Bankの秘密基地

個人日記兼つれづれなるままに

東日本大震災とりあえずまとめ(2)

2011年05月10日 | Weblog
4. 通信インフラの混乱

 当然、これは予想されたことだが、大規模な通信障害が発生した。直接的な被害地である東日本だけでなく、被害が比較的軽かった関東地方でも情報伝達の遅れが目立ち、解消されるには日をまたぐ必要があった。ドコモの発表によれば3月12日17時現在で、6720局の無線基地局が使用不能となった。そのほとんどが東北地方で、東北全体で設置基地局数が11,000局であることを考慮するとかなりの数の基地局が影響を受けた。



 auは東北6県、関東を除外したベースで1933局が震災直後にサービス停止に追い込まれた。(全体では3680局、IT復興円卓会議) ソフトバンクに関してはリリース自体が見当たらないが、同じくIT復興円卓会議の資料では3800局の基地局がダメージを受けたとされている。10年前と異なり携帯が通信手段の主力となっていることから、今回の震災で連絡が取りにくかったことを実感した人は多いと思うが、実はどんなに対策をしても地震直後は連絡ができないようになっている。なぜなら、携帯会社の方で発信規制をかけるからで、NTTドコモの場合東北、関東地方で音声で最大80%の発信規制をかけた。ソフトバンクは70%の発信規制。auに関してはなんと95%の発信規制をかけており、携帯がつながるわけないのだ。加えて固定電話でも発信規制がかけられ、NTT東日本は90%の発信規制をかけたので、携帯だろうが、固定電話だろうが、つながらない。但し、パケット通信は状況が異なっていてドコモが宮城県で一時的に30%の発信規制を実施したが、ほとんどの地域で発信規制をかけなかった。私も当日、携帯がつながらないのでメールを送った記憶がある。結局、こんな時に頼りになるのは何かといえば、やはり発信規制がかけられていない公衆電話ということで、電話の前には行列ができることになる。しかし問題はその公衆電話の設置台数で、みんなが携帯を持つようになって公衆電話なんか使わないものだから、設置台数が激減している。次の地震の時にはなくならないでほしい。ユニバーサル基金で補てんする必要があるんじゃないか?



災害時に電気とともに復旧が早いのが通信で、auのケースでみても1週間後の18日には障害の残っている基地局が500局以下となっており、1週間で8割方が復旧した計算になる。同じベースでの比較ができないものの、NTTドコモの場合、17日後の28日には9割の基地局が回復している。今回は福島の原発事故があって30km県内での復旧作業ができないことから、実質的な回復はもう少し高かったと推定してもよいだろう。



 携帯電話にその主役の座を奪われた固定通信であるが、その地味さゆえに被害状況があまり報道されなかったが、NTT東日本のプレスリリースによれば加入者電話・ISDN・フレッツ光回線合わせて震災当日に1000の通信ビルで障害が発生し151万8900回線の被害が報告されている。中継伝送路90か所、通信建物、全壊18ビル、浸水23ビル、電柱流出・折損、約6万5千本、架空ケーブル流出・損傷6300kmとなっている。国際通信、企業間通信を担うNTTコミュニケーションの場合、VPN、VANネットワークを中心に1万5千回線に障害、国際通信には直接的な影響はなかったものの、3本の日米回線、1本の日中韓回線に影響がでた。KDDIの固定通信はauひかり、メタルプラス、au one net合計で39万回線に障害が発生。海底ケーブルは茨城沖3か所、神奈川沖1か所、銚子沖6か所で障害が発生したが、これは3月15日には復旧している。

5. いまそこにある危機

 震災当日からの押さえておくべきポイントを可能な限り列挙してみたが、無論、これだけではなく、例えば当時の道路事情であるとか、物流の状況であるとか、それに伴うガソリン不足、計画停電による企業への影響、液状化現象の状況などいろいろな現象面で押さえておくべきことがたくさんあるのは事実である。しかしながら、それらをすべて網羅的にとらえるのは政府の仕事として期待したい。東北地方の復興は強く願うものだが、それとともに今後の首都圏にも起こるであろう地震についても考えざるを得ない。地震学者によれば関東での地震は「起こる」ものである。とはいっても100年単位での話で、生きている間に起こるかどうかはわからない。それでもこの国住むものとしてはそれに対する心づもりは必要だろう。地震調査研究推進本部地震調査委員会が発行している全国地震動予測地図2010年版で見ても結局、日本という国に住んでいる限りそれはやってくる。



