2024年03月01日
北海道機船漁業協同組合連合会 原口聖二
[“またがり資源スルメイカ”日本の資源評価において論議対象外となる朝鮮半島西部沖合漁獲実績]
「九州大学応用力学研究所大気海洋環境研究センターの山口忠則様のリポート」
日本EEZとの“またがり資源”となるスルメイカについて報告担当者(原口聖二)は、資源評価関連会議において、再三にわたり、朝鮮半島東部沿岸沖合(日本海)の漁獲量の減少と同西部沿岸沖合の漁獲量の増加を指摘し、その影響評価等を求めてきた。
今般、九州大学応用力学研究所大気海洋環境研究センターの山口忠則様が、これに関連して、サイト上、次のリポートをアップしているので報告する。
なお、韓国スルメイカ漁業の6割以上の生産を西岸沖合漁場が占める実績を示しており、日本の資源評価において、この動向を論議の対象外としていることを、大きな問題点として改めて指摘する。
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2024年01月24日
山口 忠則 様 九州大学応用力学研究所大気海洋環境研究センター海洋モデリング分野
北海道機船漁業協同組合連合会の原口聖二氏によると、韓国のスルメイカ漁獲量は、2021年シーズンには日本海と黄海がほぼ半々になり、2022年シーズンは黄海が日本海をしのぐようになったということです。2023年シーズンは、自身が9月に韓国を訪れたとき、日本海での漁獲が極めて深刻な状態だと現地の関係者から聞いたので、黄海が日本海を完全に逆転していると思われます。また、黄海での漁獲量増加は5年ほど前から始まったということでした。一方、水産庁によると、日本の太平洋側で漁獲される「冬季発生群」とよばれるスルメイカの漁獲量は2016年を境に大きく減少し、現在も漸減しつづけています。黄海で漁獲されるスルメイカも冬季にふ化したと考えられていますので、直観的にはスルメイカの主漁場が黄海へ移動してしまったように感じられます。
韓国の研究者の論文(Song et al. 2017)では、黄海で漁獲されるスルメイカは済州島の南方海域でふ化していると考えられているようです。そこで、コンピュータ上でスルメイカを模した粒子をある条件で済州島の南方海域から流す実験をしてみました。スタート位置は北緯32度・東経127度と、同じく北緯32度・東経128度の2点で、2022年2月1日から始めました。240日後(約8か月後)の粒子の分布と、関係海域を7つに分割して各粒子数を図に記しました。
各1万個の粒子を×印の東経127度(左)、128度(右)から流したシミュレーション結果(DREAMS_M)。数は粒子数
経度が1度、つまりスタート位置が100㎞足らず東にずれただけで粒子分布が大きく異なりました。東経127度から流した粒子の約半数は黄海へ移動し、太平洋側へ移動した粒子はゼロでした。一方、東経128度から流した粒子は約7割が太平洋側へ移動していました。実は、この結果は当然で、東経128度からスタートさせた粒子は多くが黒潮にのって流されたのでした。つまり、産卵とふ化が黒潮流域で起こるかどうかで、太平洋側のスルメイカ漁獲量が大きく変化すると考えられます。
もし、この考えが正しいのであれば、なぜスルメイカは2016年以降、黒潮流域ではなく、100㎞ていど西側の済州島南方海域で産卵するようになったのでしょうか。スルメイカの産卵には19℃以上の水温が必要で、ふ化幼生も同程度以上の水温が望ましいため、産卵に適した海域が黒潮流域であることは間違いありません。西に行けば行くほど、水温は確実に低くなります。場合によっては産卵できないか、産卵したとしても幼生の生残率は確実に悪くなるはずです。ひょっとしたら、このことが日本周辺での漁獲量減少だけでなく、スルメイカ全体の資源量減少と関係があるのかもしれません。
いずれにしても、もし冬季発生群の産卵場が黒潮流域の西へ移ってしまっていたとしたら、その原因を考えなければなりません。我々に残された時間は限られてきました。
Ji-Young Song, Joon-Soo Lee, Jung-Jin Kim, Ho-Jin Lee, Myung-Hee Park and In-Seong Han (2017) Transport Process and Directly Entrainment Possibility into the Yellow Sea of Todarodes Pacificus Winter Cohort. Korean J Fish Aquat Sci 50(2), 183-194.
桜井泰憲『スルメイカの生殖生態と気候変化に応答する資源変動』「水産振興」第559号、一般財団法人 東京水産振興会、平成26年