい。
新型コロナの感染拡大はいつ収束するのか、その後の航空業界はどのような姿なのか、今は誰も見通せない。スペースジェットの開発は3年間中断の後に、また判断するというのが三菱重工の基本スタンスだ。
新型コロナの感染拡大はいつ収束するのか、その後の航空業界はどのような姿なのか、今は誰も見通せない。スペースジェットの開発は3年間中断の後に、また判断するというのが三菱重工の基本スタンスだ。
この間、三菱航空機は人員を1700人程度から200人弱まで減らし、名古屋空港ターミナル内にあった本社は、空港隣の三菱重工の最終組み立て工場内に移した。試験機は日本に1機、アメリカに4機あるが、いずれも飛ばす予定はなく格納庫に入ったまま。技術者の主な仕事は、型式証明取得のために必要な書類の精査になっている。とりあえず3年間は“巣ごもり”で耐えるしかない。
専門家の見方は……
ただ、苦しいながらも、「開発の灯を消すことなく頑張ってほしい」と言うのは、東京大学未来ビジョン研究センターの鈴木真二特任教授(航空工学)だ。「今後は航空業界も脱炭素化の流れで、燃費性能の良い新しい機体への更新が求められる。100席以下のリージョナルジェットで新しい機体を作れるのはブラジルのエンブラエルと三菱航空機だけ。スペースジェットは燃費も良く、チャンスは十分ある」と話す。
また、「航空産業は最先端の技術を追究していく。自動車産業が電動化の激変で過酷な国際競争を強いられるなかで、航空産業は次世代の日本のものづくりを支える重要な柱になる」とも鈴木氏は付け加えた。
一方で厳しい見方をするのは、航空評論家の青木謙知氏。「開発を始めて10年以上たつのにまだ型式証明を取れない。航空機は開発を始めたら早く型式証明を取らないと、どんどん古い機体になってしまう。このまま続けても収益が見込める可能性はほとんどなく、どこかでやめる決断をした方がいい」と手厳しい。
スペースジェットは08年に開発を始め、当初の納入予定は13年後半だったが、その後6回の納入延期を繰り返した。3年の中断の後に24年から試験飛行を再開して型式証明取得を目指し、仮に短い期間で取れたとしても、航空会社への納入は25~26年ごろになってしまうだろう。「スペースジェットは市場に出ても古い設計の機体と思われてしまう。一度買えばその機体を20年は使う航空会社が魅力を感じるだろうか」(青木氏)というのだ。
足を引っ張り続ける?
開発を支える三菱重工の収益環境は厳しい。21年3月期決算は、最終利益が406億円で前期比53%減だった。ボーイング向けのB787の主翼、B777の後部胴体の納入が、コロナ禍でほぼ半減したことなどが響いた。ボーイングの事業は当面厳しい状況が続く。さらに今後は脱炭素化の流れで火力発電事業の縮小が予想される。水素やアンモニアを使う発電事業に注力するというが、事業化できるのは25年ごろとまだ先だ。
ある三菱重工社員は「最近は社内でもスペースジェットのことはあまり話題にのぼらなくなった。それよりも会社全体として脱炭素化時代にどう対応するかの方が大切」と話す。
当初は「将来は三菱重工の収益の柱の一つに」という期待で始まったスペースジェット事業。だが、開発の迷走にコロナ禍が加わったことで、「収益の柱」どころか、長期にわたって同社の足を引っ張りかねない「お荷物」になってしまった。簡単に収益事業に転換できないことははっきりしているだけに、泉沢社長の「市場環境を見極めながら」という言葉に苦しさがにじんでいる。