 このグラフでは震度6以上に見舞われる地域のマッピングを示したが、実はこれを震度5以上で見た場合、日本地図はそのほとんどが真っ赤になる。つまり、地震とは日本人にとって避けられないものだということだ。かといって、このマップは地震が明日くるとか、来年くるとかいうものでもない。自然のスケールで「いますぐ」というのは1000年単位であったりするし、人間の感覚でとらえられるものではない。地震学者もそんなことは言えないので「確率論的」と前提条件を付けざるを得ない。ところで、地震と言っても千差万別で今回の東日本大震災のような海溝型地震もあれば、内陸部の活断層が動くこともある。地震調査委員会では地震カテゴリーという分類でマッピングをしたものを発表している。



 カテゴリーIは想定東海地震のような震源断層を特定できる地震でしかも発生のオーダーが100年単位で規則的にやってくるもの。カテゴリーIIは海溝型でも震源が特定できないもの。カテゴリーIIIは活断層など浅い地震でしかも低頻度のものを指す。レポートをよく読むと、カテゴリーI以外は要するに「来るかどうかよくわからない」というのが定義だとかんがえてもいいんじゃないか。結局、数百年単位で発生しているカテゴリーIは比較的アカデミックな解明はされているが、それ以外は全くわからないと言っているのに等しい。関東地方はそういう、よくわからない地震源からくる地震が多いと言っているに過ぎない。また、カテゴリーIIの確率が高いといっても東海・東南海・南海地震の影響は関東地方も直接的に影響する。要するに首都圏はどのようなタイプであれ、影響を免れない。結局、「気を付けてね」と言われているだけだ。

 それでも、地震発生確率だけを考えれば、宮城県沖地震の発生確率は99%だった。(震災発生前に発表された数値) 想定東海地震は87%、東南海地震は60-70%、南海地震は60%とカテゴリーIの海溝型地震は高く、実際に東北大震災は発生した。この数値は交通事故に会い負傷する確率2.4%よりも高く(交通事故で死亡する確率は0.2%)、空き巣に狙われる確率3.4%よりも十分高い数字である。なお、蛇足だが、マップの数値は地震動超過確率で発生確率でないことに留意。



 首都圏の住人としてはやはり自分の住んでいるところがどうなのかという点に興味が湧くわけだが、上の図がそれだ。予想した通りというか、やっぱそうなるかという感じ。色分けはされているが、自分の住んでいる地域の色が薄いからと安心してはいけない。最も濃い地域では震度6以上の揺れが起こる確率が高いという意味であり、色が薄いのはその確率は低いが震度5強とかの揺れは起こってしかるべき地域だ。従って逃げ場は東京にはない。今回の東日本大震災で特徴的であった津波の影響だが、中央防災会議の平成17年の首都直下地震対策専門調査会のレポートでは最大で1m程度の津波が襲うとしている。



 但し、1mと言っても今回の震災で想定を上回る津波が発生(想定よりも10cm)したことからシュミレーション結果は変更される可能性が高い。また、東京は海抜ゼロメートル地帯が多いことから浸水被害はある程度の被害をもたらすと考えてよいだろう。高級感を漂わせていた湾岸地域の物件の人気が衰え、八王子とか東京西部の物件が人気化しているのも今回の震災がなせる技だろう。また長周期地震動の影響で高層ビルの住人が不安感を抱いていることからしばらく湾岸地区の人気は回復は難しいかもしれない。しかし、人のうわさもなんとやら、人間は忘れっぽい生き物なので数年たてばまた人気化するんじゃないか。津波よりも怖いのはやはり火事だ。今回の震災でも理解した人が多いと思うが、救急車両は都内の交通渋滞で全く役に立たなかった。震災で火事が発生すると救急車両は無力だ。平時であれば、火事が発生すれば消防を呼べばすむのだが、大地震が発生した時は呼んでも無駄だ。むしろ、規模が小さいうちは自分たちでなんとか消化する努力が必要になってくる。



