横山さんからのご質問です。
過度の広汎性の法理,明確性の法理と合憲限定解釈の関係について (横山さん)
2012-07-07 16:04:48
木村先生
こんにちは。
司法試験の過去問を勉強しているのですが,
過度の広汎性・明確性の法理と合憲限定解釈の関係について混乱してきてしまったので,質問させてください。
多くの事例では過度の広汎性と明確性の問題が同時に問題となりますが,これらと「合憲限定解釈」はどのような関係に立つのか,という点につき,何度考えても混乱してしまいます。
自分なりに整理して以下のように考えたのですが,このような理解は誤っているでしょうか。
●漠然不明確の主張がなされた場合⇒徳島市公安条例事件,福岡県青少年保護育成条例事件の「通常の判断能力を有する一般人の理解」基準により判断する
※「合憲限定解釈」の可否は問題とならない
これに対して,
●過度の広汎性の主張がなされた場合⇒合憲限定解釈の可否を検討(税関検査事件参照)
・合憲限定解釈の内容が通常の判断能力を有する一般人の理解を超える場合には許されない
・合憲限定解釈の結果,明確性の法理に反するような場合,そのような解釈は許されない
すなわち,
・合憲限定解釈の可否が問題となるのは,過度の広汎性の主張との関係である(そもそも合憲限定解釈の定義については,「字義通りに解釈すれば違憲になるかもしれない広汎な法文の意味を限定し,違憲となる可能性を排除することによって,法令の効力を救済する解釈であり」(芦部371頁)とされている)。
・合憲限定解釈の結果,漠然不明確な解釈となるなる場合には,そのような解釈を施すことは許されない(「過度に広汎な規定を限定解釈した結果が漠然としてしまった場合には,その合憲限定解釈は許されず」(宍戸・『憲法解釈論の応用と展開』P146)。その意味において,合憲限定解釈と明確性の法理は関係を有する。
憲法初心者のような(というか初心者そのものです。。)質問でお恥ずかしいのですが,
どうぞよろしくお願いたします
うーんとですね、合憲限定解釈の定義から確認しましょう。
合憲限定解釈というのは、
憲法に違反する帰結を含む解釈と
そうでない解釈の可能性があるときに、
後者を選択する解釈ですね。
で、「憲法に違反する帰結を含む解釈」と一口に言っても
憲法上の要請は、いろいろあるわけです。
たとえば、Aという解釈を採用すると、
①表現の自由の侵害になる適用範囲はないが、
②政教分離原則に違反する適用範囲を含んでしまう、
といったことってあり得ますよね。
こういう場合、当然のことながらAは選択できません。
このように、ある解釈が合憲限定解釈として成立するためには、
憲法上のあらゆる要請に反しない解釈である必要があります。
こうした目で見ると、
①表現の自由の侵害になる適用範囲は含まないが、
②一般人に理解不能な=不明確な法文により処罰されない権利の侵害になる解釈は、
合憲限定解釈たり得ません。
なので、不明確な解釈と明確な解釈があるときに
後者を選ぶのも、合憲限定解釈の一種です。
そして、
過度の広汎性故に無効というのは、
その法文について、
①自由権の侵害にならない解釈が成立し得るが、
②その解釈が不明確な解釈になってしまう
=不明確な法文により処罰されない権利の侵害である解釈
になってしまう、
から、法文全体が無効だ、という理論です。
つまり、過度広汎性故に無効とは、
(自由権侵害範囲を除去する)合憲限定(=明確な=31条違反にならない)解釈が不能故に無効
と言いかえられますね。
こんな感じでどうでしょう?
