Bankの秘密基地

個人日記兼つれづれなるままに

インフラ投資法人は何故売られているのか

2024年06月05日 | 国内上場REIT

 インフラファンドの売られ方がひどい。現在何故売られているのかを考察してみたい。念のため
に言うと考察自体、銘柄を推奨するものでないことを断っておく。これを参考に投資とかはしない
でね。

 インフラファンドは2015年4月に市場が開設された。再生エネルギー発電による電力の固定
買取制度が発足したのを受け、その市場拡大を促すことを目的に設立された。実のところ、この
インフラファンドは海外でいう広義の「インカム・トラスト」に分類される。インカムトラストは
裏付け資産からのキャッシュフローを一定の条件で株主に配当することで配当のパススルーを可能
とする資産クラスのことを指す。パススルー課税とはたとえばREITのように配当可能利益の90%
を配当することで法人に法人課税を行わず、配当を受け取った投資家に課税するというものである。
日本語ではこれを「導管性」と呼んでいる。インフラファンドにおいても①配当可能利益の90%
以上、②国内募集比率50%以上、③発行投資済投資口が50人以上で所有、④同族会社要件に抵触
しないことに加え、⑤特定資産50%以上(再生可能エネルギー発電設備及び公共施設等運営権)など
である。再生エネルギー関連が主体だが、法的には公共施設等運営権などもあるので厳密に言えば
水道とかその他資産も組み入れ化のようにも読めるが実際にはでてこないだろう。



2016年6月にタカラレーベン・インフラファンドが上場し、それ以降6銘柄が上場したが、
2022年以降に第一号のタカラレーベンが上場廃止になり、その後日本再生可能エネルギーイン
フラファンドが上場廃止となり5銘柄を残すのみとなった。なんとも雲行きの怪しい状況だ。イン
フラファンドは前述の通り、インカムトラストの範疇なのだが、海外ではインカムトラストはREIT、
インフラファンドに加え、RoyaltyTrustと呼ばれるものがある。海外のインカムトラストは日本のと
比較して自由度が高いので類似性という観点からはカナダや米国にあるRoyalty Trustにやや似ている
かもしれない。Royalty Trustは油田などを資産的裏付けとして発行される証券でカナダは経営の自由
度があるのに対して米国の場合には上場後の追加資産の取得ができない。つまり、Royalty がなくな
ればそこで事業が終了するという最後に消滅を前提にしたような資産になる。日本のインフラファン
ドはカナダ型になるかもしれないが、これだけ人気がないのはJREITと比較して導管性要件が厳しい
ということが第一のリスクとしてあげられるだろう。



上記の表は野村證券の資料から抜粋したが、JREITが実質法人非課税に対して、インフラファンドは
20年間と年限付きになっている。これでは投資家が安心して投資できない。なんでこんな制度にし
たのか理解できないが税収確保というのなら、これでは投資が滞って、かえって日本全体の投資を
下げるようなシステムでむしろ税収を減らそうとしていると目論んでいるとしか思えない。財務省
の人間は頭が悪いのか? というより目先の事しか考えてないとしか思えない。



第二のリスクはFIT(現在はFIP)が終了することを恐れている投資家が多いということだろう。FITは
固定価格買取制度のことで20年にわたる買取価格の固定が認められ、FIPは市場価格に一定の
プレミアム価格を上乗せするというシステム、価格変動リスクを受ける。上乗せ期間は同じく20
年間だが、終わった時にどうなるのかと考えた時に投資家はやはり身構えるだろう。但し、これは
海外のRoyalty Trustも同じような事態になっており、会社がつぶれるわけでもないのでそう悲観す
る必要はないだろう。REITなどとの比較で適正なプレミアム水準が市場で形成されると予想される。
パススルー条件はREITの方が良いのでREITに対してプレミアムは載ることになる。現在REIT市場
平均が4.65%に対してインフラファンド平均で6.89%。見た感じこれだけ乗ってればいい
ような気もするがREIT市場全体も下落基調なのでどうなるかは不明。というかインフラファンド
でいちごグリーンだけが妙に評価が高いのは何故。時価総額も100億ないのでちょっと不思議。
因みにいちごグリーンを除外するとインフラファンドの平均利回りは7.27%になりプレミア
ムはなんと2.62%になる。嫌われてますなインフラファンド。

第四のリスクといってよいのかよくわからないが、ネット上で分配金に関するこんな声を聞く。
「インフラファンドの分配金は配当可能利益を大きく超えて分配されている。タコ配であり、
健全ではない。分配金の半分以上が利益超過金である。」 利益超過金とはいわゆる資本の返還
であり、この意見は厳密には正しいとはいえる。但し、インカムファンドの特性を考慮すれば必ず
しも「不健全」とは言えない。



とりあえず、数字を拾って作成してみたが、どうもちゃんと数字があってるのか不安。一応決算
短信から拾ったから間違えてないと思うが、間違ってたらすまん。エネクス・インフラ投資法人を
例に見てみよう。これをみてもわかる通り、当期利益を超えて配当しているが前期でみればその額は
741百万円。減価償却費は2071百万で35.8%程度だ。当期利益と減価償却を加えてた
キャッシュフローで見ればその比率は25.3%まで低下する。タコ配といわれれば確かにそう
なんだが、インフラファンドはその特性上、①ファイナンスして資産を拡大、②キャッシュフロー
の投資主に帰属する分と当期利益を合わせて還元、そして①にまだ戻るというプロセスを経る。
つまり一定期間ファイナンスをし続けないとバランスシートが小さくなって最後になくなってし
まう。まあ実際にはなくなりはしないが、このへんの資産特性を理解できないと「タコ配」とい
う結論に到達しがちだ。



第五のリスクは環境だ。勿論、再生エネルギーは環境負荷を下げるという点は同意するが、なんでも
かんでも環境に良いとは思えなくなっている。最近のニュースでは太陽光発電所ができたことで違法
な森林伐採行われたり、伐採したことにより土地の保水力が減退したりともしかしたらそんなに環境
によくないんじゃないかという意見も出始めている。この前も釧路湿原のすぐ近くに大規模ソーラー
ができて景観を破壊しているという声も出始めている。なんでも間でも太陽光というのに投資家も
少し腰が引けてきているのではないか。小水力、風力、地熱などの多様性のある再生エネルギーに
シフトすべきではないか。よく下図のような写真を見ると最近環境に悪そうな印象を受けるのは
何故だろうか。



第六のリスクは単純だ。ずばり金利の上昇。恐らく、いままでの議論のなかでは最大のリスク
要因なのではないか。当然のことながらインカムトラストの競合相手は国債利回りだ。相手は
国なんでリスクが当然低い(自分はそう思ってないが) 。日銀がゼロ金利政策を解除するとの
市場の見方はまあ正しいとしてそれがどの程度まで上昇するのかというのが問題だ。但し、
ゼロ金利政策が解除されたとしても長期金利が2%を超えるなどと予想する専門家はまずいな
い。また、ゼロ金利政策が解除されて、実際に利上げになるのはどんなに早くても年後半、
通常であれば来年前半頃になると予想されている。上昇幅が仮に25BPだとしても長期
金利は1%前半だろう。米国においてはFRBによる連続引き締めで株式益利回りと長期
金利の差、すなわちイールドスプレッドがマイナスになるという事態が生じたが、日本に
おいては株式の益利回りが6%あり、まずそんな事態は起こらない。
(少なくとも3-4年は)
一方で、REITやインフラファンドは単純に長期国債との利回り格差、つまりプレミ
アム水準で決まるわけだがそれについてもまだ長期国債が有利という事態にはなってい
ない。しかしながら投資家が一番リスクとして警戒しているのはREITにせよ、イン
フラファンドにせよ、調達金利の上昇により事業利益が縮小、それに伴って利回り格差
が縮小するという事態を重大視していると考えるのが現在のインフラファンドの株価
下落を最も説明しているのかもれしない。


とはいってもだいぶ織り込んだような気もするんだが、どうなんだろうか。
そろそろ...いやいや、まだまだ...こんだけ売られればいい加減いいのでは....
実際はわかりませんな。いいような、悪いような。歯切れ悪い....

PS
一応言っておくが、銘柄推奨でもなく、ましてや売り推奨などでもない。分析記事です
から念のため。

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Surface GOのネットワーク接続の問題

2021年09月08日 | Weblog


買ったばかりのSurface GOが急にネット接続できなくなった。色々調べたがわからず
Microsoftのサポートとか見てようやく治った。もしかしたら同じ症状で悩んでいる人がいるのかもしれない。接続できないと分かったのはwindows updateした後だった。見るとネット接続されていないので調べてみるとネットワークアダプタ自体が見つからない。

windowsシステムツール(スタート>windowsで探せます)でデバイスマネジャーを起動してネットワークアダプタを見るとあるではないか。Surface GOにはIntel WiFi 6 AX200というネットワークアダプタがあり、そのプロパティを見ると「このデバイスを開始できません コード10」というエラー表示が.....ネットで調べてアダプタをアンインストールして再起動すると自動的に上記のアダプタが再インストールされるとあるので実行。再インストールされるがそれでもまた同じエラーメッセージがプロパティにでてる。....詰んだ

Microsoftのサポートページを読んでようやく解決。

https://support.microsoft.com/ja-jp/windows/windows-%E3%81%AE-wi-fi-%E6%8E%A5%E7%B6%9A%E3%81%AE%E5%95%8F%E9%A1%8C%E3%82%92%E8%A7%A3%E6%B1%BA%E3%81%99%E3%82%8B-9424a1f7-6a3b-65a6-4d78-7f07eee84d2c

