First Real Estate Investment Trust(FREIT)はシンガポールに上場しているヘルスケア特化
のREITで以前、ブログにもアップしたPrkway REITと内容が少し似ている。当REITは2006年
12月に上場したシンガポールで初めてのヘルスケア特化のREITだ。スポンサーはPT Lippo
Karawaci Tbkでインドネシアで最大規模の不動産会社(ジャカルタに上場)。またこれも以前紹介
したLMRTのスポンサーだ。現在の時価は0.84Sドル、時価総額は2億31百万Sドル(151
億円)と小ぶりだが、流動性はそこそこあるので投資家は流動性リスクをそれほど気にしなくて
もよいだろう。(但し、個人投資家の場合に限る)配当利回りは8.1%、株主資本271百万
ドル、純資産倍率0.85.
このREITがParkwayと異なっているもっとも大きな差はその地域展開でシンガポール、 インド
ネシアの2カ国展開となっている。ご承知のとおりシンガポールの人口は470万人程度であ
り、所得水準が高いといっても小さな市場だ。したがってポートフォリオの構成比はやはりイン
ドネシアの比率が圧倒的に高く、インドネシアに特化しているといってもいいかもしれない。そ
のような観点からすればインドネシアのリスクを考慮して投資する必要があり、リスクは必ずし
も小さいとは言えない。ただし、インドネシアの人口は2億3千万人おり、2050年には人口
は3億人を超えることが予想されている。中国、インドを除けばアジアで最大のポテンシャルを
有していること一人当たりのGDPは3986ドルとようやく所得水準が高まってきていること。
また国土が広く、広範に人口が分布している中国と違い、全国民の人口の半分がジャワ島に集中
しているという点にもビジネスのオポチュニティを感じる。
新興国と聞くと高齢化とは無縁にも聞こえるが、インドネシアでの人口増加率は1980年か
ら1990年にかけて1.97%、90年から2000年では1.42%と大幅に鈍化している。また人口
増加率が1%台というのも我々日本人投資家にとって意外感を覚える数字ではないだろうか。ま
ず理由として考えられるのは一人当たりのGDP増加による出生率の低下だ。これは日本でも経験
していることでもあり、所得水準の向上にともない、出生率は低下していく。下世話な話だが、
所得で余裕が生まれると人は夜の生活以外にも時間とお金をかけるようになるものなのだ。さら
に平均寿命の上昇によることも大きい。平均寿命が延びるとやはり出生率が低下する。これは婚
期が遅れていくためでもあり、男性、女性ともに所得水準の上昇、平均寿命の伸びにより婚期が
伸ばされ、出生率が低下していく。インドネシアではすでにそれが起きはじめている。要するに
今、日本で起こっていること、またこれから起こることはアジア各国で将来必ず起こる出来事で
あることだ。例えば、韓国での少子化は深刻になりつつあり、出生率は1.19と日本よりも低く
なっており、移民政策の見直しなどが行われている。台湾では少子化により現在毎年30万人の
大学入資格者がいるが、10年後には20万人を切り、台湾の大学の3分の1が閉鎖されるとの
予想がある。最大の人口を誇る中国では2033年に15億人とピークを迎えた後、減少する予
想がされている。また労働人口はそれに先立つ2016年に9.9億人とピークを打ち、人口ボ
ーナスの効果が切れてくる。
(ポートフォリオ)
そのような予想を元に投資アイデアを考えるとやはりヘルスケア分野に強みを持つアジアREIT
は選択肢のひとつだろう。当REITのポートフォリオはシンガポールに3箇所の介護施設、イ
ンドネシアに4拠点の計7拠点を展開している。具体的な構成ではシンガポールに3つの介護施
設(672ベット)、インドネシアでは3病院(531ベット)、ホテル・カントリークラブが1(197室)
というものとなっている。拠点数ではシンガポールとインドネシアが1つ多いだけだが、売上げ
利益構成比ではインドネシアが圧倒的だ。建設中を含む8つの施設の内、インドネシアの
Siloam Hospitals Lippo Villageがポートフォリオの43%を占めており、さらにSiloam
Hospitals Kebon Jerukが24%。この2つの施設でポートフォリオの67%を占めている。(鑑定
評価ベース) それを聞くと所得水準の低いインドネシアでの事業展開は大丈夫なのかとか、リ
スクはどうなんだろうかという疑問がわく訳だが、実のところそれほど心配する必要はないだろう。
下のポートフォリオの写真を見てもわかるとおり、介護施設、病院ともになんだかホテルライク
な概観をしており、実際に顧客はインドネシア、シンガポールの比較的所得水準の高い人たちを
対象にしているようだ。このようにジャカルタ郊外10km以内にポートフォリオを所有してお
り、空港からのアクセスの良さなど考えれば、ミドルクラス、アッパークラスの所得層を対象に
していることがわかる。
例えば、Siloam Hospitals Lippo Villageのケースで見ると、ジャカルタ郊外に位置する病院
で2007年には、米国のJCI(Joint Commision International)認証(注)を受けた最初のイ
ンドネシアの病院で高い医療水準を達成している。これはインドネシア国内の患者だけではな
く、いわゆるメディカルツーリズム(高度な医療行為を海外で受けること、日本でも心臓手術や
日本で規制されている医療行為を米国まで出かけて受ける人がいることなどから、ひとつの産業
として認知される)の事業ポテンシャルを持つ。
(注)
JCI 認証とは、国際医療機関評価委員会から全世界の医療機関を対象に、厳格な国際標準医療
サービス審査を経て医療機関に発給する認証制度である。JCI 認証を受けるためには、患者の安
全と良質の医療サービス提供を目的として、患者が病院に入る瞬間から退院までの治療の全過程
に対し、11分野、1,033 項目にわたる細密な評価を受けなければならない。(因みに日本ではJCI
認証を受けている病院はほとんどないのが現状)
(業績)
業績は実の所、とてもスローな成長だ。よく言えば安定成長。悪く言えば低成長。但し、配当
の安定性という点からすればとても安定している。成長が低い理由は簡単といえば簡単でギアリ
ングが低い。ポートフォリオの成長自体が遅いというのに尽きるだろう。まあ、考えてみればポート
フォリオを急拡大しても富裕層はそれほど拡大するわけでもなく、また一定水準の医療スタッフ
を集めるという点から考えても徐々にポートフォリオを拡大するしか手はないだろう。ギアリン
グが低いということはそれだけまだ拡大余地があるということから評価してもよいだろう。
(成長戦略)
安定しているといっても、成長してもらわないと困るのも確かだ。2011年中ごろにはシン
ガポールでがんセンターが完成する見込み。ベット数は公表されていないが、年間で119万S
ドルの収入が期待されている。今後の物件で建設中なのはSiloam Hospitals Semanggi and
Mochtar Riady Comprehensive cancer treatment Centreでインドネシアで恐らく最初のがんン
ターが今後数年で完成する。但し、業績は来年の中ごろまでほとんど変わらないことが予想さ
れる。
さらにインドネシアのリスクといえば、やはり為替だろう。インドネシアルピアの変動リスク
は当然あり、為替の変動による鑑定評価のボラティリティはあることには留意する必要があるだ
ろう。