(男と女は、どこかのラブ・ホテルのふかふかベッドの上で交わり合っている。)
女。
「アアン。アッ。アッ。イ・イイ。イイワァ。ア。モウチョット。ア。イイ。イク。イクワ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・タバコ・・イヤヨ。
・・・・・・・・・・・オワッタトキ、タバコスウヒト・・・イヤ・・・ケムクテ、クルシクテ・・・・・シンデシマイソウ。
・・・・・・・・・コノ・ジダイニ・・・・・・・・・・タバコ、ヤメテヨ・・・。」
男。
「そう簡単にはいきませんよ。私だって何度、禁煙を試してみたことか。
でも、やめられませんねぇ。もう超中毒なのです。
どうせいつか死ぬのだし、一日、百本吸ってピンピンしているジイさんだっていますしね。」
女。
「ソウ。アア、カラダニワルイコトヨ。シヌノハアンタヨ。
アア、ケムイ。アタシニモ、エイキョウガアルノヨ。
アタシマデシヌカモシレナイワ。・・・・・アンタ、コウシテミルト、チットモヨクナイワネェ。
ヤサシカッタラ、アタシノタメ、タバコ、ヤメラレルワヨネェ。」
男。
「やめられませんよ。
いやいやいや、男がいちいち女に言われて好きな事止められますか。
あなただって、その派手な服装と化粧やめたらどぉです。
一緒に歩いててケバイやら幼女趣味で、情けないです。もう、あなた、三十歳ですよ。
アホみたいですよ。
煙草でも吸ってみたらいいんですよ。」
女。
「ナニイッテンノヨ。ナンデ、アタシガ、タバコスワナキャナラナイノヨ。
ソレニ、ナニヨ、コノマエハ、トッテモニアウ、ワカワカシクテ、カッコイイ、ホレボレシチャウ、ナンテイッテタジャナイ。
フクノシュミト、タバコト、ドンナカンケーアンノヨ。」
男。
「あほですね。大人になれという事ですよ。」
女。
「ヘェーッ。タバコスッタラ、オトナニナレルノ。
ヘェーッ。ジャァ、ガキニ、スワセリャ、ジカントビコエテ、オトナニ、ナッチャウノ。
ソラタイヘンナコトネェー。バーカ。」
男
「なんですと。このアマ!糞袋!少しばかり美形だからって中身はドブじゃありませんか。
他人への礼儀が、気遣いが欠けています。
このマン・カス女め。親しき仲にもって言うではないですか。
慎みも品もありません!黙って私に任せておけばよいのです。」
女。
「アーア。モウ、アキタワ。ウンザリヨ。アンタニモ。
アンタノ、オトコ、オトコッテ、ダンソンジョヒノカンガエ。
コマーシャリズムニノッタ、ニンキモノニシカ、キョーミノナイ、ゾクブツ!
クサレチンポ!サイナラ。」
男。
「おい。待ちなさい。私は俗物じゃありませんぞ。
ドフトエフスキーだって読みましたぞ。スメルジャコフとヴェルシーロフのファンですぞ。
煙草だってマイルドセブンじゃなくてチェリーですぞ。野球だって審判ファンですぞ。
プロレスだって小人プロレスのファンですぞ。」
女。
「ソウ。シラナカッタワ。ソウナノ?
アラ、ハッ、アタシ、テッキリ、アンタ、ヘイヘイボンボン、カッコツケ、カッコヘノウヌボレダケ・・ミナノヤルコトバカリ・・・・
99バンメノサル・・・・ハヤリモノバカリ、ヨロコンデヤッテ、シゴトシテ、ネルダケノ、ギュウニュウノ、ヒマク、ミタイナ、オトコダトオモッテタワ。」
男。
「へ?え。え! そうなんだ!・・・・・じゃぁないんだ。ええい、気が変わりました。煙草やめます。」
(男は煙草の残り、十二本を一本づつ丁寧に揉み潰して捨てる。)
★
(場面が変わり、男は女と別れ、自動販売機の前に、震えながら突っ立っている。)
天上からの神聖なヴォイス。
「情けない男よ。時が少し進む。
そして、お前は気づいた時には、すでにチェリーを買い、くわえ煙草に火を点け、プカプカ吸っているのだ。
そしてすぐさま、決意を思い出し、残りの十九本をグチョグチョにねじ曲げて道端の排水孔に捨てる。
お前は家に帰り、机に向かうと息苦しい。
無性にいらつく。
無気力になる。
ちょっと外へ空気を吸いに、と外出すると足は自動販売機へ向かい、手には、がっちりと百円玉二個と十円玉三個、握りしめている。
気づくとチェリーが手の中にある。
ゆっくりと、お前の頭の後ろから叱咤の意識波がやってくる。
空しく。虚脱。忍耐力へのプライドが、ボロボロと・・・・・・・・・。
仕方無く一本吸った。ああ、うまい。
しかし、お前は、すぐに嫌な気分、惨めな気分に落ちてゆく。
家に帰り、残りの十九本を二つに折って、ゴミ箱へ。
それから、お前はロックを聴く。
パティ・スミスにドアーズにベルベッド・アンダーグラウンド。
う~ん、何かが足りない。
そう思い、お前は、「そう!タバコだ!」
と気がつき、二つに折った煙草をゴミ箱から掻き集め、セロテープを張り付け修繕し、ひょっとこみたいな顔をして、吸いまくる。
その夜、お前は折った煙草を全てセロテープで再生して、最後の一本まで吸い続けるのだ。
そして、無くなると、お前の足は再び、煙草を求めて彷徨い始める。」
(男は爆発して、素粒子に混じって消滅してしまう。ひきつった笑い声と共に。)
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