さて、新年早々ですが、次のようなご質問を頂きました。
2012-01-03 10:38:49
木村先生へ
あけましておめでとうございます。
文章が分かりずらくてすみませんでした。
私がお聞きしたかったことは、
例えば、事案のなかで原告だけにあてはまる事情があっても、
それを立法事実として主張しても適切かということでした。
私は、原告に当てはまる事情であっても一般化できなければ
立法事実としては主張できないと聞いたもので…
何度もお聞きしてすみません。
よろしくお願いします。
kei
どうもおめでとうございます。
ご質問の趣旨は、
原告がこのため池の周囲地を耕作につかっている、とか、
原告の立入は平穏だった、とか
そういうことを、規制の不当性を主張するのに使いたい場合、
どういう論証をすればよいか?ということだと思います。
こういう論証をする場合、普通、
A「こうした原告に対する規制は、合憲といえるか?」
「原告はこの土地を耕作に利用しており、
規制による経済的損失は大きい」
ないし
B「本件原告のような者に対するこのような規制は、合憲といえるか?」
「原告のように、耕作を営む者に対しては
本件規制が大きな経済的損失を及ぼす可能性がある。」
より精密には
C「本件法令のうち、
本件原告のような者に対するこのような規制を根拠づけている部分は合憲か?」
「原告のように耕作を営む者に対しては、
本件規制が大きな経済的損失を及ぼす可能性があり、
本件法令に基づく規制のうち、すくなくとも、そうした
重大な損失を生じさせる可能性のある部分は、相当性が欠け違憲である。」
と論証します。
いわゆる処分審査ですね。
Cのような文章は、厳密すぎてあまり使わず、
普通は、AやBの文章で書きますが、全て同義といってよいでしょう。
通常の読み手であれば、Aのように書けば、Cの意味だと理解してくれます。
事案の中で、現状、原告だけに当てはまる事情、
(他にその地域のていとうを耕作につかている人がいない、
歴史上他に平穏に立ち入った人はいない等)でも、
将来類似の事案が生じる可能性は常にあるわけであり、
法は、将来にわたっても効力を有する普遍規範です。
なので、Aのような、原告プロパーの主張をしても、
法令の一部の審査を要求する主張となり、
そこでの主張は、
「原告のような者に対するこういう類型の規制において
必要性や関連性がない」
という趣旨のものになるでしょう。
あと、ちょっと補足いたしますと、
そもそも、憲法判断の場面では、
定義上、司法事実(要件事実)は主張・参照しえないわけです。
司法事実は、要件事実の意味ではなく、
裁判所が認定したその事案に関する事実(原告の氏名など)をいう場合もあります。
これを司法事実2といいましょう。
憲法判断は、立法事実に基づいて行いますので、
そうした意味での司法事実2はやはり直接参照せず、
そうした意味での司法事実2を参照しながら想定される事案の審査をする
ということになります。
ちなみに、
司法事実2を参照しながら想定される事案の憲法判断のことを、
司法事実を参照した憲法判断と表現される先生もおります。
(そう言った方が簡単ですから)
ですが、それは、厳密な言葉遣いではないのです。
意味が分かった上で、厳密でない言葉遣いをする、
ということは、もちろんあっていいのですが、
(芦部先生の『憲法』というのは、そういうのばっかりなんで
実は読むのが結構大変だったりします)
はじめのうちは、できる限り厳密な言葉遣いを意識することが
上達の道だと思います。
ではでは、また何かありましたら。