 上の図は同じく中央防災会議の資料から抜粋したが、山手線を挟むようにリング状に火災が発生すると考えられる。加えて首都圏大渋滞が加わると、韓国メディアではないが、まさに阿鼻叫喚という状況になる可能性すらある。今回の震災で少し不安になったのは、地震発生後の買占めパニックで消費者がカセットコンロとボンベを買い占めたことだ。震災が過ぎて安心しきって管理がおざなりになれば、火災を助長しかねない。買い占めた家庭には適切な管理を望みたい。また、マッチやろうそく、灯油、ガソリンなども備蓄している家庭もいるんじゃないかと考えると少し不安だ。買い占めて安心するだけでなく、管理もしっかりしたうえでの防災対策であることを肝に銘じてほしいものだ。



 災害の被害予測の内訳をみてもやはり火災による死者がダントツになっていることがわかる。想定では冬場の風が強い日の数字であるが、それによると1万1千人が死亡し、その6割弱が火災によるものだ。すなわち、予想される地震被害の内、死者に関しては地震が発生した後に死亡すると考えられている。私を含めて普通の人はそうそう火事に遭遇することはないし、ましてや火災の当事者になるという経験はそうあるわけでもないので、ぴんと来ないかもしれない。この想定自体それほど根拠がないわけでなく、前例である大正時代の関東大震災がよいというか悪い先例を残している。



6.首都圏住民として投資家として

 今回の震災を契機に改めて首都圏における地震の想定を再検証してみたが、やはり結論としては従来から言われているようなものとほとんど変化がない。また調べていながらもこの土地を離れて海外に移住するとかより安全な場所を探すというインセンティブも起こらなかった。結局、災害確率は自然のスケールからすれば明日と100年後は同義であったとしてもその土地にいる生活者にとっては同じではない。確率論的に高いからといって土地から離れるかは、投資理論で言えば、個々人の危険回避度と効率曲線がどのような形状になっているかによる。妙な例えに聞こえるかもしれないが、都市部に居住するということは、それによって得られる便益が安全地帯(例えば活断層がなく、海溝型地震の影響の少ない北海道の山間部とか、または香港などの海外とか)に居住する便益を上回っている。つまりリターンがあるわけだ。そして居住者(投資家)の効用無差別曲線が定義されて、有効フロンティアとの接点がどこかを考えればよいだけの話で、それがたまたま現在住んでいる東京であれば、なにも動く必要はないということだ。危険回避度の高い人は香港に移住したり、北海道の山間部に移るかもしれない。それでもリスクを認識しつつ東京に住み続ける。それだけの話ですな。

 何を言っているのか自分でもわからなくなりつつあるが、最後に投資家として確率的に予想される地震について考えてみよう。まず考えられるのは強烈な経済的なマイナスインパクトだ。今回の東日本大震災では発生時こそ瞬間的に円安になったが、その後強烈な円高に見舞われた。いわゆるリパトリの動きを警戒したのだろうが、首都直下地震や東海・東南海ではそうはいかないと考えるのが妥当だ。



 上の図も中央防災会議の資料からだが、東京湾北部地震、いわゆる東京直下地震ではGDPの2割が吹っ飛ぶ。額にすれば112兆円。復興費用67兆円だ。復興特需を期待する人も出てくるかもしれないが、その前に政府の財政が破たんしてもおかしくない規模だ。今でこそ、国民の金融資産が1400兆円あり、国債の国内消化率がほぼ100%だとしても10年後、20年後は違ってくる。まず国内でファイナンスできない。即ち、海外でファイナンスしないと無理な状況に陥る。また、日本の国富は金融資産1400兆円に加え、土地・建物で2000兆円あるが、まず土地建物の被害、価値の低下で、国富が大きく減損する可能性がある。リパトリで円高に進むことはあっても長期的には円高を維持することは困難であると判断するのが妥当だろう。この状況は直下型でない、東海、東南海地震でも同じことがいえる。



 規模の大小は震源が首都圏からどの程度離れているかによる。東南海・南海地震で57兆円、東海地震で37兆円。しかも海溝型地震の連動ケースは想定されていない。その時はいったいどの程度の被害になるのだろうか。首都圏被害のインパクトが日本に与える影響が段違いであるという点では異論をまたないが、それがどの程度なのかイメージしにくい。金額的には上の図の通りだが、例えば瓦礫の発生量という点でみると以下のようになる。




