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ごっとさんのブログ

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海藻からプラスチック代替品を製造

2021-11-28 10:27:29 | 化学
現在海洋のプラスチック汚染が問題になっていますが、イギリスの企業が海藻などの自然由来のものから、透明なプラスチックに代わる包装材料を製造する技術を開発しました。

この包装材料は「ノットプラ」と名付けられ、海藻から作られていますが、海藻の種類までは不明です。

この製造技術は、まず海藻を乾燥して粉末状にします。その粉末を企業秘密の工程を経て、濃厚で粘着性のある液体に変換し、それを乾燥させることでプラスチックのような透明なフィルムができるというものです。

この技術は包装紙はもちろんのこと、粉末や乾燥食品のパケット、ねじや釘など非食品用の小袋、水溶性フィルムと不溶性フィルム、ヒートシール可能なフィルムなども製造可能としています。

コロナ禍において使い捨てのプラスチックの使用が大幅に増加しましたが、この技術を用いてテイクアウト用の段ボールへの塗布された薄層も作っています。この技術が多くのプラスチック製品の代替にはならないと思いますが、面白い技術であることは確かです。

ここでプラスチック問題を改めて考えてみます。プラスチックは生分解性が全くありませんので、自然に放置されるといつまでも分解されずに残ってしまうところからきているのかもしれません。

その代表が海洋汚染で、マイクロプラスチックとなり海洋生物に大きな影響を与えているというものです。しかし汚染原因の多くが放置された網などの漁具や、洗濯で出てくる細かい衣類の部品、削られたタイヤの粉などとなっています。

この辺りはプラスチック削減の対象外であり、簡単に対策できるものではありません。私はなぜプラスチックがこれほど悪者になっているのかがよく分かりませんが、プラスチックの利点である安価で使い捨てが可能という点が問題なのかもしれません。

本来この辺りは、ごみの分別処理など人間がしっかりした対応をすれば解決するはずのことであり、プラスチックが悪いわけではないと思っています。

現在の対策としてはレジ袋が紙製になったり、ストローが植物性に変えるという身近なところでおきています。しかしこういったごみも処理するには燃やすことになり、その時に出る二酸化炭素は重さに比例しますので、プラスチックよりはるかに多くなるわけです。

こういった眼先だけの対策が環境に良いとはとても思えません。それよりも適切なゴミ処理の徹底の方がはるかに有効ではないでしょうか。

今回の海藻からのフィルムも、大量に使われている発泡スチロールやトレーなどの代替になることはなく、単なる時流に乗った目新しさだけのような気がします。

ノーベル化学賞を有機分子触媒が受賞

2021-10-10 10:15:04 | 化学
このところノーベル賞の話題が多くなっており、医学生理学賞と物理学賞について書きましたがここは化学賞の話です。

物理学賞は日本人が受賞しましたので、マスコミも大きく取り上げ色々な情報が入ってきました。化学賞はドイツのマックス・プランク研究所のリスト氏とアメリカのプリンストン大学のマクミラン氏の2名が受賞しました。

この業績である「有機触媒」の研究は一般的にはまるで面白みもありませんので、ほとんど報道されていませんが、私にとっては大変なじみのある人たちです。

もちろん名前しか知りませんが、私の研究生活の最後のころに有機物質を用いた不斉触媒という画期的な研究が報告されました。これを説明するにはかなり難しい立体異性体のことを書く必要があります。

炭素には4本の結合手が立体的にありますので、これに異なった物質が結合すると、平面的には同じになりますが立体的には重ね合わすことができない2種類が存在します。これを立体異性体とよび、例として右手と左手のような関係となります。

この2種は同じものがついていますので、物性としては完全に同じなのですが、旋光度というものを測定すると、光の曲がり方が逆となります。そこで立体異性体の片方だけを光学活性体と呼んでいます。

天然の物質はほとんどが光学活性体で、例えばアミノ酸はL型が大部分でD型は存在しません。通常の化学反応は、立体を区別することができませんので、立体異性体が1:1となったラセミ体またはDL体と呼ぶものしか合成できません。

しかし医薬品の場合は結合するのがタンパク質ですので、DとLを区別し通常どちらか一方しか活性はありません。そこで化学反応でもDかLだけを合成するための触媒(不斉触媒)の開発が活発になりました。