それによると更新プログラムによっては不具合が出るとかいう話で、直前に更新したプログラムをアンイントール。


もともとオプションの更新プログラムなのでする必要もないのだが、新しいセキュリティ強化の言葉に惹かれて更新してしまった。強制更新以外のオプションプログラムの更新は気を付けたほうがいいという典型例....もしかして同じ症状で原因がわからないという人は更新プログラムのアンインストール>再起動をお試しあれ

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日銀資金循環統計

2021年06月25日 | マクロ経済


家計資産が2000兆円をもしかしたら超えるのではないかと予想する向きがあったが、結局そうはならなかった。ただし、家計資産は1946兆円、うち現預金は1056兆円を超えた。これだけ株が上がったのに、結局現金を抱えたままというのがいかにも日本人らしい。せめて株高に応じて投資してれば経済回復は半端なかったじゃないかと想像するが、まあ日本人のことだ無理な話だった。



2020年の資金余剰はなんと41兆円。前年の17兆円の倍以上だ。当然これはコロナショックによる巣ごもりが影響している。ゲームにはお金を使ったが、やはりそれだけでは余剰増加ペースは落ちることはない。年後半から自動車などの耐久消費財の売り上げが大きく増加したが、それでも足りない。というか、自動車の納車は半年以上になっているという話で、その余波で中古車価格は大きく上昇している。これは日本だけでなく世界的な傾向になっている。いわゆるアフターコロナを想定すると貯まった余剰資金の使い道が気になるところだが、まずは旅行やそれに関連する消費材・サービスなんだろう。

但し、これらが本格化するのはみんながマスクを外してからになる。職場接種は本格化したといっても、まだこれから。政府によれば、職場接種・自治体大規模接種の申し込みで4500万回分と予定の5000万回分が埋まりつつあり、一時停止の話もでている。ミソがついたアストラゼネカ製を使用すればいいだけなのだが、まれに副反応が出たという話がでただけでアストラゼネカはバツだと思っている人が多い。そんなこと気にしないで進めればいいのにと思うが、人の感じ方は様々だ。



何が増えるのかなどと予想できるはずもないが、家計調査をみると大きく減っているのはリバウンドしそうだという気にもなる。これからみると被服及び履物、教養娯楽、交通・通信あたりだろうか。既に自動車販売は回復しつつあるが、服はまあ、予想通りなんだが、ネットでも買えるのではという気もする。但し、やはりウィンドウショッピングしながら実店舗で買うというのはありなんだろう。というか、ネットだと試着できんし。教養娯楽だが、やはり旅行関連は大きく減少しているので回復はするのだろうが、まずはキャパの問題で回復するとしても急激に戻るか不明だ。予約がとれないという話が新聞にでるかもしれない。結局、旅行などは回転率の問題なので時期が集中すればどんなに需要があってもさばききれないので大きく回復とはいかないだろう。後は町に繰り出して飲みに行くということで現在苦境の飲食業界はその恩恵を受けるかもしれない。

但し、日本人の性格からいきなりバブル消費時代に戻るということはまずありえない。今回の資金循環統計でも見た通り超保守的な日本人に期待するは止めた方がいいだろう。
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IMF World Economic Outlook

2021年04月09日 | マクロ経済
既に新聞などで報道されているが、IMFの世界経済見通し(World Economic Outlook)が発表されたので中身を見てみる。予想されていた内容だが、経済回復が急速に進むだろうというのが結論だ。



予想の根拠は極めてシンプル。コロナショックから経済が正常化し、それに伴い貿易などが再開することから当然ながら経済は成長していく。通常の経済予測と異なり、異常事態の収束がわりと簡単に予測されることから当然の結論となる。とりわけデータからもそれが読み取れる。上のグラフの下段には財の貿易の成長率が載っているが、昨年の2020年の推計では-5.3%とかなりの落ち込みが見られた。2021年の予想ではこれが8%に急上昇すると予測している。チャートがなかったので載せなかったが、これは財の貿易だけをみただけで、財・サービスの貿易でみると2020年は-8.5%のマイナスだった。予測は予測だが、今回の予測は方向性としては信じることが出来るのではないかと思う。その理由が前回も似たようなケースがあったからだ。言わずと知れた2009年のリーマンショックがそれだ。



2009年の世界の財・サービスの貿易成長率は-10.7%と大きな落ち込みをみせ、2010年の回復期には+12.8%とかなり大きな回復となった。GDP成長率も2009年の-0.1%から翌年には+5.4%の大幅な成長になっている。今回も似たような傾向になると予想されている。但し、リーマンショック時と異なる点は経済の回復速度が地域的なばらつきが出てくることが予測され、世界同時回復とはならない可能性がある。すなわち、前にも言及したが、コロナショックからの回復は集団免疫を獲得して初めて可能となる。しかしながら、ワクチン接種率の違いから必ずしも世界同時とならず、まだら模様に回復する可能性が高いだろう。



但し、気になる点がいくつかあることは事実だ。1つはコロナ真っ最中とはいえ、鉱工業生産などはコロナ前に戻ってきている。とはいえ、成長率なんで、ボトムからプラスになっていてもまだ完全に戻っているとは言えないものの、意外に回復が早いことが気になっている。とりわけグローバルにみた貿易動向では資本財輸入が年後半から活発になっているのは注目されるだろう。



2点目は資本財や耐久消費財の伸びがが大きい。巣ごもり消費という言葉になれてしまったせいか、自動車等の耐久消費財の需要が増加していたというのは意外感がある。君らなにしてんの。この状況下で。いや、この状況だからこそ、車とか買いたかったのかもしれん。資本財の急上昇は先進国から途上国向けが多く、その多くはサプライチェーンの再開に伴う輸入という点である。都市のロックダウンなどのニュースが多いので気が付かなかったが、意外にサプライチェーンの再開が早い。自動車に関しても半導体不足で生産が停滞しているものの、それがなかったら結構急激な回復につながったかもしれない。



とりわけ昨年の第4四半期に工業製品・農産物ともに大きく回復している。燃油・鉱物が依然として大幅な減少に止まっているが、それでも全体でみるとプラスになってきており、既に回復の局面ということがマクロ的に見てとれる。うむむ、どうも体感とはかなり違う状態になっているようだ。だからこそ、株価は先行して上昇しているとも言える。予測では2021年は6%近い高成長を遂げるが22年には4.4%に成長率が鈍化すると見込まれている。しかしそれでも4%台の成長は高い方だろう。気になるのは2009年のショックでは世界のGDP成長率が急減速したといっても-0.1%だった。今回は-3.5%から+5.5%と大幅に回復するわけだが、もしかしたらそれ以上の過熱があるのではないかと気になっている。いうまでもなく、米国の財政拡張政策を考えればオーバーシュートの可能性も出てくるだろう。前回のインフレの可能性の議論ではやや否定的に論じたが、下手すれば高インフレの目もでてくるのではと少し不安になってくる。



インフレ率が抑えられるという論拠はまず第一に労働市場がタイトでないこと。少なくともコロナで失業もしくは潜在的な失業が発生していることから財政によるバラマキでも家計は防衛行動をとり続けると予想されること。2つ目としてはGDPギャップが世界的にマイナスとなっていることから、それを埋めるだけで市場を過熱させることはないだろうと予測しているからだろう。まあ、確かにそうなんだが、気になるのはGDPギャップを見るとアメリカの傷はかなり浅いんだよね。さらに2兆ドル近い財政政策でどうなるかはまだ予断を許さない。



さらにいえば、先進国、発展途上国で分けると日米欧などの先進諸国の傷が浅い。一次産品特に燃油・鉱物に依存しているかどうかで分かれている。このような状況からすれば回復のパターンは先進国>発展途上国の順番になるだろう。



先進国のなかでも米国の回復が早い理由は、既に数字に表れているからだ。失業率の推移を見ても戦後最悪と言われた4月の数字から急速に改善している。数字が出た段階ではこの先30%位まで上昇すると予想する向きすらあった。さらに消費の動きを見るとHigh-contact serviceと呼ばれる食品、レジャー、宿泊、交通の低迷をのぞけば軒並み回復している。というかかなりのハイペースでギャップを埋めようとしているのが分かる。ニュースではコロナの話ばかりで経済の話があまりでてないが、少なくとも先進諸国は回復局面にあることは間違いない。

やはり問題はインフレがどうなるのか、金利上昇がどうなるのか、株式市場はどう反応するかという点だろうが、とりあえずそれはここでの主題ではないので置いておく。但し、5月には米国でかなりの人がワクチン接種を完了すると見られていることから要注意であることは変わりがない。
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ビットコインバブル

2021年03月31日 | マクロ経済


ビットコインをやっている人には面白くない話かもしれないが、現在のビットコインあるいは暗号資産相場がバブルかどうかという点ではバブルとしかいいようがない。ただバブルがいつ終焉を迎えるかとかいう考察をするつもりはない。これから価格が4倍になろうが、99%下がろうと正直興味はない。ここではブロックチェーン技術に支えられた新しい資産クラスは投資対象ではなく、投機目的以外には使いようがないということを考えるのが目的だ。

