Bankの秘密基地

個人日記兼つれづれなるままに

第一生命株式会社 IPO(2)

2010年03月31日 | 銘柄研究
(3) バリュエーション

 投資家にとって重要なのは投資している証券が割高なのかそれとも割安なのかという点で、通常
の企業への投資と同様投資判断の基準が何であるかという点だ。PERやPBRが有効であるのかという
点だが、個人的な見解を言えば、恐らくあまり役に立たないだろう。生命保険業で既に上場してい
る会社としてはT&Dホールディングスやソニーフィナンシャルホールディングスなどがある。また
業態は違うが損害保険会社もビジネスモデルが似ていることから参考になるだろう。

 損害保険会社は東証に大昔から上場していることから株価バリュエーションの参考になるだろう。
因みに損害保険会社のバリュエーションとして国内外の機関投資家がよく使うのは修正純資産倍率
だ。修正純資産倍率の算出には大昔から投資している有価証券の含み益だけでなく、異常危険準備金
など海外では積み立てられていない準備金を繰り戻して計算するケースが多い。但し、異常危険準
備金が株主のものであるかという点に関しては議論の余地が大きいだろう。何故、異常危険準備金
を繰り戻すのかという点に関しては、もともと通常の大数の法則によってカバーできない、異常災害
による損失をカバーするために事前に積み立てるのがもともとの意義であるが、日本の損保会社は
任意で積み立てている部分がある。任意でというのは税法上認められている限度額を超えて有税で
積み立てている部分があり、これが外国人投資家にとっては株主に帰属すると考えているふしがあ
る。

 一方で生命保険会社の場合は損保と異なり超長期の保険契約が主体であることから損保で用いら
れているそのまま修正資産倍率が利用できるかは若干の考慮が必要だ。T&Dホールディングスの
上場によって積極的に利用されているのがMCEVだ。MCEVとはMarket Consistent embedded Value
の略で市場整合的エンベッデドバリューと訳されている。欧州で広がったものであるから単にEEVと呼ぶ
ことが多い。ひところはやったEVに似ているが従来の定義によるEVはTEV(Traditional embeded
Value)と呼ばれており、それに対してMCEV は対象事業のリスク全体について十分な考慮をした上で、
対象事業に割り当てられた資産から発生する現在および将来における株主への分配可能利益を現在価
値評価したものである。MCEV は、金融市場で取引される金融商品の価格と整合的に評価したEV と言
われている。

 生保会社におけるEVの定義は上記の通りであり、修正純資産の計算額に既存契約、新規契約の割引
現在価値を足しあげて企業全体の「修正純資産」を計算するものだ。そういう意味においては損害保険
会社のバリュエーションの仕方と同じだ。結局、何のことはない株主に帰属する価値を計算するという
ことだが、個人的にはいつも「純資産議論」には若干の違和感を覚える。それは「解散しない会社」
の株主帰属分を計算しても、解散しないから結局帰属しないんじゃないかという素朴な疑問だ。ただ
し、この議論はある意味不毛な議論で最終帰属しないのなら配当という形になってしまい、議論が
50年くらい前に戻ってしまう。ここではいまはそれを封印してMCEVについてもう少し見てみよう。

まず従来のEV(TEV=Traditional embedded Value)とMCEVの違いを見てみよう。




 MCEVはTEVと比較して定義の変更はあるものの考え方は変わらない。最終的に株主に帰属すると考え
られる経済的な価値を計測するのが目的た。EVは簡単に言えば修正純資産に保険契約の経済価値を加え
たものだ。修正純資産は資産時価より法定責任準備金(危険準備金を除く)とその他負債を差し引いた
株主に帰属すると考えられる額を指す。TEVとの差はそれほどなく、建物の含み損益を加えたことでよ
り実質的な価値を計測するのが目的だ。最も大きく変化したのは保険契約の現在価値の計算方法が大き
く変わったことだ。保険契約の割引現在価値を計測するには当然のことながら割引率を求めなくてはな
らないが、この割引率というのは正直にいって正解がない。要するに未来の市場金利を予測するような
ものでそれが出来るのなら絶対損しないわけだから、そんなことは不可能だ。

 割引率の設定には大まかにいって2つの方法があり、トップダウンアプローチとボトムアップアップ
アプローチだ。トップダウンアプローチでは株式市場の株価動向などからベータ値を算出し、それに
加重平均資本コストを計算してリスク・マージンを一定にして割引率を算出する。一方、ボトムアップ
アプローチでは商品毎、国ごとにリスク特性を勘案して割引率を出すことでより精緻に経済価値を計測
しようという試みだ。MCEVではボトムアップアプローチを採用している。

 TEVとMECVとの比較においては相違があるわけだが、MCEVに優位性があるとされているのは以下の点
だ。

 ・資産配分比前提と割引率調整がMECVの方が市場整合的であること
 ・割引率の主観的要素の最小化と金融市場との整合性
 ・オプションと保証への対応、確率論的な計算による時間価値の明示
 ・必要資本維持の為の費用計算の客観性の担保

 細かい議論はここではしないが、要するにトップダウンアプローチでは単一シナリオによる一律の
割引率の適用、商品毎のリスク対応の困難性、主観的判断の割引率への影響を最小化することができ
ないというのがその主張である。既に多くの保険会社がMCEVの採用を決めており、第一生命だけでな
く、既に上場している生保2社もMCEVを採用していることからベンチマークとして一般化しつつある
と考えるべきだろう。

(4) 第一生命のMCEV

 なんだかよく分からんことを長々と書いたが、MCEVとTEVの定義の差はあったとしても考え方はそう
は変わらない。結局、株主帰属分がいくらかという話で、ここでの結論は株価はMCEVに連動もしくは
相関するということだ。EVがどの程度株価に影響するのかという点では次のグラフを参照してほしい。



 2009年5月19日にT&DホールディングスがEEVを発表。前年度1兆6千億から8665億円と
ほぼ半減、株価は翌日ストップ安した。こうしてみるとEEVの発表によって株価に大きな影響を与える
ことが分かる。但し、実のところ発表後株価は安くなったもののその後反発したりしている。影響は
極めて短期的に見えるが、もっと長いスケールでみると株価はその後じりじりと下がりストップ安した
水準よりも現在の株価は下落している。ここで考えられることは短期的な株価については別にしてEEVの低下
は確実に株価の低下につながっているということだ。

 本題の第一生命のEEVだが、これは目論見書にちゃんと書いてある。




 直近の21年9月のEEVが2兆5千57億円。発行済み株数は1千万株なので計算しやすい。1株
あたり、25万5千円だ。株価EEV倍率で考えると0.55倍。ほぼT&Dホールディングスと同じバリュ
エーションであることがわかる。株価評価を考えるとT&D並で既にフェアバリューという考え方もで
きなくもないが、昨年5月にミソをつけた会社との比較が正しいのかは少し疑問だ。まず第一にT&D
とは比較にならないくらい流動性が違う。流動性プレミアムを考慮すべきではないかという疑問。
第2にEEVが株価に影響しているわけだが、T&Dは現在アンダーバリューされているんじゃないかとい
う疑問。もしかしたら第一生命よりもT&Dを買うべきなのかもしれないが、上記の第一生命のEEVを
見てほしい。3月から9月までの6ヶ月間のEEVが7473億円増加している。修正純資産が40%増加
しており、保険契約の現在価値が51%増加している。

 理由は実に簡単だ。株価が上昇しており、金利が低下しているからだ。即ち、株価の上昇によって
保有資産の時価が増加しており、金利の低下によって割引率が低下している。いままでぐだぐだと
EEVの説明をしてきたが、定義からして金融市場の影響度が極めて大きいのは自明だ。従って、損保の
ように株式市場が上昇すれば保有資産価値が増大してEEVが高くなる。では何故、T&Dが上昇しないのか
という点だが、一つは流動性の問題。ファンダメンタルズが同じでも東電と九電の株価のプレミアム
のつき方は違う。もう一つはEEVというファンダメンタルズ情報の開示頻度にある。T&DはEEVを年1回
発表している。それ以降のEEVの発表がなく、第一生命と比較可能な状況にない。今回、第一生命は
9月末の数字を発表しているが、恐らくこれからは年1回の発表になると思う。新規公開の為に特別
に9月中間の数字が発表されているだけなので公開後は年1回になると思われる。