(社)日本埋立浚渫協会の推定した首都圏での地震の際の瓦礫発生量の予測値だ。今回の震災で環境省は東北3県で2876万トンの瓦礫が発生したと推定している。(岩手県 604万トン、宮城県 1595万トン、福島県 287万トン)首都圏直下型ではなんと9000万トンと3倍以上の瓦礫が発生する。その際に瓦礫処理のシュミレーションもされているが、60か月、すなわち5年たっても処理は終わらない。想定は大正時代の関東大震災と同じ相模湾を震源とする南関東地震を想定していることから、神奈川県の瓦礫発生量が多いが、これが北関東地震の場合には東京と神奈川の数字が逆転する。因みに大正時代の関東大震災の瓦礫処理について調べてみたが、よくわからなかった。少なくとも4年以上かかったことと、東京の瓦礫は現在の豊洲や外濠地域の埋立に利用され、神奈川県では瓦礫の埋立によって現在の山下公園が生まれた。どちらにせよインパクトはけた違いであるということは確かだ。

 あまり断定的な物言いは人をミスリードするので控えたいが、個人的には現在の日本の債務状況を考えれば、再び大規模な震災に見舞われた時には政府に残された方法はインフレ政策しかないと考えている。即ち、インフレによって実質的な債務を棒引きすることだ。この手法は実は特殊な手法でもなんでもなく、歴史的にも世界各国で行われている手法だ。南米、ロシア、欧州、アフリカ、アジアで最も多用された手法であり、債務棒引きにはうってつけだ。そして高インフレによる債務棒引きは通貨暴落を伴う。

 最近話題の本に「国家は破たんする」(カーメン・M・ラインハート、ケネス・S・ロゴフ、日経BP社)がある。そのなかで面白い記述があるので紹介すると「人類最初のデフォルトは、紀元前四世紀の古代ギリシャでシラクサ王ディオニシウスがやってのけたものだという。ディオニシウスは約束手形を振り出して臣民から金を借りたのち、現在流通している貨幣をすべて返却せよとの命令を発する。...(略)....ディオニシウスは1ドラクマ硬貨すべてに「2ドラクマ」と刻印し、しかる後に借金を返済した」 古代ギリシャのインフレ統計がないのでなんとも言えないが、理論的にはインフレ率は100%になる。そして開放経済体系下では通貨は半値になると考えられる。

 無論、日本がそうなると思いたくないし、実際には税体系の抜本見直しでそのような状況は回避可能である。但し、これはさらなる大地震がないという前提が必要であるというのも事実である。


(終わり)


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国家は破綻する――金融危機の800年
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東日本大震災とりあえずまとめ(1)

2011年05月09日 | Weblog
 大震災に関してのニュースはごまんとあり、自分の処理能力を超える情報量がすでにネットに拡散しているのだが、投資の参考になるとはあまり思えないが、自分なりにまとめておこう。投資家が恐れる関東大震災ではなかったが、それに匹敵すると考えられる規模と経済に対する影響度があったことは事実だ。今回の震災によって今後発生が予測される関東地方の影響の予想にも参考となろう。東北地方の震災は心が痛むものがあるが、関東地方で同様な震災が発生した場合にはその100倍にも匹敵すると考えられ、経済的な深刻度は極めて重大でグローバル経済に対しても甚大な影響を与える。今回の震災で首都圏で発生した事象の内、予想はしていても改めて影響度が高いと実感させたことがいくつかある。

 1. 帰宅困難者の大量発生、交通インフラの麻痺

 関東地方での震災によって発生が予想されていたが、実際に起こってみると改めて深刻であったと気づかされる。3月11日の地震によって首都圏の交通機関が一時的に全面的に運転を見合わせたことで大量の帰宅困難者が発生したのはご承知のとおりであるが、東京都が翌日に公表した帰宅困難者は9万9千人に上った。これは猪瀬副知事がインターネットで公表した数字で、都内の公設帰宅困難者受け入れ施設1023施設で受け入れた人数を指しており、百貨店、主要駅、民間の飲食店などの施設、ビジネスホテルなどにとどまった広義の帰宅困難者を含んでいない。実際には20万人、いや30万人以上の人が都内にとどまった可能性がある。帰宅困難者に関してはすでにアカデミックなリサーチがされていて、東京大学の廣井悠助教授が当時の状況をアンケート調査した結果以下のようなものになった。



 調査対象サンプルが2026なので数としてはそれほど問題はないだろう。これによれば全体の8割の人が自宅に帰宅することができたのに対して、2割程度の人が何らかの理由により都内に留まったという結果になっている。帰宅しなかった人の内、半分が勤めている会社に泊まったのに対して、残りの8割が会社以外の場所に泊まった。気になるのは自宅に帰ろうとしたがあきらめたという人だが、いったいどうしたのだろうか。道にでも寝たのか、それとも公共施設などにお世話になったのかその辺のところはよくわからない。もっとも興味深いのは次の図で次回同じような状況になった場合にどうするか尋ねたのがこれである。