ビットコインは投機対象にはなるが投資対象にはならない。いくつか理由がある。第1には市場の流動性に大きな問題があるからだ。



ビットコインの時価総額は110兆円程度あると推定される。しかし、その保有構造をみると非常にいびつである。投資対象として健全な市場の要件は流動性が十分に提供されること。個人・機関投資家問わず、影響力を行使できないのが理想である。つまり市場参加者は市場価格を'given'として与えられそれを前提として行動する。しかしながら、ビットコインは1万ビットコイン以上のアドレスが100程度、1000ビットコインでも2000アドレス程度である。さらに下の図では総アドレスのたった2.21%でビットコインの95%を保有している。いわゆるクジラと呼ばれる人たちである。ビットコインを一番保有しているのはシステムを創ったサトシ・ナカモト氏で100万ビットコインを保有していると言われている。特に大口の保有者は長期保有している傾向が強く、市場にビットコインがほとんど供給されていない原因にもなっている。しかもサトシ・ナカモト氏は1つのアドレスで保有しているのではなく、多くのアドレスに分散させているとされる。他の大口保有者も同じで、それらを勘案すれば、1000以上保有の2000アドレスは2000人でなく、もっと少数の人に保有されている可能性が高い。彼らが売るからバブルが崩壊する...などという主張をするつもりはない。もしかしたら大口長期保有者はこのさきもずっと売却をしないかもしれない。サトシ・ナカモト氏はもしかしたら死ぬまで売らないかもしれない。

第2の理由としてはビットコインは決済手段としては利用ができない。つまり登場したときに「仮想通貨」と呼ばれていたが、通貨としての機能に著しく欠陥を抱えている。ビットコインなどの暗号資産はその存在意義が悪意のある第三者に不正手段を行わせない対抗手段を持っているというのがそれである。中央集権的でなく、分散型のP2Pネットワークに存在する多くの人たち(マイナー)よって検証されつづけるのが重要だ。



ブロックチェーンの技術的特性からとトランザクションデータの真実性を担保させるために多くのマイナー達の競争によって正しいブロックが追加されていく。そのブロックが追加されることによってトランザクションは正式に完結するようになっている。しかも、ブロック追加は多くのマイナー達の計算競争によって一番最初に追加した者が報酬を得られる仕組みになっている。この競争的環境が悪意のある第三者を駆逐する原動力になっており、とてもうまく出来ていると思う。ブロックについては上の図の通り、トランザクションデータ、前ブロックのハッシュ値それにナンスを加えたものである。マイナー達はこの正しい「ナンス」発見するために熾烈な計算競争をしている。ナンスは'Number of used once'のことでブロックにつけられる使い捨ての数字列であり、意味のないデータだ。しかし、ブロックに追加されていることで前のブロックのハッシュ値が算出可能になる。

通貨として利用するならトランザクションは瞬時に終わるのが望ましいが、それでは真実性の担保やマイナーの競争環境が保全されない。従って、システムによってナンスの難易度が決められる。ビットコインの場合にはだいたい10分程度に設定されている。あまり難易度が低いとマイナー達の競争にならないし、強力な計算パワーを保有する悪意のある第三者を排除できない。つまり、ビットコインは決済に利用しようとしても10分以内には出来ないようにあらかじめシステムで決められている。仮にビットコインで買い物をしても「10分待って下さい」では話にならない。そんなことならクレジットカードを出した方が何倍も速いし便利だ。

第3の理由としてはビットコインが価値保全の仕組みとして導入した発行上限と半減期が投資対象として問題がある。ビットコインの設計者はドル・ユーロ・円などの中央集権型通貨の別の選択肢として管理者の存在しない分散型ネットワークを考案した。管理者(国家)がいると管理者による恣意的な発行などを防止できず、インフレによる価値の減少をもたらすリスクが増大する。実際に野放図に発行された通貨によって価値が大幅に減失したケースは数が多い。



政府が経済運営に失敗すると財政が破綻し、赤字財政をファイナンスするために通貨増発に頼ることになる。すると当然ながら通貨価値は大幅に下落する。第1次大戦後のドイツのハイパーインフレが有名だが、ベネズエラやジンバブエのように戦後でも発生している。当然ながらそんな状況だと下の写真のようにトイレットペーパー1つでこれだけいるようになる。



ビットコイン設計者はインフレによる価値毀損防止の為にいくつかの仕掛けをしている。まず発行上限を設けビットコインの発行上限は2100万コインとし、さらにマイナーによる採掘枯渇を防ぐために半減期を設けることにした。マイナーはブロック追加による報酬を得るがビットコインがスタートした時には1ブロック当たり50BTCとされた。4年に一度半減期が設定され報酬は半分になる。厳密には4年ではなく21万ブロックごとに半減期が設定されているが、前にも述べたようにブロック追加の為にナンスの難易度を10分程度に設定していることらからほぼ4年に一度の半減期になる。ビットコインは既に3度の半減期を経験しており、現在の獲得報酬は6.25BTCに下がっている。



ビットコインはその仕組みや考え方はなかなか興味深いものがある。発行上限を設けるというのは希少性を維持して価値の下落を防ぐという意味で普通の方法だが、半減期を設けるのはなぜかと言えば、これも価値保全の仕組みといえる。マイニング競争が激化すれば当然ながら発行量が増大することになるが、一定間隔でマイニング報酬が減少するとマイナーの淘汰が起こり発行量の増大速度が減少することになる。つまり需給を改善し、急激な発行量増大による価格下落を防止しようという仕組みだ。



問題となるのは半減期によってマイニング報酬が減少すると報酬を維持するためには価格は上昇し続ける必要がある。次の半減期には同じ報酬を得るためには価格は倍にその次の半減期にはさらに倍にならないとマイナーは報酬を維持できない。供給量の減少はコイン保有者にとって望ましくてもマイナーにとっては必ずしもプラスにならない。現在ビットコインの発行量は1800万に達しており、発行量は幾何級数的に減少する。枯渇が予想されるのは2140年とかなり先だが、それ以前にマイニング報酬は半減期ごとに価格が倍にならないと維持できない。何が問題かといえば、マイナーが退出してしまうと、ブロックチェーンの検証作業する人がいなくなる。検証ができないとその暗号通貨は価値を維持できない。マイニング報酬でなく、送金手数料を取るという手もある。現在は送金手数料はないに等しい。それはマイニング報酬が得られればゼロでも構わないからだ。実際に取ることが可能だが、マイニング報酬と比較すると極めて小さい。それこそ送金手数料10%とか金融機関で送金するよる高くなる可能性すらある。

現在ではマイニングは個人では不可能となっている。マイニングプールと呼ばれるマイナー集団が多くいてその計算パワーに太刀打ちすることはできない。例え参入しても収入はゼロであり、参入しようとする個人はどこかのマイニングプールに参加して報酬をもらう形が一般的だ。しかし、半減期が続くとマイニングプールはマイニング自体から撤退するか送金手数料を大幅に上げて収入を維持するかどちからになる。ビットコインの仕組み自体は緻密でなかなか魅力的だが、価値保全に力を入れるあまり、決済手段にはなることができない。永遠に価格上昇を前提とした資産はどこかで破綻するか、それともポケモンカードのようなレア資産として市場の片隅に追いやられるだろう。では発行上限を上げてはというのがすぐに頭に思い浮かべるがこれには問題がある。



確立したブロックチェーンに対して何等かの変更を加える場合、ソフトフォーク、ハードフォークの2種類が存在する。ソフトフォークは仕様のマイナーチェンジであり、ブロックチェーンの互換性は保たれる。しかしながら抜本的な変更を加える場合にはハードフォークと呼ばれる手法に頼らざるを得ない。ハードフォークでは新旧のブロークチェーンに分けることであり、ノードも新旧に分裂することになる。実はこれがやっかいだ。古い方を廃止して新しくするというやり方ができない。ハードフォークは2つの異なる暗号通貨が生まれるととらえている人が多いが、ハードフォークして分裂したチェーンはより長いブロックチェーンが生き残り、そうでないのは消滅するというのが本来の目的だ。発行上限を変更した新しい新ビットコインと従来のビットコインが生まれた時、ノードの全てが新の方に移行すれば問題ないが、そうならない可能性が極めて高い。特に発行上限は価値保全の為の基本的なパラメータであり、マイナーの都合で発行上限が変更されればビットコインの信用が失墜する可能性がある。ビットコインは既に何度かハードフォークされている。有名なのはビットコインキャッシュだが、それ以外にもビットコインダイヤモンド、ビットコインゴールド、ビットコインシルバー、ビットコインウラニウム、ビットコインゴッドなどなんと6種類にもハードフォークされた。

結果を見るとビットコインキャッシュはまだ存続しているが、その他は将来消滅するリスクがある。つまり、ハードフォークによって支持されたのは結局もとのビットコインのみということを意味している。ハードフォークがうまくいかないのはシステムの基本を作ったサトシ・ナカモト氏を熱狂的に支持するグループがおり、抜本的な変更に反発しているからだ。



ビットコインは例え2140年にマイニング枯渇を迎えると言っても発行量は幾何級数的に減少する。次の半減期で半分。さらに次で半分とマイニング報酬も幾何級数的に減少する。仮に現在のマイニング報酬を維持するなら、次の半減期に価格は倍に、さらにその次に倍と3回目の半減期の2032年には1ビットコイン当たり48万ドル(4800万円)になってなくてはならない。なんかおかしくないか。永遠に価格上昇が前提の資産というのは? 2032年にはマイニング報酬は0.781825ビットコインまで減少する。その時、マイニングプールはどれだけの数が残っているだろうか。