 以上から勘案すると公開時の株価EEV倍率0.55倍は割安の部類に入るだろう。ソニーフィナンシ
ャルが0.78倍程度なので0.55-1.0倍のレンジに収斂すると考えるのが妥当だろう。
加えてプラスの材料がある。3月末の株価はまだ分からないが現時点での日経平均は9月末と比
較して8%程度上昇しており、ドルは円に対して3%上昇している。国内株式、外国証券の評価
額は9月末よりも増加しており、EEVが上昇している可能性は高い。結論としては多分買い。と
いうか、T&Dが買いなのかも。

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第一生命株式会社 IPO (1)

2010年03月30日 | 銘柄研究
 生命保険業界自体それほど好きな業態ではないが、まあこれもお祭りなのでIPOに参加することに
した。野村にも口座はあったが、ほとんど金も入っておらず付き合いもないので、大和証券とマネッ
クス証券でIPOを申し込んだ。ほとんど同じ金額株数で申し込んだが、マネックスでは割り当てはゼ
ロだった。まあ仕方ないんだけろうけど。大和のほうでは25株当選。おっ、結構とれたじゃない
か。公募価格が14万と予想されていた15万5千円の上限に張り付かなかったのは意外ではあった
が、IPOが取れたことも意外。いままで大和で申し込んだこともなかったが、ネット証券で何回か申し
込んで全て全敗だった。別に悔しくはないが。やはり総合証券はこういうときくらいは役にたつのだ
ろうか。とはいっても、上限にならなかったことでびびった投資家がでたのか、大和から割り当ての
連絡があって直ぐにまた電話がかかってきた。

「キャンセルが5株でたのですが、とりますか?」
「はい。取ります」 即答。

 公募価格が上限じゃないのからキャンセルする投資家ははっきり言って、投資家の資格なし。キャ
ンセルするくらいなら初めから申し込まなければいいのだ。上限価格に達しなかったのは人気がなく
て上限を割ったわけではなくて、発行体が上限価格にしなかっただけなのに。そんなことも分からず
に人気がなさそうだという理由でキャンセルするなんて投資家やめた方がいい。まあ、それでも公募
割れしないという意味では勿論ないけれど。

(1) ビジネスモデル

 生命保険会社のビジネスモデルは一見、複雑でかつ会計処理が普通の上場会社とは異なることから
株価バリュエーションが困難と考えられており、実際アナリストの意見も千差万別、摩訶不思議なも
のが多いのも事実。但し、ビジネスモデルという点からすれば生命保険会社は実はきわめてシンプル
なものだ。




 生命保険契約とは契約をする一方の者(保険者)が相手方(保険契約者)、または第三者(被保険
者)の生死に関し、一定の金額(保険金)を支払うことを約束し、相手方がこれに対して報酬(保険
料)を払うことを約束する契約のこと(商法第673条)である。また契約は通常、主契約と特約という
形に別れ特約部分でのプレミアム収入の増加をはかることが多い。保険とは将来のリスクを引き受け
ることでプレミアム収入を得ることであるため、将来のイベントリスクを保険引受人自らヘッジする
ことで損失を最小化させる必要がある。

 将来のイベントリスクとは契約者の死亡・事故が一般的に考えられているが保険契約は通常長期に
亘ることから、インフレーションなどのイベントリスク発生時の経済価値の保全などが必要となって
くるので株式などの証券投資によりプレミアム収入の現在価値をヘッジする必要に迫られる。これが
一般的に生命保険会社が長期に株式に投資する主たる理由となる。死亡・事故のヘッジに関しては
個々人のイベントリスクを予測することは不可能であるものの、生命表などの確率的な要素から一般
的な死亡確率、事故確率は予想できるため、(50歳代の人の死亡確率は個々人では予想できないが、
一般的には確率は計算することができる)プレミアム水準を世代別に設定するなどしてヘッジすること
が可能となる。

噛み砕いて言い直せば、長期間に亘るイベントリスクヘッジ契約下において保険契約者はプレミアム
を支払う。一方で、保険者は生命表などから適正なプレミアム水準を策定し、中長期的な経済予測を
ベースにした資産運用を行うことで、保険契約者に保険金を支払いかつ剰余金を確実に残すことがで
きる。また長期的な観点から見れば30-50年といった極めて長期の契約ではインフレが進行する
のが通常で当初契約した保険金(例えば保険金5000万の死亡保障など)は契約満了時の現在価値は
下がっているのがほぼ確実だ。例を挙げれば、今、5000万円の保険契約を締結した場合、仮に5
0年後にイベントリスクが現実に発生したと仮定しよう。(50年後にあなたは死んでいる!!)
当然、貴方の家族には5000万円の保険金が支払われる。但し、それは名目価値で50年後の
5000万円は現在価値にすると500万しかないかもしれない。即ち、生命保険会社にとって
インフレーションが発生すると必ず儲かる仕組みになっている。保険会社は株式などでインフレ
をヘッジしているが、契約金額は50年後の割引現在価値ではなく、あくまで名目の金額だから
だ。

 但し、例外がある。生命保険業は社会がどのような形であれ、人口の増加があり、中長期に亘りイ
ンフレーションが進行するという前提でビジネスモデルが形成されている。人口減少社会で長期のデ
フレーションという形は厳しいものであるというのは論を待たない。まずは基礎となる生命表の大規
模な修正が必要となる。一方で契約の途中変更はほとんど不可能であることから、そのような環境に
なった場合には戦略の転換が必要となる。一つは海外展開など保険契約者の年代別偏りをなくすこ
と。もしくは同業他社を吸収すること。保険業は大数の法則が効くことから規模拡大は重要だ。第一
生命が株式会社に転換する理由もどうやらこの辺にありそうだ。        


(2) ファンダメンタルズ

 生命保険業を見る場合にはプレミアム収入の状況、保険金支払い、資産運用状況など確認
するべき項目はいくつかあるものの、基本的には通常企業と大差ない。保険契約の増加という
のが一般企業では製品の販売状況とみることができるし、保険金支払いは要するコストの状況
すなわち原価の状況。資産運用はその他収益という具合だ。



 写真に連結損益計算書を載せているが、経常収益は5兆2千億、経常利益は633億円だ。
なお、目論見書には異なる損益計算書が2つ載っているが、ここでは第一生命が株式会社で
あったと仮定した場合の損益計算書を載せている。相互会社の形態での経常利益は1091億円
なのでだいぶ数字が違うことを留意する必要がある。なお、その違いは経常費用の中のその他
経常費用の違いで説明できる。社員配当準備金繰入額を費用計上したと仮定した場合、相互会社
での会計処理よりも300億利益が減少した。

 経常収益に注目すると第一生命は保険料収入3兆2900億円、資産運用収益1兆1780億
円、その他経常収益7535億円となっている。収入の5分の1が資産運用収益でグローバルに
見てみると資産運用の比率が低い。まずは日本の低金利が邪魔しているという点と日本株を筆頭
に運用環境が厳しいことがその理由だ。やはり日本のデフレ環境のマイナス面が響いているとい
う点についてはまず間違いないだろう。



 バランスシートはやは通常の企業とは異なっている。一般勘定28兆円の内、22兆円弱が
有価証券への投資となっており、4兆円などが企業への貸付金、1兆円が不動産などへの投資と
なっている。有価証券の内、3兆円弱が国内株式、1.4兆円が外国株式となっており、残りの
12.6兆円が国内債券、4.4兆円が外国債券という内訳になっている。有価証券の含み益の
ほとんどが債券からきており、国内株式、外国証券は含み損の状態になっている。日本生命など
のトップ生保との違いはポートフォリオの含み損益にあると考えてもよいだろう。デフレの状況
が株式の損益に悪影響を与えており、日本がインフレ環境になるまで現状の水準から大きな変化
はないと考えるのが妥当だ。後ほどバリュエーションの話をするが、バランスシートの状況を考
えてみると生命保険会社の価値の増減は証券市場の動向が大きな鍵を握ることが理解できるだろ
う。

(続いたりする)

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海外のREIT投資(11) - Ascendas India Trust(シンガポール)