過度の広汎性の法理,明確性の法理と合憲限定解釈の関係について (横山さん)
2012-07-07 16:04:48
木村先生
こんにちは。
司法試験の過去問を勉強しているのですが,
過度の広汎性・明確性の法理と合憲限定解釈の関係について混乱してきてしまったので,質問させてください。
多くの事例では過度の広汎性と明確性の問題が同時に問題となりますが,これらと「合憲限定解釈」はどのような関係に立つのか,という点につき,何度考えても混乱してしまいます。
自分なりに整理して以下のように考えたのですが,このような理解は誤っているでしょうか。
●漠然不明確の主張がなされた場合⇒徳島市公安条例事件,福岡県青少年保護育成条例事件の「通常の判断能力を有する一般人の理解」基準により判断する
※「合憲限定解釈」の可否は問題とならない
これに対して,
●過度の広汎性の主張がなされた場合⇒合憲限定解釈の可否を検討(税関検査事件参照)
・合憲限定解釈の内容が通常の判断能力を有する一般人の理解を超える場合には許されない
・合憲限定解釈の結果,明確性の法理に反するような場合,そのような解釈は許されない
すなわち,
・合憲限定解釈の可否が問題となるのは,過度の広汎性の主張との関係である(そもそも合憲限定解釈の定義については,「字義通りに解釈すれば違憲になるかもしれない広汎な法文の意味を限定し,違憲となる可能性を排除することによって,法令の効力を救済する解釈であり」(芦部371頁)とされている)。
・合憲限定解釈の結果,漠然不明確な解釈となるなる場合には,そのような解釈を施すことは許されない(「過度に広汎な規定を限定解釈した結果が漠然としてしまった場合には,その合憲限定解釈は許されず」(宍戸・『憲法解釈論の応用と展開』P146)。その意味において,合憲限定解釈と明確性の法理は関係を有する。
憲法初心者のような(というか初心者そのものです。。)質問でお恥ずかしいのですが,
どうぞよろしくお願いたします
うーんとですね、合憲限定解釈の定義から確認しましょう。
合憲限定解釈というのは、
憲法に違反する帰結を含む解釈と
そうでない解釈の可能性があるときに、
後者を選択する解釈ですね。
で、「憲法に違反する帰結を含む解釈」と一口に言っても
憲法上の要請は、いろいろあるわけです。
たとえば、Aという解釈を採用すると、
①表現の自由の侵害になる適用範囲はないが、
②政教分離原則に違反する適用範囲を含んでしまう、
といったことってあり得ますよね。
こういう場合、当然のことながらAは選択できません。
このように、ある解釈が合憲限定解釈として成立するためには、
憲法上のあらゆる要請に反しない解釈である必要があります。
こうした目で見ると、
①表現の自由の侵害になる適用範囲は含まないが、
②一般人に理解不能な=不明確な法文により処罰されない権利の侵害になる解釈は、
合憲限定解釈たり得ません。
なので、不明確な解釈と明確な解釈があるときに
後者を選ぶのも、合憲限定解釈の一種です。
そして、
過度の広汎性故に無効というのは、
その法文について、
①自由権の侵害にならない解釈が成立し得るが、
②その解釈が不明確な解釈になってしまう
=不明確な法文により処罰されない権利の侵害である解釈
になってしまう、
から、法文全体が無効だ、という理論です。
つまり、過度広汎性故に無効とは、
(自由権侵害範囲を除去する)合憲限定(=明確な=31条違反にならない)解釈が不能故に無効
と言いかえられますね。
こんな感じでどうでしょう?
平成23年司法試験の出題の趣旨には,「明確性」につき,「本問の法律で,『個人の権利利益を害するおそれ』等の文言の明確性が,一般的に問題になるわけではない」,「本問で明確性を問題にするとすれば,『生活ぶりがうかがえるような画像』が『個人権利利益侵害情報』に含まれるのか否かが明確ではない,という点である」との記述があります。
この記述は,木村先生が,他の方の質問に対して,「文面審査の典型例とされる明確性の問題も,実は,文面だけからは審査できず,あくまで当該行為との関係で明確か,という形で問題になります」と回答されているのと同じ意味であるように思います。
そこで,さらなる質問です。
「当該行為との関係で明確か」が問題となる場合には,①法令の文言がおよそ意味が通じないという意味で不明確な場合と,②法令の文言を文字どおり読んだ場合には,その意味が広すぎて,当該行為がその適用を受けるのかどうかが明確でない,という2つの場合があると思います(①の場合はほとんどあり得ないと思いますが…。)。
現実の事案で問題となるのは②の場合であり,それは,「明確性」の名で呼ばれているものの,実は「過度の広汎性」の問題にほかならないのではないか,というのが私の疑問です。
このような意味における「明確性」の問題(実質的には「過度の広汎性」の問題)を判断する過程で,「合憲限定解釈」の可否が問題となり,明確な解釈を選択することにより違憲的な部分を取り除くことができるのかどうかが問題となる,というように理解したのですが,いかがでしょうか。
物分りが悪くて申し訳ありません。。
ご回答よろしくお願いいたします。
お返事が遅れてすいません。
確かに、たとえば
「悪いことをしたら、10年以上の懲役」という刑罰法規ですが、
これを不明確とするか、過度広範とするか、
微妙なところです。
ちょっとみなさんにもきいてみましょう。
ガッツリ問題に向き合って考えに考えても、中々よい答えが出なかったのですが、
