元祖・東京きっぷる堂 (gooブログ版)

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音楽室5号 第19章

2021-07-06 06:59:35 | 音楽室5号

 


第19章
(ハイ。バビビブルー!。ダーメ。バ・バブブブブルー!、ハーイ。ブブ・・・ブブルー!)



 キーホーは確かに二号室の板戸を開けたはずなのですが、どうでしょう。

 キーホーは、いつの間にか、さっきの一号室の板戸の前に立って、さっきと同じ様に室内の薄暗い円形劇場で、白い仮面を被った役者たちが繰り広げる奇妙なバカバカしい演劇を覗いているのでした。


 円形のつやつやした黒い舞台に静止像のように立っている、黒マントを頭からスッポリと指人形の様に身につけた笑い仮面が、どうやら、覗いているキーホーの姿に気づいたようです。

 彼は、竜巻のように斜めに回転しながら板戸口に向かって、すっ飛んで来ました。

 そして、キーホーの顔に板戸口を境にぴったりと、笑い顔をくっつけますと、その役者は黄金色のフル・スペクトルを内部から輝かせて、言葉をこぼしました。

 ご飯粒のようにです。

 彼の仮面の奥で光る眼は、黒曜石のように重なってしんみりとしています。

 笑い仮面がしゃべります。

   パチッ。

 

笑い仮面
「若い人、若い人よ。私は老いた。

私は若くなりたい。若くなりたい。若くなりたいんだ!

若くなって一杯冒険がしたい。パッションだ!情熱的な恋がしたい。

ああ、私の肉はもう若くないのだ。

肉体が老朽化すれば心も老朽化すると思うか!?。否!

貪欲な心は余計に若さを欲するのだ。」


 キーホーは板戸を閉じようとしました。

 だってキーホーは二号室の板戸を開けたはずでしたのに、一号室にはもう用はありませんし、それにその笑い仮面の役者の乾燥して今にも吹き飛びそうな悲鳴にもウンザリしてしまったのです。

 ところが、どうしたことか、板戸は笑い仮面にぶち当たり、その白い陶器のような表面に無数の亀裂を走らせてしまいました。

 笑い仮面の役者は、狼のように遠吠えをすると、体を真っ直ぐにしたまま背後に吸い込まれるように倒れてしまいました。


 キーホーが首を少し伸ばして見ると、笑い仮面は、すっかりバラバラに砕けて、崩れた顔の隙間から本物の顔を出現させていました。

 本物の顔は、おかしな皺(しわ)で一杯になっていました。

 その皺は、まるでたくさんのデタラメな文字を何重にも重ねて書きなぐったようでした。


 キーホーは、その文字をいくつか読んでみました。

 その間に年老いた笑い仮面の役者は死んでしまったようです。

 すでに死後硬直が始まったらしく、ぎっしりと皮膚に刻まれていた様々な文字が空中にスポンスポンと飛び出していたからです。

 文字は宙を羽の様に舞い、円形ドームを真っ白に包みました。


   それでは、文字を読みます!


 ひとつ。

“月にボッと照らされた無限の荒野を心の底に感じた事、ありませんか?。

 心は安息のうちに・・・・・・・・・。”



 ふたつ。

“怠惰から生まれ出づる恨み節、それはニヒリズムと言うのでしょうか?”
 


 みっつ。

“気違いの人々が笑い、僕は息を殺して街を歩いています。

 明朝への厚い期待、そして厚いカーテン。

 海と空が、笑う。

 水が細かく降り注ぎ人々の口を濡らし、目玉を溶かし耳を塞ぐ。

 又、火!。火※だ。

 粘っこい時を喰らい目を細めて光を探す。

 空中の襞は巧みに隠してしまい、闇雲に黙る僕。

 カランと蓋が落ちて固い道路を風が転がしました。

 カラコロカラコロ。

 昔の伯父さんが見ていました。

 字が、字が違う!・・・・・・・。”
 


 キーホーは、アキアキしてしまい本当は二号室のはずなのに一号室の板戸を、ぴっちりと閉めました。

 そして再び、キーホーは二号室の板戸の前に立ち、今度こそはと、注意深く、ゆっくりと二号室の板戸を開いたのです。


 キーホーは、ポカンとしました。

 二号室の板戸を今、確かに開いたのですが、室内はやっぱり一号室だったのです。

 まだ、文字たちが花びらみたいに舞っていました。

 


 よっつ。

“季節には各々の思い出の香りが含まれ、過去からひたひたと押し寄せて皆を、街を、世界を包み、今が過去になって未来が今になって次々と新しい香りが新しく新しく新しく、作られ消えてゆきます・・・・・・・・”
 


 キーホーは再び板戸をピッチリと閉じました。

 すると、やはりキーホーは二号室ではなく一号室の板戸の前に立っているのでありました。


 キーホーは良い事を思いつきました。

 彼はスタスタと二号室の前を通り過ぎると、三号室の板戸を開いたのです。

 そして二号室にアッカンベーをすると、するんと三号室の中に体を滑り込ませていきました。

 その後、二号室はガラス窓や板戸や壁をぷくっとふくらませて、知らんぷりされた事に腹を立てているのでした。


 しばらくして、爆音が起こりました。

 音楽室二号が内部で核爆弾を爆発させ、自殺を遂げたのです。

 理由は謎に包まれたままでした。

 その後、ずっと。



 注。
 ヘラクレイトスは、全ての源であり全ては、やがてに戻るという。
 彼の言うは全てであり全ては永久ループを行うの中に存在しているという。
 ・・・と。

 デジャヴかな?

 以前どこかで同じように注釈を入れたような気がする。

 あなたは、そんな気はしませんか?

 どこかで・・ループしている。

 そんな・・気が・・・。


 



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