ケンブリッジ大学の試算のチャートを見るとビットコインの電力使用量は価格上昇とともに急増している。計算競争の結果ともいえる。この先価格上昇が継続すれば、さらなる計算パワーの投入が必要となるだろう。既にアイルランドや南アフリカの電力量を上回っており、ドイツ銀行の試算では1回当たりのトランザクションに必要な電力は家庭1世帯の1か月分に相当するという。この先地球の電力使用量の0.5%に達すると予測されている。なんかおかしくないか? 最初の流動性に議論でも述べたが、全人口の99.999%が無縁の資産に地球全体の電力使用量の0.5%を充てるのは正しい事なのか。銀行システムなどの旧来システムに対するアンチテーゼとしして登場した暗号通貨がその実、最も非効率なものになっているとしか思えない。テスラがビットコインを購入したとの話題で盛り上がったが、私個人としては「テスラのイーロン・マスクはなにとち狂ってるの」という感想がまずでた。

まとめると
1. 決済手段の要件を満たしていない。
2. 流動性にかなりの問題がある。
3. マイナーの参入障壁を下げないために永続的な価格上昇が(暗黙的に)前提されている
4. 電力消費など経済的持続可能性のある資産とはいえない。

別に暴落論に与する気は毛頭ないし、この先も上がり続けるかもしれないが、ビットコインは投資資産の要件は満たしていない。投機の手段以外の利用法は皆無だ。

暗号通貨に関する書籍は沢山でているが、その中でお勧めとして2点ばかり



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米国の格差問題

2021年03月27日 | マクロ経済
トランプ前大統領がホワイトハウスを去ってバイデン民主党政権が誕生して格差問題の是正が解決する兆しがあるのかというと、そうでもない。アメリカにとって格差問題は日本と違う捉え方がされている。金持ちが余計に金持ちになって不公平感が社会に蔓延しているというのはある程度真実だが、アメリカ社会はある意味自由すぎて格差問題を是正するには政治的にも極めて困難だ。日本においても格差問題が取り上げられて世論が同調し始めるとあっさり最高税率が引き上げられ、高所得者の基礎控除が廃止(2500万以上ではゼロに)された。しかも割と短期間で決まったのが日本らしい。基本的にムラ社会である日本では世論が同調すると一気に物事が決まる。いい面であり、悪い点でもある。これがアメリカではそうはいかない。

自由の国を標ぼうするアメリカ社会は個人資産に対する課税を所得再分配機能として正しいと解釈する人がマイノリティである。税を取るというのは個人の権利の侵害だと考えている人間すら多い。だからこそアメリカンドリームは個人の成功であり、それに対して不公平だというのは「筋違い」と考えている人が多数である。そうはいっても極端な格差が発生するとどうにかして是正する必要がある。日本の格差問題と米国の格差問題はレベルが違うのである。




超富裕層と呼ばれる世界ランキング10位を見るとほとんど米国人である。1位のジェフ・ベゾスはアマゾンの会長。18兆円ですよ。どこかの国の国家予算並みだ。日本人の最高はファーストリテールの柳井会長、その後はソフトバンクの孫さんだが、柳井さんですら33位。その下のグラフは日本とアメリカの上位1%、0.1%の所得シェアだが、格差問題が騒がれた日本は実はほとんどそのシェアが変動していない。「最も成功した社会主義国家」と呼ばれる日本は実は所得再分配機能がしっかり機能している。一方のアメリカは両者ともに過去20年でシェアを上げており、上位1%で所得シェアはほぼ倍になり、0.1%のウルトラ超スーパーリッチは4倍になっている。日本の格差問題なぞはアリ位小さく、一方でアメリカは本当に半端ないのである。(日本の格差問題は存在していないという主張ではない)



米国と日本の富裕層は何が違うかというと保有資産構造がそもそも違う。上図は米国の世帯純資産の分布だが、2013年現在でトップ1%は米国全体の家計資産の36.7%を保有している。上位5%なら64.9%、20%なら88.9%に達する。しかも1962年からの時系列でみるとトップ20のシェアが上昇している。左にジニ係数があるが、新聞などで出るジニ係数は所得に関するものでこれは純資産に関するジニ係数である。0.871.....まあ、はっきりいって資産に関しては米国は超格差社会と断定できる。その理由は保有資産の大部分が株式であることからきている。いわゆるアメリカンドリームの体現として格差が広がっており、一概に「不公平」とは言い難い面がある。アップルがガレージから創業して株式を公開し資産を増加させたことを「ずるい」と主張できるだろうか。少なくともアメリカ人のほとんどはそれをずるいとは感じないはずだ。

一方の日本の富裕層は資産構成の半分は土地になっている。もともと日米では金持ちの質が違うのである。よって日本の世帯純資産のジニ係数は0.6を下回る。つまり、マクロ的には日本の格差問題はアメリカの足元に及ばない。それはすなわち、ジャパニーズドリームがもともと少ないから日本はウルトラスーパー富裕層自体が少ないと言える。グローバルに見ても格差是正を訴える動きは共通しているものの、その処方箋については議論が百出しておりこれといったものがないのが現状だ。最も言われているのは富裕層課税である。富裕層課税に関しては米国でも一部のスーパーリッチが主張している。
 著名投資家であり、スーパーリッチでもあるウォーレン・バフェットなどは富裕層に課税すべきであると主張している。マイクロソフトのビルゲイツ、投資家のジョージ・ソロスも似たような主張をしているが、個人的には少し胡散臭いものを感じている。彼らが主張しているの所得税の増税をメインとしているが、政府が富裕層に対して資産課税をさせないためにそう主張しているのではとの見方もある。例えば、ウォーレンバフェットはランキング6位で10兆円弱の資産を保有しているが、彼の保有するバークシャーは上場以来無配である。マイクロソフトもビルゲイツが引退するまで無配の企業だった。ウルトラスーパーリッチの人たちはフローベースでの所得は少ない。一方で資産課税をされると大打撃を受けるでそれを防止するために富裕層課税を主張しているのだと見ている人もいる。



格差問題の処方箋の決定打はない。例えば、富裕層に懲罰的な税制はキャピタルフライトを招くし、巧妙な租税回避技術の発展を促すだけだ。個人の成功で財を成した人に懲罰的に課税するという風潮が当たり前になると経済の停滞を招き、アニマルスピリットがなくなるだろう。しかしながら方法がないわけではない。特に新しいことをする必要はない、個人的には相続税をちゃんと取り、所得再配分機能を強化すればいいだけと思っている。個人が成功して大きな財を成したときには格差は当然生まれる。むしろそれは許容すべきだ。「成功したのはけしからん」では社会が停滞する。但し、本人が死亡した場合、相続税をちゃんと取るだけで違った風景になるはずだ。



上の図を見てもアメリカの相続税(遺産税と呼ばれている)が日本や欧州と極めて異質な状態になっている。個人の自由を標ぼうする社会は本人が死んでも自由であるべきなのか? システムとして相続税があってもそれが社会の所得再配分機能に組み込まれていなければ役に立たない。最も成功した社会主義国である日本では金持ちは3代たつと普通の人になる。それは相続税システムが機能しているからだ。勿論、租税回避技術をうまく使って財産を保持している一族はいるだろうが、マクロ的には日本はそれがうまく機能している。米国では相続税システムが機能不全であるから金持ちの一族はいつまでたっても金持ちで、資産は複利効果でさらに拡大する。上位1%が富を独占する源泉となりうる。

無論、全てをそれで説明できるわけではない。ウォーレンバフェットもビルゲイツも祖父が大富豪というわけではないし、上位10位で大富豪の一族は一人もいない。成功した者たちだ。それでも、その成功者がこの世を去った時にその財産を受ける子孫がまともに相続税を支払い、社会の再配分機能に組み込まれたときに格差は緩和される方向に向かう。我々ができるのはそのくらいだ。
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スエズ運河での座礁事故

2021年03月26日 | マクロ経済


一躍有名になった事故だが、やはり深刻さがどの程度かが問題だ。エバーグリーンの船と報道されているが、船を保有しているのは日本の正栄汽船ということだ。また同じく報道によればこの手の事故の責任は船主にあるという。なんでと思わないことがないがオペレータではないらしい。



問題の場所だが、スエズ運河のそれこそもっとも座礁して欲しくない場所に座礁している。困ったものだ
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インフレの可能性とバブル

2021年03月26日 | マクロ経済
正直なところ、結論はない。インフレの可能性はありそうな、そうでもなさそうなというのが本当のところだが、データをそろえて考えてみる。金融市場のインパクトとしては当然、長期金利の上昇、株価の下落というところだが、長期で見た場合、必ずしも株価にはマイナスではない。むしろ懸念すべきなのはバブルなのかという点だ。バブルなら破裂して経済実体に深刻な影響を与えることになる。資産運用をする人間としてはそのリスクに対して常に考慮に入れなければならない。


貨幣数量説においては  PT=MV  いわゆるフィッシャーの交換方程式といわれるものだが、Pは物価、生産量TはGDPの積は貨幣量(マネタリーベース)、流通速度の積に等しい。
ここで、GDPは先進国などでは年間でも2%を超えると好況と言われるようにGDP自体は簡単に倍になったり、半分にならない。すなわち、短期的たとえば四半期ベースではせいぜい0.5%とか、現在の日本においては0.1-3%程度、つまり短期的には一定と見なしてもいいだろうという話だ。流通速度も同じなのので結局、「短期的には」MもVも一定とみなせば
          P=M
マネタリーベース、マネーストックは四半期という短期でも急激に増減することから物価変動は貨幣数量の影響を受けるだろうという説だ。とは言いながら教科書的には正しく見えても実際にはかなり怪しい。まず、コロナショックという経済環境がTが不変であるという仮定を無意味にしている。また流通速度に関しては低下していることが観測されているから、単純に方程式で導き出せない

 この増加の意味するところは何かといえば、やはりコロナショックに対する企業・家計主体の防衛行動である程度説明できてしまう。前回の資金循環統計でも説明したように企業・家計におけるキャッシュの積み上がり。企業にとっては運転資金確保、家計にとっては雇用調整リスクに対する保険としての預金増加だ。用途別銀行貸出動向を見ても直近では法人においては運転資金需要が設備投資を大きく上回った。

従って、急激なインフレを懸念する必要は全くない。メデタシメデタシ......とはいかないだろう。少なくともマネーストックが急増してGDPの2倍近くなった状態が継続して経済環境が変化したときにインフレとなるのか、それともバブルになるのかというのが最も知りたいところだ。現時点での結論はそれで良いかもしれないが、相場は未来を見ている。これでは足りない。換言すれば、将来もこの状況にあっても景気回復があったとしても制御可能な状況なのか、それともガソリンを床にぶちまけているのに気が付かずに湿ったマッチを擦って暖を取ろうとしているのかそんな状況なのか?