ある日、通勤電車の中で突然ひらめきました。
即ち、
ある行為を規制する文言●●があるとして、その規定文言が規制対象(行為)とする対象が「広汎である」ことがその規定文言から読み取れるならば、それは過度の広汎性故に無効の法理を使う場面である。
これに対し、その規定文言が規制する対象が広汎にわたるのかさえ判断できないほど不明確な場合は、漠然不明確故に無効の法理を使う場面である。
そこで木村先生の質問を見てみると、
「悪いことをしたら、10年以上の懲役」
という規制文言は、「悪いこと」という構成要件は、過度に広汎にわたることはおよそ明らか。
そこで、この場合には過度の広汎性故に無効の法理を用いる場面と考えられます。
こんな基準を思いつきましたがどうでしょう。
他にもなにか良い使い分け基準があったら聞いてみたいです。
余談ですが、本音を言うと、どちらを使っても間違いではないし、問題もない気もします。
説明の仕方の違いにすぎないので。
でも、やはり「どちらが厳密で説得的か」という観点からは、使い分けた方がすっきりしますね。
草々
ガッツリ問題に向き合って考えに考えても、中々よい答えが出なかったのですが、
ある日、通勤電車の中で突然ひらめきました。
即ち、
ある行為を規制する文言●●があるとして、その規定文言が規制対象(行為)とする対象が「広汎である」ことがその規定文言から読み取れるならば、それは過度の広汎性故に無効の法理を使う場面である。
これに対し、その規定文言が規制する対象が広汎にわたるのかさえ判断できないほど不明確な場合は、漠然不明確故に無効の法理を使う場面である。
そこで木村先生の質問を見てみると、
「悪いことをしたら、10年以上の懲役」
という規制文言は、「悪いこと」という構成要件は、過度に広汎にわたることはおよそ明らか。
そこで、この場合には過度の広汎性故に無効の法理を用いる場面と考えられます。
こんな基準を思いつきましたがどうでしょう。
他にもなにか良い使い分け基準があったら聞いてみたいです。
余談ですが、本音を言うと、どちらを使っても間違いではないし、問題もない気もします。
説明の仕方の違いにすぎないので。
でも、やはり「どちらが厳密で説得的か」という観点からは、使い分けた方がすっきりしますね。
草々
どちらを使っても間違いではない
というのは言い過ぎかなという気もします。
これの続きが気になるのはごもっともですが、
この記事を書いてから、大きな学説の発展があり、
困惑しているところです。
何とかしようと思いますので、
しばしお待ちください。
この記事も関連していそうなので、まとめて理解しておきたいと思いました。質問すること自体どうかと思うような恥ずかしい内容なのですが、お時間あるときに指導いただけると嬉しいです。
また、先生の文章を【】で引用させて下さい。
先生は
【合憲限定解釈というのは、憲法に違反する帰結を含む解釈とそうでない解釈の可能性があるときに、後者を選択する解釈です】【「憲法に違反する帰結を含む解釈」と一口に言っても憲法上の要請は、いろいろある】【たとえば、Aという解釈を採用すると、①表現の自由の侵害になる適用範囲はないが、②政教分離原則に違反する適用範囲を含んでしまう、といったことってあり得ます】【こういう場合、当然のことながらAは選択できません。】
【このように、ある解釈が合憲限定解釈として成立するためには、憲法上のあらゆる要請に反しない解釈である必要があります。】と仰っておられます。
【ある解釈が合憲限定解釈として成立するためには、憲法上のあらゆる要請に反しない解釈である必要があります】の、必要がある、というのはなぜなのでしょうか?これは、解釈の一般原則というよりも、憲法の要請(法の支配?)のような気がしています。(質問①)
そして、裁判所が、憲法に違反する帰結を含む判断を示した場合は、おそらくそれは『解釈』とはいえない、ということになると思うのですが、先生はどのようにお考えでしょうか。(質問②)
ただ、憲法との関係でそういう解釈が否定されるということですね。
木村先生が記事のなかでおっしゃった、「①表現の自由の侵害になる適用範囲はないが、②政教分離原則に違反する適用範囲を含んでしまう…こういう場合、当然のことながらAは選択できません。」というのは、表現の自由侵害を主張して裁判所が【処分審査】をした場合は、政教分離違反かどうかまでは審査しませんから、この上記「…」の要請というのは、【過度広範故に無効】の場合に問題になる話である、という理解であってますか?
逆にいうと、【処分審査】は表現の自由に対する制約の合憲性を審査するだけで、政教分離違反かどうかは審査しないわけですから、限定解釈した結果、①表現の自由の侵害になる適用範囲はないが、②政教分離原則に違反する適用範囲を含んでしまう、ということも許されるのでしょうか。
どうも、【処分審査】は裁判所が判断を求められている自由(表現の自由)以外の審査はしないとはいえ、違憲部分(この場合は政教分離違反)を含んだ解釈をするというのは、おかしな感じがします。こういう場合は、裁判所が「職権で」政教分離違反かどうか審査して、表現の自由だけでなく政教分離違反にもならないような限定解釈をすべきなんじゃないかと思うのですけど。
私の質問が意味不明な質問なら本当にすみません。
このあたりのことがストンとこないままモヤモヤしっぱなしです。
ご迷惑にならないときに教えて頂けると嬉しいです。