旅とエッセイ 胡蝶の夢

ヤンゴン在住。ミラクルワールド、ミャンマーの魅力を発信します。

今は、横浜で引きこもり。

ロングウェイ

2018年12月29日 18時35分28秒 | エッセイ
ロングウェイ

 今朝、48時間の連続勤務が明けて品川駅から、京浜急行に乗って帰宅した。年末の土曜の朝の快速はすいていた。
 列車の接続部にある向かい合わせ4人掛けに、ひげの欧米人の若者が1人で座っていた。お前、足長すぎ、向かいに座れないだろ。はす向かいに座ると、彼がスマホを見せて聞いてきた。「横須賀中央は、この電車でよいのですか?」「Yes,you can go, but long way. More than one hour.」

 実際には、快速だから1時間はかからなかったな。long way(長い道のり)で0.2秒ほど、彼はンって顔をしたが、直ぐにlong way. Thank you.
 後であの0.2秒のンっ?の理由に気が付いた。wrong way(間違った道ゆき)と聞き間違えたのだ。でもmore than one hour(1時間以上かかるよ)で、納得した。RとLの発音だ。
 日本人の俺には、rice(米)もlice(しらみ)もライスで一緒だ。昔昔、ドイツ人からルルルルいちろ(一郎)、ルルルル、ロウ。ほら違うだろ。としつこく指導されたが、身に着かなかった。

 もともと、日本人の赤ちゃんもイギリス人の赤ちゃんも、RとLは聞き分けられるのだろう。でも日本語で区別していないのだから、子供になって言葉を覚えると、自然とごっちゃになる。欧米人はRとLの境目ははっきりしている。中間のRとLの合成という音はない。
 中世までの日本人なら聞き分けられ、使い分けられたのだろうな。


岸恵子さん

2018年12月26日 14時02分24秒 | エッセイ
岸恵子さん

 岸恵子さんと言えば、『君の名は』(3部作)の真知子巻き。見たことないけど。アニメの『君の名は』なら何度も見た。監督の新作が楽しみだ。
 どちらも男女のすれ違いが切ないのだろうけれど、スマホとインターネットの現代では、すれ違うのに相当複雑な設定がいるのね。真知子さんの時代なら、簡単にすれ違えたのに。

 岸さんは横浜の生まれで、県立平沼高校を卒業している。お袋の3年後輩だ。この違いは大きい。勤労奉仕で軍需工場で鉢巻をして働き、横浜大空襲では焼夷弾の中を逃げまどい、焼け跡でたくさんの黒焦げ死体を見たお袋。疎開先から戻って、焦土と化した平沼商店街を見た岸さんとでは、衝撃の度合いが違う。

 戦後、横浜市西区戸部町7丁目で洋服店(紳士服オーダーメイド)を営んでいた我が家は、店の前が当時市電の走る国道1号線。裏に廻れば、帷子川を挟んで平沼商店街。昔は縁日をやるほどの賑わいだった。今は寂れて見る影もない。
 市電の運転手をしていた叔父さんの弁当は、店の前で待っていて毎日手渡ししていたという。戸部映画館もあったし、活気のある町だったんだ。

 さてご近所の岸さん、何故かうちに訪ねてきたことがあったそうだ。彼女が女学生の時だろう。おばあちゃんがよく話していた。でも何故かお袋から聞いたことはない。留守だったのかな。
 おばあちゃんの話でよく繰り返されたのは3つ。関東大震災とそれで弟が死んだこと。おじいちゃんが召集されて中国に行き、2年後?に帰ってきたこと。その2年間で一度も敵兵に出会わなかったが、マラリアを持ち帰ってこと。7日ごとに高熱を出し、布団と毛布にくるまってガタガタ震えていたこと。それと岸恵子さんが家に訪れたことだ。
 目の覚めるほど綺麗でお上品なお嬢さん。これがおばあちゃんの第一印象なのだが、ばあちゃんのビックリはその後だ。
 その日、何故彼女が家に来たのかは定かではない。忘れてしまった。何か頼まれごとでも引き受けたかで、お礼に多分菓子折りなど持参されて来られたらしい。
 おばあちゃんのビックリは、その後女優になった岸さんが、凄いアバズレを演じたことだった。「あんなに上品なお嬢さんがねえ。」戸部映画館で見たんだろうな。

 子供心にその言葉を覚えていて、後で勝手に彼女が出たのは、『肉体の門』(見たことがある。最初の方だと思う)だと思い込んだ。今回ネットで岸恵子さんのプロフィールを見ていたら、『肉体の門』に出演していないことが分かった。あれっ?じゃあ、どの映画?