2010年03月29日 | 海外REIT研究


 アセンダス・インディア・トラスト(AIT)はシンガポール上場の不動産に特化した事業信託で
その名前の通り、インドのに特化したファンドだ。シンガポールの事業信託法の下で組成された
ファンドで厳密にはREITではなく、事業信託ではあるが、シンガポールの投資信託法の不動産
投資信託ガイドラインに準拠しており、REITライクな性格を有している。インカム収入の90%
以上を分配する事をコミットしており、分配金はシンガポールの所得税が免除される。(パスス
ルー課税であるという意味....だと思う) さらにギアリングの上限は35%と定めており、格付け
を一定要件を満たせば60%まであげることができる。2009年12月末の純資産は647百万
Sドル(420億円)、1ユニット当たりで85セントとなっている。現在の株価の98セントはプレ
ミアムがついていることになる。配当利回りは直近3四半期の年率換算で7.8%になる。

 AITは2004年12月に私募投信として組成された後、インドの不動産市場に投資する初め
ての不動産投資信託として2007年8月にシンガポール証券取引所のメインボードに上場した。
2009年12月末には時価総額7億シンガポールドル(455億円)。ポートフォリオはインドの
強みでもあるIT産業の比率が高く、4つのビジネスパークのほとんどがIT関連となっている。

 4つのビジネスパークはHyderabad、Bangalore、Chennaiのインド中南部に位置している。
International Tech Park Bangalore(ITPB、180万平方フィート)、International Tech Park
Chennai(ITPC、 125万平方フィート)、The V(128万平方フィート)、Cyber Pearl(43万
平方フィート)の4つのビジネスパークをあわせると477万平方フィートの広さがある。テ
ナント構成を見るとIT関連63%、研究開発5%、金融1%、その他IT関連で27%と圧倒的にIT関連が
多い。IT関連という形で見れば9割以上となり、単一業態のエクスポージャーが高いという
点に留意する必要がある。但し、すでに承知しているようにインドはグローバルなITアウトソー
シングの受け皿となっていて、IT一辺倒といっても影響するのはインド経済でなくグローバルな
経済動向がリスク要因となる。



 先ほどの4つのビジネスパークだが、Hyderabadに2箇所存在しているので、3地域となるが、
その3地域のエクスポージャーはほぼ均等になっている。地域的な偏在があるというわけではな
い。繰り返しになるがITアウトソーシングの受け皿であるインドではIT関連とはインドの内需と
あまり関係がないと考えて差し支えないだろう。それは顧客のブレークダウンを見ればあきら
かである。インド国内企業と多国籍企業(MNC)の比率で見てみるとMNCの比率が9割を占めており
インド企業の比率は1割にも満たない。国籍別で見ると米国が7割になっているが、米国経済の
リスクが高いということには必ずしもならない。なぜならば、多国籍企業は米国に多いのが第一
の理由であり、それらの多国籍企業でグローバルに展開していることからやはりグローバル経済
の動向が最もリスク要因として挙げられるだろう。




 なお、上位10社の売上げに占める比率は30%となっており、Affiliated Computer Services、
Applied Materials、Cognizant Technolgy Solution、GM、Invensys Development Cneter、Merrill
Lynch、Pfizer Pharmaceuticlaなどの多国籍企業郡が顧客の上位を占めている。

 (バランスシート)

 バランスシートは比較的健全だ。デットプロファイルを見ても現在のギアリングが19%と低い
水準に留まっており、借入れ余力はまだあるように見える。またスポンサーがシンガポールで最大
規模のREITの運用しているアセンダスグループであることから信用上のリスクはそれほどないと
考えてもよいだろう。但し、留意すべき点は最大60%までのギアリングがかけられることになっ
てはいるが、それは一定の格付け要件を維持するという条項があり、これを満たしているのかどう
かは確認できなかった。それでも35%までの引き上げは可能であることから140百万Sドルの
借入れ余力は現状であることになる。デットファイナンスに関してはすでに2015年12月満期
で25億インドルピー(74百万Sドル)での借入れに成功しており、5.255%クーポンまた
は330bpスプレッドでの60百万Sドルの3年無担保社債の発行を実施しており、今後の拡張
資金はすでに確保したことになる。

 一方でマチュリティ・プロファイルを見るとデットデュレーションが短いような気もするが、
インドのような新興国は常にインフレ気味で金利水準が高いことから長期での調達では金融費用が
高くなるデメリットがあることは確かであろう。またローンもシンガポールドル建ての比率が高い。
従って、為替変動による損益が発生することも留意する必要がある。因みに調達コストは加重平均
ベース、税効果を含むネットベースで6.2%となっている。



(売上・利益成長・成長戦略)

 過去5四半期の売上げ水準の推移を見ると意外に停滞している。停滞している理由は新規物件の
追加が特段なかったのがその理由だと思われるが、NPIベースでは伸びている。これはコスト削減
などの効果があったことが大きいが、この状況がいつまでも続くわけではない。やはり利益成長の
ためには新規物件の追加取得が必要だ。3Qの状況を見てみると売上げは4%の増加に対してNPI
は13%の増加になった。増加の最も大きな理由としては運営費用・メンテナンス・警備コスト及び
その他運営費用の減少によってコストが10%の減少となったことだ。




 今後の成長に関しては2010年から11年にかけて追加取得が予定されている。現在の保有物件
面積の35%にあたる170万平方フィートに拡大する予定である。その内Zenith(74万平方フィート
ITPC)、Park Square(45万平方フィート、ITPB)の2件合計119万平方フィート分に関しては2010
年半ばにも完成する見込みであり、今年後半から来年にかけての売上げ成長が期待される。



 一方で懸念材料も少なからずある。まずは今年から来年にかけて完成する170万平方フィートを
新規顧客で埋めることができるのかという点だ。インドは成長しているといっても、IT特化でグローバル
な経済環境の影響を受ける業態であることから、景気の腰折れがあったときにどうなるのかという点
は常に留意する必要があるだろう。さらに2011年には現在リースしている契約の35%が満了と
なる。契約更新が多いことから新規物件との競合も考えられるし、レントへの影響など若干不安な点が
あるとみてよいだろう。



 リスク要因は確かにいろいろあるとはいえ、インド不動産市場へのエクスポージャーを持つことがで
きるという点や、スポンサーの安心感、成長ポテンシャルなどを考えると面白い投資対象であると言え
るだろう。インドの強みといえばやはりITでIT技術者の給与水準が日本の5分の1、韓国の3分の1、
中国の2分の1とスキルのある技術者を最も安く雇用することができる国である。加えてインドでは
英語が通じることなど中国の技術者と比較しても優位性が高い。中長期の投資という観点ではポート
フォリオには入れておきたい銘柄だ。

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MMDを触ってみる(12)

2010年03月21日 | Weblog


前回、PMD分割についてその仕組みを書いたがPMD変換の実際のやり方についても触れてみる。
というか3Dカスタム少女のヘビーセーブファイルをPMDに変換するソフトはとて
もよくできていて、ソフトウェアの知識のあまりない人でも簡単にできるようになっ
ている。

手順1

 まず3Dカスタム少女(3DCG)を起動してカスタマイズする。もしくは他の人が作ったヘビー
セーブデータを入手する。3DCGは有料ソフトなのでこれは自分で調達する必要があるが、他人
が作ったヘビーセーブデータはフリーで入手できる。3DCGの板もあるのでそこからたぐって
いくと保管庫(アップローダー)を見つけられるのでいろいろな素材を入手できる。3DCGは
カスタマイズしてみるとわかるが、デフォルトでは巨乳キャラばかりできてしまう。おとなしめ
の胸にするには「板ボディ」「妹ボディ」などとよばれるユーザーが作った素体を入手しないと
だめだ。

ヘビーセーブ


 とりあえず用意してみるが、実はこれを直接変換することができない。というのはMMDでは
頂点数の制限というのがあり、65535個以下と決まっている。頂点数がどの程度かというを調べる
必要があるが、そのためには変換ソフトであるTso2Pmdに同梱されている頂点チェッカーという
ソフトを利用する。使い方はこれまた簡単でヘビーセーブファイルをドラックして頂点チェッカー
にドロップするだけ。