その先駆けとして2000年にマクミランが二級アミンを用いた触媒により不斉ディールス・アルダー反応を行えることを発表しました。これはマクミラン触媒と呼ばれ、その後この触媒をベースに多くの不斉触媒が開発されています。

またほぼ同じ時期にリストがアミノ酸であるプロリンを用いて、不斉アルドール反応が進行することを報告しました。これはリストのプロリンとしていろいろ応用されています。

それまで金属触媒が用いられていましたが、有機化合物でも触媒作用があり、しかも光学活性体を作ることができるというのは、当時は衝撃的な発明と言えます。この2000年に入ってから、この2人の発見をもとに多くの不斉有機触媒が開発されてきました。

このように近年必要性が高まってきた不整合成の先駆けと言える2人が、ノーベル賞を受賞されたことは当然のような気がしますが、うれしいことと喜んでいます。

触媒で砂同士をつなげた建材を開発

2021-06-04 10:26:37 | 化学
現代の建築物は、多量のコンクリートによる頑健な構造により安全な構築物となっていますが、この時に使用するセメント材料の不足が懸念されています。

東京大学の研究グループが、セメントや樹脂などの接着成分を使わず、触媒で砂同士を直接つなげた建材を開発したという記事がサイエンスポータルに掲載されました。砂や砂利など二酸化ケイ素(SiO2)を主成分とする材料が使えるようです。

実用化すればコンクリートの原料不足の課題を解決するほか、低温でできるため製造時のエネルギー消費の抑制にもつながるとしています。建材などとして広く普及しているコンクリートは、砂と砂利に「つなぎ」の役目をするセメントと水を加えて製造します。

ただ適したサイズの砂や砂利、セメントの主原料である良質な石灰石の不足が世界的に課題となっており、長期的に建築や土木工事への影響が懸念されているようです。

またセメントの製造では二酸化炭素が多く発生するため、枯渇しない原料を用い、少ないエネルギーで製造できる建材が求められています。東京大学生産技術研究所のグループは、次世代の建材開発を研究しました。

アルコールに触媒の水酸化カリウムを溶かした液体に砂を入れ、密閉容器内で240℃まで加熱しました。その後に室温まで冷却することで、人工の硬い石を作ることに成功しました。

セメントのようなつなぎを使わず、加熱により砂の化学結合を一旦切断し、冷却することで砂に別の結合をさせる仕組みです。この辺りのメカニズムは無機化学がよく分かりませんのではっきりしませんが、SiO2が新たな強固な結合となるようです。

珪砂、ガラス、砂漠の砂などSiO2を主成分とする材料から硬い石を製造できたとしています。セメントの製造工程では1450℃という高温が必要で、砂自体を溶かして結合する方法でも1000℃以上が必要と大きなエネルギーを使うことになります。

これに対し今回の技術では大幅な低温化に成功し、製造後に残るアルコールと触媒は繰り返し使えるようです。コンクリートに比べ耐久性が高い反面、強度は現状では半分ほどですが、触媒の種類や砂粒の大きさ、加熱時間や温度などの工夫を通じ強度を高められるとしています。

SiO2は多くの砂や砂利の主成分である他、廃ガラスなどにも含まれます。この技術を使えば球状で小さい砂漠の砂など、従来コンクリートの材料としては使えなかった砂や砂利も利用でき、資源の枯渇が避けらるようです。

こういった技術はあまり良く分かりませんが、建築にはこれからますます強固な建材が求められていますので、新しい建材として期待が持てそうな気がします。

香りのデジタル化で脳を活性化

2021-05-29 10:48:34 | 化学
好きな香りを嗅ぐと気持ちが安らいだり、気分転換できたりするのは香りに情動を動かす力があるからとされています。

香りは数千年前から注目され、多くの研究がなされてきましたが、近年「香りの研究」が盛んになってきたようです。

嗅覚は五感の中で唯一嗅覚細胞などを介して喜怒哀楽などの感情を司る大脳周辺系に直接つながっているため、情動と関連付けしやすいとされています。香りの感覚に個人差が大きいのは、嗅覚受容体の遺伝的差異や記憶、人生経験とも密接につながっています。

地球上には数十万種類ものにおい分子があるといわれています。ヒトはそれらを鼻腔の奥にある約400種類の嗅覚受容体を使って感知しています。一つひとつの匂い分子は複数の嗅覚受容体によって認識され、どの受容体と結合するかは匂い分子ごとに異なっています。