 これによれば、今回の震災で自宅に帰った人の8割は帰宅するつもりであると答え、9%の人は会社もしくはそれ以外の場所に留まると回答。実際に会社に泊まった人は77%が次回も会社に泊まると答え、会社以外に泊まった人も4割弱の人がとどまると回答。自宅に帰ると答えたのはそれぞれ11.5%、28.1%で、会社に泊まった人は意外に無理しなくても会社にいればよいと考えていることがわかる。震災当日は企業の方でも迅速に対応した企業も多く、社員を早めに帰宅させたり、帰宅が困難な社員には支援を行った企業があったことを示している。今回は直接の震源が宮城県沖であったことから震度6以上の地震とはならなかったが、それでも公共交通が遮断されたことを考えれば、首都直下型の地震(震度6以上)になった場合には帰宅困難者はこの程度では済まないと考えるのが妥当だ。東日本大震災で首都圏でも死者はでたが、その数は10人にも満たない。直下型であれば死者行方不明者は千、万単位になることが予想され、道路などのインフラにも直接的な被害が予想される。中央防災会議の首都直下地震対策専門調査会報告(2005年)によると,地震により首都圏の鉄道網が全線途絶になると,東京都内で約390万人,1都3県で約650万人が帰宅困難になると推計されている.今回の震災はその面からすれば軽度であったといえるかもしれない。中央大学理工学部助教授鳥海重喜が発表したレポートによれば地震によるインフラへの影響がほとんどないにも関わらず、震災当日に復旧した路線は東京都心部、神奈川方面に限られ、千葉・埼玉方面は全滅といった状況であった。



 千葉方面は浦安が液状化したり、茨城方面での震災の影響があったことから常磐線などに影響があったことは理解できるが、それ以外もJR東日本は運転を再開しなかった。また、埼玉方面が全滅となった理由もよくわからない。時系列的に見た運転復旧率のグラフが国土交通省から発表されている。いつもおもうんだが、せめてプレスリリースはオリジナルのPDFファイルを使ってほしい。画面スキャンした汚いファイルをそのまま発表文にする理由がよくわからない。したがってグラフは担当者がちゃんとスキャンしなかったんで斜めになっている。全く役人という奴は。



 これでみてわかるとおり関東圏の鉄道復旧率は6時間もゼロのままであった。線路の安全確認などが理由であろうが、それにしても直接的な被害がほとんどなかった関東圏ではこの数字は驚きだ。少なくとも鉄道関係者がビビっていたことは容易に想像できる。震災当日、最も早く復旧したのは西武鉄道、京王電鉄、東京急行、東京メトロ(一部)、都営地下鉄(一部)、横浜市営地下鉄、みなとみらい21線、埼玉高速鉄道、相模鉄道などに限られ、JR東日本、東武鉄道、京成電鉄、小田急、京浜急行、新京成、つくばエクスプレス、りんかい線、東京モノレールは終日運転休止となった。因みに山手線が復旧したのは12日の8時になってから。京浜東北線は12日8時56分、中央線は7時36分、総武線は7時54分、埼京線は7時、横須賀線は8時21分、東海道線は7時59分とJR東日本の復旧は同じく12日に復旧した私鉄よりも遅いケースから見られた。首都圏直下型地震の発生にはこれよりももっとひどいことになることが予想される。少なくとも、24時間から48時間の鉄道運休も想定せざるを得ない。それによって陸の孤島と化す地域がでることも想定すべきであろう。