(注) マネタリーベースとは、「日銀が供給する通貨の総量」。市中に出回っている流通現金(日本銀行券発行高と貨幣流通高、つまりお札と硬貨)と、日銀当座預金(民間銀行が日銀に保有している当座預金)の合計値。マネーストックとは、「日銀を含む金融部門全体が供給する通貨の総量」であり、企業や家計などの経済主体が保有する現金や預金の残高を指す。



コロナショックによって世界経済に大きなマイナス要因になったのは確かだ。特に貿易などの財の取引に関しては大幅な減速をもたらした。米国・EU・日本の輸出入を見ても特に20年4月から9月頃にかけては2桁のマイナスが続いた。サプライチェーンのグローバル化を進んだ現在、この数字は大きい。問題は正常化した時に以前の水準に戻ろうとするのか、それともニューノーマルと呼べる状況に入るのかだろう。普通に考えれば、経済はコロナ以前に戻ろうとするだろう。その際に供給されて激増したマネタリーベースはインフレ率にどのように作用するのだろうか。積み上げた運転資金は単純に運転資金に流用され、余剰な資金は返済されて金融機関が吸収するのだろうか。それとも超過剰流動性が滞留して投機対象を求めさまよい続けるのだろうか。但し、正常化するといっても実の所、今年の話ではない。早くて来年、もしかすると再来年だと考えられる。それはやはりコロナの状況次第ということだ。


現在最も接種率が高いのはイスラエルのみだ。米国はかなり早い方だが、それでも接種率は38%。感染者が既に30百万人をこえているので、抗体保有者はさらに多いがそれでも集団免疫を得るには今年は無理だろう。変異種を考慮すると実際の所、集団免疫は獲得できないかもしれない。さらに景気の正常化という観点からは各国同時というわけにはいかない。米国の回復は早いと予想されるが、日本の場合では接種率が一段落するのは来年の夏頃までずれ込む。なにしろ、一般接種自体まだ始まっていないのだ。



上の2つの図表は米国及び日本のCAPEレシオ。現在の市場環境は過剰流動性相場であることは間違いがない。しかしながらバブルであるかは不透明である。シラーPERもしくはCAPEレシオと呼ばれるインフレ調整後の10年移動平均EPSで算出したPERは急上昇しており、それを根拠にバブル崩壊を予測する向きがある。しかし、この指数よく見るとドットコムバブルと1929年の大恐慌でピークを指してるがブラックマンデーではピークを付けていない。1つの指標ではあるが、予測の絶対根拠にはなるとは言えない。日本に関していえばCAPEレシオの割高感が見られないばかりか、株価のピークを予測しているものとは考えられない。



バフェット指数というものがある。株式市場の時価総額をGDPで割るといいう単純なもので、考え方としてGDPは企業が産出した付加価値の合計であり、理論的には株式時価総額と一致するだろうという考え方。下回れば割安だし、上回れば割高というもの。結局これも相場のピークを予言はしないだろう。但し、米国株を始め主要先進国の株価のバリュエーションが割高になっているという結論にしかならない。しかも、その割高感は中央銀行による量的緩和策によって正当化される状況になっているのが現実だろう。ではリスクはないと言っていいのだろうかというとこれまたそうではない。


コロナショックをなめてはいけない。なにしろ都市のロックダウンなど経済主体が自主的に経済活動を停止もしくは停滞させている。日本のGDPギャップは東日本大震災の状況を超えており、かなり大きなものとなっている。稼働率はかろうじて上回っているが、経済正常化が始まるとGDPギャップを埋めることになる。東日本大震災の場合、ギャップを埋めるのに2年かかったが、これは物理的に生産設備が破壊された影響を含んでいる。コロナショックでは設備のダメージはなく、単に停止している為に回復時には急激に上昇するリスクがある。それがインフレリスクにつながる可能性はあるだろう。予期せぬ金利上昇が市場に混乱をもたらす可能性はあるが、調整を超えて暴落するかといえばそこまでは断定できない。予期せぬ金利上昇があるとすれば、経済正常化が各国ともに一斉に始まる場合、需要過多になって予想外のインフレリスクをもたらすがそのリスクも極めて小さい。

日本のケースについていえば、震災後のGDPギャップを埋める過程で物価上昇は結局見られなかった。そして冒頭の結論になるのだが、少なくともバブルかどうかは言う点に関しては恐らくバブルとはいいがたい状況だろう。理論的なはなしでなく恐縮だが、バブル時代を思い起こすと多くの人が株価を話題にしていた。ホテルのロビーで待っていると隣の人たちが株の話に夢中になっていた。八百屋のおじさんやタクシーの運ちゃんまで株を見ていた。バブルは多くの人を巻き込む。古くはオランダのチューリップ投機や英国の南海泡沫会社の例を引き出すことなく非論理的な熱気が漂っていた。現在そのような状況にあるのはビットコイン位だ。しかもビットコインは多くの投機家を引き付けるには市場規模が小さく、局所的なバブルと判定できる。グローバルな投資環境ではバブルと判定するにはあまりにも根拠が希薄である。

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資金循環統計

2021年03月25日 | マクロ経済


発表された日銀の資金循環統計見ると家計のキャッシュの積み上がりが顕著になつている。2006年以来最高の38兆円まで積みあがっている。見逃せないのは企業(金融機関除く)のキャッシュも大きく上昇している。理由は単純で、コロナショックでの売り上げの大幅な減少で企業が自己防衛を図り、運転資金の確保の為にキャッシュを積み上げている。家計もそれに似ている部分はあるが、一つは政府からの移転収支も影響しているだろう。いわゆる持続化給付金やコロナ給付金は生活費にあまり流用されてはおらず、家計防衛として預金に回っていることを示している。



現預金の積み上がりが顕著なのは上の図表から読み取れる。特に右側の四半期ベースでみると増加のほとんどが現金・預金である。これは企業についてもいえる。20年の2Qから4Qにかけて企業のキャッシュの積み上がりが顕著だ。


家計の金融資産におけるキャッシュは1000兆円を突破した。少子高齢化、コロナショックなどの影響だと説明は可能だが、それにしても日本人のリスク回避傾向は世界的にも珍しく、非常に保守的であることがわかる。それでいてバブルなどになるとリスクを顧みずにみんなで突っ走るところなど。よく言えば影響を受けやすい、悪く言えば考えなしともいえるかもしれない。日経平均が3万円を突破し、1年で50%以上のリターンになっている。もし日本の家計資産の構造が米国のそれと同じであったのなら、経済回復は極めて速くなっただろう。



そうならないところが、まあ....日本人らしいというか

注) 出所は全て日銀公表資料
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2020年公示地価

2021年03月24日 | マクロ経済


最新の公示地価の推移。これを見るとバブルなのかあまり判然としない。過去のバブル崩壊のピークがあることから、あまり上昇していないように見えるが、それでも10年前と比較すると20%近い上昇になっている。コロナショックによる影響で、ゴルフ会員権、絵画、不動産などいわゆるバブル資産ともいえる資産クラスの上昇が顕著だ。ビットコインなど決済通貨として不適切なデジタル資産までもが大幅に上昇していることから、インフレ懸念、バブル懸念のリスクは依然としてくずぶっているのが実情だ。



主要都市だけ抜き出したのが上の図表。やはり東京23区上昇率を考慮すると資金流入が顕著になっていることがわかる。
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Keppel Infrastructure Trust(シンガポール)

2015年03月23日 | 海外REIT研究
 REIT投資に別段飽きたわけではないのだが、タイのインフラファンドに続いてシンガポールのインフラファンドにも投資したのでブログに書いておく。くどいようだが、個別銘柄の推奨ではないので投資判断の参考等に利用しないでください。今回投資したKeppel Infrastructure Trust(KIT)はシンガポール上場のインフラファンド(Business Trust)で、シンガポールに投資したことがある人ならKeppelの名前を聞けばぴんと来るはず。シンガポールの大手コングロマリットで石油、造船、環境などの重工業が中心の会社がスポンサーになっているBusiness Trustと聞けば納得がいくだろう。知らない人はまあ、自分で調べてみてください。

 今回投資しようと思ったのはKITの事業がとてもユニークということではなく、同業のCity Spring Infrastructure Trustと合併してシンガポール上場のBusiness Trustで2番目に大きくなるというのがその動機だ。時価総額が出かければいいというものではないのだが、小型で魅力的な利回りの銘柄があっても経済環境とりわけ銀行の融資環境が厳しいといくらビジネスモデルがユニークでも苦境に陥ったり、スポンサーの都合で上場廃止されたりするケースがある。やはりある程度の時価総額がないと長期に投資できない。海外市場を毎日のように目を皿のようにして見ているわけではないので、気が付いたらなんかえらい株価になってたりすることがある。