このモデルの頂点数は見てのとおり68468と制限を越えている。実は3DCGモデルの頂点数は
ほとんど全て多い。MMDの通常モデルの頂点数は2-3万程度なので2-3倍多くなっている。
やり方は2つある。1つはPMD分割。透明カス子さんと本体に分けてMMDで合成。もう一つ
はPMD変換する前に頂点を削除してMMDの制限に収める。
Tso2Pmdの最新バージョン0.1.4では変換前に省略する頂点グループの指定という機能がついた。




Tso2Pmdを起動してオプションタブを選択すると「省略する頂点グループを指定する」という
オプションが出てくるのでこれを指定。ファイルをドラッグしてTso2Pmdにドラックすると
指定画面が自動的に開く。





 ここでsub meshもしくはmesh単位で省略頂点グループを選択する。中を見てみるとその中に
Housenと書かれているところがあり、これは無条件に省略が可能だ。指定後、決定ボタンを押すと
変換が始まりサブフォルダを自動的に生成。その中にPMDファイルが出来上がる。

(PMDEditorでの編集)

勿論、変換されたモデルはそのままMMDで使用が可能だが、モデルの破綻部分を多発するので
PMDEditorで余分なパーツを取り除いておく。初心者でも簡単にできるのは胸の部分の破綻を
抑えることだ。スカートをはいたモデルでは標準モデルでは破綻はすくないものの、ユーザー
モデルでは特に破綻が多い。ただし、これについては私もうまくいっていない。PMDEditorで
モデルを読み込むと次のようになる。



PMDEditorを起動したら材質編集で削除したい部分を選択する。大抵の場合、削除したい部分と
そうでない部分が同じ材質グループに入っているので削除したい材質を選んだら範囲を指定して
新しい材質に分離して、削除したいグループとそうでないグループの材質に分ける。いくつかの
材質グループから削除したい材質を分離して最終的に次のようにまとめた。



これらの材質を削除。削除は簡単で材質を指定して右クリックするとサブメニューがでるので
材質を削除を選択し削除するだけ。最後にPMDの状態検証を押して一応確認する。状態検証は
ファイル->状態検証でチェックできる。



3DCGモデルは通常のMMDモデルよりも重いので、削除できる部分はカットしておいたほうがいい。
例えば、足の部分はソックスで隠れている部分はなくても構わない。軽量化してそんはない。
できたモデルは後はMMDに流すだけ。



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MikuMikuDance でPさんと呼ばれる本
かんなP,ラジP,極北P,ポンポコP
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よい子の確定申告(6)

2010年03月20日 | グローバル投資
配当所得と譲渡損益の通算2

数字は勿論、架空で私の希望数字。

(申告書付表その2)

繰越損失に関してはもぱっと見ただけではよくわからない形になっている。最初私もとまどった。戸惑った理由は次のようなものだ。損失を当該年度の配当総額から引けるのはわかったが、古い損失から順々に引くものと思っていたら、どのようにするのか書いてない。というよりよく分からないような説明になっている。税務署からの手引きを熟読したのであっているとは思うが、正確性は保障できないので念のため。

損失を引く順序

1. 本年の損失から配当を引く
2. もし引いても配当額が多くプラスが残った場合最も古い損失から引く
3. 最も古い(3年前)繰越損失を引いてもプラスが残れば(配当のプラスがある)2年前の繰越損失を引く。
   さらに余れば昨年度の損失を引く
4. それでもプラスが残るのであれば分離課税の配当所得として申告することになる。税率は所得税7%、住民税3%。ここで留意する点は繰越損失がなくなってプラスが出たとしても分離課税を選択している限り、他の所得との通算はなく税率も7%だけになる。さらに源泉税として既に支払っているので申告することで税金が増えることはないし、総合課税の対象にならない。

今回のケースでは配当所得が譲渡損失よりも小さいケースを取り上げている
ことから上記の例の対象にならない。譲渡損失が配当が大きい場合、本年でマ
イナスが残っているので昨年度の分とあわせて繰り越し損失の申告を行う。



付表を書き終えたら申告書に転記するわけであるが、数字の転記に関しての説明
は特にいらないだろう。むしろ忘れやすい部分に絞って解説する。



つまらないといえばつまらないが、配当は総合課税の配当と分離課税の配当が
あるので第2表上段の所得の内訳には配当に○をつけて分離課税であることを
示しておく。これを忘れたから分離課税にならないというわけでもないだろうが
念には念を入れる。相手は税務署だ。



意外に失念してしまうのは源泉税の扱いだ。源泉税は国税である所得税と地方税
に分かれており、国税7%、地方税3%だ。先ほどの所得の内訳にも源泉税は合計
ではなく、国税分を記入する。地方税に関しては第2表下段右側に書く欄があり
そこに数字を書き込む。「配当割額控除額」というところだ。なお、私はいわゆる
ラブホテルファンドにも投資している。これは匿名組合出資契約による配当収入
だが、これは雑収入になり分離課税対象にならない。また為替の差損も雑所得だ。
両者は雑所得同士で損益の通算ができる。なお、数字は架空なのであしからず。





これも忘れやすい。第3表上段右に特例適用条文という欄がある。さらっと書
いてあるので忘れやすい。しかもよく見るとこれってなんか機械で読み込ませて
いるようでこれがないと自動的に条文適用なしとかに分類されちゃうんじゃな
いという懸念が...わからないけど。なんとはなしに結構重要な気がする。




第3表中段右側には分離課税の配当額を書く欄がある。これもうっかり忘れが
ちなところに。しかも税務署からのガイドに特段の説明がない。機械で読んで
いるわけではなさそうなんでまあ忘れても問題はないとは思うが。念のために
書いておく。

 税務申告は税務署員が一つ一つ丁寧に見ていると思われがちだが、そうでも
ない。まずは機械で読み込んで一括して処理してその後、税をちょろまかして
そうなところをピックするというのが彼らのやり方。従って自分に不利な申告
(申告すべき数字を間違えたとか、転記し忘れたとか、いろいろ)しても機械が
まず処理して、はいそれまでよ...とかになりかねない。

 何故、そんなことがわかるかといえば、皆さん胸に手を当てて考えてください。
過去に税務署が過大に申告して税を納めすぎてますよという知らせが一度でも
あっただろうか。昔、申告した後に基礎控除の38万円を記入し忘れたことが
あり、申告からだいぶ時間がたってから修正申告した。まあ申告は当然通った
のだが、そのときに疑問に思ったのは機械で処理しているのになんでこういっ
た明らかなミスを税務署は直してくれないだろうか....と。当然OCRで読んで
計算機で処理すれば基礎控除がゼロなら機械ではじくなりなんなりできるだろう。
誰が考えても基礎控除ゼロというのはおかしいし、ありえないのだから即修正
申告の対象になってもおかしくないのに関わらず、税務署からは何の連絡も通知
もなく、申告からかなりの時間がたってからの申し立てに「機械的」に対応する
だけ。これは即ち税金を多く取る分にはミスは「容認」されるということ。い
いかえれば申告でミスした場合、誰もフォローしてくれないということだ。税務署
は適切な税の申告をと「脱税者」に対して熱心に呼びかけるが、ケアレスミス
した過大納税に対してほうかむりするのは適切な態度なんだろうかと...いま
考えても腹が立つ。

今年の分は終わった。ああ、疲れた。でもまた来年がある。

(連載終了)

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よい子の確定申告(5)

2010年03月19日 | グローバル投資
配当所得と譲渡損益の通算 1

 今年から確定申告で大きく変わった点は配当所得と譲渡損益との通算が可能
となった点だ。REIT投資家にとって配当収入が所得が大きな部分を占める場合、
譲渡損益の有無、総所得の水準と所得税率の水準、分離課税・総合課税の選択、
特定口座での源泉徴収の有無など選択によって自身のキャッシュフロー水準が
変化することになる。

私の場合には昨年、特定口座の源泉徴収は選択しておらず、また譲渡損失があ
り、かつ配当収入を超えるので源泉徴収された分を損益通算により還付させる
ことが可能なので申告した。今年からの変更点を中心にポイントを書きとめて
おくことにする。なお、いかに書くことは私が理解した範囲で書き入れている
為、正確性を担保することはできない。いわば自分用のメモという位置づけな
のでそれによるいかなる損害の補償はしかねる。あくまで参考として読んでも
らいたい。配当の損益通算はみんな初めてだろうし、私も初めてなのだからあ
まり頼りにされても困る。