2. あまりにも広範囲な地震動・影響


 いうまでもないことだが、今回の震災の規模は関東大震災を経験している人でもなければ初めてという規模・範囲にわたる。戦前生まれの私の父親が「こんなの初めて」というくらいだからまずほとんどの人が初めて経験する事象だろう。影響がどの程度であったかというのはやはり視覚にとらえるのがはやい。日本には地震観測のためにいくつかの観測ネットワークが整備されておりその水準は世界最高レベルといってもよい...と思う。強震観測網(K-Net、KiK-net)、高感度地震観測網(Hi-net)などが日本中に展開されている。K-NETは、全国約1000ヶ所の地表に設置した強震計からなる観測網であり、KiK- netは、Hi-net観測点の地表と地中に設置された強震計から構成される観測網をいう。Hi-netは人が感じない微弱な揺れまで記録するために全国約800ヶ所の地下100m以深に設置した高感度地震計で構成される。それ以外にも広帯域地震観測網(F-net)というものもあり、全国約70ヶ所の横坑の奥に設置した地震計で構成される観測網で、日本列島周辺で発生した地震のメカニズム解の推定や地下構造の推定に利用されている。これらのデータはすべて公開されている。東大地震研究所がこれらのシステムを利用して今回の地震のシュミレーションを公開している。まずはK-NETから




 いろいろな観測網があってごちゃごちゃしてしまうが、K-NETとは簡単に言ってしまえば有感地震の測定と考えていいだろう。このシュミレーション結果を見ても東日本を中心に一部は近畿地方にも影響があったということからかなりの広範囲で影響がでたことがわかる。一方、Hi-netのシュミレーションは無感地震を含むものなのでこの影響はさらに大きかった。




 これでみても北は北方領土(一応日本の領土です)から南は九州まで、なんと一部韓国南端まで地震動があったことになる。特徴的な点はいくつかあるがなんといっても地震動の長さだ。強震度計でも4分、微弱震度でも5分近くあった。さらに首都圏の超高層ビルの場合には長周期振動によって長いところでは10分以上揺れたとの話もある。また、今回はエネルギーの解放の規模が以前と比較して半端でないことから震度4以上の比較的揺れの大きな余震だけでも141回、M5.0以上のエネルギーを持つ余震では400回以上に上っている。(下図) 余震回数の多さは、経済活動や人々のセンチメントに大きく影響することになり、消費などの影響も大きかったと推定される。




 余震活動は震源地である宮城県沖だけではなく、地震のポテンシャルの高まった他の場所でも地震を誘発した。3月15日に静岡県で発生した地震はM6.4のエネルギーでかつ震源が富士山だった。韓国のメディアが富士山が爆発するなどとのデマ報道を流したり、真に受けた一部のうっかりさんがツイッターでデマをリレーするなど隠れたパニックがあったが、いまのところ事なきを得ている。海外のメディアがそのような報道をしたのは、1707年の10月4日に起きた宝永地震の49日後に宝永大噴火と呼ばれる富士山の大噴火があったことを念頭を置いているのと考えられる。但し、宝永噴火はいわゆる東海・南海・東南海連動型地震で、今回の地震とは異なるし、第一、地震と火山噴火の因果関係が明らかでないのにその点を抜きに報道するのはいかがなものかと思う。噴火が起こるかわからないというのが正解だろう。因みに防災科学技術研究所第119回火山噴火予知連絡会のレポートによれば火山性微動及び深部低周波地震の観測はされていない。



今回の地震で発生した長周期地震動の影響だが、通常の木造家屋、中低層のビルやマンションなどには、周期3.5 秒以上の長周期地震動は、一般に大きな影響を及ぼさないが、高層ビルでは、それぞれのビルが持つ固有周期が長周期地震動の周期に一致するとき、非常に大きな影響を与えると考えられている。実験や解析によれば、一般的な鉄骨造ビルの場合、その固有周期T(秒)は、階数をN とすれば概ねT = 0.1N、高さをH (m)とすると概ねT = 0.02~0.03×Hであり、大きく揺れる際には、固有周期はさらに長めになるといわれている。(地震調査研究推進本部地震調査委員会「長周期地震動予測2009」)



そして、実際にどうだったかを見たのが上のグラフである。新宿にある工学院大学の29階と地下6階の加速度・変位波形を見たものだ。(JABS・建築雑誌・2011年5月号・工学院大学建築学科教授久田嘉章) このビルでは比較的大きな揺れが400秒近く発生している。7分弱なので十分長い。地下を地表面と同じと解釈すれば、実際に地面が揺れていたのは200秒程度、3分ちょっとということだ。私は10階以下の階に住んでいるが、揺れたのは4-5分くらいだった気がする。もっと短かったかもしれないが、それでも長く感じていた。実際に50階とか高層階にいた人達は結構ビビったんでしょうね。実際に計測された中で最も揺れたとされるのが新宿のセンタービルで13分間揺れたそうだ。そこに本社がある大成建設が調べたそうだ。実はこのビル2009年に長周期地震動対策工事をしている。揺れは長かったが、被害はなかったようだ。ここで誤解している人がいるかもしれないので注意を喚起しておくと、いわゆる免震構造ビルといっても「揺れない」とうわけではないということ。新宿センタービルも対策工事をしているが、これは対策をしたから揺れがそれほど大きくならなかったという意味であり、「揺れない」ということでは決してない。世の中全ての「免震ビル」は「揺れない」のではなく、「揺れが少ない」ということであって、必ず長周期地震動の影響を受ける。