 それで今回いつ合併するのかはこれからのアナウンスだと思うが、KITとCITの合併に注目してみた。但し、ここで留意する必要があるのはまだディールが完了していないこと。さらに合併に伴って新株発行が予定されていることから、投資する人はタイミングをよく考えて行動すべきという点だ。私は面倒なのでもう投資してしまった。まずKITとCITのそれぞれの事業ポートフォリオを見てみる。



 KITのポートフォリオだが、今回のディールは実はKITとCITの単純合併でなく、KMCという会社をスポンサーのKeppel Corporationから買収する。(しかも51%買収という微妙な数字) つまりスポンサーから事業を買収してその持分を得るというスキームが入っていてこれがややこしい。ブレスリリースも合併スケジュールなどが詳しく載っていおらず、いったいいつ完了するかわからないが、特殊利害関係人(つまりスポンサーのKeppel Corporation)とのディールが入っているため、監督官庁からの認可が必要でかつ手続きが結構複雑なためにスケジュールがよくわからない。

 それはともかく、KITは今回の合併前は負債はなかったが、結構地味なポートフォリオで時価総額も小さかった。やっている内容はまともだが、上下水道処理場・ごみ焼却場がメインで特に見るべきものはなかったのだが、KMCの資産買収によって発電事業が上乗せされることになった。しかも1300MWのCCGT(コンバインド・ガスタービン発電設備)というから結構でかく、合併後も大きなシェアを占めることになる。上下水道・発電ともに事業のボラティリティは小さいと推測されるからBusiness Trustとしては配当の安定性に寄与するだろう。



 CITのポートフォリオはデータセンター、ネットワーク通信設備、海水淡水化設備、都市ガス、海外電力事業となっており、これもまともだ。海外電力事業というのはオーストラリアとタスマニア島を結ぶ電力ケーブルを保有している。何故、タスマニアとも思ったが、理由はわからん。CITはKITと比較すると少し大きめのBusiness Trustだが、負債があり、ギアリングがかかっていた。54%というは強烈に高くはないが、低くはない数字で、合併によりギアリングは39%に大幅に低下する。



 地域別の売上高は上記の通り、シンガポールがメインだが、オーストラリアでの売り上げが25%だ。その25%業態別売り上げでみたElectricity transmission(送電事業)がそのまま入る。上下水道・ごみ焼却施設合計で20%、ガスで12%だが、今回の合併によりKMCから買収した発電事業がポートフォリオに占める割合が最大となる。


 時価総額は19億55百万シンガポールドル(1700億円)とシンガポール上場のBusiness Trustでは2番目の大きさになる予定だ。



 気になる配当利回りだが、combined baseつまり、統合が実現したらという前提だと7.3%になる。海外のREIT市場も世界的な金融緩和によって10%台というのは怪しげな奴を除けば姿を消している。7%台というのもアジア市場のREITでも少なくなりつつあり、時価総額が大きいものでというとほとんどなくなっている。Business Trustに関していえばまだ7%台というのは結構あり、投資としてはまあいいかなという感じ。但し、中身はよく見た方がいいだろう。特にスポンサーとか。シンガポール上場Business Trustではなんと日本のアコーディアゴルフが設立したAccordia Golf Trustが10%でトップだ。確かにBusiness Trustではあるが、どちらかといえばREITなのでは? 10%の利回りというのもゴルフ場という性格と稼働率に大きく左右されるという点から納得。買いたいかというと、むむむ...まあ買ってもいいけど。でもスポンサーの都合で上場廃止とかされるリスクもあるし微妙。単独スポンサーで時価総額が小さいのはそういった上場廃止リスクを考慮した方がいいだろう。アコーディアゴルフに関して言えば、10%の配当利回りと聞くと、がぜん興味がわく投資家も多いだろうが、いくつかの注意点を指摘しておく。第一に10%の予定配当利回りは初年度の一株当たりの配当可能利益6.2セントに非計上的項目として2セントが上乗せされている。つまり次年度にはこの2セントは剥落することが予想されており、利回りが必ず低下する。標準化NDI(Net Distributble Income)として6.8セントを予想しているが、入場者数が減少しないという前提に立っている。実際の株価パフォーマンスを見るとIPO価格から22%下落しており、やはり投資家は冷静にこのファンドを見ている。

 最後にKITの2012年からの過去3年間から直近の株価パフォーマンスを載せておくが、まあ、世界的に株価が上昇しているので割り負けているのは確かだが、まずまずかな。
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TRUE Telecommunications Growth Infrastructure Fund (TRUEIF)

2015年03月19日 | 海外REIT研究


 日本でもREIT等の非伝統的な証券が投資家に認知され始めており、資産運用の多様化が進んでいる。東証などは更なる国際化のためにインフラファンドの上場などを検討しているとしているが、実際に上場するまでにはまだ時間がかかるだろう。事業投資ファンド等ではシェールガス・石油等に投資するMaster Limited Partnership(MLP)なども有名になっており、日本からの投資も相当入っているとの話も聞く。日本人投資家はどうも熱しやすいというか「シェール革命」に踊って投資したはいいが、相当やけどしているんじゃないかとの懸念もある。

 どうも日本人は「新しいもの」が好きでMLPなどと耳慣れない言葉を聞いただけでわくわくする人が多いのか、まあわからなくもないけど。私自身もMLPに興味があったけど、それを聞いたのはだいぶ後になってからでしばらくすると原油価格が相当下落していた。かなり早くから知っていたら多分投資していたかもしれない。(人のことは言えないということだ)

金融緩和の長期化からREITの投資妙味もだいぶ薄れてきており、「やはり王道の株かな」とも思っていたが、手ごろなインフラファンドが海外で上場しているので投資してみた。念のため申し添えると銘柄の推奨などではありません。個人の投資日記なので投資判断の参考にはしないでください。

 インフラファンドと言っても別段目新しい投資でもなく、昔から「Business Trust」と呼ばれていたものだ。REITが資産の裏付けとして不動産があり、その賃貸収益をユニットホルダーに分配するのとは異なり、裏付け資産が事業全体であるというのが特徴となる。MLPも厳密には少しちがっているが、Business Trustの一形態であるといってもいい。それでもって色々考えたのだが、本当は米国上場ものを考えていたのだが、適当なのがなかったのでタイ上場のTRUE Telecommunication Growth Infrastructure Fund(TRUEIF)に投資してみた。

 インフラファンドが対象とするものは主として鉄道、水道、空港、通信、電力、道路、港湾、再生エネルギーなど幅広い分野が対象となるが、TRUEIFの対象は名前の通り通信インフラを対象としたインフラファンド(Business Trust)だ。通信インフラファンドの場合、大別すると① パッシブ資産(通信用電波塔、光ファイバーケーブル)と②アクティブ資産(通信用送信装置、受信装置)に分かれている。通信用インフラの場合、オペレーター毎にこれらの資産を建設するのではなく、たいていの場合、複数のプロバイダーが電波塔をシェアするのが(タイにおいては)通常のケースであり、インフラファンドは特定のプロバイダーに依存することなくポートフォリオレベニューの分散化ができるのがメリットとなっている。タイのインフラファンドは上場REITと同じく90%以上の収益を投資家に支払えばパススルー課税となるため、通常のREIT投資と同じくメリットを享受できる。

 TRUEIFは時価総額679億バーツ(2559億円)、2013年12月27日に上場された比較的若いファンドだが、時価総額は結構大きい。実績配当利回りは5.76%だが、上場が2013年末なのでNormalizeした場合の配当利回りはよくわかない。グーグルなどでは8.02%となっているが、Indicativeなものかもしれないので注意する必要がある。



 名前が変なのでいったい何者と思ってしまうが、スポンサーはまともだ。伊藤忠と全面業務提携をしたタイの大手財閥CPグループが過半出資しており、18%のマイノリティ出資だが、チャイナモバイルといった大手企業が出資しているtrueという通信サービス企業がスポンサーとなっている。事業内容もまともだ。



 TRUEIFは前述の定義言えばタイ全土をカバーするパッシブ資産(通信用タワー、光ケーブルなど)を資産の裏付けにしたBusiness Trusであるということができる。親会社のtrueの資産をBusiness Trustに組成したようなもので、形の上では三菱地所や三井不動産が自社所有物件を拠出してジャパンリアルエステートや日本ビルファンドを組成したのと似ている。タワーの顧客別で行くと半分がtrue向けで、残りの5割はAWC(Asia Wireless Communication)とBFKTの2社になっている。ポートフォリオの構成は直近に資産買収したので若干の変動がみられるがタワーが43%、FOC(光ファイバーケーブル)が57%とややFOCが多くなっている。



 もう一つのFOCの方だが、資産買収したのでキャパシティが3倍になっており、上場時と比較しても資産規模がタワーを凌駕するようになっている。プレゼン資料には稼働率が7割で残りが未稼働資産が埋まることで成長ポテンシャルがあると主張しているが、まあ、そうかもしれないし、そうでないかもしれない。



 最後に損益を見てみるが、さすがに大型株であるだけ、売り上げもそこそこ大きい。



EBITDAで200億円超えているわけだから日本のREITと比較してもかなり大型の部類に入る。確かにタイ全土で展開している通信用タワーとFOCを裏付けにしているわけだからそのくらいの大きさにはなる。タイには空港施設を裏付け資産としたSamui AirportというREITにも投資しているがそれよりも大きいと思う。それと気になる配当なのだが、四半期配当なのかどうか会社のHPではわからなかった。というか普通のREITやBusiness TrustのHPだとDividend Historyとか載っていて当然なのだが、なんか作りが普通のと違っていてよくわからない。2014年のプレゼン資料で見た数字を逆算して今の株価に当てはめると7.49%となる。これがIndicativeな配当利回りかもしれない。というか、よくわからない。


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企業の内部留保は格差の助長?