香りの研究をさらに複雑にしているのが、嗅覚受容体の特徴です。例えばAという匂い分子とBとは異なった受容体に結合し、良い匂いとか嫌な香りと認識されます。ところがAとBが一緒に嗅覚受容体に結合すると、それぞれ異なった受容体に結合しているのに全く違ったCという香りとして認識するのです。

このあたりが香り研究の難しい所でもあり面白いところかもしれません。東京工業大学は嗅覚受容体の解明を進めることで、ヒトの香りの感じ方を予測し自在に香りをデザインする技術の確立に取り組んでいます。

ターゲットの受容体が結合する匂い分子を特定できれば、その受容体を活性化する匂い分子をデザインできます。その人の嗜好性、性格、体調などの情報と合わせれば、好みや場面に応じた香り成分の配合が可能になり、テーラーメイドで香りを供給できる時代になるとしています。

またここでは遠隔地でにおいを再現するシステムの開発にも取り組んでいます。匂い分子は嗅覚細胞にある嗅覚受容体に結合し、受容体が活性化され嗅覚細胞の内と外の間に電位差が生じ、匂いの電気信号として脳へ運ばれます。

この匂い分子ごとに異なる応答パターンを脳の中で認識し、どのような臭いかを識別すると考えられています。そこで脳の神経回路の一部を模した数理モデルを用いて応答パターンをデータ認識し、匂いの識別を行うセンシングシステムを開発しました。

いわば嗅覚のデジタル化と言えます。このように香りの研究は近年一段と進んでいますが、このブログで取り上げた「香害問題」などという課題もあります。

ただ嗅覚受容体がわけのわからないブラックボックスから、科学的な光が当て始めらて来たことは確かなようです。

「ヒトの組織」を模した抗菌素材を開発

2021-05-21 10:23:04 | 化学
ヒトの組織内に含まれる微量元素である「亜鉛」は、血液や骨、筋肉や肌などに含まれ、細菌やウイルスから身体を守る役割を果たしています。

この仕組みに着想を得て、オランダの企業が亜鉛を独自の方法でポリマーやプラスチックに組み込んだ「サニコンセントレート」と名付けられた添加剤を開発しました。

この記事では免疫という言葉を使用していますが、単に細菌などの「疫」を免れるという意味で、ヒトの免疫システムとは全く関係がありません。

サニコンセントレートは使い方もシンプルで、さまざまなプラスチック製品の原料の3%をこの添加剤に代替するだけで、その製品にウイルスやカビなどに対する抗菌性・抗ウイルス性を与えられるようです。

その性能も高く日本産業規格(JIS)や国際標準化機構(ISO)に準じた試験では、99.9%以上の抗菌性を示しています。ウイルスに対してもISO準拠の実験で、種類や素材によって91〜99.9%の抗ウイルス性を示しており、2021年には新型コロナウイルスへの効果も証明されています。

この技術の肝は「菌を殺さない」という点にあります。サニコンセントレートに使われているのは亜鉛のみで、菌を殺すような殺生物剤やトリクロサン、銀といった物質が含まれていません。この技術の目的は菌を殺すことではなく、菌の付着を防ぐことにあるとしています。

菌の増殖は菌が物質の表面に付着し、栄養分を取り込むことで始まります。さらに菌がある程度まで増えると、クオラムセンシングと呼ばれるメカニズムが生じ、これは菌が集団行動をとり始めるための仕組みで、菌が一定数まで増えると毒素の放出やバイオフィルム形成などの行動を起こします。

この技術はそもそもこの菌を付着させないことによって菌の悪影響を防いでいるのです。この抗菌というアプローチは特に今の時代に大きな意味を持っています。現在世界中で使われている殺菌剤や抗生物質が、薬剤が効かないスーパーバグ(耐性菌)の発生につながっているためです。

この技術はこれまで排水パイプやコロナウイルス対策マスク、再利用可能なタンポンアプリケーターなどに使われてきました。こうした用途に加えて食の分野に進出しようとしています。

この添加剤を原料に混ぜたパッケージがあれば、その抗菌作用によって食品をより長い期間美味しく食べられるようになり、フードロス対策にもなりそうです。

このような菌を殺さないで、付着を阻害する素材というのはなかなか面白い着想のような気もしますが、これが大規模に実用化されるかはコストの問題にかかってくるのかもしれません。