・申告書付表

 株式の譲渡損益を申告したことがある人にはおなじみのものだ。書式が黄色
いので他の申告書類と異なっている。また、譲渡関係は普通の申告書(このブ
ログを呼んでいる人は大抵申告書Bだと思うが)とは別に専用の封筒に入れるこ
とを指示されているので間違えることはない。制度が変わったことで書式も変
わったが、それほど神経質になる必要はないだろう。単に配当収入金額を書く
欄ができただけだ。
 付表1面の(2)に配当収入をかく欄が新設されそこに配当収入額を書き込
む。なお、ポートフォリオでREITを保有している投資家には何銘柄もあると思
うが、その場合収入額の合計金額を書きいれ、種目・所得の生ずる場所の欄に
は「上場株式配当」とか添付資料を作成しているのであれば「添付資料参照」
でもよいと思う。なお、参考にあげた図表の数字は現実のものでなく、私の希
望数字。



 (1)には譲渡所得の金額を書き入れる欄があり、①ー③の欄には①株式の譲
渡損益②上場株式に関わる譲渡損失③本年分の損益通算前譲渡損失を書き入れ
る。一体なんのことだか分かるようで分からない。というのが正直なところで
はないだろうか。

①は上場株式の損益と未公開株式の損益合計を入れるが、大抵の人は自分は未
公開株なんて持ってないと思っていると思う。ただし、海外に証券会社の口座
を保有し、かつその証券口座で他の国の上場株式を売買した場合は「未公開」
扱いになる。上場分とは国内の証券会社での特定口座、一般口座での損益を指
しており、海外口座での売買は全て未公開扱いになることに留意する必要があ
る。

 ②は文字通り上場株の売買だが、ここでは逆に国内証券会社で保有してい
る外国株式の売買損益は上場扱いになる。また気をつけなければならないこと
は外国株式の売買損益は特定口座の計算に含まれていないことだ。証券会社か
ら送られてくる年間の売買損益報告書は国内上場分のみで外国証券は対象では
ない。一方、外国証券の売買損益は税申告上は上場扱いになっており、気をつ
けないと申告漏れになる恐れがある。特に売買損が発生していた場合には損失
の繰り延べができなくなるので注意が必要。

 一方、国内証券会社に預けている外国株式の配当は証券会社が年1回発行する
特定口座の配当計算書に含まれるというのがまたややこしい。気がついた人は
もういるかもしれないが、証券会社とは別に企業からくる配当計算書というの
が今年から少し変わる。以前であれば「配当総額」「税額合計」「所得税額」
「住民税額」「支払い金額」がそれぞれ記入されているが、「株式比例方式」
即ち、証券会社の口座に入金する形をとると会社からの配当金計算書で配当総
額の税前の数字のみが印字され、税額欄は「*******」という形になる。一方
で、1年が終わると使っている各証券会社から特定口座株式に関する「配当金
計算書」が送られてくることになる。そのなかに口座に保有されている銘柄の
配当額、源泉徴収額、ネットの支払額が記載されている。たとえば同じ銘柄を
3つの証券会社で保有していれば個々の保有株数に応じた源泉額が記載されて
合計するとその銘柄の源泉徴収額がわかるという仕組みだ。なにがどう便利に
なるかといえば、今年の確定申告では企業からくる配当金計算書を提出しなく
てはならないが、来年の確定申告では証券会社から送られてくる計算書で代替
できることになる。企業からの計算書はたとえば50銘柄保有していれば50通
の計算書が送られ、それらを税務署に提出する。株式比例方式だと利用している
証券会社の計算書を提出することになる。証券会社の計算書は保有銘柄を一覧
できる形でのレポートになっており、3通の計算書のみの提出になる。

 あまりそのメリットがわからない人がいるかもしれないが、銘柄を50銘柄
とか100銘柄持っているは証券会社からの計算書はありがたい。実際私も銘柄
数は普通の投資家より多く持っている(と思う)ので計算書のほうが便利。
企業からの配当金計算書ってけっこうかさばるんだよね。銘柄が多いと。な
お、また、国内証券に預けている外国企業の配当金計算書は送られてこないが、
証券会社からの配当計算書には外国株式もちゃんと含まれている。
株式比例方式を選択せず、現金の場合(郵便為替とか)は企業からの明細書もし
くは信託からの計算書を提出する必要がある。

次回も実際の申告の手順での留意点を解説する。

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よい子の確定申告(4)

2010年03月18日 | グローバル投資
・確定申告上の留意点

 上記でも非現金費用項目である減価償却費の重要性は理解できたと思うが、その
減価償却費の計算をどのようにするかという点では意外にいい加減にやっている人
がいる。これも私の経験だが、ある不動産業者から電話でのセールスを受けたとき
税務上のメリットがこれだけあるという話を聞いたとき違和感を感じた。そのセールス
の話があまりにもうますぎるのだ。いろいろと細かい話を聞くとなんと確定申告時
に償却資産の計上時に建物8割、土地2割で計算するというものだ。「いやあ、皆さん
やられてますよ」とうそぶくセールスだが、確かにやっている人はいるだろう。また
税務署から特に指摘がなくそのまま申告が通っているケースはあると思うが、それは
税務署がたまたまチェックしていないだけの話だ。税務調査を受ければ確実に修正申告
を求められるし、拒否しても更正処分を受けるのが関の山だ。

 日本の税制は「申告納税主義」だ。知っているけどどういう意味か分かっている人は
意外に少ない。申告納税主義とは納税者が、自らの所得と税額を課税庁に対して申告を
行うことによって税額が確定する制度のことをいい、納税義務の確定を納税者自身が行
う制度という意味だ。課税行政庁は納税者からの申告がない場合、または申告が不相当
であると認められる場合に限って、更正または決定によって税額を確定する。申告納税
制度に反対の概念は賦課課税制度と呼ばれており、納付すべき税額がもっぱら課税庁の
処分によって確定する方式を指す。賦課課税制度は、戦前に一般的に用いられていたが、
昭和22年度の税制改正により所得税、法人税、相続税に申告納税制度が導入されて以
来、主な国税のほとんどについてこの制度が採用され、現在では固定資産税や自動車税
等の地方税について賦課課税方式が原則的に採用されている。申告納税制度は、税額が
納税者の申告によって確定することを前提としていることから

     1. 申告をしなければならない人が申告を行っていない場合
     2. 税額の計算が法律の規定に従っていない場合
     3. その税額が税務署などの税務官庁の調査と異なっている場合

には、税務官庁が税額を確定することができる。申告すべき納税者が申告しない場合、税務
官庁独自の調査により税額を決めることを「決定」と呼び、納税者が申告した税額が過小ま
たは過大であった場合に正しい税額に修正することを更に正すと書いて「更正処分」と呼ぶ。
(但し、納税者も更正処分を求めることができる)




 申告納税だから、申告する人が勝手に解釈して費用計上して税額を自分で決めてよい
という意味ではない。業者が投資家に建物の価値を8割、土地を2割で計上するように
薦めるというのは2番に明らかに該当することから見つかれば更正処分必至だ。「みんな
やっているから大丈夫」というのは単に税務署がチェックしてないだけで、仮に処分を
受けても業者は責任を取らない。償却資産の計算は既に実物投資を行っている投資家にとっ
ては蛇足かもしれないが一応記しておく。まずは新築で業者から購入した場合には消費税
から逆算すればよい。何故なら土地は減価しないので減価償却資産対象にならず、また
消費税がかからない。従って業者に支払った消費税から計算する。前回のケースでは消費
税は927500円であったから、


  925,700÷0.05=18,514,000が答えとなる。


 投資家が定額法を採用しているのであれば計算はこれで終了する。但し、税法上のメリット
をうけつつ、キャッシュフローの最大化を図る合理的な投資家であれば定額法を採用する
理由に乏しい。むしろ定率法を積極的に採用したいところだ。ところが、実は業者もあまり
そのことについては積極的にアドバイスはしてくれない。申告は個人の問題だからだ。さら
に税務署の態度もまたいただけない。私が実物不動産を始めたときに税務署に赴き、定率法
の届けについて聞くと