 まだ今回の地震に関する長周期地震動に関する詳しいレポートが発表されていないのでなんともいえないが、首都圏直下型、東海地震など想定される地震動では長周期地震動の影響が深刻化する可能性もある。特にスロッシングと呼ばれる現象は要注意で、今回はコスモ石油の石油タンクが爆発したが、それに輪をかけた状況になることも懸念される。地震調査委員会が発表した長周期地震動予測地図(2009年試作版)では想定東海地震で最も影響を受けるのが関東地方であるというシュミレーション結果がでており、高層ビルでの長周期地震動対策はもとより、湾岸地区の石油コンビナートタンクのスロッシング対策も今後も重要になるだろう。



3. 買占めの動き

 これは後で考えたらさもありなんだったが、地震がくるまで気がつかなかった。会社勤めの友人に聞いた話だが、地震後ものの1時間もしないうちにコンビニの食料品が売り切れたそうだ。かくいう私は地震がおさまった後、5時ごろにおにぎりでも買おうかとコンビニに行ったら、何も残っていない。震度5で食糧買いあさるなんてあんたらパニックしすぎだよ!! と、心で思っていてもパニック心理は伝染するようだ。私も残っているお菓子をとりあえず買った。といってもビスケット2個程度です。食糧買占めに加わらなかったのには理由があって、実は私は防災グッズマニアで以前から非常用食料とか電池、保存用ミネラルウォータとか備蓄している。簡易トイレ、マッチ、ろうそく、カセットボンベ、簡易浄水装置とか結構持ってます。非常用食料も乾パン、アルファ米、火やレンジが使えなくても発熱して調理できる牛丼とか、缶入りパン、缶詰とかまあ、2週間は救援がこなくてもOKです。ていうか、このくらいは準備しとこうよ。地震は絶対くるって言われているんだから。

 買占めの効果はかなり影響したことがわかる。これは電池、ミネラルウォーター、レトルト食品、米など十分在庫があるのにも関わらず不足が長期化したことでそれを証明している。店頭に在庫がなく、誰かが備蓄在庫を積むために買占めに走ると、それに影響して回りの人が家庭内過剰在庫を積む。いつも店頭に品物がないから、品物が店頭にでるとその場にいる人はなくなるかもしれないとの予想の元に家庭内過剰在庫を積む。こうして悪循環が重なり、いつまでたっても店頭に商品が並ばない。今回買い占めた人たちを一概に責めるのも酷だが、カップ麺や消費期限の短い商品まで買占めた人たちは一体どうしているのだろうか。カップ麺なんか半年も持たないし、なかには1か月程度の消費期限の食料品を買いあさった人もいる。カップ麺とか毎日食べられないし、レトルトパックを買い占めた人は今年中に大きく後悔するだろう。(レトルト食品も1年以上の消費期限のものはあまりない)
 特に乾電池を買い占めた人の判断には理解に苦しむ。確かにあったほうがいいに決まっているが、関東地方で計画停電の影響があったのはごく一部で時間にしても2時間程度。買った乾電池の個数にもよるが、数十個とか買い占めた人たちはどの程度の停電を予想したのだろうか。恐らく、関東地方に地震が来て停電すると恐れたというのが本当のところだろうが、仮に関東に地震が直撃しても電気の復旧はガスよりも早い。関東地方の発電所がやられ、復旧もままならないという想定なら、相当の大地震でまず死んでしまう確率が高い。そのような想定をするならば乾電池よりも関東地方から逃げ出すことを考えたほうがより合理的だ。



 買占めにあった商品は最初は食料品、電池などが主だったが、その後お菓子、ミネラルウォータ、トイレットペーパー、マスクなど震災、福島原発事故などが影響して広範囲にしかも日用品の品不足が顕著だった。JTの工場が被災して3月末からたばこの出荷が止まると今度はたばこパニック(但し、スモーカー限定)が発生。


(つづく)


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