 さて話は替わるが、精神科の先生の本を読んでいたら、岸恵子症候群(先生が勝手に命名)なるものが出て来た。決して岸恵子さんが精神を病んでいるのではない。間違えたらアカンよ。ある種の女性患者の妄想に岸恵子さんひんぱんに出てくるのだ。
 「私は実は腹違いの岸恵子の妹なの」「私の従姉妹は岸恵子」「岸恵子とは子供の時からの親友」とか患者(必ず女性)の妄想の中に岸さんが実によく出てくるらしい。またも現れたか、岸恵子。
 精神の照準が一般生活を送る範囲を超えてしまった人達が気になる、憧れの存在が岸恵子さんなのだ。でもこれは、範囲内の一般の人でも同じだろう。あの時代、女優でフランス人と結婚してパリに住み、アラン・ドロンやウィリアム・ホールデンと友達付き合い。
 パリに憧れパリを知らずに、あくせくと日々を生きる女性たちの夢。何しろパリまでプロペラ機で48時間かかった時代だ。
 当人からすれば、「何よ、人の苦労も知らないで。パリに住めば、自然にフランス語が話せるようになるとでも思っているの。」となるよな。

 岸恵子さんは、女性が好きな(憧れる)女優さんなんだろう。男性も当然だけど。逆に男性に支持され、女性から総スカンを食う女優は誰?
 まずは清純派じゃあないかな。八千草薫、吉永小百合(共に若いころ限定)。「ふん、何よ、ウンコもしないって言うの!」あとはブリっ子、肉体派?ブリジット・バルドー、ソフィア・ローレン?本格派もそうかな。エリザベス・テーラー、カトリーヌ・ドヌーヴ。オードリー・ヘプバーンは女性ファンが多そうだ。安室奈美恵は圧倒的に女の子に愛される。

 今、岸恵子さんの『巴里の空はあかね雲』(新潮文庫)をブックオフで買って読んでいて、こんなことを思いました。ちなみに岸さん、かなりブっ飛んだ女性です。えらくキップのよい人なのだ。会って話したら、相当面白い人だろうな。
 本の中にこんな一文があった。引用しますよ。『男にもてる自信はないが、女子供とおかまサン、そしてお年寄りには無差別に、イヤというほどもてはやされるケイコさんなのである。』確信犯だ。
 おばあちゃん、16-7歳頃の彼女に会えて良かったね。その一瞬、7分間の出会いは、一生の宝物だよ。



サカタの種

2018年12月16日 15時18分19秒 | エッセイ
サカタの種

 半世紀以上前の話。小学校の国語の教科書に載っていた小説で覚えているのは、『走れメロス』(太宰治)、『トロッコ』『くもの糸』(芥川龍之介)。『舞姫』(森鴎外)は、中学か高校だったろうか。舞姫には感動したが、よく考えれば女を捨てて逃げ帰った卑怯者。

 『トロッコ』はそんなに感銘を受けなかったが、夕やみ迫る中、行ったことのない遠くでポツンと取り残された心細い気分はよく分かる。共感できる。
 でもあのケースでは帰る路が示されていた。線路だ。自分が子供の時に遭遇したケースは、帰り道が分からなかった。ローカルな話だが、小学4年の時、京浜急行の日ノ出町にある塾に通っていた。
 住んでいた最寄りの駅は、戸部(とべ)だ。日ノ出町は急行が止まり、戸部には止まらない。日ノ出町の次が戸部で、その次は横浜だ。勘の良い人ならもう分かったね。塾の帰り、間違えて急行に乗ってしまったのだ。
 自分の降りる戸部に止まらずに、走り去る電車の中で、小4の自分は顔をひきつらせた。反対側のホームに行って、折り返しの各駅停車にの乗る知恵はなかった。

 やたらと人の多い横浜駅で降り、大人の後ろについて定期を見せ(乗り越しなのだが)、歩き廻って地上に出た。人見知りの少年は、戸部駅はどっちですか?と人に聞けない。
 線路の向こうの方から来たのだから、反対に戻ればよい。どうせ1駅だ。しかし、横浜駅の地上出口から線路は見えない。見えたとしても相鉄線、東急線、国鉄と入り交ざっている。それにしても人が多い。結局何がなんだが分からなくなって、泣きそうになりながら、当てずっぽうで歩き始めた。
 多分こっち。本当?駅周辺を離れると、街はどんどん暗くなる。早足で駅から離れ、歩き続けるうちに、見覚えのある大きな看板が見えてきた。サカタの種。丘の上にある大きな園芸shopだ。
 車でだが、この店には何度か家族で来たことがある。もうこの時点で戸部とは逆方向に1駅分歩いていた。そのまま進めば、鶴見、川崎、品川だ。家とは真逆の方向である。
 「あれ、サカタのタネからなら、車はあっちの方へ向かったはず。」どう考えてもこのまま先に進んだら、家からどんどん遠ざかる。ここで思い切ってUターンし、反対方向に足を進め、横浜駅をかすめて歩いた。
 回り道をして駅2つ分、1時間以上歩いてゆくと、ついに相鉄線の踏切、開かずの踏切が見えた。平沼商店街の端だ。助かったー。ここからなら分かる。
 真っ暗くなって家にたどり着くと、親がやきもきして待ってきた。もう少しで警察に電話されるところだった。本当に嬉しくて涙が出たよ、あの時は。