「建物の償却は前の税制改正で全て定額法に変わりました」
とそっけない。
「様式は税務署に行けばあると聞きましたが」
「償却対象としてエアコンとかなにかあるのですか」
........なんかどうも話題を逸らそうとする態度がミエミエではっきりいって頭にきた。
「はいそうです。書式はどこにあるのですか。ないんですか。」
「あっ、...それなら...これです」

できるにもかかわらず定額法だとはなから決め付ける態度。あるにも関わらず書類の話を逸
らそうとする態度。税務署が正しい納税方法の指導・助言を納税者に与えないから税金を払
いたくなくなるのだという事を彼らは理解していない。納税者とは彼らにとって「顧客」で
ある筈だし、そうあるべきなのだ。 不動産投資初心者ならまず最初の反撃で帰ってしまう
可能性すらある。書類は確定申告時に提出してもよいので申告書を税務署に郵送すればそれ
でおしまい。この努力を惜しむと後で後悔することになる。何故なら償却方法の変更はでき
ないからだ。特に定額を定率に変更することはできないと考えてよい。その逆は多分、税務署
はウェルカムだと思うのでやってみてください。おそらく通る。建物は定額部分の躯体部分
と定率償却可能な付属設備に分けられる。付属設備とはなんぞやというと、例えばボイラー、
キッチン、風呂、トイレなどいわゆる躯体とは別の設備を指す。問題はこのわけ方だが、実
はここは計算方法がない。世間で言われているのは躯体80%、設備20%というわけ方が一般的
だそうだ。購入時に細かい原価内容がわかれば個別計算は可能だが、新築といえどもそれは
入手できない。従って世間でいわれている数字を採用するのが一般的だ(30%までなら税務署
は何も言わないと言われてもいるが不明) ケースでは躯体7割、付属設備3割で計算している。
かくいう私も実物投資してから3割で計算しているが、いままでの指摘はない。但し、いまま
でないからといって必ずないという保証はしかねるので単なる参考としてほしい。


・中古不動産の償却費計算

 実物資産投資家にとって新築というのは入門編といったところで、やはり中古不動産の投資
ができるようになるとレベルアップという感じだろうか。中古不動産はキャッシュフロー利回
りが新築よりも高い。即ち価格が市場価格に沿っており、新築のようなプレミアムがないこと
が大きい。一方でリスクは当然大きい。修繕費用がかかる。管理費・修繕積立金の値上げリスク
がある。空室リスクが新築よりも高い。但し、償却資産という観点からはメリットが大きい。
中古物件の償却年数は当然、時間の経過を差し引くことができる。鉄筋マンションの償却年数
は躯体の定額部分で47年だが、経過年数を引くことで償却費用が大きくなる。例えば、築
10年の鉄筋マンションを先ほどのケースで購入したとしよう。

    躯体部分 = (47年-10年)x1.2=44年
    付属設備 = (15年-10年)x1.2=6年

 仮に前回のケースが新築でなく築10年であったのなら、付属設備の部分500万円を6年
で償却することができる。これはでかい。初年度の減価償却費が付属部分だけで230万円と
なり、非現金費用が100万円以上増加する。但し、前回のケースと同様に償却が早い分、不
動産所得の黒字化のスピードも速い。従って物件のキャッシュフローが極めて重要であること
は論を待たない。

 中古物件を業者から購入する場合には消費税から逆算することができるが、取引が個人間の
場合はどうするか。個人相手では消費税が発生しないので償却資産の計算が難しい。しかし、
計算は可能だ。不動産取引をする際には固定資産税の計算根拠となる評価明細書というのが大抵
ついてくる。その評価明細書から土地・建物の割合を計算することになる。評価明細書は土地
建物それぞれあるので2枚で1セット。マンションの場合には共有持分から土地部分の計算を
行う。



 業者との消費税取引でなく個人間での売買であっても土地・建物の評価証明書は必ずついて
くるので計算は難しくない。例に出したのは実際の物件の評価証明書を参考に作成した。評価
額がでれば償却年数を割り出し、後は償却額を計算するだけ。築11年だから付属設備の償却
が5年と早く、結構償却ができる。さらに評価証明書を用いていることから償却額の根拠につ
いて税務署から指摘されるリスクは少ない。但し、躯体設備と付属設備の按分はその範疇では
ないことに留意。それともうひとつ申告はよほど大規模投資家でない限り、自分でやろう。
税法についての知識が学べるし、投資家にとって税は避けて通れない関門だからだ。税理士を
雇う金も浮く。税理士は必ずしも貴方の見方であるとは限らない。自分のお金は自分で守ろう。

 念のために繰り返すが、一応、正確に書く努力はしたが、正確性の担保はできないのであく
まで参考程度に読んでください。次は新しく変更された証券税制のもとでの申告のポイントを
書いてみる。

(つづく)

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よい子の確定申告(3)

2010年03月17日 | グローバル投資
 不動産所得、節税効果、キャッシュフロー、そして減価償却

 不動産所得の計算で重要になるのは経費処理であることは間違いないが、経費
となるのは現金費用だけでなく非現金費用も重要である。特にサラリーマン兼業
大家の場合には給与所得との損益通算ができるかできないかで税が異なってくる
ので、とても大切な項目だ。
 ただ、気になるのは思い込みや間違った方法で不動産投資をしているサラリー
マン投資家が結構多いと聞く。そういう人ほど後で苦労することになりかねない。
後で困らないためキャッシュフローがどうなるかという点は十分に気をつけても
らいたいものだ。多分困るケースとして考えられるのは次のような投資家だろう。


・ 目先の節税効果にしか注意しない投資家

 サラリーマン大家さんの投資のきっかけは大抵の場合は業者からの勧誘だ。
例えばこんなケース。ある晩、くつろいでくると突然の電話。まったく見ず知ら
ずの人からで話を聞くと不動産業者らしい。「税金を安くする方法があります。」
「今やらないと馬鹿をみる」こんな電話を受けた人はまず話しに乗る前に、なん
で貴方の電話番号、名前、住所などの個人情報を業者が持っていることに疑問を
持とう。話はそれからだ。大抵の場合、その業者が名簿をどこからか買ったという
こと。証券会社、商品先物会社など貴方が持っている口座もしくは以前開設してい
た口座の情報が流出していることを暗示している。中には業界団体名簿なども
流出してたりするが、流出させるほうも悪いが違法な名簿を買って営業している
会社をまず信用するかどうか貴方は判断すべきだ。

 業者の話が魅力的なものだとしてもキャッシュフローをあまり考えずに投資
する人も多い。よくあるケースは「○○○万円の物件を自己資金、ローンを組む
と月々たった1万円の負担で税がこれだけ戻ってくる」。ああ!、あるあるこんな
話。でも、本当にいいんですか。不動産キャッシュフローはマイナスで本業の
給与所得の税が減るという話。「別に金持ちだけがやっているわけじゃない。
普通のサラリーマンでもやってます。とても簡単」なんていう営業トークは相手
のしつこさを入れても魅力的に聞こえる。まず、貴方の税金っていったいどれく
らい? そんなに所得税を払ってる? そういう当たり前のことからチェックしよ
う。所得税を100万円払っている人と、1000万円払っている人では効果が全く違う
ことを認識しよう。



 仮に業者の言うとおり月々1万円の不動産キャッシュフローの赤字(税法上の不
動産所得の赤字でないことに注意しよう)があり、課税所得を100万円下げられる
として計算すると上記のような表になる。同じ条件の物件を5件、即ち課税所得
が500万円さがり、不動産キャッシュフローの赤字も5倍になるとしたらどうなる
かも計算した。税金はゼロになったが、キャッシュフローは赤字じゃないか。た
だ議論を単純化させるために住民税を除いているので単純に赤字とはならないと
思う。誰でも簡単にできるかもしれないが、労力や効果を考えるとあまり所得
の低い人が行うのはどうかとも思える。

 もうひとつ気をつけたいのは本業の給与所得の安定性だ。その給与水準を維持
できますか? リストラのリスクはありませんか。税金が安くなるといっても本
業の給与がなくなれば貴方の税金は簡単に減ってくれます。ただし、不動産所得の
マイナスのキャッシュフローは減りません。第一、不動産のキャッシュフローが
投資案件として魅力的なものかどうかの前に「所得税を減らす」ことを前提にす
ること自体間違った考えだとは思いませんか。「ローン支払いが終了すれば賃料
は自分の年金に」....本当にそうですか。貴方がローンを支払い終わったときに
築30年のワンルームマンションにどれだけの価値がありますか? それを想定した
キャッシュフロー計画をお持ちですか? 本来ならばいろいろとシュミレーション
した上で投資判断を下すべきなのに目先の税金の額だけに注目していると足元を
救われかねない。例えばこんなケースでシュミレーションをしてみよう。