2015年02月19日 | マクロ経済
 今はやっている格差論について細かく議論しても仕方ないが、国会論戦や一部のエコノミストの議論を聞いていて気になったことがある。それは「企業は内部留保を溜め込み、労働者に還元していない。これが経済格差を大きく助長している」というものだ。この文脈で言われる企業とは「大企業」のことであり、その論調を聞いている限りそうなのかと納得してしまう部分もある。だが、その意味するところは何かという問いに答えた議論は少ない。内部留保をなぜ溜めるのか、それは近年に限ったことなのか。あるいは日本に資本主義社会が導入されて何度かあった現象なのか。それは何故なのかという答えは驚くほどない。あまりハードルを上げすぎてもやっかいなので、直近の企業の内部留保の積み上がりについて少し調べてみる。



 財務省の法人企業統計を加工して作成ししてみた。もっと長い期間のデータで試したかったが、現データが2008年からの時系列データだったので過去6年分の比較的短いデータだが、確かにリーマンショックが発生してから、企業業績が回復するにつれて内部留保の額が大きくなっている。データは法人企業統計が把握する資本金1億円以上の大企業が対象になっている。直近の数値では100兆円の大台に乗せようとしているがわかる。これだけを見ると「大企業は従業員に還元することなく、キャッシュを積み上げている。けしからん」というロジックになりそうだが、では企業は内部留保をキャッシュとして金庫に詰め込んでいるのだろうか。同じく法人企業統計のバランスシートに関する時系列データがあるので見てみる。今度は西暦でなく、元号表記になっているが少し長くとれている。



 まあ、大体想像はしていたがやはりこういう結果に。確かに企業は絶対金額ベースで現預金を増やしているが、バランスシートに占める割合では大きくキャッシュを膨らませているわけではない。むしろ、内部留保はキャッシュとしてではなく、投資有価証券の増加ということで再投資されている。この投資有価証券は株式のことだが、金利水準が低いから企業は株を買っているというわけでは決してない。毎日、新聞を読んでいれば理解できるように、たとえばサントリーがビーム社を1兆6千億円で買収とか、第一生命が米国損保を6千億円で買収、最近では近鉄エクスプレスがシンガポールの会社を1400億円、日本郵政が6000億円で豪州の物流会社を買収といったように、日本企業は海外の会社を買収しまくっている。また、海外の上場企業の買収だけでなく、米国、欧州、中国に現地法人を設立した場合は株式会社形態になるので投資有価証券(子会社株式)が増大する。統計を見ると過去10年でなんと117兆円も増加している。



 日銀の「2013本邦対外資産負債残高」で業態別にみると先ほどの法人企業統計と時間軸が異なっているものの、製造業での増加が著しい。どの業態も増えているけれども、製造業に限ってみれば2005年対比でほぼ倍増している。まあ、これも結論は見えていたわけだが、すなわちグローバル化の進展で国内で儲けられなくなった企業は海外に出ざるを得なくなってMAもしくは現地進出という形がバランスシートの投資有価証券の増加になっている。

 それで問題だが、「企業は内部留保を溜め込んで従業員に還元していない。けしからん」という議論だが、これは正しいのだろうか。一瞬、「そうだ、そうだ」と頷きかけるのだが、それは正しい指摘なのだろうか。企業が海外企業をMAもしくは現地に子会社設立する理由は「国内が儲からないから」だろう。一つには長期間にわたる円高で国内の製造業が競争力を失ったことだ。そして海外進出もしくは買収して得た利益を国内の従業員に還元するのは正しい、いやここでは合理的と言っておこう。合理的な企業行動なのだろうか。

 例えば、海外で得た利益(ここでは国内で製造して輸出したという意味ではなく、海外工場で製造して海外で販売して得た利益と定義する。)を国内の従業員に還元する。すると国内で製造するコストが上昇して輸出競争力が低下する。すると国内の利益はさらに減少してしまう。仕方がないので国内の従業員をリストラせざるをえなくなる。次の年に海外の利益が増加するとして、それを国内の従業員に還元する。すると国内での製造コストはさらに上昇して国内事業の競争力が低下して、利益も低下する。で、最初にもどると。たとえばこれを永遠に継続したとすると国内で従業員を雇用することが不可能となり、企業は所在地が日本というだけで、国内で従業員がゼロということになる。もしこれがずっと続けば、企業の所在地を日本に置く理由も存在しないため、その企業は日本を出ていくことになるだろう。

 無論、これは極端な仮定を置いた議論なので実際にはそうはならないと思うが、論理立てて考えてみれば企業の内部留保の積み上げがどこに源泉を持っているのかという議論を捨象して「けしからん」という話になっているとしか思えない。むしろ、日本企業が国内製造拠点の競争力低下を懸念して積極的にM&Aしたり、現地で工場を建てて、円高に対抗し、利益を獲得してたというのは極めて合理的な判断ではないだろうか。企業で働いて給料を得ている人にとっては、「そんなことどうでもいい、儲かっているなら給料あげてくれ」というのが正直なところなんだろうが、結局のところ、日本の製造拠点の競争力が回復しない限り無理だろう。国会論戦でも「円安は一部の輸出大企業を利するばかりで大多数の庶民には関係ない」と知性のかけらもない発言をする議員がいるが、日銀統計を見てみなさい。過去8年間で日本の対外直接投資は72兆円も増加している。これがいかにものすごい数字かわかっていない。むしろ、過去の円高が企業をそう駆り立てているわけで、円安のせいにするのは間違っている。少し安直な言い回しだが、国内製造業の空洞化で日本の貿易構造に大きな変化が起きている事を直視して政策を決定してもらいたい。



 福島第一原発の事故から日本の貿易赤字が定着してしまっていることは新聞をみるまでもなく理解できるが、不安の種は原油・LNG輸入の増加だけではない。



 財務省の貿易統計から作成してみたが、確かに燃料輸入は大きく増加しているのが分かるが、一方で不気味に増えている項目がある。一つは医薬品だ。過去10年で3倍になっている。貿易額としてはまだ目立たないが、高齢化の影響とスルーしてはいけない。日本の知財開発力が弱いからこそ、医薬品の輸入が増加していると解釈するべきた。確かに国際的な製薬企業と比較すると日本の製薬メーカーは小粒だが、こういった知能集約型で外貨を稼ぐ国にするべきだ。もう一つきになるのが電気製品の輸入動向だ。



 これを見ると危機感高まるんだが、日本のお家芸ともいわれた電気製品の貿易収支はかなり縮小している。このままいくと将来赤字になるのではと思えてくる。電気製品のサブセクターに通信機という項目があるのだが、これが爆発的に上昇中だ。これはなにかというとアップルの「アイフォーン」とかサムスンの「ギャラクシー」とかが入る。この通信機セクターの輸入額の急増は大いなる皮肉と私の目に映る。先ほどの「企業は内部留保を溜め込んで、従業員に還元もしないでけしからん」式の議論だが、けしからんと言っている人たちが競って「アイフォーン」や「ギャラクシー」を購入しているわけだ。パナソニックやソニーではなく。別に国産至上主義を掲げるつもりはないが、外国製品大好きだからバンバン買うけど、国内製品はダサくて買わない。でも給料は上がるべき。と言っているようにも聞こえてしまう。日本企業の怠慢があるのかもしれない。でも、消費者のアップル信仰はなんか行き過ぎているような気もする。(それだけアップルのマーケティング力が優れている証拠かもしれない。)



 この問題に処方箋があるとすれば、円安と時間だ。円はピークと比較して5割以上減価している。今年とか、来年に状況は変化しないが、円安傾向が続く、少なくとも現在の為替レートが安定的に長期間維持できるもしくは維持される見通しが立つとき、企業は必ず行動を起こす。それは日本企業が過去10年以上にわたって行った膨大な対外直接投資の逆の現象。すなわち、国内への回帰が始まる。しかし、それは着実だが、テンポは非常にゆっくりしたものとなるだろう。10年以上にわたって続いてきたトレンドを逆転するわけだから、同じようなタイムフレームで考慮する必要があるだろう。

 こんなことを言うと怒られるかもしれないが、格差問題の一部は自分自身で作り出しているかもしれないと思う時がある。街中でこんな会話を聴くかもしれないと想像してしまう。

 「国内企業は内部留保を溜め込んでいる。」
 「そうだ、そうだ」
 「労働者に還元していない」
 「そうだ、そうだ」
 「アベノミクスは失敗している」
 「そうだ、そうだ」
 「企業も政府もけしからん」
 「そうだ、そうだ」
 「ところで、今度の新型アイフォーンってどうよ」
 「超クールだよ、発売日には徹夜でならぶよ」
 「だよねー」
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サンタンデールプライベートバンキング -カードのアクティベーション-

2015年02月16日 | グローバル投資


 Santander Private Banking(旧アビーインターナショナル)のカードの更新がまた例によって来た。口座作ったときはこれでオフショア口座ができて日本が崩壊しても何とかなるかもなんていう妄想で満足していたが、セキュリティのせいなのか、結構めんどい。カードの有効期限が2年なんですぐに新しいカードが送られてくる。しかも、日本の銀行と違ってカードは受け取っただけではだめで「アクティベーション」というプロセスが必要になってくる。これは以前にブログにも書いたのでそれを参照してください。