あの香り

2018年12月10日 20時16分31秒 | エッセイ
あの香り

 バラの香り、そこはかとない梅の花の香。入れたてのコーヒーから立ち上る香り。美味そうな食物の匂い。思わず足を止める鰻屋から漂う匂い。カレーの湯気。シチューの湯気。焼き煎餅のショーユの焦げた香り。
 綺麗な女の人とすれ違った時の、あっいい匂い。でもたちまち消える。

 今日は残念ながら、良い香りの話ではない。と言ってウンチ系じゃあありません。やーね。

 薄着の季節、半袖のわきから流れ出る香り。そう、腋臭の話だ。この話し、嫌な人はここでラインアウトしてね。

 どこだったか忘れてしまった。印度だったかな。安宿の交渉がうまくいって、部屋に案内された。ちゃちいドアを開けた瞬間、わっと流れてきた匂い。うっとなって、口と鼻を押さえた。でも目にまで流れ込んできてチカチカする。匂いは実体だろ。微小な液体?固体?それとも気体なの?
 匂いの本体はベットだ。旅先ではたまにあるが、ここまで強烈なワキガ臭は珍しい。あーあ、と思ったが、かなり安かったんで部屋替えはしなかった。匂いは慣れる。5分も経つと鼻が麻痺して気にならなくなる。でもいったん外出して戻ると、ウッゲー。

 若いころ、セールスの仕事で5人の男女(男x3,女x2)で車に乗っていた。あの当時は毎晩のように飲み歩いていたから、その日も飲んだ帰りだったんだろう。みんな若いし、女の子の一人は飛び切りの美人なのに気さくで楽しく、男どもは盛り上がっていた。
 しかし、しばらく走っているうちに、会話が途切れがちになり、テンションが下がってしまった。やがて沈黙。後ろの席では、窓をソーっと開けている。実は助手席に座っている女の子から、強烈なXXX臭が流れ、狭い車内に充満してきたのだ。
 でも本人は全く気づいていない。しばらくは、その子が1人でしゃべっていた。ここまで無自覚なのには驚いた。今まで幸せな人生だったのね。願わくは、そのまま気付かずに人生が続きますように。
 その助手席の子が真っ先に降り、またねー、また明日。ちょっと走ると、車の窓を全開にした。意地悪じゃあない。本当に息が苦しかったんだ。

 でも後席の男が1人怒っている。「何で窓開けるんだよ。楽しんでいるのに。」その男、腋臭が好きで好きでたまらないそうだ。
 どこか影があり、大学に8年いて、アメリカの刑務所に入っていたとかいないとか。その事と関係があるのかどうかは分からない。でも男曰く、「顔なんかどうでもいいんだ。あの匂いがたまらねー。」

 助手席の女の子は、あまり可愛いとは言えず、性格もきつかった。男はその日以来、彼女にアタックを繰り返したが、彼女は最後まで男を嫌っていた。
 世の中、なかなかうまくは行かない。











風邪は異なもの味なもの

2018年12月08日 10時50分58秒 | 写真館
風邪は異なもの味なもの

 風邪には前兆がある。うーゾクゾク、首筋から背中にかけて冷や水が流れるような感じ。鼻が詰まって、寝る時に片方がふさがる。不快だ。苦しい。口を開けて寝るから、起きるとのどが渇いてヒリヒリする。
 逆に鼻水が止まらない。ティッシュがいくらあっても足りない。ゴミ箱は使用済みのティッシュの固まりが溢れて、短時間で一杯になる。
 クシュ、こんな話を書いていたらクシャミが出た。ついでに鼻水も出たがっている。大丈夫かな。

 中学に入る前は、体が弱かった。風邪よりは、医者曰く、自家中毒。嘔吐感を伴う奴によくやられた。お袋とよく小児科の待合室にいたものだ。病気の時のお袋は、とりわけ優しかった。それを考えると、病気になるのも悪くない。子供だったしね。甘えても構わない。大人になって病気で優しくされるのとは、ちょっと違う。
 治りかけのリフレッシュした感じも良いものだ。あとモモ缶。何故か病気の時に、あのシロップ漬けのモモの缶詰をよく食べた。
 声は自分でも分かるほど魅力的になる。風邪ひき男の声はセクシーだ。いつでもあの声が出せればよいのに。

 風邪で何が辛いといって、せきが止まらないほどキツイことはない。布団で体が温まると、よけいに酷くなる。自分は、旅の常備薬にセキ止めを欠かさない。
 頭痛は大人になるまで無かった。ズキンズキンときたら、辛いよね。あと高熱。汗をかくほど体は熱いはずなのに、寒くてガタガタする。40℃を超えると、うなされて嫌な夢(白昼夢)を見る。ある時には、もう一人の自分がすぐそこにいるように感じた。ドッベルゲンガー(自己像幻視)か。別の自分に出くわしたら、死んでいたのかな。

 別の悪夢は、手足、特に腕がどんどん細くなる幻覚だ。ぐんぐん細くなって骨と皮だけになって行く。あれは、とてつもない気持ちの悪さだ。今思い出してもゾっとする。
 あの嫌な気分は、半世紀以上経っても忘れない。人に話した(書いた)のは初めてだ。