 投資の世界では失敗の経験が結構重要だ。失敗から教訓を学び次の投資に生か
していけるからだ。ただし、投資といっても小口でできる株式投資と違い、不動
産投資は一件当たりの金額が極めて大きく失敗が致命傷にもなりかねない。23区内
徒歩10分圏内のワンルームマンションより広めの物件。場所はよし。自己資金
500万、30年ローンが残り85%。金利水準は2.2%。住宅ローンではないので金利は
低いような気がするがおまけだ。さてシュミレーションだが、初年度は予定通りの
赤字がでて順調だ。給与所得との損益通算で所得税及び住民税の戻りもありキャッ
シュフローはプラスがでてくる。2年目、3年目も状況は同じだが、4年目から
なにやらおかしい状況になってくる。不動産所得がなんと黒字に。原因は減価償却
の低下による非現金費用の低下だ。

 いくつか留意することがあるとすれば、まずレバレッジのかけ方にも注意が必要
だ。不動産投資になれた人には常識だが、ローンの金利費用は100%計上できる
わけではない。土地購入にかかわるローンの金利費用は費用計上ができない。上記
のケースでは土地と建物の比率から金利費用の43%は費用計上できない。あまり高い
レバレッジでは現金費用といえども計上できないことを留意する必要がある。さら
に管理費・修繕積立金に関しても要注意だ。特に修繕積立金は長期修繕計画に従って
決められるが、大抵10年目くらいから積立金は50%以上上昇するのが普通だ。節
税目的で不動産の購入を勧める業者はこの点に触れることはまずない。現状の費用
を延長で説明することが多い。

 キャッシュフローはマイナスが続くのにも関わらず、非現金費用の低下により
税法上の所得が黒字となると給与所得と通算しても税金が増加することになる。
所得の増加に見合うだけのキャッシュフローがあれば吸収できるが、もともと節税
目的でしかも目先の税効果だけしかみていないとこんな結果になる。結論は極めて
単純。損益通算前の不動産物件単体の投資魅力がなければ節税効果が低減した時
持ち出しの結果となる。実物不動産投資を初めてした人がよく陥りやすい罠だ。


(つづく)

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よい子の確定申告(2)

2010年03月16日 | グローバル投資
 クロスボーダー取引といっても摘発されるのは結構単純なケースが多いし、
実際に複雑な取引は発覚しているのが氷山の一角という可能性もある。次
のケースはやや複雑だが、基本的なパターンは同じなので2つ同時に


ケース2
--------------------------------------------------------------------
欧州大手金融のクレディ・スイス(CS)日本法人の元部長が、海外で
行使したストックオプション(自社株購入権)の利益にかかる約1億30
00万円を脱税したとして、東京国税局から所得税法違反の 疑いで東京
地検に告発されたことがわかった。
また、グループ2社の社員ら約100人が同局から計約20億円の申告
漏れを指摘されたことも判明。 海外でのストックオプション行使を巡り、
金融機関社員による申告ミスが大量に発覚するのは異例だ。

告発されたのは、CS証券(東京都港区)債券本部外国債券営業部の元
部長(46)。
関係者によると、元部長は、2007年までの2年間で、親会社から付与
されたストックオプションの 権利行使で得た利益約3億5000万円を
申告せず、所得税約1億3000万円を脱税した疑い。 CSのスイス口座
で行使して現金化、シンガポールの銀行に送金させて資産運用を委託して
いたという。 同局は、元部長が資金を他国に移動させていることなどから
意図的に納税を免れた疑いがあると 判断したとみられる。

元部長は07年8月に退職し、現在、カナダ・バンクーバーに在住。同局に
「申告義務がないと思った」 などと犯意を否認しているとされる。既に
修正申告し納税を済ませているという。
一方、申告漏れを指摘されたのは、CS証券とCSプリンシパル・インベス
トメンツ東京支店の社員ら 約100人。時期は07年までの数年間で、権利
行使で取得した株式を現金化していないことや、 海外口座で行使しているこ
となどから、申告義務はないと思っていた例が大半だという。
追徴税額は過少申告加算税を含め数億円とみられる。
--------------------------------------------------------------------

ケース3
--------------------------------------------------------------------
米国の親会社から付与されたストックオプション(自社株購入権)を行使し
て得た所得を隠し、約6千万円の所得税を脱税したとして、東京国税局が
所得税法違反容疑で、米医療用品大手「ジョンソン・エンド・ジョンソン
(J&J)」日本法人の広瀬光雄元代表(72)=東京都渋谷区=を東京
地検に告発していたことが7日、分かった。

 関係者によると、広瀬元代表は日本法人「ジョンソン・エンド・ジョンソ
ン・ジャパン・インコーポレイテッド」や他のグループ企業に役員として在
籍した当時に、親会社のJ&J社から役員報酬としてストックオプションを
付与された。
 その後、権利行使して取得した親会社株を運用したり、市場で売却したり
して得た2005年と07年の2年分の所得約1億6千万円を隠し、所得税
を免れた疑いが持たれている。
 株の運用は米国の証券会社の取引口座で行い、売却益は海外口座に預金し
ていたという。
 隠した所得の一部が米国から別の国に開設した口座に移し替えられるなど
複雑に移動していたことから、国税局は仮装隠ぺいを伴う悪質な所得隠しと
判断したもようだ。 広瀬元代表は01年~08年度に経済同友会の幹事を
務めていた
--------------------------------------------------------------------

二つのケースは細かい部分をのぞけば下の絵図の通りになる。事例としては
単純そのもの。



 ストックオプションを海外口座で行使してそのまま海外に滞留させ、国内
に戻さない。CS元部長のケースは確信犯だな。退職後、日本に戻らず今でも
バンクーバーにいるというのはガッツがあるというか、税金減らすぞという
意気込みも感じられ、ある意味あっぱれ。行使したオプションはさらにシン
ガポールに移すという周到さもまあ、褒めてあげるべきか悩むところだが、
その努力だけは買っておこう。これもケース1と同様vesting dateがいつなの
かという点だけが気になるが、恐らく退職するまで売却せずに株で保有して
いた可能性が高い。退職すると気分が大らかになるのだろうか。ケース3は
経済同友会理事ともあろう方がという気もするが.....CS元部長のケースでは
海外在住にも関わらず、何故あげられたかという点だが、これは想像だが、
恐らく、国内に自宅を保有している。毎年、日本に何度か戻っているなど、
実質の居住地が日本である可能性がある。ガッツ見せるなら、日本の不動産
全て売却して骨を埋める覚悟じゃないと駄目だろう。

 仮にvesting dateが海外移住後で、売却して現在もバンクーバーに在住と
いうのであればCS元部長は脱税ではない。租税回避行為かどうかも日本に仮
にほとんど戻っていないのであれば、税務署の判断は別にして微妙だ。でも
まあ、多分、vesting dateに申告してなかったんだろうと想像できるけど。

 J&Jのケースはまあ、クロですな。あまりにも単純。しかも見事にパターン
にはまっている。弁解の余地なし。「申告義務はないと思っていた」という
言い訳は苦しい。分かっていてやったとしか思えない。

 でまあ、問題は「悪は必ず倒される」的な結論に持っていこうなんて気は
さらさらなく。海外に口座を保有し、国内に還流もさせてもいないのに
「なんでバレたのか」という点だ。興味あるでしょう。そう、そこの外資系
金融機関勤務のあなたですよ。退職して晴れて自由の身となり、溜め込んだ
ストックオプションを換金する日がやってきた。準備は万端。パスポートよし
住民票移動よし。海外でのすむ所も手当てした。証券会社の口座とまた別の
国にも証券会社の口座を開き、銀行口座も複数の国に開設した。後は売却し
日本にはまあ数回戻るけど、ほとぼりが冷めるまで海外に住むつもり。

 そんなあなたにまさかの税務調査!!!!