 アクティベーション自体はそれほど難しいことはないのだが、いちいち国際電話をかけなくてはならない。英国人だから、わかりにくい英語ではないのだが、たまにアクセントが強い人だったりするとこれがさらに面倒になる。普通のクイーンズイングリッシュだったらいいのだが、スコットランドアクセントだったりするとこれがよくわからない。(実際、強いスコットランドなまりは英国人でもわからないという話だ。) オフショア口座ではないが、香港にHSBCの口座もあるし、それで十分なのだが、今となってはなんでアカウントオープンしたんだろうと自分で思ってしまう。まだ死ぬ年でもないので、それほど考える必要はないのだが、相続で海外口座があるとかなり面倒らしい。でも、自分は関係ないし。(その時は自分は死んでるし) HSBCの口座と違ってほとんど利用していないし、解約しておくか。少し迷う。

 因みにアクティベーションの時にはこんなやり取りがあった。(英語です)

オペレータ 「サンタンデールプライベートバンキングです。何か御用でしょうか」
私     「新しいカードを受け取ったのでアクティベーションをお願いします。」
オペレータ 「わかりました。しばらくお待ちください。カード番号をどうぞ」
私     「カード番号は ****-****-****です。名前は *** ****です。綴りは******です。」
オペレータ 「生年月日をお願いします。」

(アクティベーションの際にはセキュリティ対策として事前に登録しておいた個人情報を確認する。必ずしも生年月日をきくわけでなく、生まれた場所とか他の質問をする場合があり、それはオペレータ次第)

私     「** ** **です。」
オペレータ 「ありがとうございます。テレホンバンキングパスのコードの3番目と7番目を教えてください」

(事前に登録してあるテレホンバンキングパスはインターネットバンキング用のパスワードと異なっているので間違えやすい。前回はテレホンバンキングパスを忘れて、少しトラぶった。)

私     「3番目は*、7番目は*です。」
オペレータ 「ありがとうございます。受け取ったカードはreplacement cardですか」
私     「いえ、renewal cardです。」

(Replacement Cardとはつまり紛失などで新しく受け取ったという意味、私の場合は紛失でなく、期限が切れて新しいカードが来たことからRenewal Cardと答えた。Replacementだと、新しいパワードやPINを設定しなくてはならないのでオペレータが聞いてきたと考えられる)

オペレータ 「わかりました。受け取ったカードのstart dateを教えてください」
私     「....... あっ、March 15です」
オペレータ 「新しいカードは3月からご使用ください。それまでは古いカードが使用できます。継続カードですのでパスワード、PINともに従来のものをご使用ください。」

(オペレータがStart Dateを聞いてきた時は一瞬理由が分からなかったが、そういうことだった。海外とのやり取りではこういう、判断に困る質問で一瞬フリーズしてしまうことがよくある。)

私     「わかりました。ありがとう」
オペレータ 「ありがとうございました。」

 何年かに一度は海外投資ブームがやってきて、中には現地まで行って口座をオープンする人がいる。私は香港もサンタンデールの口座もすべてメールでやり取りして開設した。よくわからないのはわざわざ現地に行って、少額のお金を入れたり、ほとんど意味のないことをする人たちがいる。飛行機代のほうが高いのに。それとこれは私も反省するのだが、使うつもりがないのに開設する場合。ほんと勿体ない。一番もったいないと思うのは、代理人を雇って口座開設する人。お金払うだけ無駄。わからないのならやらないほうがいい。やっても多分利用しないのは確実。

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財産債務調書制度の新設

2015年02月07日 | 金融市場
 確定申告の季節がやってきて、税理士を雇っていないし、雇う気もない私にとっては申告作業に時間を取られる季節だ。株式などのの金融資産所得が中心だが、一応実物不動産もやっているし、とりもなおさず海外にある証券口座からの所得は自分で計算しなくてはならない。税理士はドメな人が多いのでこの辺はわからないだろうし、雇うだけお金が無駄になるので税理士は雇っていない。外国証券口座からの所得は配当所得がメインであまり売買していないので所得の把握という点ではそれほどの苦労はないのだが、外国税額控除の計算のために配当の支払い調書の収集(法第95項に規定する財務省例で定める書類に該当)と外国源泉税の計算が面倒だ。一番面倒なのは売買が発生した時の損益の把握で、どういうわけか外国の証券会社のステートメントには簿価が載っていない。時価主義というのはわかるけど、税務申告するときには簿価は必要だろうにと思うのだが、この辺が不思議なところだ。だから海外口座ではなるべく売買しないでバイアンドホールドできる銘柄に絞っている。

 税制改正で国外財産調書が創設され、海外に資産を持つ投資家は提出する義務を負った。厳密にいえば昨年1月1日以降の確定申告だが、周知期間として1年が設定されている。つまり今年の確定申告はマストであるということだ。昨年の確定申告では様子見で出さなかったという人が多かったという話が雑誌に載っていた。何を様子見しているのかはよくわからないが、おそらく申告書を提出したら税務署がやってくるのではと恐れている人が大半だろう。私の場合は昨年の確定申告時に提出済みだ。別に悪いことしているわけではないので来るなら来いという感じだったが、来なかった。(別件の大したことない用事で税務署が来たが)



 上記に書いてある通り、調書を提出せずに国外財産からの所得漏れが発覚すれば加算税が課されることになる。加えて不提出なら刑事罰もあるというかなり厳しい処置だ。こんな制度はなくしてもらいたいが、要するに海外での所得を申告してない人が多いという事実がこの制度を生んだということに他ならない。税務調査が恐ろしいという人は結構いるかもしれないが、私は何回も税務調査を受けてきたが(税務署に来てくれというケースも自宅に税務署員が来たこともある)、有用なアドバイスを一つ。ちゃんと申告していれば全然怖くありません。私の場合は計算間違いとか、税法解釈の違いを理解してなかったケースがほとんどで、税金をごっそり持っていかれたことはない。むしろ、この金額で税務署員がわざわざ自宅までやってくるなんてという感想すら持った。

 ただし、今回、自民党、公明党の税制調査会が発表した平成27年度税制改正大綱は問題ありと考えている。タイトルにも書いたが従来の財産債務明細書を「財産債務調書」に格上げするという内容だ。これは所得2000万円以上または資産3億円以上の個人に調書の提出を義務付けるという内容だ。税をより補足しやすくするという趣旨だとは思うが、国外財産調書とは別に国内外すべての財産の申告を義務付けるものだ。要するに相続税対策が主眼だと思うが、めんどくさいことはやめてほしいというのが個人的な感想だ。因みに大綱の中身は以下の通りだ。



 私個人の不満は国内は特定口座があるじゃないか、預貯金にしても国税のシステムであるKSKで把握できるだろうに。どう考えても国税の怠慢にしか思えない。まあ、逆にいえば相続税などで巧妙かつ悪質な脱税もしはく租税回避行動が目立つということかもしれない。税金は少ないほうがいいというのは心情的にも理解できるけど、脱税事件のニュースを聞くたびに、「そんなに税金はらいたくなかったの?」という気持ちも一方ではある。富裕層増税の国会議論なんかはいつも不愉快だけど、ルールに則って税金おさめてればこんな話にはならないんじゃないかといつも思う。ピケティの「21世紀の資本」が巷で人気になっており、「そうだ、そうだ富裕層にはもっと課税しろ」なんていうのがメディアでの正論になりつつある。でも、日本の課税システムはかなり公平だし、消費税の逆進性云々よりも所得税・地方税の累進性によって富の分配機能は他の国よりもかなり正常に機能していると思うんだけど。



 こんな図を出して日本には格差がない。格差問題なるものは存在しないと主張するつもりは全くない。しかし、日本は「旧ソ連や中国共産党すらなしえなかった偉大な社会主義国家」の例えもあるように分配制度は機能している。しかもかなりうまくいっている。個々の事例を取り上げてこんなにひどいというのは簡単だし、メディア受けもする。でもそれはマクロ的に正しいわけではない。上の表は平成11年からのジニ係数の変化だが、グロスの数字。つまり名目数値は確かに上昇しているが、富の再分配により格差はちゃんと埋められている。第一、国税が把握している給与所得者数4645万人の内、4割に当たる1901万人は所得税率は10%以下だし、納税者の53%に当たる2711万人は給与所得者が収める所得税の11.4%を負担し、所得上位8.3%に当たる385万人が税収の61%を負担している。(国税庁 平成25年民間給与実態調査)
 国会なんかでの議論(特に共産党とか)で、「格差是正どころが富裕層を優遇している。とんでもない政策だ」とか聞くと、ちゃんと数字見てから言えと突っ込みたくなる。格差問題はある。でも、メディア受けしそうな論調の本質は格差問題ではなく、「お前の財布には俺より10万円多く入っている。だからずるい」と言われているような気がしてならない。

 話がかなり脱線してしまった。財産債務調書の話だが、ひどいとは思うが、義務化されたときにどう対応するかが問題だ。実は従来からある「財産債務明細書」は提出義務があるが罰則規定がないのが問題とされていた。今回の大綱では義務化の実施と申告漏れに対する加算税の導入があるが、国外財産調書とは違い、不提出による罰則規定は盛り込まれなかった。個人的には国内資産の補足は海外に比較すればかなりできるはずなので納税者の負担を増やすこの制度の導入は反対だ。どうも国税の怠慢としか思えない。国内預金は仮名口座は禁止されているわけだし、不動産は固定資産台帳がある。有価証券は特定口座があり、国税にはKSKがある。いったいなんで導入するのか理解に苦しむ。どう考えても国税が楽しようと考えた制度にしか思えない。ちゃんと申告していれば加算税は課されないわけだから、提出なんかしないほうがいいかとも考えるが...もう少し考えてみる。

 
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