ごっとさんのブログ

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医薬品開発研究からみた抗ガン剤の難しさ

2022-10-29 10:30:29 | 
かみさんの昔からの友人(70歳)に胃ガンが見つかり、胃の3分の2を切除する手術を受けました。比較的早期のガンだったようですが、細胞診によりやや悪性と判断され、抗ガン剤治療を受けています。

やはり抗ガン剤治療はかなり大変なようで、食欲が出ないとか体がだるいといった副作用が出ているようです。またその途中で胆のう炎を併発し、1週間ほど入院しています。胃ガンの場合手術時に胆のうの神経に触れることが多く、その結果胆のう炎になることは多いようです。

このように早期の胃ガンといっても、完治するまではかなり大変なようです。私はそれほど長期ではありませんが、抗ガン剤の開発研究に従事したことがあります。

このガン細胞をやっつける薬を作るということは、他の医薬品に比べて非常に難しいものでした。ガン細胞というと正常細胞とは大きく異なり、見た目も全く違いますが本質的には患者本人の細胞の遺伝子が変異し異常増殖するものです。

つまり正常細胞とガン細胞は機能的には全く同じ細胞なのです。従って異物を排除するための免疫システムも、ガン細胞を異物とみなさいないため攻撃することはありません。

ガン細胞と正常細胞と構造的な差は全くないのですが、増殖速度が大きく違っています。正常細胞は活発なものでも何日に1回程度分裂増殖するだけですが、ガン細胞ははるかに頻繁にしかも悪性であれば特に細胞分裂が盛んになっています。

そこでこの細胞分裂するときに働きかけ、これを阻害し殺してしまう薬であれば、ガン細胞を攻撃することができるわけです。現在使用されている抗ガン剤の大部分がこのメカニズムによるものです。

もちろんこの細胞分裂の時に作用し、分裂時に細胞を殺すという作用はガン細胞特異的ではなく、正常細胞にも働いてしまいます。そのため正常細胞でも比較的細胞分裂が活発な毛母細胞や免疫系細胞は被害を受けてしまい、脱毛や血小板減少などの副作用が出てしまうことになります。

従って抗ガン剤は体内に投与してから速やかに除去できる、または代謝分解が非常に早く短時間で無くなる性質が必須となるわけです。抗ガン剤治療は医療現場では時間との戦いでもあり、腫瘍内科の医師の腕の見せ所となるわけです。

私はこの増殖速度以外にガン細胞と正常細胞の違いがないかを徹底的に調べましたが、残念ながら具体的な差異は見つかりませんでした。

特にガン細胞と正常細胞の細胞分裂の仕方には違いがあるのではないかと、いろいろ検討しましたがガン細胞特異的に作用する薬剤を作ることはできませんでした。

現在は細胞自身の詳しい解析や、分裂時の遺伝子コピーメカニズムなど詳細に調べられていますが、残念ながらガン細胞に特異的な差異は見つかっていません。

分子標的薬など新しいタイプの抗ガン剤は開発されていますが、ガン細胞が基本的に患者の細胞であるという点は乗り越えられていないようです。


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