 何故だ。何故バレた。同じ釜の飯を食ったわけでもないけれど、私も昔外資
系企業にいたよしみ(何の?)でお教えしましょう。普通の人は税務署はもの凄い
調査能力を持っていて海外でも執拗に追求する能力があると思っている人がい
るようですが、そんなことはありません。税務署といってもやっぱり役所です。
生産性が高いわけでもなく、むしろ面倒くさい作業なんて遂行できる能力はそ
れほどないと考えたほうがいいです。では何故なんでしょうか。

 答えはとても簡単です。あなたが勤めていた会社が税務資料を提出したから
です。海外に上場している企業が日本にオフィスを構えているのであれば日本
のオフィスもまともな会社です。税務署から照会がくれば正直に答えます。あ
なたは嘘をつくかもしれませんが、あなたが働いていた会社は嘘をつきません。
税務署はさっき言ったとおり、大した調査能力があるわけではありません。だ
から日本法人にこんな照会状を出すんです。「過去3年間の従業員に対して付与
されたストックオプションの実績を提出してください」
 海外上場企業の日本法人なら当然、従業員の給与に関することですから、全て把握
しています。税務署から要求されれば当然提出します。拒む理由はありません。
あなたと違って。貰った資料を基に申告書と照らし合わせると差額がわかります。
源泉徴収表は既に提出済みなので付与されている人が源泉徴収表と同じ額しか
申告していなければ、当然マークされます。

 最近、外資系企業の脱税話が増えてますが、理由があります。税収が減ってい
るんです。ストックオプションというのは調べるのが簡単で、しかも延滞税や
加算税も取れるんで税務署に取っておいしいんです。まさに税務署にとって「豚
は太らせて食う」という状況が現在なのです。外資系企業は今が旬ですが、撤退
も増えているので、一段落すれば自営業者、中小企業に目がいくでしょうね。税
務署は能力が高いという訳でなく、取りやすい所から取っているというのが正解
です。

(つづきます)

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よい子の確定申告(1)

2010年03月15日 | グローバル投資
確定申告のシーズンが到来すると気分が重くなるのはパターンとして
2つ。ひとつは申告が面倒というケース。2つ目は税をどうやって軽く
するかと考えを巡らして気分が暗くなる。まあ、後者のケースはあまり
ないだろうが、最近は脱税に関するニュース報道が多いのも事実。

 脱税といえば、パチンコ店、病院、個人経営商店などいわゆる税の
補足率が低く脱税しやすい業態の人々が想像されるが、最近はいわゆる
クロスボーダー取引と呼ばれる脱税のニュースが多いような気がする。
例えばこんなケース

 ケース1
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 米金融大手シティバンク・プライベートバンクの北出高一郎・元在
日代表兼北アジア統括代表(61)=東京都港区南麻布=が、親会社
から付与されたストックオプション(自社株購入権)を行使して得た
平成17年12月までの1年間の所得約1億4千万円を隠し、約3千
万円の税を免れたとして、東京国税局から所得税法違反(脱税)の罪
で東京地検に告発されていたことが21日、分かった。
脱税容疑分も含め、海外口座にあった国外所得約8億円が無申告だっ
たという。
ストックオプションによる利益や不動産収入などは米国の銀行口座に
入金していたが、その後、富裕層を対象にしたスイスのプライベート
バンク(PB)に送金して運用していた。
北出元幹部は、在日支店のPB部門の責任者だったが、同部門で法令
違反があったとして、金融庁から一部の支店・出張所の認可を取り消
される行政処分の直前の04年8月に退職。その後、役所に米国への
住民異動届を提出したが、05年には日本に半年以上滞在し、06年
に再び日本で住民登録した。東京国税局は、無申告の国外所得のうち、
05年については非居住者を仮装した疑いがあるとみて、告発に踏み
切ったとみられる。

 関係者によると、北出元代表は退社後の17年、親会社から現職中
に付与されたストックオプションを行使した上で、株を売却。その後、
所得税を申告せずに海外口座などで売却益を運用していたが、国税局
はこうした行為を仮装・隠蔽(いんぺい)と判断。総額数億円の所得
隠しも認定したもよう。このうち17年12月までの1年間に隠した
約1億4千万円の所得のみ告発の対象とした。
---------------------------------------------------------------

 このケースでのポイントは2つある。ひとつはストックオプションの
付与のタイミングと納税期間との関係。2つ目は海外所得の申告の問題
である。外資系企業で働いていたこともあり、私もストックオプション
をもらったことがある。よく誤解されるのはストックオプションといっ
ても形態は一つではなく様々な形態があることだ。容易に想像されるの
は通常のストックオプションの形。これはオプションの行使価格が事前
に決められていて、行使価格と売却価格の差額の利益が本人の所得にな
るケース。ただし、この場合の売却益とは付与された日の株価との差で
実際の売却益ではないということ。

例えば、行使価格10ドルで付与された日の株価が20ドルであれば、
ストックオプションによる給与所得は差額の10ドルとなる。実際に株
式を25ドルで売却した場合には給与所得10ドル、差額5ドルは譲渡
所得になる。

もうひとつの形態としては、特に日本人には馴染みがないが、restricted
stock(制限つき株式)と呼ばれるものがある。日本語訳は適切かどうか
あやしいが、現物株式の無償譲渡といえばわかりやすい。会社は自社株を
コストゼロで従業員に渡す。従って、株価イコール所得になる。通常の行使
価格付のオプションよりももらえる額が分かりやすく、また株価が上昇する
ことで価値が上がる。行使価格つきも似たようなものだが、やはりコスト
がゼロであるのかそうでないかとでは気分的に大きな違いがある。外資系
金融機関のボーナスが100万ドルを超えたとかいう話がニュースになるが、
そのほとんどがこのようなrestricted stockによる株式売却収入によるもの
であることが多い。
ここでまたややこしくなるが、granted date(権利の付与日)、vested date
(行使可能日)という概念の理解が必要。ここでも日本語訳は適切とはいえな
いが、仮にそう訳しておく。granted dateとは権利を与えるが条件を満たさ
ないと行使することができないことを指す。例えば去年5月に親会社の株式
100株の株式を受け取ったが、実際に受け取れるのは今年の5月になってから
というような条件だ。実際に受け取れる日は vested dateと呼ばれる。


どういう意味があるかといえばvesting date以前に会社を辞めると株が
もらえない。即ち、人材の引きとめ効果があり、海外の企業では一般的だ。
上記のケースでもvestされた日がいつなのか書いてないのでよく分から
ないし、どのようなストックオプションの形態なのかも書いてないので
想像しかできないが、おそらく現物株式の無償譲渡すなわち、restricted
stockの形態ではなかったのではなかろうか。

このケースでは実際のvesting dateが売却した年のものであるのか、それと
も以前からもらっていて所有権が既に移転していて株式のまま保有した分
を売却したのかで話は違ってくる。報道を読む限りでは退職して海外に住民
票を移して売却したというふうに読める。仮に退職の年に海外に住所を移転
し、vesting date を迎えたのなら、正確には脱税行為とは言えない。
日本の税法では非居住者への課税はありえないからだ。しかし、ニュースに
あるとおり、半年は日本に住んでいて、翌年には住民票を移動しているわけ
だから、これを正確にいえば「租税回避行為」と呼ぶのが正しい。

「租税回避行為」とは読んで字の如し、課税を免れようとする行為だが、そ
れが全て「脱税」とは言えない。あくまで「税務署」の判断に依存する。
売却時だけ海外にいて日本にすぐに戻ってくることで租税を回避した判断さ
れたわけだが、確かにそうだな。向こうに骨を埋める覚悟で今でも海外にい
ればまた違った判断になったかもしれない。但し、vestされた日が以前の
もので売却したのがたまたま海外にいた期間であるのならそれは「租税回避
行為」プラス「脱税」となる。

 海外所得に関してはもう弁解の余地なし。日本人の多くが海外口座さえ開設
すれば国税から逃れられると単純に考えている人が多い。そしてその大部分が
日本の金融機関から送金しているというおめでたさ。日本の銀行はちゃんと
海外送金については国税や金融庁に届けてますよ。特に金融庁検査で変な指摘
を受けないために不自然な海外送金は「マネーロンダリングの疑いのある取引」
として届けられている。だいたい、メガバンク1行で数千件が年間に届出がある
そうだ。

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