Bankの秘密基地

個人日記兼つれづれなるままに

よい子の確定申告(1)

2010年03月15日 | グローバル投資
確定申告のシーズンが到来すると気分が重くなるのはパターンとして
2つ。ひとつは申告が面倒というケース。2つ目は税をどうやって軽く
するかと考えを巡らして気分が暗くなる。まあ、後者のケースはあまり
ないだろうが、最近は脱税に関するニュース報道が多いのも事実。

 脱税といえば、パチンコ店、病院、個人経営商店などいわゆる税の
補足率が低く脱税しやすい業態の人々が想像されるが、最近はいわゆる
クロスボーダー取引と呼ばれる脱税のニュースが多いような気がする。
例えばこんなケース

 ケース1
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 米金融大手シティバンク・プライベートバンクの北出高一郎・元在
日代表兼北アジア統括代表(61)=東京都港区南麻布=が、親会社
から付与されたストックオプション(自社株購入権)を行使して得た
平成17年12月までの1年間の所得約1億4千万円を隠し、約3千
万円の税を免れたとして、東京国税局から所得税法違反(脱税)の罪
で東京地検に告発されていたことが21日、分かった。
脱税容疑分も含め、海外口座にあった国外所得約8億円が無申告だっ
たという。
ストックオプションによる利益や不動産収入などは米国の銀行口座に
入金していたが、その後、富裕層を対象にしたスイスのプライベート
バンク(PB)に送金して運用していた。
北出元幹部は、在日支店のPB部門の責任者だったが、同部門で法令
違反があったとして、金融庁から一部の支店・出張所の認可を取り消
される行政処分の直前の04年8月に退職。その後、役所に米国への
住民異動届を提出したが、05年には日本に半年以上滞在し、06年
に再び日本で住民登録した。東京国税局は、無申告の国外所得のうち、
05年については非居住者を仮装した疑いがあるとみて、告発に踏み
切ったとみられる。

 関係者によると、北出元代表は退社後の17年、親会社から現職中
に付与されたストックオプションを行使した上で、株を売却。その後、
所得税を申告せずに海外口座などで売却益を運用していたが、国税局
はこうした行為を仮装・隠蔽(いんぺい)と判断。総額数億円の所得
隠しも認定したもよう。このうち17年12月までの1年間に隠した
約1億4千万円の所得のみ告発の対象とした。
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 このケースでのポイントは2つある。ひとつはストックオプションの
付与のタイミングと納税期間との関係。2つ目は海外所得の申告の問題
である。外資系企業で働いていたこともあり、私もストックオプション
をもらったことがある。よく誤解されるのはストックオプションといっ
ても形態は一つではなく様々な形態があることだ。容易に想像されるの
は通常のストックオプションの形。これはオプションの行使価格が事前
に決められていて、行使価格と売却価格の差額の利益が本人の所得にな
るケース。ただし、この場合の売却益とは付与された日の株価との差で
実際の売却益ではないということ。

例えば、行使価格10ドルで付与された日の株価が20ドルであれば、
ストックオプションによる給与所得は差額の10ドルとなる。実際に株
式を25ドルで売却した場合には給与所得10ドル、差額5ドルは譲渡
所得になる。

もうひとつの形態としては、特に日本人には馴染みがないが、restricted
stock(制限つき株式)と呼ばれるものがある。日本語訳は適切かどうか
あやしいが、現物株式の無償譲渡といえばわかりやすい。会社は自社株を
コストゼロで従業員に渡す。従って、株価イコール所得になる。通常の行使
価格付のオプションよりももらえる額が分かりやすく、また株価が上昇する
ことで価値が上がる。行使価格つきも似たようなものだが、やはりコスト
がゼロであるのかそうでないかとでは気分的に大きな違いがある。外資系
金融機関のボーナスが100万ドルを超えたとかいう話がニュースになるが、
そのほとんどがこのようなrestricted stockによる株式売却収入によるもの
であることが多い。
ここでまたややこしくなるが、granted date(権利の付与日)、vested date
(行使可能日)という概念の理解が必要。ここでも日本語訳は適切とはいえな
いが、仮にそう訳しておく。granted dateとは権利を与えるが条件を満たさ
ないと行使することができないことを指す。例えば去年5月に親会社の株式
100株の株式を受け取ったが、実際に受け取れるのは今年の5月になってから
というような条件だ。実際に受け取れる日は vested dateと呼ばれる。


どういう意味があるかといえばvesting date以前に会社を辞めると株が
もらえない。即ち、人材の引きとめ効果があり、海外の企業では一般的だ。
上記のケースでもvestされた日がいつなのか書いてないのでよく分から
ないし、どのようなストックオプションの形態なのかも書いてないので
想像しかできないが、おそらく現物株式の無償譲渡すなわち、restricted
stockの形態ではなかったのではなかろうか。

このケースでは実際のvesting dateが売却した年のものであるのか、それと
も以前からもらっていて所有権が既に移転していて株式のまま保有した分
を売却したのかで話は違ってくる。報道を読む限りでは退職して海外に住民
票を移して売却したというふうに読める。仮に退職の年に海外に住所を移転
し、vesting date を迎えたのなら、正確には脱税行為とは言えない。
日本の税法では非居住者への課税はありえないからだ。しかし、ニュースに
あるとおり、半年は日本に住んでいて、翌年には住民票を移動しているわけ
だから、これを正確にいえば「租税回避行為」と呼ぶのが正しい。

「租税回避行為」とは読んで字の如し、課税を免れようとする行為だが、そ
れが全て「脱税」とは言えない。あくまで「税務署」の判断に依存する。
売却時だけ海外にいて日本にすぐに戻ってくることで租税を回避した判断さ
れたわけだが、確かにそうだな。向こうに骨を埋める覚悟で今でも海外にい
ればまた違った判断になったかもしれない。但し、vestされた日が以前の
もので売却したのがたまたま海外にいた期間であるのならそれは「租税回避
行為」プラス「脱税」となる。

 海外所得に関してはもう弁解の余地なし。日本人の多くが海外口座さえ開設
すれば国税から逃れられると単純に考えている人が多い。そしてその大部分が
日本の金融機関から送金しているというおめでたさ。日本の銀行はちゃんと
海外送金については国税や金融庁に届けてますよ。特に金融庁検査で変な指摘
を受けないために不自然な海外送金は「マネーロンダリングの疑いのある取引」
として届けられている。だいたい、メガバンク1行で数千件が年間に届出がある
そうだ。

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